デジタルトランスフォーメーション(DX)の開発方法を解説
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デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、「企業が新しいデジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革することにより、競争優位性を確立すること」です。

これまでのコラムでは、ビジネスモデル、ITシステム、業務オペレーション、組織・人材などの幅広い観点から、デジタルトランスフォーメーション(DX)で目指すべき姿や、実現に向けた課題・進め方について紹介してきました。

しかし、デジタルトランスフォーメーション(DX)において変革の主役となるのは、その定義の通り「デジタル技術」に他なりません。第4次産業革命の真っただ中にありさまざまなデジタル技術が生み出されている現在、どのような技術を活用すれば良いのか、またそれをどのようにビジネスに組み込めば良いのか、悩まれている方も多いのではないかと思います。

そこで本コラムでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を考える上で押さえておくべき代表的な技術と、それらを効果的にビジネスに組み込んでいくための手法について解説していきます。

目次

  1. DX技術と開発方法その1:IoT/AI
  2. DX技術と開発方法その2 : マイクロサービス
  3. DXを支える技術と開発手法その3:アジャイル開発
  4. アジャイル開発のメリット・デメリットは?
  5. アジャイル開発の代表的な3種類
  6. アジャイル開発の成功事例3選
  7. デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みをお考えの方へ

DX技術と開発方法その1:IoT/AI

IoT(Internet of Things/モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence/人工知能)という言葉は、聞かれたことがある方も多いと思います。実はこれらは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する上で非常に重要な技術の一部です。

それぞれの技術の詳細や活用事例については、「IoT(Internet of Things)の基礎から活用事例まで」や「AI(Artificial Intelligence)の基礎から活用事例まで」をご覧頂くこととし、ここでは、IoTやAIがデジタルトランスフォーメーション(DX)に対してどのような役割を果たすのか、その考え方について説明します。

さまざまな「仕事」には、「人間(労働者)が必要な情報を集め、知識や経験をもとに予測や判断を行い、次にとるべき行動を決定する」という要素が非常に多く含まれています。デジタルトランスフォーメーション(DX)のとらえ方の一つとしては、デジタル技術を用いることでこれらの要素を効率化・高速化・高度化していくことである、と考えることができるでしょう。

IoTは、現実世界からのデータ収集をより速く・正確に・大量に行えるようにすることで、予測や判断のためのより「質の高い」情報を提供する、という役割を果たします。また、AIによってこれらの情報を処理することにより、人間(熟練労働者)と同等の、場合によってはそれ以上に的確な、予測や判断を行うことができるようになってきています。

このように、IoTやAIの技術を活用することで、これまで人間が行っていた仕事の一部を自動化することができ(人間が不要となり)、さらに、その仕事の質や速度も人間以上のものとなるのです。デジタルトランスフォーメーション(DX)の成功、すなわち、ビジネスモデルを変革し競争優位性を確立するためには、これらの技術を最大限活用することはもはや不可欠となっています。

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DX技術と開発方法その2 : マイクロサービス

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デジタルトランスフォーメーション(DX)は企業にとって大きな変革であり、その成功のためには多くの仮説検証を積み重ねることが必要です。このため、仮説に基づきIoTやAIなどのさまざまなデジタル技術を活用したシステムを開発し、検証結果から次の仮説を立案する、というサイクルをスピーディーに繰り返すことが求められます。

ところが、「既存システムの負債」が原因で、既存システムへの新技術の組み込みがスピーディーに行えないケースが多く発生しています。特に、既存システムが巨大な一つのシステムとして設計されている場合、システムの複雑化・ブラックボックス化が進み、新しい技術を組み込む際の影響調査やテストに膨大な時間を要することになるからです。このようなシステムのことを、モノリシック(一枚岩な)システムと呼びます。

これに対し、小さなサービス(独立して動作可能な小さなシステムの単位)の集合体としてシステムを構築するという設計の考え方が「マイクロサービス」です。マイクロサービスとして構成されたシステムでは、顧客に一連の機能を提供するために、関連するサービス同士が連携して動作する必要があるため、一見複雑なつくりになるように感じられるかもしれませんが、サービスの役割や責務、連携のための規約(データ形式や呼出し手順など)が自ずと明確になるため、結果的に見通しの良いシステムとなり、新技術の組み込みなどをスピーディーに行うことが可能になります。

このため、マイクロサービスは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させるためのシステム設計の考え方として注目を集めており、マイクロサービスでのシステム開発を効率化するための技術もまた発展を続けています。

DXを支える技術と開発手法その3:アジャイル開発

小さな仮説検証をスピーディーに繰り返しながら開発を進めるには、システム開発のプロセスもこれに合った手法を取り入れなければなりません。 「ウォーターフォール型」と呼ばれる従来型の開発プロセスでは、最終的なシステムの要件、仕様、設計を事前に入念に検討して文書化し、綿密な計画を立てた上で開発、テストを行うことになるため、基本的に開発途中で軌道修正を行うことはできません。

ところが、近年のシステム開発では多くの場合、外部環境の変化、事業戦略の変更、検証結果を踏まえた見直しなど、「作りたいもの」を変化させる要因が頻繁に発生するため、「はじめから作るものを明確にする」ことが非常に困難になっています。

このような不確実性に柔軟に対応するために考案されたのが、「アジャイル型」の開発プロセスです。アジャイル型の開発では、はじめから最終形のシステムを目指すのではなく、数ある要望や要件の中から優先度の高いものに絞って、小さな規模で開発を行います。そして、出来上がったものの評価結果などを踏まえて、軌道修正を行いながら次に開発する項目を決定する、というサイクルを繰り返しながら機能を拡充していきます。

また、このサイクルをスピーディーに実行するために、各種設計文書の作成は最低限にとどめ、事業担当者とエンジニアが密にコミュニケーションをとりながら、開発するものやその仕様を決定していくことも大きな特徴の一つです。
この開発手法であれば、日々進歩する新しい技術を積極的に取り込んで試すといったことも可能となるのです。

アジャイル開発の具体的なやり方を体系立ててガイドライン化したものはいくつかありますが、近年は、その一つである「スクラム開発」(※1)という手法を採用する開発現場が増えています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたシステム開発では、その性質から、アジャイル型の開発プロセスを積極的に取り入れることが成功の近道になると言えるでしょう。

※1:日本発のアジャイル型開発プロセスで、ラグビーのスクラムに喩えて名付けられた。プロダクトオーナー(製品の総責任者)、開発チーム(エンジニア)、スクラムマスター(調停役)それぞれの役割や、プロダクトバックログ(製品に必要な要素の一覧表)を中心とした開発プロセス・会議体などを規定している。近年では、トヨタ、デンソーをはじめ自動車業界等でも導入が進み、注目を集めている。

アジャイル開発のメリット・デメリットは?

アジャイル開発は、その柔軟性と高速性ゆえのメリットとデメリットがあります。解説していきましょう。

メリット

アジャイル開発では、機能単位で開発サイクルを回し、クライアントの要望に敏感に対応しながら、すばやく要件やスケジュールを変更、修正してアプリケーションを開発できます。

これにより、クライアントは競合企業に先んじて新製品を投入するなどの施策が打てるため、収益を早期に得て、市場競争力を高められます。常に仕様を確認し、課題を早期に検出できるため、プロジェクトが完了する間際に設計ミスが発覚するといった致命的な問題が発生しにくいことも特徴です。

また、異なるチームが協力関係を構築しながらプロジェクトを進めるため、チーム間で情報を共有しやすく、問題を共同で解決できます。

デメリット

アジャイル開発は、プロジェクトを機能ごとに分割してリリースするため、機能ごとにバラバラに要件が追加されるといったことが起きやすく、スケジュール管理を含めて、全体としての統一性を保つマネジメントの実施が難しい側面があります。

また、変更に柔軟に対応するために、予算、スケジュール、必要なリソースの予測が難しくなることがあります。製造業が導入する場合は、従来の生産管理、品質管理との整合性が得られるようにすることもポイントになってきます。

アジャイル開発プロジェクトを上手にマネジメントするためには、アジャイル開発を実践するためのプロジェクト管理ツールや文書管理ツールの活用が鍵になってくるでしょう。

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アジャイル開発の代表的な3種類

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アジャイル開発の手法にはさまざまなアプローチがあります。代表的なものが以下の3種類です。

  • Feature-Driven Development (FDD)
  • Extreme Programming (XP)
  • スクラム

ユーザー機能駆動開発(FDD)

FDDは、開発プロセスを機能単位で管理します。プロジェクト全体を小さな機能に分解し、それぞれを設計、開発、テストします。クライアントが考える機能価値を重視し、ビジネスを可視化しながら必要な機能を選定して設計・開発を進める手法です。

クライアントの確認を受けながら、短期間のローンチを続けてプロジェクトを進めます。進捗を可視化しやすい機能リストを用いるため、ステークホルダーに対する透明性が高いことも特徴です。

エクストリーム・プログラミング(XP)

XPでは、2人のプログラマーが1つのコンピュータで協力してコードを書くペアプログラミングを採用することが多く、これにより品質の向上と知識共有を促します。開発途中で仕様変更や追加が発生することを前提にコミュニケーション、シンプル、フィードバック、勇気という4つを原則としています。

コードを書く前にテストケースを作成し、それに適合するようにコードを開発するテスト駆動開発 (TDD)により、品質と信頼性を保ちます。クライアントが積極的にプロジェクトに参加し、仕様を定期的に検討し、優先順位を付けながら進められるのです。

スクラム

スクラムは機能横断的なチームで構成され、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームで構成されます。デイリースクラムミーティングなどでコミュニケーションを取り、進捗と課題を共有し、透明性を維持しながら、開発の計画立案から設計、テストを進めます。

プロダクトオーナーがバックログアイテムの優先順位を設定し、チームはそれに従って仕事を選択します。短く区切った期間であるスプリントごとに一連のバックログアイテムを選択し、その完成を図るのです。

アジャイル開発の成功事例3選

デンソー

デンソーはMaaS(Mobility as a Service)開発において、アジャイル開発の手法を採用し、顧客との協調、チームビルディングを実践しています。

カーシェアなどの新たな価値は、従来IT部門が手掛けていなかったWebアプリケーションによって提供されると考えました。「ゼロから価値を作るためにデザイン思考を採用する」「繰り返し試しながらも早く安く作る」「クライアントと一緒につくる」の3つを柱に進め、MaaS開発プロジェクトを成功させたのです。

関連記事;鈴木万治氏が語る次世代自動車における価値づくりのあり方 カイゼンとDXの違いに見る、真に目指すべきDXとは?

ラクスル

ラクスルは、かつて一枚岩だったアプリケーションに自社の強みとなるさまざまな機能を組み込んでいました。それは競争力の源である一方で、全体としての統一性に欠けていたため、ビジネスの変化に柔軟に対応していくという観点では疑問視されていたのです。

システムを見直し、大規模に整理した上で、各機能を独立した小さなチームがアジャイルに開発する手法を採用。これが、多角化などラクスルの新たな事業展開に貢献しました。

日本IBM

日本IBMは2008年にアジャイル開発を導入し、大規模プロジェクトで実践しています。市場競争が激化し、競合他社に対抗するために高速なシステム開発が必要とされていることが背景にありました。

従来のウォーターフォールによる大型プロジェクトとは異なり、機能ごとに分けたチームによる低コスト、短納期、高品質を実現するプロジェクトが求められる中で、アジャイル開発に注目したのです。IBMのアジャイル開発では、プロジェクトマネジャーにプラクティスの選択の余地を与え、チームの生産性を最大限に高められるようにしています。

デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みをお考えの方へ

デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けては、ビジネスモデルから利用する技術まで、さまざまな観点での仮説検証をスピーディーに繰り返しながら取り組むことが成功の秘訣です。効率的なDX実現を目指しましょう。

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