データマネジメント組織設計の5ステップとは

本記事は、データ総研の小川康二氏と伊藤 洋一の共著『 DXを成功に導くデータマネジメント データ資産価値向上と問題解決のための実務プロセス75』=株式会社翔泳社、2021年12月20日発行の中から一部を抜粋・編集しています。

—------

目次

  1. データマネジメント組織設計の5ステップ
  2. 5つの成果物
  3. 表4.2.1 ミッション・ゴール一覧(サンプル)

データマネジメント組織設計の5ステップ

データマネジメント組織設計には、次の5つのステップがあります。

ステップ1:プリンシプル策定

DMBOK2の11の各知識領域の章のはじめにある「ビジネス上の意義」の記載内容をもとに、自社のデータマネジメント施策を考える上での拠り所となる考え方を抽出し、プリンシプル(=原則)とします。

ステップ2:ポリシー策定

データマネジメント施策一覧の施策内容をDMBOK2の11の知識領域ごとに要約し、対外向けに発信する言葉に置き換えます。

ステップ3:ゴール・ミッション策定

データマネジメント施策内容をゴール表現(〜している)にして、KPIはそのまま数値目標として使います。

また、データマネジメント施策を選択した理由を、ミッションとします。

ステップ4:体制・役割策定

EDM・PDCAが回せるようにデータガバナンス委員会とデータマネジメント組織を分けて設置し、役割を定義します。

ステップ5:プロセス策定

EDM・PDCAとゴール・ミッションに基づいて、自社のデータガバナンス機能とデータマネジメント機能を定義します。

また、データ開発プロセスを既存のシステム開発の標準プロセスに組み込みます。

5つの成果物

データマネジメント組織設計を行うと、次に挙げる5つの成果物ができます。詳しく見ていきましょう。

その1:プリンシプル一覧

DMBOK2の11の知識領域のビジネス上の意義から自社のこれからのデータマネジメント活動に関係しそうな内容を選別して、プリンシプル一覧を作成します。

プリンシプルの数は10個程度になるように調整しましょう。

Point! 成果物で伝えたいこと

ポリシー・ミッション・ゴールやガイドライン・ルールを策定するにあたっての拠り所になるように「データのあるべき姿」を伝えます。

<サンプル:DMBOK2のビジネス上の意義より筆者らが原則を策定>
原則1:データは業務とシステムの橋渡しである(データアーキテクチャ)
原則2:データは重複させない(データモデリング)
原則3:事業を停止させないようにデータの運用を決める(データストレージ)
原則4:データにはセキュリティが不可欠である(データセキュリティ)
原則5:全体最適でデータの移動を設計する(データインテグレーション)
原則6:非定型データも管理する(ドキュメント&コンテンツ)
原則7:データには共通の語彙がある(マスタデータ)
原則8:データには簡便にアクセスできる(データウェアハウジング)
原則9:データには定義がある(メタデータ)
原則10:データは劣化するため、品質管理を必要とする(データクオリティ)
原則11:データは貴重な資産であり管理者を必要とする(ガバナンス)

これ以外にも、筆者らの経験上、次のような原則もあります。

原則12:データは企業全体でシェアされる
原則13:データ品質が利用目的に合っている
原則14:データが信頼できる
原則15:データマネジメントは、皆の務めである
原則16:意思決定によりデータの利益は最大化する
原則17:データによるビジネスチャンスを見つけて行動に移す
原則18:法律や規制に従ってデータを取り扱う

その2:ポリシー一覧

ポリシー一覧では、データマネジメント活動の方向性と方針を関係者に伝えて、ベクトルを合わせることを意識します。

また、データマネジメント施策一覧の施策内容をDMBOK2の11の知識領域ごとに要約し、対外向けに発信する言葉に置き換えます。

Point! 成果物で伝えたいこと

データマネジメント活動が「どこに向かっているのか」を伝えます。

筆者らが策定したポリシーの一部をご紹介します。

<サンプル:ポリシーの一部>
ポリシー1:個別業務に偏ったデータ提供ではなく、全社的な視点で標準化されたデータを提供する(データアーキテクチャ)
ポリシー2:同じ意味のデータは1箇所で管理し、複数箇所で管理する場合はデータの整合性を保証する(データモデリング)
ポリシー3:バケツリレーと未標準のデータ流通をさせない(データインテグレーション)
ポリシー4:業務システムの変化に追随できるデータ活用基盤を実現する(データウェアハウジング)
ポリシー5:データの更新・参照権限をコントロールする(データセキュリティ)

その3:ミッション・ゴール一覧

ミッション・ゴール一覧を作成します。ミッションとしては、数あるデータマネジメント施策の候補から今回の施策を選定した理由を記入します。ゴールとしては、データマネジメント施策の実施を通して到達したい姿を表す言葉(~している)で記載します。

Point! 成果物で伝えたいこと

データマネジメント施策の「実施理由とゴール」を伝えます。 サンプルとして筆者らが策定したミッション・ゴールの一部をご紹介しま す(表4.2.1)。

表4.2.1 ミッション・ゴール一覧(サンプル)

データマネジメント施策 ミッション ゴール・KPI(数値目標)
社員全員が他部門のデータを自由に使ってデータ活用ができるようにデータ活用基盤を構築する 各部門から他部門のデータを活用したいというニーズが挙がっているため データ活用基盤が構築され、データ活用者のデータアクセス頻度が施策適用前よりも10%向上している
データ活用が効率良くできるように、データ辞書を提供する データ項目の意味がわからないことから、調査工数が増加しているため データ辞書が構築され、データ活用者の調査工数が施策適用前よりも80%削減している
データ活用ノウハウを蓄積し、組織全体のスキル向上を図る 経営サイドから、データに基づく意思決定ができる人材を育てるように指令が下り、データ活用ノウハウを共有する必要性が出たため データ活用のナレッジデータベースのアクセスが増加傾向にあり、1本/月のペースでデータ活用ノウハウを蓄積している

その4:体制図・役割一覧

データガバナンス委員会はEDMの循環と業務横断の調整に徹し、データマネジメントチームはPDCAの循環と業務横断のデータマネジメントテーマを連携します。それを実現できるように体制と役割を組みます。

Point! 成果物で伝えたいこと

データガバナンス委員会は企業に1つであり、データマネジメントチームはデータマネジメントテーマに応じてつくられることを伝えます。

DXを成功に導くデータマネジメント
DXを成功に導くデータマネジメント
データ資産価値向上と問題解決のための実務プロセス75
本書は、DXを推進・成功させるために必須となったデータマネジメントについて 多くの企業を支援してきた専門会社が、そのノウハウを紹介していく実用書です。
「データ駆動型経営」を絵に描いた餅にしないためにはどうすればいいのか、 現場の担当者向けに「実現できる内容」で詳しく説明しています。
著者は、10年前からデータマネジメントの普及に携わってきたデータ総研の皆さん。 企業がDXに失敗する理由にも触れながら、実務に役立つ成功法則を紹介しています。

【本書の想定読者】
・DXが目指すところはわかったけれど、具体的に何から始めればいいのかわからない方
・データが社内で散在、混乱していて、データ活用の手前で躓いているDX担当の方
・DXがスムーズに進まない、挫折しそうで困っているDXチームのリーダー

※画像をクリックするとAmazonに飛びます

【こんな記事も読まれています】
【会員限定動画】サプライウェブで実現するマスカスタマイゼーション時代の企業戦略
製造業における購買・調達業務とは?課題の解決方法も紹介
ビジネスや技術のトレンドに反応しながら進化を続けるCRMの事例を紹介