企業がDXを推進するには、高度なスキルを備えたDX人材が欠かせません。しかし、DX人材は多くの業界で求められており、すでに獲得競争の激しい状態が続いています。中小企業がDX人材を獲得するには、採用活動を全体的に見直すことが必要です。
目次
DX人材とは?採用市場の動向
DX人材とは、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を中心的に推し進める人材です。専門的なデータやデジタル技術を活用するDXでは、システムやツールを構築・使用する高度な人材が欠かせません。
<そもそもDXとは?>
(引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」)
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
2010年の国勢調査によると、DX人材の中心であるIT人材は2019年をピークに減少し、2030年には41万人~79万人の人材不足になると予測されています。
DXの波が広がるにつれて、人材不足はさらに深刻化すると考えられます。獲得競争に乗り遅れると手遅れになる可能性があるため、いち早く人材計画を見直すことが重要です。
採用活動で意識したいDX人材像
企業によってDXの施策は異なるため、採用活動では確保したい人材像を明確にすることが重要です。ここからは「職種」と「スキル」に分けて、どのようなDX人材に目を向ければ良いのか見ていきましょう。
DX人材の代表的な6つの職種
独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)は、2019年5月17日に公表した「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」において、代表的なDX人材を以下のように定義しています。
DX人材の職種 | 役割 |
---|---|
プロデューサー | デジタル部門の最高責任者(CDO)など、DXを主導するリーダー格。 |
ビジネスデザイナー | DXに関する企画を立案し、中心的に推進する人材。 |
アーキテクト | DXに活用するシステムやツールを設計する人材。 |
データサイエンティスト/AIエンジニア | AIやIoTなどのデジタル技術や、データ解析に精通した人材。 |
UXデザイナー | ユーザー向けのシステムデザインを担当する人材。 |
エンジニア/プログラマ | システムやインフラの構築を担当する人材(※上記の職種は含まない)。 |
例えば、事務作業を自動化するシステムを社内だけで構築する場合は、少なくともプロデューザーやビジネスデザイナー、アーキテクト、エンジニアが必要です。それぞれ求められる知識やスキルが異なるため、一人で全ての役割を担うことは難しいでしょう。
デジタル技術を使うビジネスパーソンに求められるスキル
DX推進では専門的な人材の他、システムやツールを扱う使用者側のスキルも求められます。専門職や使用者側のスキルについては、経済産業省の「デジタルスキル標準」でまとめられています。
<デジタルスキル標準とは>
経済産業省と情報処理推進機構によって2022年12月に公表された、DX人材に関する資料。全てのビジネスパーソンや、DXを推進する人材に求められるスキルが、2つの標準に分けて定義されている。
DXリテラシー標準:ビジネスパーソンの学習項目や指針をまとめたもの。
DX推進スキル標準:必要な職種ごとに、役割やスキルを定義したもの。
(参考:経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.0」)
例として、以下ではDXリテラシー標準に記載されている4つの学習項目を紹介します。
学習項目 | 具体例 |
---|---|
DXの背景 | ・社会の変化 ・顧客価値の変化 ・競争環境の変化 |
DXで活用されるデータ・技術 | ・社会におけるデータ ・データの読み方や扱い方 ・データによる判断の仕方 ・AIやクラウドなどのデジタル技術 |
データ・技術の利活用 | ・データやデジタル技術の活用事例 ・ツールの利用方法 ・セキュリティやモラルなどの留意点 |
マインド・スタンス | ・顧客やユーザーへの共感 ・常識にとらわれない発想の仕方 ・変化への適応方法 ・柔軟な意思決定方法 |
デジタルスキル標準は、教育コンテンツも含めて定期的な見直しや拡充が予定されています。DX推進を予定している企業は、こまめに確認しながら計画立案や軌道修正に活用しましょう。
DX人材を採用・確保する3つの方法
DX人材はすでに獲得競争が激しいため、新卒採用だけで確保できるとは限りません。特に採用コストが限られている企業は、さまざまな施策を考える必要があります。
具体的にどのような施策があるのか、DX人材を採用・確保する3つの方法を見ていきましょう。
「新卒採用」では上層部や採用担当者の知識が求められる
新卒採用の人材は若いため、将来的にはプロデューサーとして成長したり、組織活性化につながったりする利点があります。長期的にはメリットの大きい方法ですが、DX部門で即戦力の新卒者を獲得することは難しいでしょう。
また、十分な採用コストを確保できたとしても、国内では「学生から応募がこない」といったケースが珍しくありません。新卒採用には大企業も積極的であるため、熾烈な獲得競争を勝ち抜く必要があります。
ターゲットに有効なアプローチをし、DX推進を任せられる人材まで育て上げるには、最初に「どういう人材を採用すべきか」や「どういう方針で教育するか」を明確にすることが重要です。つまり、上層部や採用担当者にも知識が求められるので、まずは前述のデジタルガバナンス・コードやデジタルスキル標準を活用しましょう。
「中途採用・キャリア採用」は採用コストがハードルに
中途採用やキャリア採用は、即戦力となる人材をスピーディーに獲得できる方法です。スキル次第ではすぐに中心的な役割を担えるため、教育コストを節約できる可能性もあります。
しかし、事業環境の変化が早い現代では、多くの企業が即戦力となる人材を求めています。新卒採用と同じく、激しい獲得競争にさらされる方法なので、採用コストが増えることは覚悟しなければなりません。
「人材育成」ではOJTによるスキル習得が必要
既存の社員を育成する方法は、採用コストを確保できない企業や、人材獲得の競争力が低い企業でも実践できます。政府によるガイドラインやセミナーなど、近年では育成環境を整えるためのツールも充実してきました。
ただし、座学だけで習得できるスキルは限られており、DXに関する企画力や課題発見力、実行力などを向上させるには実践的な学習が必要です。つまり、OJT(On the Job Training)を実施することになるため、教える側(上層部や上司など)にも高いリテラシーが求められます。
DX人材は育成・採用とアウトソーシングのバランスが重要
すでにIT人材が不足している現状を見ると、採用や内部教育だけでDX人材を確保するには限界があります。コストやリソースを節約する必要もあるので、アウトソーシング(外注
)は積極的に活用したいところでしょう。
アウトソーシングの活用では、事前に「外部のITチームをどのように使うか」を明確にすることが重要です。不足しがちなAI人材はアウトソーシング、それ以外の人材は社内で育成するなど、内部・外部の役割をきちんと決めて管理しなければなりません。どちらか一方に偏ると、育成環境を整える手間や外注コストが負担になるため、社内の状況からほど良いバランスを見極めましょう。
また、アウトソーシングでは情報漏えいなどのセキュリティリスクにも注意が必要です。仮に委託先から顧客データが流出したとしても、自社が社会的な責任を逃れることはできません。
いずれにしても、DX推進の全プロセスを外注することは難しいため、アウトソーシングの範囲は慎重に検討してください。
DX人材の採用確率を高めるポイント
新卒採用や中途採用でDX人材を確保したい場合は、どのようなアプローチをすれば良いのでしょうか。DX人材の採用確率を高めるには、さまざまな角度から施策に取り組む必要があります。
1.応募を待つのではなく、企業側からアプローチをする
世の中には膨大な求人情報があるため、待遇面を整えても応募者が増えるとは限りません。特にブランド力がない企業は、採用市場で不利な立場になりやすいため、自らアプローチをする姿勢が求められます。
<企業側からアプローチをする方法>
・ヘッドハンティングサービスを利用する
・SNSで自社の魅力や特徴をアピールする
・DX人材が集まるイベントに参加する
ヘッドハンティングサービスとは、企業の求人依頼に応じてヘッドハンター(人材紹介会社)が人材を探し、転職希望者をスカウトするサービスです。求職者に直接アプローチができるため、採用のミスマッチが起こりづらくなります。
また、近年ではSNSの活用例も増えており、社員やオフィスを紹介する企業が多く見られます。SNSには写真や動画もアップできるため、従来の採用活動とは違う角度で自社をアピールできるでしょう。
2.リファラル採用を導入する
リファラル採用とは、従業員の家族や友人、知人などを紹介してもらう手法です。血縁者を採用する「縁故採用」に似ていますが、リファラル採用はあくまで採用の間口を広げる施策であり、求職者のスキルや適正によっては不採用になることもあります。
リファラル採用で理想の人材が見つかれば、求人情報誌や求人サイトへの掲載料や、面接試験などの労力を削減できます。ミスマッチも防ぎやすい方法ですが、その一方で以下のようなデメリットも存在しています。
リファラル採用のメリット | リファラル採用のデメリット |
---|---|
・採用コストや労力を削減できる ・ミスマッチを防ぎやすい ・離職リスクが低い人材を採用できる | ・内定承諾までに時間がかかる ・従業員が協力してくれるとは限らない ・理想の人材が見つからないこともある |
リファラル採用で紹介される人材は、自社の業務を理解した従業員が選んでいるため、優れたスキルを備えていることがあります。つまり、多くの企業から求められる人材なので、すぐに内定を承諾してもらえるとは限りません。
また、理想の人材を紹介してもらうには、従業員との協力体制が必要不可欠です。会社側の考えをしっかりと伝えて、紹介した従業員を評価することも忘れないようにしましょう。
3.退職者や転職者にも声をかける
候補の人材が見つからない場合は、退職者や転職者へのアプローチも一つの手段です。自社を辞めた人材へのアプローチは「アルムナイ採用」と呼ばれており、すでに制度化している国内企業も見られます。
アルムナイ採用では、自社への理解がある人材に絞ってアプローチをかけられます。即戦力になるのはもちろん、採用コストや労力の削減にもつながるため、効率的な採用手法といえるでしょう。
ただし、人事制度の再考や調整が必要になるなど、注意したいデメリットもあります。
アルムナイ採用のメリット | アルムナイ採用のデメリット |
---|---|
・即戦力の人材を確保できる ・企業文化や理念を説明する必要がない ・採用コストや労力を削減できる ・退職者を迎え入れることがイメージアップにつながる | ・人事制度の見直しが必要になる ・運用コストと採用人数が見合わないこともある ・現従業員の離職リスクが高まる |
特に注意したいのは、「退職してもすぐに再雇用してもらえる」といったイメージが広がることで、現従業員の離職リスクが高まる点です。例えば、これから子どもが産まれる従業員や、数年規模の長期休暇を希望している従業員が、制度に安心して退職するかもしれません。
このような事態を招かないように、アルムナイ採用では人事制度を慎重に調整する必要があります。
DX人材の採用希望者が増えない理由は?よくある4つの課題
上記のポイントを押さえても、DX人材が集まらないケースは珍しくありません。このような企業は原因を特定し、採用活動の方向性を修正する必要があります。
どのような原因が考えられるのか、企業が陥りがちな採用課題を見ていきましょう。
1.競合他社に比べて働きにくい
政府が働き方改革を推進している影響で、近年ではワークライフバランス(※)の実現に力を入れる企業が増えてきました。特に以下のような就業制度は、働きやすい環境を整える施策として多く見受けられます。
(※)仕事と私生活のバランスが取れた状態のこと。
<働きやすい環境を整える就業制度の例>
・テレワーク制度(在宅勤務やリモートワーク)
・フレックス制度
・私服勤務制度
・副業制度
・独自の育休制度
いきなり就業制度を変えることは難しいかもしれませんが、周りに働きやすい競合他社があると、優秀なDX人材は流れてしまいます。全社的な制度導入が困難な場合は、DX推進部門にだけ導入することも検討しましょう。
2.自社の魅力が伝わっていない
求職者は膨大な求人情報のうち、興味のあるものにしか応募しません。待遇面はもちろんですが、多くの求職者は業務内容やプロジェクトも確認するため、求人情報には具体的なビジョンまで掲載する必要があります。
また、「DX推進のシステム設計を任せたい」といった抽象的な内容では、選考基準も曖昧になりがちです。自社の魅力を伝えつつ、どのような人材を求めているのかが分かるように、求人情報には具体的な内容を掲載しましょう。
3.選考期間が長すぎる
企業の採用活動と聞いて、「数時間の筆記試験」や「2~3回の面接試験」をイメージする人は多いでしょう。以前は珍しくありませんでしたが、獲得競争が激しいDX人材については、スピーディーな採用を意識することが重要です。
一般的な求職者は複数の企業に応募しており、最初に内定をもらった企業に入社するケースは少なくありません。そのため、あまりにも選考期間が長いと、待遇が良くても候補から外れてしまう恐れがあります。
特に即戦力となる人材は需要が高いため、応募から2週間程度で採用することを目指しましょう。
4.DX人材を評価する仕組みがない
DX人材を正当に評価するには、デジタル技術やITスキルを待遇面に反映する仕組みが必要です。一般の従業員と同じ評価システムでは、DX人材が不平等さを感じたり、競合他社の待遇面に負けたりする恐れがあります。
応募者を少しでも増やしたい企業は、思い切って独自の賃金体系を設けましょう。基本給や手当を増やすことが難しい場合は、副業やダブルワークを認める方法も選択肢になります。
DX人材の採用市場は今後も激化する
国内のDX人材はすでに不足しており、人材獲得競争は今後も激しくなることが予想されます。あらゆる業界や大企業が競合となるため、中小企業の採用活動には工夫が求められます。
リファラル採用やアルムナイ採用をはじめ、新たな制度を導入している企業も少なくありません。この変化についていかないと競争力を失うため、コストや労力をかけてでも方針や制度の見直しを進めましょう。
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