DXの実現にAIは不可欠!DXとAIの違い・AI活用事例と成功のポイント
(画像=mapo/stock.adobe.com)

IoTの普及により、世界中のデータ量は爆発的に増えています。多くの企業がそのデータを活用してDXに取り組もうとしています。一方、DXを企業や組織に取り入れたいけれど、今ひとつ具体的なイメージが沸かないという方も多いようです。本記事ではDXにおけるAI活用のポイントや具体的な事例を通じて、ビジネスの革新と成果向上を実現するための情報をわかりやすく解説します。

目次

  1. DXとAIの定義、それぞれの関係性
  2. AI(人工知能)で可能となる5つのこととその事例
  3. DX推進のためのAI活用における3つのポイント
  4. DXとAIにより価値観が変化している実例
  5. DX推進のハードルとなる企業内の問題点
  6. まとめ

DXとAIの定義、それぞれの関係性

ここでは、DXとAIの関連について解説します。

DXとは?AIとは?その定義

DXについて、総務省は以下のように定義しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

一方、AIについては「明確な定義はない」としつつ、総務省の教育用資料では以下のように書かれています。

「AI」に関する確立した定義はありませんが、人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラム、あるいは人間が知的と感じる情報(じょうほう)処理(しょり)・技術(ぎじゅつ)といった広い概念で理解されています。

総務省:人工知能(AI:エーアイ)のしくみ AIと機械学習・深層学習の関係

DXとAIの関係性

DX(デジタルトランスフォーメーション)とAI(人工知能)は、両方とも現代のビジネスにおいて重要なテーマです。

DXもAIも前述のように明確な定義は定まっていないものの、ビジネスにおいては

DX:企業がデジタル技術を活用してビジネスのプロセスやモデルを変革すること
AI:DXに活用される、機械学習やディープラーニングなどの技術自体のこと

という捉え方が多くなっているようです。DXは広範なビジネス変革を促進する「戦略」であり、AIはその「実現手段」の一つと考えるとよいかもしれません。目まぐるしく技術や価値観が変革を起こす現代において、組織が進化し競争力を維持するためには、DXとAIを組み合わせてイノベーションを追求し続ける必要があります。

DX推進にAI活用が必要な理由

AIは膨大なデータからパターンや傾向を抽出し、高度な予測や意思決定を行う能力を持っています。AIを活用することで、企業はデータから導き出される予測をもとに意思決定を行い、効率化や顧客体験の向上を実現することができます。具体的には、以下のとおりです。

(1)顧客行動の予測やパーソナライズされたマーケティングが可能
顧客データを分析し、リピーターとなってもらえるような顧客体験を提供するためのアイデアやヒントを得ることができます。

(2)生産性向上が可能
例えば、自動化されたプロセスやロボットによる業務の代替が可能です。ルーチンワークの正確性は人よりも優れているため、生産性向上が期待できます。

(3)新たなビジネスモデルやサービスの創造に寄与
市場のニーズやトレンドをリアルタイムで把握でき、競争力のある製品やサービスを提供することができます。

(4)「2025年の崖」回避のため
「2025年の崖」とはは、経済産業省が2018年に発表した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』の言葉です。DX推進に着手できていない日本企業に今後もたらされるかもしれない不利益を紹介し、話題となりました。ここからも、すでにDXをビジネスに取り入れることは「待ったなし」の状況と言えるのではないでしょうか。

多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション(=DX)の必要性について理解しているが・・・・
・既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化
・経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている
この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)。

(出典)経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~

(参考)総務省:人工知能(AI)とは

AI(人工知能)で可能となる5つのこととその事例

AI(人工知能)は様々なタスクや活動において能力を発揮します。ここではAIが実際にできること、すでに商品などに利用されている能力を5つ紹介します。

(1)自然言語処理(NLP)

AIは自然言語の理解や生成が可能です。音声認識や機械翻訳、テキスト解析など、人間の言語を処理し、意味を理解する能力を持っています。

(2)画像認識

AIは画像データを分析し、物体や特定のパターンを認識することができます。この技術は顔認識や物体検出、画像の分類など、視覚的な情報の解析に使われるほか、文字情報を画像として抽出してテキストデータ化することも可能です。

(3)音声認識

AIの音声認識は、人間の発話をコンピュータが理解し、テキストデータとして変換する技術です。また声そのものの認識もでき、声紋認証などにも応用されています。音声認識を使ったものとしては、スマートスピーカーや音声アシスタント、音声コマンドによる制御システムなどがあります。

(4)予測とパターン認識

AIは大量のデータを解析し、パターンや傾向を見つけ出すことができます。時系列データの予測、需要予測、マーケットトレンドの分析などへの活用が可能です。特に需要予測は、在庫管理や生産ペースの計画立案、発注数の調整などに役立ち、在庫ロスなどにもつなげられます。

(5)機械制御

生産設備の機械やロボットなどを自律的に制御できます。AIはセンサーやカメラなどから情報を収集し、状況を分析し、最適な行動を選択します。機械制御の応用例としては、自動運転車、産業ロボットなどがあります。

AIの能力は、上記以外にもすでに様々な分野で活用されています。その進化は現在も続いており、より高度なタスクや複雑な問題解決に取り組む能力を向上させています。とはいえ、AIにはまだ限界があり、特に人間の「創造性」を完全に置き換えることはできません。

また、あくまでも最終的な意思決定をするのは人間です。AIは人のために役立つ、サポーターのような立ち位置といえるでしょう。

(参考)総務省
情報通信白書/第2節 人工知能(AI)の現状と未来
自治体におけるAI活用・導入ガイドブック

無料eBook

  • 製造業DXの教科書
    図版と事例でわかる|製造業DXの教科書

    世界市場での競争の激化や労働人口の減少などが進む今、日本の製造業においてDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進は不可欠です。 このeBookでは、製造業のDXの全体像について詳しく解説します。 DXに必要な技術を製造プロセスごとに紹介するほか、具体的な活用事例、製造業DXの今後の展望まで幅広く理解できる内容になっています。


DX推進のためのAI活用における3つのポイント

DXの推進やAIの導入を考えたとき、思いがけないことがハードルとなることがあります。ここではDX推進においておさえておきたい、AI活用のポイントについて解説します。

データの収集と管理を行う

AIは大量のデータを必要とします。DX推進のためには、データの収集と適切な管理が不可欠です。信頼性の高いデータの収集方法を確立し、量だけでなくデータの品質を向上させることも重要です。

当然ながら、データを管理するためのサーバー確保など、バックグラウンドの整備にコストがかかることも念頭におく必要があります。

DXを活用できる人材の採用と育成

AIを活用したDXには、専門知識やスキルを持った人材が必要です。AIに関する知見やスキルを持った人材の採用や育成を行い、AI技術を最大限に活かすことが重要です。

なおデジタルスキルがある人材の確保は必須ですが、すべてを社内の人材で行う必要はありません。外部の専門家の知見なども利用していくことで、より早く社内変革が進む可能性が高くなります。

長期的な視野で定着を図る|トライ&エラーを許容する風土づくり

AIの活用は短期的な目標にとどまらず、長期的なビジョンに基づいて取り組む必要があります。また、AI技術の導入や活用はトライ&エラーのプロセスを必要とします。これは、アジャイル型開発とウォーターフォール型開発の対比を考えるとわかりやすいかもしれません。導入して失敗したら終了、ではなく、何度も試行錯誤を繰り返して定着を図ります。そのためには、失敗を受け入れて前進できる組織へと、風土を変革することが重要です。

DXとAIにより価値観が変化している実例

ここではより具体的に、現在の私たちの生活にかかわっているAIを応用したサービスや商品についてわかりやすく紹介します。

AIの開発により「予測」の仕方が変わってきている

現在、私たちが送る日常生活やビジネスには「データ」が欠かせません。あらゆる事象は「データを基に将来を予測」されているからです。

かつてこの予測は人間が考え、手計算や感覚で結論を導き出していました。次の時代にはデータをコンピューターに打ち込み、計算させることで予測スピードを上げていきました。AとBという条件が重なった場合にはCという結果になった、などの過去実績データをコンピューターに入力しておき、同じ条件に当てはまるものがあった場合に、「おそらく今回も以前同様Cという結果になるだろう」ということを予測していたのです。

ほんの10年ほど前まではこのスタイルでしたが、AI(人工知能)が開発されたことにより、予測スピードと精度が以前とは比べ物にならないほど上がっています。それに伴い、私たちの生活の利便性も高まっています。例えば、天気予報の精度も格段に上がっており、誰でもスマホアプリで簡単に「何時に雨がやむか」などがわかるようになっているのです。

レントゲンの診断もAIが行う!?

DXと聞くと身構えてしまう方も多いかもしれませんが、私たちの身近なところでも、AIを活用してDXを実現しているものは増えています。

例えば、これまで医療の現場ではレントゲンの画像診断を医師が目視で行っていました。たった1枚のレントゲン画像を見て「肺の部分に少し白い影が見えるから肺炎になりかけているかもしれない」などの所見を医師の経験値から導き出していたのです。

しかし今はレントゲン、内視鏡、超音波画像診断装置などの医療機器をすべてITツールでつなぎ、画像データを統合処理することで、その予測精度を高められるようになりました。これまでレントゲン画像による診断は経験値の低い研修医には任せられませんでしたが、AIが開発されたことにより、経験を積んでいない研修医でも的確な予測や所見を出すことができるようになったのです。

さらに、画像認識技術を高め、「事実としてのデータ」と「事実としての結果」を数多くAIに深層学習(ディープラーニング)させることにより、「患者の年齢、性別、既往症、この右肺の横にある白い影とこの脈拍、心拍数が重なると、2週間以内にこのような症状が出てくる可能性が高いだろう」などの予測を、医師ではなくAIが導き出すことも可能となっています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とAIは切り離せない

配車サービスのUberを使ったことがありますか?Uberは、私たちのタクシーの使い方を激変させました。ほんの少し前まで、街中でタクシーに乗りたいと思ったら、流しのタクシーを目視で見つけなければなりませんでした。タクシーを見つけたら空車ランプを確認し手を挙げて止めて乗り込み、目的地に着いたら精算してタクシーを降りる、という手間のかかる流れが一般的だったのです。急いでいるからタクシーに乗ったのに渋滞にはまり、時間が予想以上にかかったり、比例してお金も想定以上に多く支払う羽目になったり、と苦い経験をしたことのある方も多いでしょう。

Uberの場合は、スマホアプリに自分がいる場所と目的地を登録するだけでUberタクシーが自分のいる場所まで来てくれます。料金も事前確定料金に同意しておけば、アプリで自動決済され、現金で支払わなくて済むため、とてもスムーズです。このサービスはこれまでに世界中で9,000万人以上が利用しています。

Uber運営側の視点で見てみましょう。Uberは、より良いサービスをお客様に提供するために「需要予測」「配車最適化」「ダイナミックプライシング」などにAIを活用し、日々改善を重ねています。需要予測は、BNN(Bayesian Neural Network:ベイジアンニューラルネットワーク)という不確実性推定と時系列予測を行えるフレームワークを採用しています。BNNの導入により、突発的な気候変動やイレギュラーなイベント開催などがあった場合でも、しっかりと需要の予測ができるようになっています。

配車最適化については、ユーザーが配車をリクエストしてから到着までの待ち時間を全体で最適・最短になるように設定しています。複数配車リクエストがあった際に、単純にユーザーに一番近い車を向かわせるのではなく、その他のリクエストが発生した場所と、現在配車可能な車両の位置を計算し、どこにどの車を向かわせるのが最も「全体として」ユーザーを待たせる分数が少なくて済むか、ということをAIが自動計算しているのです。

配車リクエストが同時に2台程度なら人間の感覚で判断できるかもしれませんが、同時に10台の配車リクエストが入った場合などは、AIで処理しなければ対応は非常に難しいことがおわかりいただけるのではないでしょうか。

また「ダイナミックプライシング」の活用による需要予測と金額の設定もAIが行っています。例えば

飛行機やホテルなどは、ハイシーズンは値段が高く、ローシーズンは安くなります。これは需要と供給に紐づいています。

Uberは需要をエリアや時刻ごとにデータから予測し、金額をフレキシブルに変更しています。例えば金曜日の20時以降の繁華街では乗車価格を高くするなどです。利用料金の計算もAIが行い、リクエストが入った際に見込み客のアプリに「目的地〇〇までは料金が〇円」などの金額提示を瞬時に行っているのです。

ここでお伝えした事例はAIによるイノベーション事例のほんの一面です。Uberのように私たちユーザーが「便利でいいな」と感じて使っているサービスの多くには、すでにAIが活用されており、切り離せないものになっています。

DX推進のハードルとなる企業内の問題点

DXを企業や組織に取り入れたいと考え、実際に導入に向けて動いたものの、思わぬ問題やハードルがあることに気づくかもしれません。ここではDX推進における、主に人間側の問題について解説します。

問題点①経営層のDXに対する認識不足

経営層がDXの重要性や潜在する価値について理解していない場合、DX推進の戦略的な計画や資源配分が不十分になります。経営層のリーダーシップと関与はDXの成功に不可欠です。

問題点②社員のDXに対する認識不足

社員のDXに対する理解やスキルが不足していると、推進が妨げられることがあります。DXに対する教育・トレーニングの不足、また会社の風土に根ざすITへの抵抗感などが要因となります。

問題点③上記をふまえたDXの定着しづらさ

経営層と社員の両方の認識不足によって、DXの定着が困難になることがあります。組織全体での意識の変革や文化の転換が求められます。また、既存のプロセスやシステムとの整合性やリソースの確保など、DXの推進には様々な課題が存在します。

これらの問題点を克服するためには、DX推進のための明確なビジョンや戦略を策定し、組織全体での意識の変革と情報共有、DXを取り入れやすい風土の育成が必要です。

まとめ

この記事では、DXとAIの可能性、今後の企業や組織を発展させるためにDXやAIの活用は不可欠であることを解説しました。

DXを実現したいと考えている方は、まずは身近なところでAIを活用したり、良いサービスを提供している企業の事例を収集したりするところから始められてもよいかもしれません。

【こんな記事も読まれています】
【会員限定動画】サプライウェブで実現するマスカスタマイゼーション時代の企業戦略
製造業における購買・調達業務とは?課題の解決方法も紹介
ビジネスや技術のトレンドに反応しながら進化を続けるCRMの事例を紹介