近年、製造業やIT業界などさまざまな業界で、PoC開発で新しい技術や製品、システムを導入するケースが増えています。
PoC開発には、事前のリスク把握や費用対効果の測定が可能といったさまざまなメリットがあります。
一方で、PoC開発から先に進めず、プロジェクトが頓挫してしまうケースも多くあります。
この記事では、PoC開発のメリット・デメリットや実施の手順、成功させるためのポイントについて解説します。
PoC開発とは?
PoCは「Proof of Concept」の略語です。日本語では「コンセプト実証」「概念実証」という意味です。新しい概念やアイデアの実現可能性、期待する効果があるかを実証するために行います。
PoC開発は、製造業や製薬会社、IT業界など開発に多額の投資が必要とされる業界ではじまり、現在ではさまざまな業界で使われています。新しい製品・システムのプロジェクトを開始する前に、実際の導入環境に近い状況で実験的にさまざまな検証を行います。
特に製造業では、製品が完成する前段階としてPoCを実施するケースが多くみられます。機能の検証や実用化のための試験を実施することで新製品の有効性について検証可能です。
PoC開発を行うことで実現の可能性や効果の期待値に見込みをつけることができます。そこから本格的な開発に移行していくことが可能になるため、リスクだけでなくコストも最小限に抑えることができます。
試作(プロトタイプ)・実証実験との違い
PoCは机上の概念・アイディアである技術やサービスの、実現可能性を検証するために実施します。
似たようなものにプロトタイプがありますが、こちらは実現性が確定したあとに試作品を作る一連の工程のことを指します。
どちらも検証・試作という点で類似しており、試作したプロトタイプを用いて検証を行う場合もありますが、一般的にはPoCで実現可能性を確認した後に、プロトタイプを制作するという流れになります。
また、現状抱えている問題点を検証するために行われる実証実験は、PoC開発と目的は異なりますが、PoCを実施する中で課題が見つかることもあることから、同じ意味で使用される場合が増えています。
PoC開発のメリット
PoC開発には、次の5つのメリットがあります。
・製品・システムの導入が実現可能か検証できる
・工数や人件費を効率的にカットできる
・費用対効果の推測ができる
・開発に対する周囲の理解を獲得できる
・プロジェクトへの支援獲得
1. 製品・システムの導入が実現可能か検証できる
PoC開発は、実際の運用環境に近い状況で検証を行うため、実現率を高い精度で可視化することができます。
実現できるかどうか分からない開発に無駄なコストや時間をかけずに済むだけでなく、あとから技術的な問題が発覚し、軌道修正を余儀なくされるなどの無駄を防ぐことができます。
また、プロジェクトは大きければかかる費用も莫大になるため、プロジェクトを無駄なく円滑に進められることで、投資対効果を最大限に高めることができます。
2. 工数や人件費を効率的にカットできる
自社の技術で実現可能であるかという問題を検証の段階で解決することによって、実現性のある開発のみに注力できるため、工数や人件費を抑えることができます。
また、多額のコストをかけて不要な機能を開発してしまうというリスクも防げます。
3. 費用対効果の推測ができる
PoCを実施する前段階で費用対効果を検討することは重要です。しかし、試作段階の製品・システムをユーザーに使用してもらう工程もあります。ユーザーの声を直接聞き、期待している効果と感想を照らし合わせることができます。
そうすることで、売上や利益の予想が立てやすくなり、費用対効果の推測ができます。
万が一、実現できないと評価されても、早期に開発から撤退し、損失を最小限にすることも可能です。
4.開発への理解を得やすくなる
周囲から開発に対する理解が得られず、プロジェクトが頓挫してしまうケースがあります。
社内の協力を得ようにも、既存事業部門から新規プロジェクトに対してネガティブな視線を向けられることは多いものです。
PoCの実施で、数値的な根拠を提示しながら新規プロジェクトの実現可能性や見通しを説明することができるため、開発への理解を得やすくなります。
5.プロジェクトへの支援獲得
新規プロジェクトの立ち上げには事業投資や資金援助の獲得が必要です。
実現可能性や投資対効果を判断材料にする投資家や経営者に対し、PoCによりその評価を数値的に示すことができ、プロジェクトへの高い評価を獲得し、支援や業務提携などのチャンス獲得にもつながります。
PoC開発のデメリット
PoC開発では、下記のようなデメリットもあります。
・情報漏洩のリスク
・コスト増の可能性
・時間がかかる
1. 情報漏洩のリスク
PoC開発では具体的な実現性や課題の可視化を評価するために、プロトタイプを作成して実際の環境に近い状況で検証します。そのため、情報漏洩に対するリスクは通常の開発と比べるとどうしても大きくなります。
万が一、検証中の情報が競合他社に漏れてしまった場合、自社の利益に大きく影響を与える事態になります。PoC開発は、適切なリスクヘッジを行いながら検証を進めていく必要があります。
2.コスト増加の可能性
目的やプロセスをしっかりと設計した上で検証を行わなければ、想定以上にコストがかかってしまう場合もあります。
PoCは一回の検証で必要なデータが集まるわけではなく、複数回検証が必要となるケースもあります。
検証を複数回行なうだけコストもかかりますが、検証を繰り返すだけで先に進まずコストを消費するだけの「PoC疲れ」「PoC貧乏」にも注意が必要です。
あらかじめ検証規模や回数を決めておくなど対策をしておきましょう。
3.時間がかかる
PoC開発では、開発の過程でプロタイプを作成して実証を行います。本番環境に似た条件のもとで実施されるため、有益な結果情報を得ることができます。
ただし、どうしてもコストと時間がかかってしまうため、検証作業が長期化してしまうと「PoC疲れ」を起こしてしまう可能性があります。
また検証中にさまざまな問題点が見つかり、実現化への展望が見えず、多大なコストと時間をかけながらいつまでたっても実用化できない「PoC地獄」に陥ってしまうケースもあります。
PoCはあくまでも目的を得るための手段だということを忘れないようにしましょう。
PoC開発をすすめる手順
PoC開発をすすめる具体的な手順は下記の通りです。
・① PoC開発の目的を決める
・② 具体的な実施内容や検証方法を設定する
・③ 実施・検証内容の実証を行う
・④ 結果データを検証し次フェーズに活用する
ここからは、これらの手順について解説していきます。
① PoC開発の目的を決める
新たな製品・システム実現に向けて、何を検証しなければならないのか、どのようなデータの取得が目的なのかをあらかじめ決めておく必要があります。
事前にやるべきことを決め整理しておくことで、無意味に検証を繰り返してしまうリスクが回避できます。
具体的な目標を設定することで、関係者全員が同じ方向を向いて開発を進めることができ、また担当者が「何をすればいいのか分からない」という事態を防ぐこともできます。
② 具体的な実施内容や検証方法を設定する
取得したい効果やデータを定めたら、次に具体的な実施内容や検証方法を定めていきます。
この時、現場の意見を取り入れることが重要です。現場で抱えている課題や解決すべきことを明確し、具体的な検証方法を決定します。
また、PoCの対応範囲を決めるときは、目的が達成できる最小範囲に設定します。対応範囲を欲張りすぎてしまうと、PoCの本来の目的である開発コスト・リスク削減の効果が得られなくなります。
実施内容や検証方法が決まったら、必要となる人材や機材などを調達します。
③ 実施・検証内容の実証を行う
実施する内容と検証方法を設定したら、実施していきます。
一部の関係者だけで検証を行うと結果に偏りが出てしまう可能性があるので、ここでも、プロジェクトの関係者全員に、実践に近い形で参加してもらいましょう。
特に対応範囲が広い場合は、可能な限り多くの関係者に参加してもらうことで、偏りがなく客観的で精度の高いリアルなデータを得ることができます。
④ 結果データを検証し次フェーズに活用する
実施した後は、結果データを検証していきます。実用性や起こり得るリスクなどを分析し、課題を把握することができます。
その後は課題を検証・評価し、次フェーズに対してどういったフィードバックを行っていくかを決定します。
また、検証の際に問題が発覚した場合は、新たな仮説を設定したうえで再検証を行います。
良い結果がでれば、本格的な開発・導入へと進みます。
PoC開発を成功させるためのポイント
PoC開発を成功させるために、下記5つのポイントを意識することが大切です。
・1. スモールスタート・スモールステップ
・2. PoC開発のゴールや達成後の体制を決める
・3. 検証は導入現場に近い環境で行う
・4.ITリソース確保のために海外リソースも活用
・5. 失敗を次のPoCにつなげる
1. スモールスタート・スモールステップ
いきなり大規模なPoC開発を行うとコストが膨大になり、費やす時間も大きくなります。検証の途中で問題が発覚すれば、システム改修にかかる手間も増大します。
そうなると検証目的も薄れてしまい、意思決定にも時間がかかってしまうなど悪循環に陥ります。
そこで、できるだけ小さな規模でスタートすれば、途中で問題が発覚したり方向転換があったりしても柔軟に対応することができ、スピーディーな意思決定が可能になります。
2. PoC開発のゴールや達成後の体制を決める
達成すべき目的をしっかりと定義し、PoCを行うことが目的とならないよう、ゴール後の計画もあらかじめ立てておく必要があります。
その後の計画や体制が事前に決められていないと、良い結果が出た場合でも、関わったメンバーが通常業務に戻ってしまい、そこで止まってしまうというケースがよくみられます。
3. 検証は導入現場に近い環境で行う
実際のユーザーや使用環境に近い条件下で実施することで、より詳細でリアルなデータを収集できます。
そのため、可能な限り実際の使用状況を模倣し、ユーザー、環境、状況を再現することが実証のポイントになります。
万が一事前に想定しない事態が発生したときは、その内容をメモにとるなど、メンバー全員に共有するようにしましょう。
4.ITリソース確保には海外リソースも活用
PoC開発はいかにPDCAをスピーディに回すかも重要です。課題を見つけ検証し、解決というサイクルを繰り返すことで、より使いやすい開発が可能になります。
しかし国内は十分なITリソース確保が難しく、さらに単価の高騰も大きな課題になっています。
一方、コロナ禍によりオンラインミーティングが活発になったことから、海外とのやり取りもハードルが下がっています。ITリソースの確保が国内だけでは難しい場合、海外資源に目を向けるのもよいでしょう。
5. 失敗を次のPoCにつなげる
PoCを実施した結果、立てた仮説通りにいかなかったり、期待した結果が得られなかったりしても失敗ではありません。
むしろ失敗をおそれ、時間をかけてPoCに取り組んでしまうといつまでたっても検証が終わらず、かえって「PoC疲れ」に陥ってしまう可能性もあります。
思い通りの結果が出なかったから失敗だと考えるのではなく、次の開発につなげる方策を考えるきっかけとすることで、PoC開発を成功に導くことができます。
PoC開発は目的を決めて慎重に進めよう
PoC開発を行うことで、製品・システム導入の実現可能性の検証や工数・人件費を効率的にカットすることができます。
事前に目的を明確にし、実施計画を立てたうえで、小規模なものから始めていくことをおすすめします。
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