最近は、スマートフォンやPCを問わず、デジタル上でのシームレスなユーザー体験が、顧客満足度やブランド価値に影響することが明らかになっています。
本記事では、デジタル上での顧客体験を意味するDCXについて解説していきます。
目次
DCX(デジタルカスタマーエクスペリエンス)とは?
DCXは、Digital Customer Experienceの頭文字をとったもので、デジタル上におけるCXを指します。CXは「顧客体験」と訳され、DCXは、「製品やサービスの利用で顧客がデジタル上で経験する全ての体験」という意味を持ちます。インターネットが普及し、デジタル上でサービスを受けることが多くなった現代では、DCXが重視される場面が増えています。
<DCXの例>
・銀行:インターネットバンキング
・大学:オンライン授業、学内ポータル
・図書館:OPAC(蔵書検索システム)
・小売:EC(インターネット上でのショッピング)
DCXとCXとUXの関係性
DCXと混同しやすい用語に、CXとUXがあります。CXはCustomer Experienceの略称で、UXはUser Experienceの略称です。どちらも訳は「顧客体験」ですが、体験の粒度が異なります。
<DCXと混同しやすい用語>
CX:顧客体験|製品やサービスの利用で顧客が経験する全ての体験
UX:顧客体験|製品やサービスの利用で顧客が体験する個々の体験
CXは全ての体験を意味しますが、UXはそれぞれの体験を意味しています。すなわち、UXを全て足したものがCXとなります。
また、DCXは「デジタルのCX」という意味ですから、デジタル上で起こるUXを足したものがDCXと言えます。
DCX向上の必要性が上がっている理由
なぜDCXの向上が必要とされているのでしょうか。ここでは、DCX向上が必要性が上がっている理由を2つ挙げて解説します。
<DCXの向上が必要な理由>
・デジタルを活用する機会が増えてきたため
・顧客が不利益を被った場合でも迅速に対応できるため
デジタルを活用する機会が増えてきたため
ビジネスシーンでのデジタルを活用する機会の増加に伴い、必然的にDCXの重要性も上がります。中には、有料ネット動画のように顧客が経験する全ての体験がデジタル化されているサービスもあります。そのような企業にとっては、DCXの向上がCX改善の唯一の方法です。
しかし、たとえデジタルの割合が多くない企業でも、DCXの改善を行わなければ、その工程で顧客が優れた体験をする可能性は低くなります。そのため、サービスの質を他の工程と均一にするためにも、DCXの向上は必要と言えます。
顧客が不利益を被った場合でも迅速に対応できるため
万が一、顧客が製品やサービスの利用で不利益を被った際、インターネット上で返品や交換などの対応ができれば、顧客の手間を省いて迅速に問題を解決できます。しかし、もしもインターネット上で対応を行っていなければ、顧客が電話をかけたり店舗に出向かなければなりません。
デジタル上で対応を行っていなければ、顧客の手間が増え、顧客の満足度はさらに低下してしまいます。しかし、デジタル上の対応が満足のいくものであれば、不利益を被ったという評価を覆すことができるかもしれません。
DCXの向上がもたらすメリット
DCXを向上させると、以下のようなメリットを受けられます。
・顧客のリピート率を上げられる
・高評価の口コミにより新規顧客を獲得できる
・ブランド価値を上げられる
・顧客との接点を増やせる
ここでは、それぞれのメリットを受けられる理由や、それぞれのメリットがもたらす具体的な効果を解説します。
顧客のリピート率を上げられる
DCXが向上すると、顧客満足度が上がり、顧客がリピート利用する確率が高まります。よって、DCXの向上は、顧客のリピート率向上に繋げることが可能です。
コンサルティング会社Forresterが行った調査では、CXの向上に費やした金額は、633%を回収できるという結果も出ています。よって、DCXをはじめとしたCXの向上への取り組みは、顧客満足度の向上だけでなく、売上の増加にも効果的だと思われます。
高評価の口コミにより新規顧客を獲得できる
DCXが向上すれば、顧客からは従来よりも高い評価を得られます。それに伴い、口コミの評価が上がり、口コミ経由で新規顧客を獲得できる確率が高まります。
消費者庁の調査によると、6割近くの方が商品購入時に、評判を常にまたはよく意識をしているようです。また口コミでは、当人ではなく他者から伝えられた方が、信ぴょう性が向上する「ウィンザー効果」の影響を受けます。そのため、評判や口コミが良くなれば、新規顧客をより掴めるようになるでしょう。
ブランド価値を上げられる
顧客は、良い製品を受け取ったり、良いサービスを受けられたりすると、そのブランドを好きになり、信頼するようになります。このように、DCXを改善してブランドのイメージを良くすることにより、ブランド自体の価値を上げることが可能です。
顧客は、低品質のリスク削減や探索時間短縮のために、価値が高いと判断したブランドを利用するようになります。このように、DCXを改善してブランド価値を上げられれば、何度も利用してくれるような顧客の獲得が容易になるかもしれません。
顧客との接点を増やせる
デジタル上でDCXを向上する活動を行えば、顧客と交流する機会が増えます。例えば、SNSで顧客に有益な情報を提供できれば、顧客がブランドを思い出すきっかけになります。また、発信方法次第では、メディアやSNSでブランディングしながら顧客と接することが可能です。
さらに、ここで得た接点を利用して、顧客に刺さる製品やサービスを提案できれば、購入に繋げられる場合もあります。このように、DCX向上に取り組めば、顧客との接点を増やしたり、購入意欲を促進したりすることができるようになります。
DCXを向上させるコツ
DCXは、デジタル特有の性質を最大限活かすことで、効率的に向上させることができます。ここでは、DCXを向上させるためのコツを4つ解説します。
1. 会社全体で一貫性のある取り組みをする
2. フィードバックを得られるような仕組みを作る
3. ブランドイメージを壊さないようにする
4. データを活用して個々にあったサービスを提供する
オムニチャネル化
会社内の部署ごとにデジタル戦略を行っていた場合、それらのデータを集約することで新たな傾向や発見が見つかるかもしれません。そのため、DCXを向上させるためには、会社内にある情報を一元化して管理するようにしましょう。
また、DCXを会社規模で推し進める場合、一貫性のある取り組みをすることが重要です。部署ごとに良かれと思ってそれぞれ行っている施策も、総合的に見ると改善すべき点が多く見つかるかもしれません。そのため、DCXの向上に取り組む際には、社内全体規模で取り組むようにしてみてください。
以上を実施する際に配慮すべきなのは、企業が顧客と直に接するタッチポイントにおいても、顧客に良質なサービスを提供することです。例えばコールセンターでのトラブル対応の場合、顧客にただトラブルの内容を尋ねるだけでなく、その顧客の製品使用期間などの情報も織り交ぜて日頃の愛顧に感謝の言葉を述べたり、トラブルに誠実に対応する旨を伝えることが大切です。
こういったアナログな場面での顧客対応によって、顧客の心を惹きつけることもできれば、離れてしまうこともあります。顧客に好印象を与えるためには、顧客データは部署の垣根を超えてアクセスできるようにするなど、デジタルだけでなくアナログも繋がったシームレスなCX設計が必須です。
あらゆる販売チャネルが統合され、顧客がどの販路からもスムーズに購入できるようになること=オムニチャネル化を目指し、顧客満足度を上げて売上アップを狙いましょう。
フィードバックを得られる仕組みを作る
自社の製品やサービスの質を向上させるためには、顧客からフィードバックを得られる仕組みを作ると良いでしょう。これにより、製品やサービスに対する客観的な意見を取り入れることができるようになります。そのためにはカスタマージャーニーを把握しておくことが大切です。
カスタマージャーニーとは、「顧客が商品やサービスを知り、購入・利用意向をもって実際に購入・利用するまで、また、利用後に利用の継続や再購入の意思決定をするまでに顧客が辿る一連の体験を『旅』に例えたもの」です。下の表のように縦軸・横軸を配し、カスタマージャーニーマップを作成して顧客の動きを「見える化」することで、顧客とのタッチポイントを洗い出し、顧客目線で考え、顧客のニーズに則ったマーケティング施策を考えられるようになります。
しかし、無理にフィードバックをお願いするのは禁物です。あまりしつこくお願いすると、ブランドに対してネガティブな感情を抱くきっかけになってしまいます。また、フィードバックの内容が細かすぎたり量が多すぎたりすると、顧客にとって評価が大きな負担になってしまい、評価してくれる人が少なくなります。
そうならないよう、評価してくれる顧客の立場に立ってフィードバックを集める仕組みを作るようにしましょう。
データを活用して個々にあったサービスを提供する(300)
もし顧客データがあるのなら、顧客の属性や嗜好に合わせたコンテンツを提供することで、よりDCXを向上できるでしょう。実際に、パーソナライズ化された広告は、魅力的に感じる方が多いことが分かっています。パーソナライズ化された広告やコンテンツを制作するために必要なマーケティング手法は、One to Oneマーケティングと呼ばれます。これは消費者一人ひとりの購買傾向からニーズを読み取り、各顧客に対して最適なコミュニケーションを行う手法です。顧客個別に具体的な提案を行うため、継続的な関係構築に繋がると注目されています。
広告媒体が新聞広告やテレビなどに限られていた時代には、消費者に広く同一のメッセージやアプローチで働きかける手法が採用されていましたが、インターネットの発展によって、Cookie情報から個人の行動を追跡したりニーズを把握したりが可能となり、特定の消費者個人をターゲットにするOne to Oneマーケティングの時代になりました。
近年、消費者が企業に求めるものの中でも「特別な体験」に対する意識は強くなっていて、安さだけを追い求めるのではなく、価格が多少高くても上質な体験を求めている消費者も多くいることが指摘されています。優良顧客を獲得するためにOne to Oneマーケティングの存在感は今後も増していくはずです。それに伴ってDCXの質も上がるでしょう。
DCXの向上に役立つツール
DCXの向上に貢献するツールとして日々進化しているCRMは顧客情報や購買履歴などを一元管理するツールです。マーケティングで主に使われるMAや営業活動において活躍するSFAの機能を搭載されたCRMも登場し、顧客の詳細な分析や獲得に貢献しています。
CRM
CRM(Customer Relationship Management)は「顧客関係管理」などと訳される顧客情報、購買履歴、コミュニケーション履歴などを一元管理するツールです。こういった顧客データに基づいて顧客の好みや傾向について分析することができます。
CRMは昨今、顧客データだけでなく営業活動のデータを管理するSFA(Sales Force Automation)の仕組みも取り入れ、名刺交換→企業・担当者の情報入力→初回商談→2回目商談→成約というように営業活動の節目を記録し、日報の情報も集約することでより効率的な営業活動を推進できるようにしてきました。
SFAの機能も併せ持つことでCRMは大きく進化し、顧客に関するさまざまな要素をデータ化、一元管理することで、顧客に関するより詳細な分析ができるようになっています。
MA
近年、MA(Marketing Automation)の機能を持ったCRMも市場に出回るようになりました。MAとは、主にマーケティング担当者が自社イベントやWebコンテンツなどを介して「見込み客」を発見し、見込み客の興味を惹き付けて購買につなげたり、商談可能な関係を構築していくために使われるツールです。
MA機能を備えたCRMは多彩なマーケティング施策を効率的に実施でき、CXの向上に貢献します。とくにBtoBビジネスでは大きな力を発揮し、見込み客のWeb閲覧履歴、コミュニケーション履歴などを一元管理で蓄積できるので、LTV(Lifetime Value/顧客生涯価値)の最大化を図ることができます。
CXの向上に成功した5つの事例
・新システムで応対可能コール数が140%に向上(イーデザイン損害保険)
・デジタル上のロイヤリティプログラムが付加価値を創出(スターバックス)
・DVDレンタルからストリーミングに移行し来店の手間を削減(Netflix )
・予約や注文、決済までをスマホアプリで実行可能(くら寿司)
・カートでの自動会計でレジの待ち時間を大幅に削減(TRIAL)
新システムで応対可能コール数が140%に向上(イーデザイン損害保険)
イーデザイン損保は、顧客満足度と相関が高い「電話の繋がりやすさ」を改善するため、オペレーターの打込作業や問合せ記録作業を削減するシステムを導入しました。その結果、オペレーター1人当たりの応対可能コール数が1.4倍になり、より多くの荷電に対応できるようになりました。
それ以前は、複雑なシステムから顧客の情報を抽出し、問い合わせ後には手書きで帳票を記入する必要がありました。そのため、電話に出ていない間も作業をしなければならなく、人員を効率的に利用できていませんでした。
そこで、顧客管理システムと自動入力システムを導入することで、顧客情報をすぐに確認できるのに加え、帳票を入力する手間も省けるようになりました。これにより、オペレーター1人が取れる荷電数が1.4倍になり、顧客を待たせる時間を減らすことに成功しました。
同社は、電話対応をはじめとするDCXの改善を積極的に行っている結果、顧客満足度調査で毎年上位にランクインしています。このように、DCXをはじめとしたCXの向上は、顧客満足度の向上に大きく役立っています。
デジタル上のロイヤリティプログラムが付加価値を創出(スターバックス)
コーヒーチェーンのスターバックスは、デジタル施策を豊富に用いた「Starbucks Rewards」を提供しています。Starbucks Rewardsでは、デジタル上のパスポートや、会員ランク制度などのサービスを提供し、顧客にデジタル上での付加価値を創出しています。
デジタルパスポートは、来店した店舗のスタンプが記録される仕組みとなっており、過去に行った店舗を振り返ることが可能です。この工夫は、遠征先でもスターバックスに行くきっかけを作り出しています。
また、Starbucks Rewardsはランク制度などの付加価値だけでなく、モバイルオーダーやモバイルペイなど、利便性向上にも寄与しています。このように同社は、デジタルの利用で利便性だけを向上させるのではなく、付加価値を創出することにより、DCXを向上させることに成功しています。
DVDレンタルからストリーミングに移行し来店の手間を削減(Netflix )
ビデオレンタル企業であったNetflixは、映画をインターネット上で配信することにより、顧客が来店する手間を省き、DCXを向上させました。加えて、視聴履歴によるパーソナライズ化を行うことにより、顧客に合った映画を提供する工夫なども行っています。
今でこそNetflixは動画ストリーミングサービスとして知られていますが、元は店舗型のビデオレンタルサービスを提供していました。しかし、映画をデジタル配信することで来店の手間を減らし、世界中の人々にサービスを提供できるようになりました。
このように、ビジネスのプラットフォームをデジタル上に移すことで、DCXの向上に加え、対応できる顧客を全世界まで広げることができます。デジタル上で自社製品を活かせるポイントがあれば、市場を大きく広げることができるかもしれません。
予約や注文、決済までをスマホアプリで実行可能(くら寿司)
回転ずしチェーンのくら寿司は、業界で初めてスマホで注文ができるシステム「スマホdeくら」を導入し、ユーザビリティの向上とオペレーションの低減に役立てています。同システムでは、モバイル注文のほか、テーブル予約や決済機能にも対応しています。
システム導入以前は、座席に据え置きされているタッチパネルからしか注文できなかったため、複数人で注文する際に待ち時間が生じていました。しかし、個々のスマホで注文できるシステムの導入で、1組当たりの滞在時間を5分間短縮できると試算しています。
さらに、システムの利用で注文や会計がスムーズになるため、従業員の負担も低減できると見込まれています。このように、デジタル機能を上手に活用することで、DCXの向上だけでなく、業務効率化を図ることもできているようです。
カートでの自動会計でレジの待ち時間を大幅に削減(TRIAL)
小売業者のTRIALは、スマートショッピングカードを導入して会計の手間をなくし、レジでの待ち時間を大幅に削減しました。これにより、顧客が買い物をスムーズに行うことができるようになりました。
従来の人がバーコードを読み込むレジでは、「並ぶ→バーコードを読み込む→支払う」の3ステップを経なければなりませんでした。しかし、TRIALのショッピングカードは、かごに入れると同時にバーコードを読み込むため、レジではプリペイドカードでお金を支払うのみです。
さらに、レジで時間のかかるバーコード読み込みがないため、長い列ができることはほぼありません。これらの工夫により、レジでの待ち時間が最短4分の1まで減少しているようです。
また同社は、ショッピングカート利用者限定のクーポンを発行したり、カード備え付けの端末上で、買い物内容に合う食材を紹介したりと、顧客に寄り添ったサービスを数多く提供しています。このように同社は、デジタル機器を活用することにより、DCXの向上に取り組んでいます。
まとめ|適切な対策でDCXは向上できる
多くのサービスがデジタルに移行しており、CXの全てをDCXが占める企業も出てきています。その中で顧客満足度を上げるには、DCXの向上が必須と言えるでしょう。DCXの向上を適切に行えば、顧客満足度を上げるほか、自社の売り上げを伸ばしたり、ブランド価値を高めたりすることができます。
また、デジタルは活用次第で多くのメリットを生み出すことが可能です。そのため、デジタル化を進める際には、DCXの向上だけでなく、他の問題点も改善できないかを考え、効果的な施策となるように工夫してみてください。
【こんな記事も読まれています】
・【会員限定動画】サプライウェブで実現するマスカスタマイゼーション時代の企業戦略
・製造業における購買・調達業務とは?課題の解決方法も紹介
・ビジネスや技術のトレンドに反応しながら進化を続けるCRMの事例を紹介