【製造業DX】製造業におけるESG経営とは?
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昨今では、ESG経営が製造業にも広がりつつあります。ESG経営は世界的なトレンドであり、企業の成長を大きく左右しうるものです。これからの社会で企業が成長し続けるためには、ESG経営についての理解を深めておき、早期に取り組んでいく必要があるといえるでしょう。本コラムでは、製造業とも密接に関わるESG経営について解説いたします。

目次

  1. 製造業にとってのESG経営とは
  2. ESG経営が求められる背景
  3. ESG経営の3つのメリット
  4. 製造業にとってのESG経営とは
  5. 製造業がESG経営に取り組むメリット
  6. ESGの取り組み事例
  7. ESG経営の課題
  8. まとめ|ESG経営に取り組んでいく企業様へ

製造業にとってのESG経営とは

ESG経営とは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の3つの要素を配慮した企業経営のスタイルです。地球温暖化に代表される環境問題、いまだに残るマイノリティーへの差別の問題、健康を害するほどの過酷な労働の問題、粉飾決算などによる株式市場の混乱など、世界は経済活動によって生じる深刻な問題に直面してきました。そこから、企業はこの3つの観点をもって活動をすることが必要であるという考え方を指します。

現在、ESG経営は企業が中長期的に成長し続けるために欠かせない取り組みとして広く認知されており、世界中の企業がESG経営の導入を進めています。

なお、製造業におけるESG経営については、後ほど詳しく解説します。

  • Environment(環境)
    環境問題の解決に取り組んでいるか
  • Social(社会)
    社会的課題の解決に取り組んでいるか
  • Governance(企業統治)
    公正・透明な企業経営ができているか

ESG経営が求められる背景

なぜESG経営が求められるようになったのでしょうか。

もともと、金融機関や投資家が投融資を行う際には、収益性や回収可能性といった財務状況を重視しながら判断を行っていました。しかし、昨今では企業の財務状況だけでなく、ESGへの取り組みも重視して投融資を判断する「ESG投資」が広がっています。

ESG投資は、2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」によって、これからの時代にマッチした新しい投資方法として認知されました。PRIでは、持続可能な社会を実現するために、投資の意思決定プロセスにESG課題を組み込むことなどが示されています。

2006年以降、ESG投資およびESG経営は徐々に広がっていきましたが、2015年に国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」との関係の深さから、一段と注目を集めるようになりました。SDGsでは持続可能な社会を実現するための17の目標が掲げられていますが、これらはESGの考え方と非常に近いものです。企業がESGを重視した取り組みを進めていけば、結果的にSDGsの目標達成に近づくため、「ESG・SDGs経営」という形で両方をセットに考えている企業もあります。

ESG経営は日本でも広まっていますが、残念ながら日本企業の平均的なESGスコアは欧米先進国に比べると低い傾向にあります。日本企業がグローバルな市場の中で成長し続けるためには、早急にESG経営に切り替えるべきといえるでしょう。

ESG経営の3つのメリット

ESGを考慮に入れた経営や投資には、一般的に以下に挙げるようなメリットがあります。

【メリット1】ESGは企業評価を向上させる

国連の責任投資原則(PRI)に署名している投資家や金融機関は、企業のESGへの取り組みに関心を持っています。PRIに署名したということは、ESG投資を推進して持続可能な社会の構築に寄与する姿勢を明確に示していることになります。

投資家たちは、経済的にも成功しつつ、環境・社会・ガバナンスへの配慮も行っている企業を選定して投資を行うためそうした企業の評価は投資家にとって自然と高くなっていきます。積極的にESGに取り組む企業はその評価を高め、結果として資金調達が有利になっていくといえます。

PRI は2006年の発足以来、着実に成長している(出典:国連 PRI『責任投資原則』)
(画像=PRI は2006年の発足以来、着実に成長している(出典:国連 PRI『責任投資原則』))

【メリット2】ESGはイメージアップになる

企業は常に社会からの評価を受けています。環境・社会・ガバナンスの問題がメディアで報じられるたびに、なにか問題があるのではないかと疑いの目で見られることもしばしばです。SNSの普及もあって神経をすり減らすことも少なくありません。

そこで、ESG経営を行っていることを公にし、自社の利益とともに、環境や社会問題の解決に積極的に取り組む姿勢を示すことが有効な手段になってきます。社会課題に対して積極的に取り組む姿勢が、信用をつくり、ブランド力を高め、ポジティブなメッセージを発信する活動になるのです。

このような企業が提供する商品やサービスは、多くの人の支持するところとなり、業績も伸びていくという好循環が生まれる可能性があります。

【メリット3】ESGはリスク管理を高度化させる

企業にとって、環境・社会・ガバナンスの3つへの配慮がないことは、そのままリスクとなります。自然環境を壊してしまったことによる訴訟、労働環境を悪化させてしまったことによる労働争議、管理不全によって発生した不祥事の暴露など、リスクの要因は尽きません。

一度このような訴訟や争議、不祥事が発生することで被る企業の損失は、計り知れないものがあります。被ったダメージを取り戻すのに何年もの歳月がかかることも、十分に考えられることです。

ESGを経営の念頭に置くことは、こうした重大なリスクを遠ざける方向に働きます。安全に企業活動を遂行し、投資家やステークホルダーに安心感を与えることができます。ESG経営はリスク管理を高度化させることができるのです。

製造業にとってのESG経営とは

ここでは、製造業がESG経営で取り組むべき内容をご紹介します。

 

Environment(環境)

ESGにおける環境(E)には、気候変動対策や自然環境の保護、廃棄物の抑制、生物多様性の尊重などが含まれます。それらの中でも特に注目を集めているのが、カーボンニュートラルの達成に向けた取り組みです。

製造業は事業活動において多くの温室効果ガスを排出しています。そのため、製造工程で発生する温室効果ガスを抑制する、省エネ化や再生可能エネルギーの活用を進める、クリーンな製品や技術を開発する、といったように、カーボンニュートラルの達成に向けて積極的に取り組んでいる企業の評価が高まっている状況です。

Social(社会)

ESGにおける社会(S)には、人権や多様性の尊重、労働条件の適正化、安全かつ衛生的な職場環境の整備などが含まれます。

たとえば、昨今の製造業では、人権を無視した過酷な労働環境で生み出された原材料を調達しない動きが広まっています。価格や品質だけでなく、「どのようにして生産されたモノなのか」というプロセスも重視される時代に変わっているのです。

また、長時間労働や肉体労働による従業員への負担は、多くの製造業が抱える課題です。デジタル技術を取り入れる、ロボットによる自動化に取り組む、といったように、テクノロジーを生かして業務プロセスを変えるDXが求められているといえます。

Governance(企業統治)

ESGにおける企業統治(G)には、法令や企業倫理の遵守、適切な情報開示、リスクマネジメントなどが含まれます。

たとえば、製造業の品質不正問題は企業統治の課題の一つです。国内外の製造業による品質不正問題がしばしば取り上げられているため、今一度自社の内部を振り返ってみるべきといえます。

また、昨今では企業のサイバーセキュリティ対策も重要視されています。個人情報や技術情報といった機密を取り扱う企業にとって、サイバー攻撃による情報漏洩は脅威です。情報漏洩によって取引先や顧客の信頼を失ってしまうことになりかねないので、自社のサイバーセキュリティ体制を見直すべきといえるでしょう。

製造業がESG経営に取り組むメリット

製造業は、ESG経営に取り組むことでどのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは、特に製造業の企業がESG経営で受けられる2つのメリットをご紹介します。

ESGは企業評価を向上させ市場競争力を高める

1つ目のメリットは、企業価値の向上につながることです。ESG経営には、企業が自社の利益だけを追求するのではなく、社会全体の課題に対しても積極的に取り組む姿勢が表れています。そういった企業は取引先や顧客からの信頼を獲得しやすくなり、結果的に利益アップにつながった事例も多いです。

BtoCの領域では特にその傾向が強くなっており、似たような製品であればESG経営に取り組んでいる企業の製品が消費者から支持されるようになってきました。また、今後はAppleがサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成を目指しているように、BtoBの領域でもESG経営に取り組む企業をパートナーとして選ぶ動きが進むと考えられます。

企業の中長期的な成長につながる

2つ目のメリットは、企業の中長期的な成長につながる点です。ESG投資が活発に行われている今、ESG経営に取り組む企業に多くの資金が集まる傾向にあります。その結果、設備投資や新規事業への投資といった、将来の成長に向けた投資がしやすくなり、企業価値がますます高まるという好循環が生まれているのです。

ESGの取り組み事例

ESGはすでに多くの企業で取り入れられており、大企業ほど積極的に取り組んでいます。その中から、具体的な事例を紹介します。

花王|ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を実践

一般向けの洗剤やスキンケア、ヘアケア用品メーカーとして知られている花王株式会社は、2019年にESG(環境・社会・ガバナンス)戦略「Kirei Lifestyle Plan」を発表し、ESGを根幹に据えた経営に大きくかじを切ることを宣言しています。

創業当初より、事業活動を通じて社会に貢献していくことを使命とし、過去にも、触った感覚で区別できるシャンプーとリンスの容器や、環境に配慮した容器を開発するなどの取り組みを行ってきました。

花王のKirei Lifestyleイメージ(出典:花王)
(画像=花王のKirei Lifestyleイメージ(出典:花王))

花王は、世界的規模で問題になっている環境破壊は自分たちと関係があることと捉え、より一層の取り組み強化が必要だとの認識を持っています。このままでは自分たちの商品が選ばれなくなる日が来るのではないかとの危機感があったのです。

Kirei Lifestyle Planの特徴は、生活者を主役に据えているところです。生活者が求めている暮らしを「Kirei Lifestyle」とし、「自分らしくサステナブルなライフスタイルを送りたい」という生活者の思いや行動を実現できるよう策定したそうです。

また、1社だけでの解決が困難な社会課題については、地域や行政、各種団体、同業他社などとの協働が必要となります。花王は、プラスチック容器の資源循環の実現に向けた他社との協働も始めています。

花王では、ESGの体制を強化するためのガバナンス体制を構築しています。ESGコミッティという内部統制委員会や経営会議と同レベルの組織があり、ESG戦略に関する活動の方向性を議論して決定し、取締役会に活動状況を報告する仕組みになっています。とめ

花王のESG活動には外部アドバイザリーボードも組織され、社外の目も入るようになっています。また、ESG戦略を遂行するためのESG推進会議、注力テーマについて活動を提案するESGタスクフォースの活動があり、各部門に対する万全のサポート体制を整えています。

2022年にはESGステアリングコミッティを設置しました。これは、脱炭素、プラスチック包装容器、人権・DEI、化学物質管理の4つを重点課題と捉え、役員クラスのオーナーのもとESGコミッティと連動し、各部門・グループ会社に提言できる機能を持つそうです。

このようなESGガバナンス体制を持つ花王では、ESG活動状況を適切に把握して戦略策定や投資などの経営判断が行われるようになっています。また、従業員の目標管理等の人事評価制度にもESGの概念が取り入れられており、全社員でESGに取り組む姿勢がより一層明確になっています。

Apple |ESG戦略として2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束

Appleは、2020年7月、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成することを約束しました。とめ事業全体、製造サプライチェーン、製品のライフサイクルすべてを通じで完全なカーボンニュートラルを実現するという宣言です。
AppleのCEO(最高経営責任者)、ティム·クック氏は『企業は持続可能な未来に対して重大な局面にある』と述べ、Appleが環境に対する取り組みを加速し、同社の製品のエネルギー効率を高め、クリーンエネルギーの新たな資源を世界中で稼働させていることを強調しました。
同氏はこれらの取り組みが、『新時代のイノベーションの可能性、雇用創出、持続的な経済成長の礎になり得る』とし、波及効果から大きな変化が生まれることを期待すると述べたのです。
Appleは、カーボンニュートラル達成目標の発表から実現まで10年間のロードマップを描き、以下に示す5つの“革新的なアクション”によって温室効果ガスを削減するとしています。

  • 低炭素の製品デザイン
    Appleでは、リサイクル専用のiPhone分解ロボットを導入し、部品から、レアアース類の磁石やタングステンといった主要素材を回収して鉄のリサイクルも可能にしているそうです。“Taptic Engine”と呼ばれる振動する部品の100%リサイクルなど低炭素の製品のデザインが進んでいます。
  • エネルギー効率の拡大
    Appleは同社の施設内でのエネルギー使用を削減する手法を確立し、サプライチェーン内にも働きかけています。結果として同社サプライチェーンからの二酸化炭素排出量を年間77万9,000Mt削減したことが発表されています。

Appleと中国国内のAppleのサプライヤー10社は約3億ドルを投資し、複数のプロジェクトで合計1ギガワットの再生可能エネルギーを産出する取り組みを始めた(出典:Appleプレスリリース)

  • 再生可能エネルギー
    Appleは100%再生可能エネルギーで事業活動を行っています。そして、サプライチェーン全体をクリーンエネルギーに移行させることに注力しています。

  • 工程と材料における革新
    Appleは低炭素アルミニウムの精錬プロセスを支援し、同材料を使った製品を世に出しています。これは温室効果ガスを排出せずに精錬されたアルミニウムのことで、今後注目を浴びていくことになるでしょう。

  • 二酸化炭素の除去
    Appleは空気中の二酸化炭素を削減するために世界中の森林やその他の自然に基づくソリューションに投資しています。 これらAppleによる温室効果ガス削減に向けたアクションは、世界中の政府機関や、事業者、非政府組織(NGO)等と連携して行われています。

富士フイルム|ESG以前に取り組みを強化

富士フイルムは、ESGが注目されるようになる以前からCSR活動に熱心な企業でした。企業の社会的責任を果たすべく、環境、社会、ガバナンスについて取り組みが強化されています。同社は2017年8月に、富士フイルムグループとして2030年度をゴールにした「Sustainable Value Plan 2030」を発表しています。これは、持続的な成長に向けた富士フイルムグループの経営戦略の基盤を築こうというものです。2030年はパリ協定やSDGsに対応した目標年度で、それまでに15の重点課題に数値目標を設定しています。

  • 「ダイバーシティの尊重と推進」と「差別の禁止」に取り組む
    富士フイルムは、「Value From Innovation」をスローガンに掲げています。現代の事業環境は変化が激しく、こうした中でも挑戦して価値の創出を実現するために、人格と個性を尊重した組織を目指しています。

  • 充実したコーポレートガバナンス体制
    富士フイルムはコーポレートガバナンスも重要な課題だと捉えています。同社は、監査体制が充実しており、内部監査、監査役監査、および独立監査人による合計監査の相互連隊による監査体制を取り入れています。 取締役会も、独立した社外取締役が4人、監査役は独立社外監査役2人、常勤監査2人という構成です。身内で固めるような企業も多い中で、確たるガバナンス体制を敷いています。

ESG経営の課題

製造業はもちろん企業にとってESG経営に取り組むことは多くのメリットが期待できます。一方、課題も存在するため計画に際しては注意が必要です。

定義や指標は未確定のため目標設定が難しい面がある

ESG経営には上記で紹介したように評価機関が存在します。しかし取り組みに関する明確な定義はなく、企業にとっては目標を設定しづらい状況となっています。事実、ESG経営への取り組み内容は企業によってさまざまです。 特に、「従来の財務情報」がESGに対して重視・評価されにくい点には注意が必要です。経営状態が良好でも、環境・社会への貢献度が低いとステークホルダーから判断されると、企業評価を落としてしまうおそれがあります。

短期的な成果判断は困難なため中~長期的な取り組みが必要

ESG経営には環境問題への取り組みや社会貢献という、短期で結果や成果が出しづらいテーマが含まれます。よって、数年~数十年の計画を立てて取り組むことになります。しかし計画を立てたとしても環境・社会への貢献度が数十年後に評価される状況になっているかの根拠は明確に打ち出しづらく、ある意味手探り状態になる面も否めません。そのため、当初の計画どおりに進めるのではなく、状況によっては計画の修正を行うなどある程度臨機応変に進めていくケースも含んで取り組むことが望ましいといえます。

まとめ|ESG経営に取り組んでいく企業様へ

今回は、製造業とも密接に関わるESG経営についてご紹介しました。上述した通り、日本企業の平均的なESGスコアは欧米先進国に比べると低い傾向にありますが、競合他社に先行して取り組むことで一歩リードできるチャンスがあるとも考えられます。本コラムを参考にしつつ、ESG経営にいち早く取り組んでいただければ幸いです。

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