RPA
(画像=WrightStudio/stock.adobe.com)

昨今の「DXブーム」の中で、多くの日本の組織でRPAが導入されるようになっています。さらにその背景を探るとRPAの導入は今後の組織運営にとって欠くことのできない重要なツールなのだということがわかります。そこでRPAの基本的な役割、導入方法などとともに、さまざまな活用事例を交えながら、RPAの今後を考えてみたいと思います。

目次

  1. RPAとは何か?
  2. 一般的なRPA適用業務と導入手順
  3. RPA活用事例 自治体の場合
  4. RPA活用事例 製造業の場合
  5. 業務別RPA活用 営業の場合
  6. 業務別RPA活用 経理の場合
  7. まとめ

RPAとは何か?

RPA

RPAは、Robotic Process Automationの略称です。人間があらかじめロボットに業務手順を指定して業務を自動化します。一般にソフトウェア製品として提供され、現在多くの組織で導入されています。適用される業務は主としてデータ・テキストなどの入力や転記、データの比較や照合などの定型作業です。

利用形式は、デスクトップやサーバにソフトウェアをインストールして利用するものだけでなく、事業者が提供するクラウドシステムから提供する場合もあります。

例えばある大手都市銀行では、煩雑な20種類の事務処理作業をRPAで自動化させ、年間で8,000時間(1人1日8時間労働で計算すると約1,000日分)の事務処理作業を削減させています。業務の効率化により、担当していた社員がより重要な業務に注力できるようになったといいます。また複数のシステムを使う事務処理にRPAを適用することで、システム連携による業務の単純化も視野に入るようになったそうです。

こうした導入事例から、RPAは比較的短期間で大きな効果を生み出せることがわかっており、多くの組織が導入に踏み切ることとなりました。

RPA

なぜRPAは必要とされるのか

昨今RPAの導入が盛んになった背景には、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが企業規模を問わず広まってきたことにあります。

手作業で行っていたアナログな業務をデジタル化することで、生産性を上げていこうというわけです。「業務のデジタル化を進めよ」と言われたとき、組織の現場でまずアイデアとして挙げられたのが「RPAの導入」による業務の自動化だったというケースが多かったようです。

しかしRPAの導入は、一過性のブームではありません。なぜなら導入の背景にはもっと深刻な問題があったからです。それは「生産年齢人口(15~64歳)の減少」つまり慢性的な人手不足です。

▽年齢3区分別人口の予測

RPA
※出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」

総務省によれば、日本の総人口は2008年をピークに総人口が減縮傾向にあり、2020年の生産年齢人口は45年前を下回る水準となっています。そしてこの傾向は逆転することなく年を追うごとに減少を続けていくことが予測されているのです。

▽産業別にみた人手不足

RPA
出典:パーソル総合研究所:労働市場の未来推計 2030

パーソル総合研究所が中央大学経済学部の阿部正浩教授と共同開発した「予測モデル」を使用して行った推計によれば、2030年には、7,073万人の労働需要に対し、6,429万人の労働力の供給しか見込めず、「644万人の人手不足」となることがわかりました。この労働力の供給不足は、一部の産業を除いてほぼすべての業種に当てはまります。

▽地方公共団体の総職員数の推移

RPA
出典:総務省「地方公共団体の総職員数の推移(平成6年~令和4年)」

例えば自治体の職員数で見てみると、1994年総職員数は減少の一途をたどり、近年、横ばいペースとなったものの今後、増加に転じる気配はありません。

これらのデータからわかることは、今後も慢性的な人手不足が解消される見込みはほぼゼロで、生産性の向上によってそれを埋めていくしかないということです。そのための切り札としてRPAが注目されるようになりました。

そして生産性の向上をどうしても取り組まなくてはならなくなった事情が、もう1つ挙げられます。それは2019年4月より順次施行されている「働き方改革関連法」です。

この関連法の中で、時間外労働の上限規制が設けられており、原則として残業時間(時間外労働)の上限が「月45時間・年360時間」となりました。また臨時的な特別な理由があり、労使の合意がある場合でも、「年720時間」「複数月の平均残業時間が80時間」「月100時間」などの上限を超過した場合には刑事罰が科せられるとされています。

つまり人手不足を労働時間の大幅増で解消しようとしても、法律で限度が厳しく定められているため、残された方法はRPAをはじめとしたシステムを導入し業務を自動化させ、時間当たりの生産性を上げるしかない、ということです。

無料eBook

  • 製造業DXの教科書
    図版と事例でわかる|製造業DXの教科書

    世界市場での競争の激化や労働人口の減少などが進む今、日本の製造業においてDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進は不可欠です。 このeBookでは、製造業のDXの全体像について詳しく解説します。 DXに必要な技術を製造プロセスごとに紹介するほか、具体的な活用事例、製造業DXの今後の展望まで幅広く理解できる内容になっています。


一般的なRPA適用業務と導入手順

一般にRPAの適用業務とされるのは、キーボードやマウスなどPC画面操作の自動化、ディスプレイ画面の文字・図形・色の判別、別システムのアプリケーション間のデータの受け渡し、社内システムと業務アプリケーションのデータ連係などが挙げられます。

これらに共通するのは、比較的単純かつ定型的な事務作業で、作業量が膨らむ可能性も高く、担当する人を1つの仕事に縛り付けてしまいがちだということでしょう。

比較的単純な事務作業を自動化する方法として、Excelマクロの活用があります。これはExcelに搭載されている機能の1つで、人の作業を記録し、一連の動作を自動化します。プログラミング言語のVBA(Visual Basic for Applications)で記述されており、かなり複雑な自動化も可能です。

しかしVBAによるマクロの活用は、ExcelなどのOffice製品にしか適用できず、それ以外のアプリケーションが関連する自動化には適用できません。この点RPAは幅広い種類のアプリケーションを自動化させていくことも可能です。また昨今のRPAはプログラミングの知識がないユーザーにも比較的簡単にロボットを設定できるようになっており、マクロ活用のように専門知識が必要になるといったこともほぼありません。

RPAの導入手順は、一例として次のとおり考えられます。

①業務プロセスの見直し
②RPAを導入する業務の選定
③RPAツールの選定
④一部業務で試験導入
⑤各部門で横展開
⑥効果検証と改善作業

①では各部門の担当者が自動化すれば大きな効果を生む業務を上げていき、それらの業務内容や手順を詳細に記録し、所要時間なども正確に計測してまとめます。

②では、①で挙げられた業務について社内のコアメンバーで検討します。できるだけ横展開がしやすい作業、つまり特定部署で導入し、うまく行けば同様の作業をしている他の部署にもすぐに展開できるものを選ぶとよいでしょう。

この検討の段階でRPAに詳しい人に参加してもらい、導入前例や効率化の実現性、難易度などについて参考意見をもらいます。こうした人材を活用すれば、ロボット開発にかかる時間やコスト、具体的な効果もある程度見込めるしょう。

③では、複数のツールで、②で見当をつけた業務の自動化を試みます。自動化では作業プロセスのシナリオ(RPAへの指示書)を作成しますが、この際、業務に詳しい人とシステムに詳しい人が協力して作成します。

そして社内の複数の担当者で試してみて、どれが最も利用しやすいかを検討します。したがって、試用する担当者はITリテラシーが高い人だけでなく、中レベル以下の人にも参加してもらいましょう。

④⑤は、①~③のプロセスをしっかり踏んでいれば、比較的スムーズに進むでしょう。ただし同種の作業であっても、部署によっては仕事の仕方が若干異なることもあります。その際は、本来の業務の完成度が損なわれないようロボット側の改良も必要となるかもしれません。

ただし最初からカスタマイズを前提にするのではなく、業務内容を変えることで対応できないか検討することも重要です。単純で定型的な作業を自動化するのですから、ロボットの種類を増やし過ぎて、管理が行き届かなくなるのは避けたいところです。

⑥の作業は、③④⑤の段階で率先して計測しておくとよいでしょう。そうした効果の具体的な数字を社内で示していくことで、RPAの利用率を高める結果となるはずです。

RPA活用事例最新トレンド:RPAには三段階の自動化レベル AIとの連携

すでに多くの組織でRPAは導入、活用されています。そうしたなか、先進的なユーザーの間では、RPAとAIを融合させてさらに自動化のレベルを上げようという機運が高まっています。

例えば、膨大なデータの登録作業があったとします。これに対し入力作業はRPAを使って自動化させているのですが、正しい登録のパターンが多数あり複雑になっているため、一部の登録データは必ず人によるダブルチェックが発生しているケースは珍しくありません。

そこで、このダブルチェック作業をAIに学習させ、複数パターンあるチェック方法を自動的に行うことで、従来よりもさらに生産性を上げていく試みが活発化しています。

このように一連の作業のなかで一部はRPAによって自動化しているものの、人でなければ判断しにくい業務があると、一気通貫の自動化はできません。そこでAIを学習させ、判断させます。

こういった業務でよく紹介されるのはAI OCRによる活用事例です。手書き書類の文字判読だけのために担当者が何時間も費やしていたのを、AI OCRによって書類を読み取りテキストデータ化します。そしてRPAがそのデータを自動的に正しい形でデータ入力していくことで、大幅な効率化を実現できるのです。

RPA製品が紹介されるようになった初期段階から、こうしたAIとの連携は予測されていました。

▽RPAのクラス

RPA
出典:総務省RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)

RPAには3段階の自動化レベルがあるとされており、現在のRPAの多くは、クラス1に該当します。これがクラス2になると、RPAとAIの技術を用いることにより非定型作業の自動化を進めることになります。

こうしたことからも、RPAがさまざまな高度な技術と連携することで、より高度な業務効率化を実現していくことは明らかです

それでは、ここからは代表的な業界・組織、そして業務内容別に活用事例をみていくことにしましょう。

RPA活用事例 自治体の場合

各自治体の仕事の多くは事務作業であり、その業務量は膨大です。これらを自動化していくことで生産性向上に大きく貢献し、住民サービスの向上にもつながります。

例えば「個人住民税」の分野では、住民税申告書、所得税確定申告書、給与支払報告書、年金資料、給与所得者異動届出書、退職所得分納入申告書などの書類について、入力作業があります。こうした関連書類は、「個人住民税」のほかに「国民健康保険」「国民年金」「障害者福祉」「児童手当・児童扶養手当」など多岐にわたる業務分野で付随してきます。また入力された各項目について確認・照合作業があるので、さらに業務量が増えるのです。

東京都のある自治体では、RPAだけではなくOCRとAI-OCRの活用実証を行いました。児童手当や所得異動などの入力作業をRPAで行うことで、年間で約22時間、17%の削減となり、保育園入所申請書の入力作業をRPAとOCRで行うことで年間約237時間の削減が可能との結果が出ました。さらに法人設立届出書の入力作業は年間で約2時間の削減ができたといいます。

また富山県のある自治体では、税務、支払い、保育関連の4業務についてRPA導入を進めたところ、年間407.9時間、約56%の業務時間削減ができました。

さらに大分県のある自治体では、保険年金課と情報推進課の業務にRPAを導入し効果を計測したところ、85.2%の時間削減に成功しました。この自治体では全職員が利用できるシステムにするため、シナリオを内製化しました。

RPA活用事例 製造業の場合

製造業は、前出の「労働市場の未来推計2030」によると約38万人分の労働力が不足するとされています。直接的あるいは間接的にでも、多くの製造業企業は世界市場でしのぎを削ることになるため、こうした労働力不足は深刻な問題といえます。

さらにものづくりの仕事は、業務や作業が属人的になりやすく、標準化がなかなか進まないケースが多いようです。そうした非効率な面を少しでもカバーするためにも、定型業務の自動化は欠かせない取り組みといえるでしょう。

ある建材メーカーでは、その日の製品の出荷量をシステムに反映する業務にRPAを活用しています。データの抽出、転記、アップロードをロボットが担うことで、作業時間は従来の3分の1程度に短縮しました。導入前は定時後でないと情報の反映ができませんでしたが、導入後は毎日の残業時間を低減させることができました。

半導体関連装置を開発するある企業では、生産部門・カスタマサポート部門・開発部門・IT部門等でRPAを活用し、稼働するロボットの数は約60体にも及びます。同社では初期段階で目標とした年間の削減効果の2,700時間をクリアし、さらなる業務効率化を進めています。

またある大手飲料メーカーでは、国内の複数の工場でRPAを本格導入しています。たとえば購買業務では、注文から見積もり依頼、承認までをRPAで対応させ、残業集計から分析・グラフ化する作業もRPAに置き換えています。このほか、故障履歴などの登録、帳票などのダウンロードについてもRPAで対応できるようにしました。これら8つの業務を自動化することで、年間1万時間の残業時間削減をめざしています。

ある事務機メーカーでは、国内外20社以上にRPAを導入し、国内だけで60プロセスに適用して年間16000時間の工数削減を見込んでいます。この会社では、自動化プロセスを開発する人材教育に力をいれ、トレーニングコンテンツなどの展開を進めることで、RPAを最短1週間程度で新規展開できる体制を整えました。

業務別RPA活用 営業の場合

RPA導入のインパクトが大きい部門である、営業部門についてみていきましょう。

営業部門も他部門以上に人材のひっ迫感が強い職場となっています。より効率的な業務遂行が求められており、事務作業の負担を軽減させることで「顧客とのタッチポイント」を増やそうとしています。

営業担当者は、顧客との打ち合わせ、折衝などのほかに、見積・請求書の作成、日報やSFA(Sales Force Automation)などへの入力作業、資料・提案書の作成などさまざまな業務をこなしています。こうした作業は残業でこなすことが珍しくないため、これらの作業をRPAで効率化させることは、さまざまなメリットを生み出します。

見積・請求書、提案書・レポートなどの作成では、必要な項目を選択すればひな形に沿って文書作成するロボットを開発することで、大幅な省力化が可能です。またこうした文書を作成した時点で自動的にメールシステムを起動させ、文書の内容から正しい相手先を指定して送信するといったことも可能でしょう。

さらに日報システムやSFAとRPAを連携させ、入力の工数を減らすと同時に、入力した内容に合わせてデータ分析の結果を見せるロボットを開発することで、必要なデータ解析を、時間をかけずに実行できるようにもできます。

業務別RPA活用 経理の場合

経理業務は定型業務が多く、他の部門と比較してもRPAの導入効果を示しやすいといえるでしょう。経理部門では、RPAを利用する以前からExcelマクロを活用して一部自動化を行っているケースもあると思いますが、RPAを活用し、複数のアプリケーションを連携させることで、業務全体を一気に自動化させる取り組みも必要となるはずです。

経理部門では、伝票のデータ入力から、帳票作成、交通費の金額チェックなどのほか、売掛・入金、資産管理、預金残高作成などさまざまな業務にRPAを適用できます。

このような経理業務の自動化では、一連の業務フローを念頭において自動化の戦略を練ることが大切です。

例えば資材購入費の支払いでは、資材購入先からの請求書をOCRで読み取りデータ(請求書のデータ)化します。さらに購買システムに入力されていた当該資材のデータを取得し、請求書のデータと突合します。突合の結果、問題なければ支払処理を行い、その結果を会計システムへ登録します。そして最後に支払先に処理を通知します。

RPAはこうした作業フローもすべて自動化することが可能です。こうした業務フローは経理部門では多種類あるため、これらをRPAで自動化すれば、残業時間の低減はもちろん、人為的なミスをゼロにし、業務品質を向上させます。また自動化によって経理部門の担当者は、より高度な分判断が必要な業務に注力できるようになるのです。

ある食品スーパーでは、RPAで交通費精算作業と取引明細の会計システム入力作業を自動化させました。交通費精算は全国の社員が申請してきたものをチェックしますし、会計システムの入力作業では金融機関との照合等が必要です。実証作業では、それぞれの作業の月間の工数を約90%削減できたとのことです。

RPA

まとめ

ここまで述べてきたように、RPAはすでに日本のあらゆる組織にとって欠かせないITツールとなっています。そしてさらにその活用方法は、進化を続けていくもの考えられます。

ICT市場調査コンサルティングのMM総研による国内企業1,530社(年商50億円以上:1,012社、同50億円未満:518社)を対象にした調査(2022年9月時点)によれば、RPA導入率は年商50億円以上で45%、年商50億円未満で12%です。

また総務省によると地方自治体におけるRPAの導入状況(2021年)は、都道府県が91%、指定都市が95%まで増加しており、その他の市区町村は29%ですが、前年比で10%増加しています。

このように利用者が増加していくなかで、RPAは「非IT部門、人材」が使いやすいツールとして進化を続けており、自然言語解析AIエンジンなどを活用して日本語でロボットと会話するだけで高度な自動化プログラムを構築できるサービスなども登場しています。

このような高度なサービスが多数登場し、それぞれが機能を充実させていくことで、私たちの働き方も大きく変化していくことが期待されます。

【こんな記事も読まれています】
国内製造業の再生を狙うINDUSTRIAL-Xが推進する[ESG×DX]時代の戦い方
製造業における購買・調達業務とは?課題の解決方法も紹介
サプライチェーン排出量はなぜ注目される?算定方法も含めて紹介