工作機械のIoT化の事例とは?導入までのステップも解説
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IoTは現在さまざまな場所で活用されています。製造業においてもIoT化が進んでおり、ものづくりを支える工作機械でも例外ではありません。工作機械のIoT化の事例と導入する流れ、そして古い工作機械をネットワークでつなぐレトロフィットIoTの事例を紹介します。

工作機械のIoT化とは

経済産業省と厚生労働省、文部科学省が出しているIoTは現在さまざまな場所で活用されています。製造業においてもIoT化が進んでおり、ものづくりを支える工作機械でも例外ではありません。工作機械のIoT化の事例と導入する流れ、そして古い工作機械をネットワークでつなぐレトロフィットIoTの事例を紹介します。『2022年版ものづくり白書(令和3年度ものづくり基盤技術の振興施策)概要』によると、日本の製造業はアメリカやEUと比較して、人件費や電力などインフラのコストが高いなどの理由から、競争で不利な立場にあるのが現状です。さらに、製造業に就業する人数は2002~2021年の約20年間で157万人減少し、人材不足や後継者不足といった課題にも直面しています。

そういった課題を解決するために注目されているのが、設備にIoT機能を搭載する工作機械です。IoT工作機械には無線通信やセンサがついており、取り付けられた機器の状態などのデータを取得、ネットワークを介して伝送されます。工作機械をIoT化するとできることを見ていきましょう。

工作機械のIoT化で工場が見える化できる

IoTとはInternet of Thingsの略で、ものをネットワークでつないで情報交換できるようにする仕組みのことです。これを工作機械に搭載すれば、自動的にデータを収集・蓄積でき、工場を見える化できます。質の高い製品を作ったり生産性を高めたりするためには、さまざまな監視や記録が必要です。

工作機械のIoT化により、現在の工作機械の状態がデータとして自動的に記録され、稼働状況や異常、加工不良がすぐに確認できるようになります。これまで手動だった記録・監視の工程も不要になり、作業効率も高まるでしょう。また、これまで以上に詳細なデータがとれるため、さらなる効率化に向けた分析に役立てることもできます。

スマート工場を実現できる

スマート工場は、ネットワークを介し離れた場所にある工場と製造ライン、工作機械をつなぎ、効率的に生産する体制が整った工場を指します。IoT化によって機械がつながるだけではなく、製造現場にあるムダやムラを把握し改善点を分析するなど、そこから得られたデータを活用するのがスマート工場の特徴です。工作機械の稼働を効率的に管理して、最低限の人的リソースで生産性を高めます。

また、これまで熟練技術者にしかできなかった工程をデータとして収集し、それをもとに作業をマニュアル化することもできるでしょう。技術者の教育に活用すれば、技能継承もスムーズです。日本の高い技術力を継承していくことにもつながります。

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工作機械をIoT化した事例

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実際の工作機械の現場でIoT化した事例を見ていきましょう。

事例1.主軸軸受の故障診断

オークマ株式会社は、IoTを活用してすべての加工部品がいつ・どのような状態なのかを正確に把握し、作業指示を時間・分単位で行える「生産の見える化」を実現しました。高効率生産の実証モデルとして立ち上げています。そんなオークマ株式会社の経験とノウハウをもとに開発したのが、主軸軸受の故障診断です。

主軸は工作機械にとって重要な部品のため、異常に気づかず使い続けると機械が破損してしまう可能性もあります。主軸や送り軸にセンサを取り付けることで、機械の状態が診断可能になりました。主軸が破損する前にボールネジや軸受の傷・摩擦といった異常を検出できるため、工場の停止や工数の削減につながります。

事例2.加工工程の管理

ヤマザキマザック株式会社は、日本国内とアメリカにある自社工場をスマート工場にし、稼働させています。これまでは部品加工から組み立てを各工場で実施していましたが、工場間をまたいで組み立てを行うことになりました。その際に使用したのが、無線通信できるRFIDタグです。

RFIDタグによりすべてのモノの位置や数などを見える化し、加工工程ごとに読み取ることで、離れた場所でも管理がしやすくなります。国内外すべての工場をIoT化し、全体の稼働状況を把握、流れをスムーズにすることに成功しました。

事例3.機械部品の予兆検知

工作機械はさまざまな部品から構成されているため、各部品の故障はラインストップにつながることもあります。それを解消するのが、THK株式会社が提供している、工作機械の部品の故障の前触れを感知するサービス「OMNI edge」です。現状の部品にセンサを取り付けるだけで状態のチェックが可能になります。

部品が通常と異なる状態になるとメールでお知らせが届くようになっており、故障する前にメンテナンスができるのです。工作機械以外にも、LMガイドやボールネジ、ロボット搬送台などへの設置もでき、予兆検知に役立ちます。

工作機械のIoT化によるメリットは?

工作機械をIoT化することにより、さまざまなメリットが考えられます。

生産管理が自動化できる

工作機械のIoT化により、生産管理の工程が自動化できるというメリットがあります。製造業の生産管理はデータの収集や入力を手作業で行うケースが多く、時間がかかってしまうのが課題でした。工作機械をIoT化すれば、生産管理に関連するデータをリアルタイムで自動的に収集できます。

離れた場所にいてもパソコンやスマホで今の状況が把握できるため、どこからでも生産管理が可能です。複数の場所にある工作機械を同時監視したり、24時間監視したりとといったこともでき、人的リソースを効率化できます。

さらに、リアルタイムで収集した生産管理のデータを分析し、工程の無駄を省いたり生産計画を立てたりと幅広く活用できるでしょう。

異常をすぐに検知できリアルタイムで対応できる

IoT化することで、人間ではすぐに気づけないような工作機械の異常をすぐに検知できるメリットもあります。異常を検知したタイミングですぐに機械の稼働を停止したり、ほかの機械を稼働させたりと、迅速な対応が可能になるのです。工作機械の異常により生産がストップするリスクの回避につながります。

IoTを活用すれば設備トラブルを回避できるケースもあり、人材不足に悩む企業にとってはメリットが大きいでしょう。

予知保全に活用できる

また、予知保全できるというメリットもあります。工作機械の故障は、業務の遅延や不良の発生など、大きな損失の原因になります。IoTを搭載し些細な変化も通達する仕組みにしておけば、大きな故障に至る可能性を未然に予測できるかもしれません。

故障に至る前に部品の交換やメンテナンスをする、万が一トラブルが起こってもすぐに対処するなど、損失が出る前に対応できます。会社にとって大きな痛手となる生産停止が回避できるというメリットは大きいでしょう。損失を未然に対処できるため、結果的にコストの削減にもつながります。

技術やノウハウを数値化できる

工作機械を操縦するには熟練技術者のスキルやコツなど、言語化しにくいノウハウも多くあります。それが伝承を阻害する要因のひとつです。IoTを搭載し熟練技術者の動作を詳細に解析することで、ノウハウを数値化できるメリットがあります。

工作機械業界でIoTが推進される理由のひとつは、少子高齢化による人材不足です。ノウハウの見える化により技術を継承しやすくなり、人材育成にもつながるでしょう。技術やノウハウをロボットに反映すれば自動化も可能になり、人材不足を解消することもできます。

工作機械をIoT化するためのステップ

工作機械をIoT化するときは、以下の3つのステップに沿って進めていきます。

工作機械をIoT化するステップ

順を追って確認していきましょう。

Step1.データ分析

IoT化によりできることには、以下のようなことが挙げられます。

  • 工作機械を上手く活用する
  • 作業者の動きをスムーズにする
  • 工場全体の流れをスムーズにする
  • 不具合などを予測する

まずは、工作機械をIoT化する目的を明確にしたうえで、稼働状況や生産工程をどのように見える化していくかを検討しなければなりません。どんなデータを収集してどう活用するか、データ戦略を考える必要があります。

データ収集には、担当者に聞き取りをする、工作機械にセンサを取り付けモニタリングする、IoT機器や生産管理システムを活用するといった方法が挙げられます。稼働状況や設備状態をデータで収集し、ボトルネックとなる作業や工程を洗い出して改善策を検討しましょう。また、現在使用している工作機械や周辺設備にIoTが導入できるか調べる必要もあります。

Step2.機械・システムを制御する仕組みの構築

IoTによりどんな生産体制にしたいかが定まれば、次に仕組みの構築です。分析結果を踏まえて、どんなシステム制御が必要か検討していきましょう。

工作機械の種類により対応方法は異なります。それぞれの工作機械の課題を解決する方法を割り出し、分析した結果を実際の製造ラインに反映して設備を制御します。理想の状態を実現できるよう、調整しながら仕組みを構築していきます。

Step3.機械・システムの自動化

IoT化の最終目的は、工作機械やシステムを自動化することです。自動化できる箇所にロボットを導入し、人を必要な場所に配置することで、業務の効率化が可能となります。業務はもちろん管理も自動化できれば、人の作業を最小限に抑えられるでしょう。

なお、IoT化を実現するには時間がかかり、短期間で導入するのは難しいという面もあります。「IoT化を検討しているけれど何から始めたらいいのか分からない」といった場合は、管理システムを提供する会社に相談することから始めましょう。工作機械のIoT化を手掛けた実績がある会社であれば、具体的な相談にも対応できるはずです。

工作機械のIoT導入における課題は?

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実現できればメリットの多い工作機械のIoT化ですが、導入には課題もあります。

コストがかかる

工作機械をIoTに対応させるには、通信機器やセンサの費用、通信料など、さまざまなコストがかかります。工場の規模にもよりますが、大きなコストが必要となるでしょう。

さらに、初期費用だけではなくランニングコストもかかるため、得られるメリットとコストを比較して導入を検討する必要があります。潤沢な資金が少ない中小企業には、ハードルが高い課題でしょう。

ただし、スマート工場にすることで人材を最適化できたり部品数を減らしたりと、トータルコストが削減できる可能性もあります。導入補助金の申請ができる自治体もあるので確認しましょう。例えば東京都江戸川区では「デジタル技術活用促進助成事業」として、200万円を上限に助成金が出ます。助成金を活用すればIoTを導入しやすくなるでしょう。

社内にICT人材が不足している

IoT を導入すれば工作機械や工場のデータをそのまま上手く活用できるかというと、必ずしもそうではありません。IoTを導入する前段階として、事業ビジョンを明確にしたうえで、達成するためにどんなデータを収集・分析するか、そしてどう運営に活用するかといったデータ戦略が必要です。そのため、情報通信技術に精通し、なおかつ製造業にも詳しい人材が必要になります。

しかし、さまざまな分野で人材が不足している現在、ICT分野に精通した人材も不足しているのが現状です。IoT化に向けた人材をどう採用・育成するのかは、重要な課題のひとつでしょう。社内でICT人材を育成しつつ、不足している部分はアウトソーシングを活用するのもいいかもしれません。

セキュリティを強化する必要がある

IoTを搭載すると、インターネットなどの外部のネットワークと接続することになります。工作機械に搭載したIoTから収集されるデータは、企業にとっての重大な機密情報です。ウイルス感染や不正アクセスなどによるデータ漏洩から会社を守るためのセキュリティ対策は欠かせません。

社内の重要なデータを守るための強固なセキュリティはもちろん、繰り返しアップデートする必要もあるでしょう。自社ですべて対応するのが難しい場合は、IoT専門のセキュリティを外部委託したり、最新のセキュリティ機器を導入したりといった対策も検討しましょう。

レトロフィットIoTに注目が集まる

工作機械をIoT化する際の大きな障壁となるのは、旧式の工作機械の存在です。工作機械は長年使用されているものも多く、古いものだとネットワークにつなぐことが困難なものも多々あります。

しかし、まだ使用できる工作機械をIoT化のために入れ替えるのは現実的ではありません。「使い慣れた機械を使い続けたい」といった現場の声も多いでしょう。

そこで注目されている技術が、レトロフィットIoTです。レトロフィットとは、既存の設備に新しい機能を追加し、性能をアップさせることを指します。レトロフィットIoTでは、工作機械そのものを変えるのではなく、周辺設備を上手く活用してネットワークに接続し、IoT化を叶えます。どのようにIoT化するのか、レトロフィットIoTの事例を見ていきましょう。

設備に付属する信号を使う

工場で使用される工作機械には、稼働状況を色で表す信号灯がついているものが多いです。稼働中は緑、異常が起きたときは赤といったように、点灯するランプの色で状況が把握できます。この信号灯をIoTに活用するのもひとつの方法です。

信号灯に光センサを搭載することで、工作機械の稼働状況が分かります。工作機械そのものをネットワークにつなげる必要がないため、古い設備でもIoT化が可能となります。

カメラや動画を活用する

工作機械のコントロールに必要なパラメータを、カメラで読み取る方法もあります。パラメータをアナログメータや電光掲示板で表示するシステムを使っている場合、設置したカメラの画像で読み取りデータに変換。定期的にカメラで撮影できるようにしておくことで、別の場所にいてもパラメータを確認できます。

稼働状況や部品の残量などを動画でリアルタイム中継し、状況を把握する方法もあるでしょう。状況把握のためにセンサを取り付け、カメラから送られてくるデータをネットワーク上にアップロードします。現場にいなくても状況をチェックでき、効率も高まるでしょう。

ただし、レトロフィットIoTは根本的なIoT化とは似て非なるものです。一時的な方法として取り入れることは効果的ですが、恒久的な対策であればIoT化を検討するのがおすすめです。

工作機械のIoTを導入して生産性をアップ

市場競争が激しい近年の工作機械業界において、IoT化は競合企業に差をつける要因になり得るでしょう。工作機械のIoT化により、異常をすばやく感知したり作業効率が向上したりと、メリットもたくさんあります。工作機械のIoT化が推進される背景のひとつに少子高齢化による人材不足がありますが、人的リソースの削減やノウハウの継承など、人材不足の解消にも役立つでしょう。IoT化にはコスト面やセキュリティ面などいくつか課題もありますが、まずはレトロフィットIoTを活用して試してみるのもひとつの方法です。得られるメリットとコストの両方を考えつつ、工作機械のIoTを検討してみてはいかがでしょうか。

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