土木現場における遠隔臨場の取り組み最前線
(画像=Satoshi/stock.adobe.com)

昨今、「遠隔臨場」という言葉をよく見聞きするようになりました。
国土交通省が推進するこの取り組みは、カメラやWeb会議システムによる映像・音声通話を使って、発注者側の監督職員などが現場に行かずとも離れた場所から確認できるものです。現場に行かなくても良くなるため、交通費や移動時間の削減など、大幅な業務効率化が期待できます。
今回この遠隔臨場の施策を推進する国土交通省の担当者様を建設DXジャーナル編集部が直撃取材。遠隔臨場で土木現場はどう変わるのか、その取り組みの最前線について伺いました。

遠隔臨場は現場でも好評

編集部:まず、国交省では遠隔臨場を推進されていますが、それによりどのような効果を期待されていますか?

国交省:国土交通省では、建設現場において現場臨場の削減による効率的な時間の活用や、人と人とが密になる環境を避けるための非接触・リモート化を推進しています。今後は遠隔臨場の活用により、現場における監督・検査業務の高度化を進めるとともに、現場に発注者職員が立ち会わなくても、出来形・品質の確認ができるような状況を目指していきたいと考えています。

編集部:遠隔臨場は感染症対策にも繋がるのですね。主にどのような利活用が進んでいますか? また、現場からは必要性についてどのように評価されていますか?

国交省:遠隔臨場は「段階確認」「材料確認」「立会」を実施する場合に適用し、それぞれ同等の頻度で活用されています。また、調査を行ったところ、最も効果を実感した工種としては、「掘削工(土工)」「場所打コンクリート工」「鉄筋工」と、土木工事における主要な工種であったという回答が多かったです。現場(受注者)からは、時間の効率化や作業の削減などの効果があることから、今後も継続した取り組みを希望すると前向きな声が多い印象です。

編集部:我々も現場に訪問することがありますが、土木現場は移動時間だけも1日仕事になることが多いです。それ以外に現場入場のための書類作成など、手続きの手間がありますので、行かなくても良いのは大きなメリットだと思います。1日に複数の現場を確認できるようになりますね。

遠隔臨場の普及で業界が変わる!

編集部:遠隔臨場は建設業界が抱える労働生産性向上に寄与するものと思いますが、実際に業務効率の改善につながった事例はありますか?

国交省:フォローアップ調査において現場へのヒアリングを実施したところ、一度の遠隔臨場により、従来の確認行為に対して平均80分程度の所要時間の短縮があったことが分かりました。また、工事全体を通じては通常の工事に比べ平均24時間程度の時間短縮が図られたという結果で、業務効率の改善が確認できています。

編集部:現場に対してヒアリングをされたのですね。時間短縮の効果も普及していくにつれて大きくなりそうです。

国交省:調査は毎年実施するものではありませんが、現在の運用(要領等)に対する課題の出を目的に実施したものです。 編集部:遠隔臨場は今後飛躍的に普及していくのでしょうか?

国交省:遠隔臨場は、既に2022年度から国交省発注の直轄土木工事において、原則適用することとしています。また、遠隔臨場の活用に伴い、現場独自に工夫した事例を収録した「遠隔臨場の取組事例集」を発刊し、実施内容の共有を図っているところです。

編集部:今後は自治体への普及も期待できるのでしょうか?

国交省:自治体への普及については、試行を行っていた2021年度の時点から導入に向けた問い合せが多くあります。建設現場の非接触・リモート化に向けて積極的に導入を検討してほしいと考え、自治体向けの会議等での呼びかけも行っているところです。

編集部:自治体向けの啓もう活動もされているのですね。適用される現場が広がることで業界全体が変革していきそうです。

求められる現場内の通信ネットワーク

編集部:遠隔臨場を実現するにあたり、必要な技術はありますか?

国交省:遠隔臨場を実現するにあたっては、一定程度の画質のカメラと通信機能を有する端末といった最低限の機材が準備されていれば良く、デバイス側としては普段使っているスマートフォン等でも可能としています。

編集部:例えば現場内での通信ネットワーク構築はまず必要かと思いますが、整備の状況はいかがでしょうか。

国交省:現場内の通信ネットワークの構築については、可能な限り工事の中で整備したいと考えていますが、現場ごとに整備の規模が異なるため、現場個々に協議する必要があります。

編集部:「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領」などにも記載があるとおり、現場側と国交省とで実施費用については協議されるのですね。当社では、遠隔臨場の導入にあたって、トンネル現場内などでの通信ネットワーク導入のご相談が増えています。そのような通信ネットワークが難しい現場での実施事例を教えてください。

国交省:確かに、トンネル内などは通信ネットワークが必ずしも整備されている環境ばかりではありません。その場合、現場内の作業状況を事前にビデオカメラで撮影し、通信環境の整った場所で発注者職員とやりとりすることなどや、一定の距離ごとにWi-Fiスポットを設置するなど、工夫の余地はあると考えます。 編集部:遠隔臨場は原則導入ということで、普及に伴って今後通信ネットワークのニーズが高まりそうです。当社「建設現場向けWi-Fiシステム」の活躍する機会が増えれば嬉しく思います。

石野 祥太郎
石野 祥太郎
建設DXジャーナル初代編集長/古野電気株式会社
無線の技術者として新技術や製品開発に従事、建設DXの社内プロジェクトを推進

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