3DA(3D Annotated)とは?MBDに移行するCADの世界
(画像=Gorodenkoff/stock.adobe.com)

昨今、CADを用いる製造業界では3DA(3D Annotated)が注目されています。これまでCADを用いた設計は一般的でしたが、作成した設計は紙の図面に出力して使用しているのではないでしょうか。3DAの概要とメリットを知り、3DAに移行して効率化する方法を探ります。

目次

  1. 3DAとは何か
  2. 3DAは製造業界のDX
  3. 3DAのメリットとデメリット
  4. 3DAと規格の現状
  5. 3DAで完全なMBDへの道のりは?
  6. 3DAを活用して考え方を変えよう

3DAとは何か

3DA とは“3D Annotated ”の略で、『注釈付きの3次元モデル』のことをいいます。“注釈(Annotation:アノテーション)付き”というのは寸法・注記、数量など構造特性についての情報を付け加えていることを言います。3DAは、製造に必要な情報が付け加えられたデジタルデータの総称です。

3DCADが発達してきた現代でも、製造現場では2次元で書かれた図面が必要とされてきました。現場で製造に必要な情報を読み取るためには、2Dの図面を見たり3Dでデータを見たりと繰り返す必要があり、効率的とは言えません。

そこで注目されているのが『注釈付きの3次元モデル』すなわち3DAで、製造業の効率化に大きく寄与することが期待されています。

3DA

3DAは製造業界のDX

モノづくりには図面が不可欠で、一般的に図面は2D(2次元)です。現代の設計で使用するのは3DのCADなので、3Dのデータから2Dの図面を出力するという、効率的とは言えないモノづくりをしているのが現状です。

3DAがあるのになぜか2Dから離れられない

日本は戦後、圧倒的な物不足と人手不足の中で復興してきました。東京大学大学院経済学研究科教授東大ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏教授によると、その要因は、一人でいろいろな機能をこなす多能工の誕生と、需要の変動や仕様の変更に柔軟に対応できる組織力を獲得できたことが大きいと指摘しています。

厳しい環境下で現場力と組織力が醸成できたのは、労働者が複雑な図面を読む能力を有するほどの教育を受けていたためです。設計者の書いた図面によって組織的に成り立っていた製造現場は、1980年代になってCADが普及し始めても基本的な設計手順などのやり方が変わることはありませんでした。

2000年ごろから3DCADが普及し始めましたが、製造現場では2次元の図面が使い続けられていました。それまでの図面と組織力によるやり方の完成度が高かったあまり、変えようという発想が出なかったのでしょう。

図面様式ごとの適用比率 画像出典:2019年度3D図面普及調査レポート(JAMA各社の状況) 一般社団法人 日本自動車工業会

3DCADと2次元の図面を連動させようとした企業はごくわずかで、多くの企業では、3Dデータと2Dデータが連携していませんでした。したがって、3Dで設計を行っても2Dで図面を起こす必要があり、紙で情報伝達を行う習慣はなくなりませんでした

3DAでモデリング中心・MBDの考え方を

3Dのデータに注釈をつけて製造に使えるデータにする3DAは、このようになかなか普及していません。また普及しないことの理由に、最近まで統一された規格がなかったため3DCADソフトに注釈を付けるための機能がなかったこと、規格を作る側が3DCADソフトの中身がわからなかったことが挙げられます。

これらの課題が最近になってようやく解決しはじめ、3DA導入を検討する企業が増えてきました。

これまで製造現場に情報を落とすための3Dから2Dへの変換作業をやめることで工数は減少するでしょう。日本の製造業の生産性を上げるには、こうした図面をベースにした製造の仕方から脱却し3Dモデルをベースに考えた製造(MBD: Model Based Development)にシフトしていく必要があります。

3DAのメリットとデメリット

図面中心で製造を行ってきた企業が、3DAに移行することによって生じるメリットとデメリットを整理してみましょう。

3DAのメリット

  • 製造上必要なデータを読み取れる
    3DAのメリットは製造上必要な情報を読み取れることです。2次元の図面は広い紙面で一覧性があるというメリットがあります。その一方で傾けたり、隠れているところを見たりといったことができません。

このため、紙の図面で分からない箇所を3Dのデータで確認したり、3Dデータでは一覧性がない箇所を広い紙の図面で確認したりといった作業を繰り返していました。

製造に必要な情報が3Dデータに入っていれば、紙の図面を見る頻度を減らすことができます。

  • 製造工程の自動化が図れる
    自動加工のためのCAMデータは、オペレーターが図面と3Dデータを見ながら加工用のデータを別途入力して作成していました。3DAでは製造に必要な情報が付加されていますので、これらはほぼ自動作成されます。あとは自動作成されたデータをチェックして、必要に応じて修正すればよいのです。

  • 見積もりが自動化される
    3DAデータからは、製造情報や形状の情報を読み取れるので、ここから製造コストを計算することができます。AIを活用し、非常に短い時間で部品の製造コストを見積もりできるシステムも既に存在します。

これまで部品の製造コストを見積もるには、2次元の図面を出力しサプライヤーに渡して見積もりを依頼しなければなりませんでした。3DAであればデータを渡すだけでよいので、見積もりのためにわざわざ2次元の図面を出力する必要がありません。

3DAのデメリット

  • 3DAシステムの操作習得に時間がかかる
    3DAは、2次元のCADとは考え方や操作体系が異なるため、CADに慣れている人でも操作の習得にある程度時間がかかります

  • スケール感がつかみにくい
    小さい画面の中でどのような大きさの設計も可能なので、製造物の大きさが感覚としてつかみにくいということがあります。

  • 3Dで設計していない業者との取引がしづらい
    2次元の図面ですべての工程が進む体系の場合、一部が3Dになっていることでかえって効率性が低下します。本格的に3DAによる製造工程の効率化を図るのであれば関係する業者がそろって3DAに移行する必要があります

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3DAと規格の現状

新しい技術である3DAの普及には標準となる規格が必要になります。3DAのための規格にどのようなものがあるのかについてまとめてみました。

ISO 16792:2021 『製図-デジタル製品定義データ実施規範』

ISO(国際標準化機構)で定められていた製図に関する情報に、デジタル製品定義データの準備、改訂、提示に関する要件を指定するものです。3Dと2Dの2つのアプリケーション方法をサポートしています。CADでのモデリングや注釈を作成するにあたって役立ちます。

JIS B 0060 デジタル製品技術文書情報

一般機械,精密機械,電気機械などの工業分野で用いるデジタル製品技術文書情報(DTPD : digital technical product documentation)及び3DAモデルの作成における一般事項について規定したものです。

ET-5102 JEITA (三次元CAD 情報標準化専門委員会)3DAモデル規格

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)三次元CAD情報標準化専門委員会による規格です。設計から製造まで一貫して3DCADデータが活用できるようにするため、幾何公差を中心にした正確な指示方法と一括交差指示方式による効率的な製品情報作成方法をまとめています。

ASME 14.41 ASME(米国機械学会)3Dモデル内の製品定義

2003年に米国で発行された3DAの規格で、ここで紹介する規格の中では最も古いものです。1980年代に普及したCADの世界に独立して標準規格を作成したもので、米国国防総省をはじめとするいくつかの産業界で採用されています。

3次元モデル表記標準(案) 国土交通省

国土交通省が推進する3Dモデルによる建設生産システム「BIM/CIM」(Building / Construction Information Modeling,Management)の効率化に寄与する表記法について定めたガイドラインです。国土交通省ではこれによって、インフラ整備に関する生産性向上と効率化を企図しており、3Dデータを使った契約図書に関する決まり事を定めています。

jama((社)日本自動車工業会)/JAPIA((社)日本自動車部品工業会)によるガイドライン JAMA/JAPIA 3DAモデルガイドライン

日本自動車工業会で製作された3DAモデルのガイドラインです。上記で紹介しているJIS B 0060シリーズ規格に準拠しており、これと併せて活用することで標準化されることが期待されます。

3DAで完全なMBDへの道のりは?

このように、3DAモデルに関する規格化も進んできたものの、3DAモデルをベースに考えた製造(MBD: Model Based Development)への進化はまだ道半ばだといいます。3DAモデルを正本とする製造にシフトしていくには次のような課題が残っています。

CAD機能の制限の問題

3DAに関する規格ができたばかりのころの3DCADは、完全に規格を網羅できておらず、多くの改善要望がCADベンダーに寄せられました。その後CADベンダーは規格に沿った形で機能を拡充してきましたが、実現が難しい規格内容もあったといいます。

そこでJIS B 0060を規格化する際は「CADで表現できないものについては規格化しない」という方針が立てられました。しかし欧米ではMBDによる設計に移行しているところが多く、CADシステムの進化はそれ以降も進んでおり、『規格が先か、CADが先か』という状態です。

データフォーマットの問題

サプライヤーとの間で3Dデータをやり取りするにあたって問題になるのが、データフォーマットです。これまで2次元の図面でやり取りしていたのであれば、なおさら困難になります。2次元の図面を正本として扱う習慣があるため、送られてきた2次元の図面をもとに自社の3DCADで再度データを作成しなおすといったことも多くあります。

3Dでモノづくりを行うのであれば共通のフォーマットでやり取りしたいところですが、どの会社も同じCADを使用するわけではないので、それは困難です。そこで、業界共通の中間フォーマットが必要になります。

現在、中間データフォーマットとしては、3DCADシステムであればどのシステムでも扱うことができる「JT」と「STEP AP242」があります。一方、米国では国防総省が中心となり、「3D PDF」というフォーマットが活用されています。これは、文書用のPDFフォーマットと同様、データ変換せずにビュワーを使用する方法も用意されています。

多くのCADベンダーでは自社のデータを見るための無料のビュワーを用意しており、サプライヤーに配布して実際の運用を行っています。

MBD作成プロセスの問題

3DAでは、アノテーション(注釈)を、どのようにつけるのが最適なのかという問題があります。

2次元の図面は、どのように記述するかの規定があり、新しい規格が発生しても、記述内容が変わるだけですのでそれまでのプロセスを変更する必要はありません。

ところが3DAでは新しい規格ができるたびに表示すべきデータが増えていき、最終的には寸法線や注釈だらけの非常にわかりにくい画像になってしまいます。そこで目的によって表示を分ける必要があります。

アノテーション自体をどのように分けるのが適切なのか決めるためには、「誰が」「どのような目的で」そのビューを使用するのか明確にしておく必要があります。また、そればかりではなく、アノテーションそのものを減らすことはできないのか検討も必要です。

本当にすべての情報を表示するのか、設計と製造で協議して決めていく作業が必要になるでしょう。実際に、JIS B 0060では、「表示要求事項」と「非表示要求事項」がまとめられています。

また、CAMマシンに読ませるためのデータを入力しておく必要もあります。人間が見てわかるような形式でないものになりますが、これらのデータ入力の考慮も重要です。

サプライヤーに対し、共通フォーマットにして出力するにあたり、どのフォーマットで出力するのがいいのかを定めておき、それに沿った形を考慮する必要もあります。

このように、3DAデータの作成に当たっては検討すべき事項が多くあります。まずは、現在使用している2次元データ図面の使用状況を精査して、誰がどの部分をどのように使用しているのか整理しておく必要がありそうです。

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3DAを活用して考え方を変えよう

3DCADが使用され始めてから十数年が経過しましたが、なかなか革新的な生産性向上につながっていないようです。これには2次元の図面による製造の習慣から、転換できずにいる事業者が多いという現実があります。

しかしながら、業界標準規格など課題であった部分も年々改善されつつあり、CADの機能改善も進みつつあります。3DAデータを正本とする企業は今後増えていく傾向になるでしょう。

具体的には、近畿経済産業局が展開する産学官連携の広域ネットワーク「Kansai-3D実用化プロジェクト」が式会社立花エレテックを事務局にして、3D実用化に挑む全国38社(中小企業33社、大企業5社)をモデルとして取りまとめます。そして国内外の3Dプリンター関連企業24社や産業技術総合研究所及び全国21の公設試、さらに大阪大学の協力のもと、3D製造プロセスに必要なデザイン設計、3D造形、評価までの全プロセスの導入検証を支援する日本初の取り組みを実施すると公表しました。

この背景として経済産業省は、企業変革力の向上を求められていることが挙げられると説明します。「2020年度版ものづくり白書」では、近年のグローバル社会において、米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの感染拡大によりサプライチェーンが影響を受けるなど、不確実性が高まっているとされています。その中で、日本の製造業は、激しい変化に対応していかに自己変革するかが重要になると説明しています。

これに対して、経済産業省近畿経済産業局は、世界でモノづくりを変革させる技術として急速に拡大している「3D積層造形を活用した量産化」に注目しています。

2019年1月に産学官連携の広域ネットワークである「Kansai-3D実用化プロジェクト」を創設し、日本版の「3D積層造形による新たなモノづくりの変革モデル」の創出支援をしてきました。発足1年で、プロジェクトの会員企業数は全国で400社を超え、さまざまな企業が3D積層技術を生かした実用化に挑戦しているという状況です。 

Kansai-3D実用化プロジェクト(出典:経済産業省近畿経済産業局)

歴史を振り返ると、日本は戦後の厳しい状況から、モノづくり大国として先進国と成長しました。平成を経て令和を迎えた現在、政府が音頭を取ってDXによる生産性向上を掲げています。

3DAデータを正本として、すべての製造工程が一貫して実施できるMBDに早く移行すれば、少子高齢化による人手不足問題の解決にもつながるかもしれません。

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