データ経営の必要性が叫ばれる中で、ここ数年CRMへの注目度が再び高まっています。CRMは歴史も長く、いまや営業やマーケティング部門を中心に、なくてはならないツールです。CRMの歴史は20年以上になります。当初はパッケージ製品として提供されることがほとんどでしたが、現在はクラウドサービスとして提供されるのが一般的です。
そこで本記事ではCRMの歴史、基本的な機能をはじめ、代表的な製品・サービスの導入事例を紹介します。
目次
CRMとは何か?
CRMとはCustomer Relationship Managementの略称で「顧客関係管理」などと訳されています。CRMはその言葉の通り、顧客リストの管理を主な機能としてきました。
組織によっては顧客リストが個人や一部のグループなどによって非効率に管理されていることがあり、そのままでは最大限にリストを生かせないという課題がありました。
そこでCRMにすべての顧客データを入力、蓄積するようにしたのです。このデータには、顧客名や部門担当者名などもありますが、過去に自社とどんなビジネスをしたのかといった実績なども含まれます。
SFA、MAとの関係
CRMは顧客データベースだけでなく、現在営業活動を行っている顧客に関する活動情報を逐一管理するための機能も担うようになっていきました。
例えば、名刺交換をした日から、企業および担当者の情報を入力し、1回目の商談、2回目、成約、というように営業活動のそれぞれの節目を記録し、また日報の情報も集約することで、漏れなく効率的な営業活動を進められるようにしていきました。こうした仕組みはSFA(Sales Force Automation)とも呼ばれ、SFAの機能に限定したツールも提供されるようにもなりました。
このSFAの機能も追加され、CRMは大きく進化を遂げます。分析機能もその1つです。CRMは基本的にデータベースシステムで構築されており、さまざまな要素をデータ化していくことで、顧客に関する分析ができるようになっていきました。
また、CRMの情報は関係者に公開されて運用するのが基本です。そのため、特定の顧客に関する情報がシステムに寄せられることにより、営業活動の進ちょくを助けることにもつながります。管理者と担当者だけでなく、特定の顧客について詳しい別の担当者も情報を共有し、新しい商談の成約に近づいていくといった動きもすぐに実行できるようになりました。
昨今CRMの新しい動きとして、マーケティングオートメーション(Marketing Automation:MA)の機能を含むCRMも登場してきました。
MAは主としてマーケティング担当者が自社のイベントやWebコンテンツなどを経由して「見込み客」を見つけ、その顧客と関係を構築していくために使われるツールです。SFAと同様に、MA単体のサービスもありますが、CRMの機能の一部として提供されるケースもめずらしくありません。
このようにCRMはビジネス環境の変化に応じて、さまざまな機能を追加して進化してきました。
市場規模
CRMのグローバルの市場規模は、調査会社Fortune Business Insightsによると2022年では639.1億米ドルに達するとされています。2021年の市場規模は578.3億米ドルとされているのでおよそ10%の成長を遂げていることになります。
またIDC Japanによると、2019年の国内CRMアプリケーション市場は、前年比成長率7.0%の1742億900万円でした。そして2019年~2024年の年間平均成長率は5.3%で推移し、2024年には2250億9000万円に達すると予測されています。
なお世界の市場でトップに立つCRM製品はセールスフォース・ドットコムのもので、IDCによるとそのシェアは19.5%(2021年)となっています。
CRM活用の代表的な成功事例
では、さまざまな企業でCRMはどのように利用されているのでしょうか。
ある企業では、部門間の連携や拠点間連携が弱く、情報共有が不完全で案件成約の機会損失が発生していました。そこでCRMを導入し、顧客の履歴や、顧客企業のキーマンとの接触情報、状況をリアルタイムに共有できるようにしました。これにより、さまざまな具体的なアドバイスを担当者が受けられるようになり、案件の成約率が向上したといいます。また担当者一人一人の行動が可視化され、適切な評価を行えるようになりました。
また、ある企業では、顧客の情報共有が不十分で顧客先での情報武装ができず、顧客のさまざまな要請に即答できない状況が続いていました。そこでCRMを導入したところ、顧客情報の管理がほぼリアルタイムで実施できるようになり、的確な顧客への情報提供が可能になったといいます。また商談終了後、外出先からCRMにアクセスし、必要な商談情報を入力することで、上司が承認した見積もりを迅速に顧客に提示できるようになりました。
別の企業では、スケジュール管理と日報報告がそれぞれ個別のシステムで入力し、日報作成の時間がかかることが課題となっていました。そこで顧客管理、営業管理ができるCRMツールを導入し、情報の一元管理に取り組みました。導入後は、顧客との過去の面談履歴などを把握して商談に臨むようになり、顧客のニーズに耳を傾ける営業スタイルに変わり、的確な提案ができるようになったといいます。
一般的な導入方法
CRMは現在、クラウドサービスとして提供されていることが一般的となっており、導入においてもスモールスタートが可能です。導入当初は導入先や利用する機能を絞り込んで利用していき、一定の効果が表れたところで次第に拡大していくという方法も採ることができるでしょう。
導入時点の苦労や悩みは少なくなってきていますが、いざ利用を開始した段階で「利用者数が伸びない」「なかなか成果が出ない」という課題に直面する企業は少なくないようです。
こうした場合、まず重視したいのが「なぜCRMを導入するのか」という導入目的です。漠然と「顧客情報や営業進ちょく情報を一元化したい」というだけでは、各担当者は「入力作業に時間をとられる」「行動管理が厳しくなる」といったマイナス面ばかりに気を取られがちです。そうなると、ツールを使いこなしていこうというと意欲は生まれません。
導入目的として一般的なのが「営業部隊の能力の底上げ」です。とくに、営業成績が中位以下の担当者を、CRMを使ってレベルアップします。CRMを使うことで、現在トップの成績を出している担当者の行動特性などが見えてくるでしょう。その行動特性をもとに、さらに詳しくセールストークの内容を顧客へのメールなどから読み解き、自分の活動に生かしていくのです。
「営業成績がトップの社員にアドバイスをもらえ」と管理者が指示するだけでは、伸び悩んでいる担当者は具体的にどうすればいいのかはっきりしません。しかしCRMによってより具体的なデータから「成約のヒント」を得ることで、少しずつ成果があがっていくかもしれません。
CRM活用事例最新トレンド
ここまでさまざまな進化を遂げてきたCRMですが、新しいテクノロジーや営業手法の出現により、別の進化の局面を迎えています。
AIとの連携
まず注目されているのがAIとの連携です。もともとCRMはさまざまな顧客分析機能などを有していますが、AIを搭載することによって、売り上げ予測や優良顧客の選別などでより正確に結果を出せる可能性があります。またユーザーが普段ツール上で行っている分析作業から、自動的に適切な分析作業を行い、常に新しい結果を提示することいったことも可能になるでしょう。
また業務分析だけでなく、AI-OCR(光学式文字読み取り装置)を使い、名刺や紙文書を正確にデータ化するといった作業にも利用できます。さらに顧客の音声やメール文書などから、見落としていたニーズや要望を見つけ出すといったことにも利用されるようになるでしょう。
2022年4月、国立国会図書館はOCR処理プログラムの研究開発事業の成果として、日本語のOCR処理プログラムを一般公開しました。明治、大正、昭和期の独特なレイアウトの本も読み込み、認識できるものです。古い資料を含めて、紙文書をデジタル化する取り組みです。
▽紙文書のデジタル化例
AIの利用は、ユーザー企業が単独で行うには負担が大きいですが、クラウドサービスとして提供されるCRMでは、サービス提供企業がさまざまなAIサービスを比較的安価に用意しているので、利用しやすい環境となっています。
インバウンド営業・インサイドセールスの活発化
またここ最近、インバウンド営業・インサイドセールスという営業手法が注目されるようになり、営業組織を新たに改編してこうした手法による活動を開始する企業も出てきています。
インサイドセールスは、Webコンテンツやセミナー、メールマガジン、SNSなどで接触した見込み客(リード)に対して非対面で行う営業活動のことをいいます。またインバウンド営業も同様に主としてWeb等のコンテンツから問い合わせを受けた見込み客をベースに営業活動を行います。
両方とも、最後の成約までをオンラインで行うというわけではなく、見込み客とオンラインで折衝し続けるなかで徹底的に顧客のニーズを引き出し、的確な提案を繰り返して面談による商談につなげます。その後は別の外勤担当に引き継ぐパターンも少なくありません。
こうした手法は、コロナ禍にあって営業の初期段階から顧客と接触できる機会が減ったという事情からも、注目されてきました。
一方で顧客の製品・サービス選定に変化が起きてきたことも、大きな要因とされています。Webサイト「Think with Google」で掲載されたコラム『The Digital Evolution in B2B Marketing」』では「顧客は営業担当者に会う前に購買プロセスの57%を終えている」ということが明らかになりました。
つまり顧客は製品・サービス選定する際、営業担当者に会って情報収集をするよりも先に、判断材料をWebなどから取得しているという結果が出たのです。
こうした結果からも、情報収集をしている段階の顧客との接点を広げ、検討段階の初期から顧客に寄り添っていく必要が生まれてきました。そうした営業活動では、アプローチする顧客の数も多く、新規顧客も多数いるため、CRMによる情報管理が不可欠となっています。CRMによってデータを管理、分析して、アプローチする顧客の優先順位を迅速かつ的確に決定していかなくてはなりません。
CRM活用事例 セールスフォース
セールスフォース・ドットコムは世界で最も有名なCRMツール「セールスフォース」を提供するベンダーです。
セールスフォースは、Sales Cloud、Service Cloud、Maketing Cloud(Pardot)、Salesforce Platformなどのサービスを提供し、Sales Cloudでは、顧客、案件、見込み客、営業プロセスなどの管理機能があり、さらに売り上げ予測、レポート出力、モバイル連携などの機能を提供しています。
またService Cloudでは問い合わせフォームの自動作成機能やチャットボット機能を提供し、カスタマーサポートを効率化させます。メールやWeb、SNSなどに対応し、多様なチャネルを利用し、顧客接点維持の自動化が可能です。
さらにMaketing CloudではBtoB向けのマーケティングオートメーション(MA)の機能を提供し、リードの創出・分析、セグメンテーション、スコアリング、シナリオの自動作成、メールの自動配信などを可能にします。
Salesforce Platformでは、アプリケーション開発の実行基盤をクラウドで提供しています。ビジネスアプリケーションの開発に必要な機能を網羅しており、非・ITエンジニアも難なく扱えるように設計されています。これにより、ユーザー1人ひとりが、自分の使いやすいようにダッシュボードを編集したり、外部サービスから情報を収集・分析するビジネスアプリケーションを開発したりすることも可能です。
ある企業では、営業課題として「担当営業への業務負荷の集中」「スキルのばらつきによる実績の差」「情報共有に関わるスピード不足」の3点を抱えていました。そこでセールスフォースを導入して100人規模の営業担当者の行動の可視化を進め、好成績の担当者の業務行動を分析しました。
そしてこれらの行動を標準化し、部門全体のスキルの底上げを実施しました。さらにコミュニケーション環境を整備し、情報共有のスピード化も実現することで営業部門の時間外労働を20%削減しました。
CRM活用事例 kintone
kintoneはサイボウズが提供する業務アプリサービスです。プログラミングの知識がない人でも業務アプリを構築できるので、自社の業務に合ったCRMを構築するユーザーも少なくありません。個別に料金を支払うことで、100以上の拡張機能を利用することもできため、名刺管理システムやSFAなどを構築するユーザーもいます。
多種多様なITベンダーがCRM以外の目的などにもkintoneを活用してアプリケーションを開発し、ユーザーに提供しています。とくに紙ベースのFAXや表計算ソフトなどで業務をまわしていたユーザーが、kintoneをベースにした経営管理システムなどを活用するといった事例も増えているようです。
ある不動産関連企業では、顧客マスタと日々の案件情報を一元管理できるCRM基盤をkintoneで構築しました。この基盤では、Webサイトに寄せられたコメントやDMの送付管理、取引台帳との連携などにも活用しています。
もともとこの会社では、別のツールでCRM基盤を構築し、顧客管理や物件管理を行ってきましたが、長年にわたるカスタマイズの繰り返しでシステム運用が属人化していたといいます。また旧システムには、不正確な情報が蓄積され、データの二重管理も大きな負担になっていました。
正しい情報がきちんと一元管理された基盤への刷新をめざしたこの企業では、kintoneの汎用性に着目しました。既存の業務フローを変えることなく、ITリテラシーが高くない社員にも使えると考えたのです。現在では30を超えるアプリを運用しながら、CRMで登録された情報をアプリ間で連携させ、さまざまな業務改善が進められているといいます。
CRM活用事例 LINE
多くの人になじみの深いコミュニケーションツールであるLINEをCRMと連携させる使い方が最近注目されています。CRMで蓄積している顧客情報を社内共有する際、LINEアカウントと連携させることで、モバイルツールから簡単に素早く情報把握を行えます。またCRMでの分析結果も複数のユーザーが瞬時に共有できます。
また顧客とのやり取りをLINEで行っている場合も、社内でその情報を共有し、顧客ごとの特性や個別の顧客に合ったサービス内容の引き継ぎや、コミュニケーション方法の改善に役立てることもできます。さらにCRMに付随したMA機能と連携し、限定した顧客にキャンペーンの通知などをLINEで自動的に配信することもできます。
現在、LINEとの連係機能を最初から組み込んでいるCRMも提供されており、顧客のLINEアカウントを最大限にビジネスに生かしたいというニーズに応える機能が開発されています。
ある宅配飲食企業では、自動の友だち追加機能やLINEログイン機能、Messaging API機能などを採用し、顧客管理を自動化しています。LINEの友だち追加とID連携を済ませた顧客にはLINEから注文手続きが行えるサービスを提供しています。このサービスを使うとログインもしやすく、スムーズな注文ができるようになります。また顧客の居住地・誕生日などに合わせたメッセージやクーポンの送信も行っています。
CRMは古くて新しいツール?
ここまで述べてきたように、CRMはビジネスや技術のトレンドに敏感に反応しながら、その利用範囲を広げています。そうした意味でCRMは「古くて新しいツール」だといえるでしょう。
またかつては「CRM不要論」がささやかれた時期もありましたが、長年にわたり機能を強化し、さまざまな技術も取り込んでいる状況をみると、CRMへのマイナスイメージは払しょくされ、今は期待を集めるものとなっています。
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