DXとしてのサプライチェーン改革とは?
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製造業において、原材料の調達から生産、小売業者による販売、消費などの流れを鎖(チェーン)として表現する「サプライチェーン」は、ビジネスの根幹であるため、効率性が求められます。また、近年では経済産業省がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していることもあり、業務の効率化を高めるだけでなく、従来の手法を革新する、サプライチェーンのDXが注目されています。

では、DXとしてのサプライチェーンとはどのようなものなのでしょうか。本記事では製造業のサプライチェーンとDXの関係性について解説いたします。

目次

  1. サプライチェーンとは
  2. サプライチェーンとDX
  3. SCMが重要視される理由
  4. SCMを最適化することで得られるメリット
  5. 製造業におけるSCMの課題
  6. SCMの課題を解決につなげるAI技術
  7. サプライチェーンのDXを進めよう

サプライチェーンとは

サプライチェーンとは、製造業における商品が生産されるまでの過程のことです。経済産業省は通商白書2021の中で「サプライチェーンとは、商品の企画・開発から、原材料や部品などの調達、生産、在庫管理、配送、販売、 消費までのプロセス全体を指し、商品が最終消費者に届くまでの供給の連鎖」であると説明しています。

DXとしてのサプライチェーン改革とは?
グローバルなサプライチェーンと垂直的・水平的な関係の例(出典:経済産業省通商白書2021)

流れを作り出し、ビジネスを生むサプライチェーン

企業が製品を生産する際には、仕入れ業者から原材料を調達し、自社で加工した後、物流業者へ出荷、小売業者が販売することで消費者まで商品が届きます。製造業はこのサプライチェーンという流れを繰り返し、ビジネスが成立しています。

原材料の仕入れから商品の販売まで、1つの会社・グループで賄うケースもありますが、通常は複数の企業との取引によってサプライチェーンは成り立っています。取引する企業が多い場合や、生産工程が複雑な場合、取扱商品数が多い場合などは、サプライチェーンが複雑化しやすいです。

製造業が安定して商品を供給しつつ利益を最大化するためには、このサプライチェーンの最適化が必要不可欠です。原材料の仕入れについて、品質が良く低価格な資材を調達できれば、コストを抑えられるため利益が増えます。

1ヵ月に100万個製造するものであれば、原材料の仕入価格が1円安くなるだけで100万円の差が生まれます。他にも、仕入れの納期を短縮できれば生産スケジュールを最適化し、リードタイムを短縮できる可能性もあります。そうすれば、同じ期間でも生産量が増えるため、売り上げ増が期待できます。

収益に直結するサプライチェーンはドイツ発

製造業においてサプライチェーンの最適化・効率化は、利益を追求する企業が取り組むべき最も重要な取り組みなのです。また、背景には、2011年にドイツ政府が、スマート工場によるサプライチェーンのエコシステム構築などを柱とする「Industry 4.0」を提唱したことなどがあると考えられています。

インダストリー4.0

通商白書2021によると、Industry 4.0は、サプライチェーンに組み込める新たな技術として、クラウドやブロックチェーンといった技術を活用したデジタル化を打ち出しています。さらに、ロボットを用いた工場の自動化(ファクトリーオートメーション)、3Dプリンターといった技術の利用が推奨されています。

サプライチェーンとDX

近年、製造業や物流業でもDXがキーワードになっています。DXはITを活用して既存の業務をデジタル化し、さらにはビジネスモデルまでも変革して効率化を図ろうとする概念で、民間だけでなく、経済産業省を中心に国も旗を振る取り組みとなっています。

2025年の崖問題

経済産業省は現状の取り組みのままでは日本企業の多くが「2025年の崖」に落ちてしまうというニュアンスで注意を喚起しています。2025年の崖とは、既存の情報システムが複雑化、ブラックボックス化することにより、全社横断的にデータを活用できず、経済的な損失が生じる可能性があるとの仮説を指します。その対策として、企業によるDXの推進を促しているのです。

経済産業省は、既存システムが内包する問題を解決できない場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じるとしています。

改善の余地はDXによって埋めていく

製造業においては、長年にわたりサプライチェーンへのIT導入が進んでいます。資材調達、需要予測、生産計画の立案、実生産、物流、店舗での販売といった各プロセスにおいて、ITシステムが導入されています。

しかし、多くの場合、部門間の情報はうまく統合できていないため、データ活用を最適化するという意味では、まだ改善の余地があります。もちろん、従来の方法をゼロから見直し、最先端の仕組みを導入するといった決断もDX推進において持つべき選択肢です。

DXとしてのサプライチェーン改革とは?
図 製造工程及びサプライチェーンへの先端技術の活用とその影響(出典 経済産業省通商白書2021)

DXが求められる中で、サプライチェーンを効率化する先端的な技術を含め、さまざまなITシステムが提供されています。中でもSCMを中心に紹介しましょう。

SCM(サプライチェーンマネジメント)とは?

サプライチェーンの最適化を目指し、管理・運用する手法のことを「サプライチェーンマネジメント(SCM)」と呼びます。サプライチェーンの流れを総合的に見直し、効率化を図ります。近年では、消費者のニーズが多様化していることもあり、生産したものが必ず売れるとは限りません。

製造業としては供給を安定化・効率化するために、サプライチェーンをコントロールする必要があります。SCMはサプライチェーンを管理する手法ですが、実際には各部門におけるプロセスを効率化し、サプライチェーン全体を統合管理するITシステムを指します。

サプライチェーンに含まれる複数の企業で利用する統合的な物流システムを構築し、資材供給から商品製造、在庫管理、物流、販売までの全プロセスを、システムによって管理します。サプライチェーンを統合的に管理できるようになれば、そこで収集されるさまざまなデータを活用しやすくなり、製造業のビジネスはさらに加速するでしょう。

このようにサプライチェーンにおけるDXはSCMと大きく関わっています。

・ERPとの違い
SCMに近いITシステムに「ERP(Enterprise Resources Planning:企業資源計画)」があります。ERPは、企業活動における資材・人材・設備などのリソースを管理し、最適に分配する手法を指します。ERPもSCMと同様に、手法だけでなくITシステムとしても扱われています。

ITシステムとしてのERPは「統合基幹業務システム」と呼ばれ、SCMとの最大の違いは広義ではサプライチェーンを含めた企業全体が対象である点です。ERPは企業における基幹システムのことであり、給与や勤怠などの人事領域、給与管理などを含む会計、在庫管理や購買管理、さらにSCMの領域を含めてERPと呼ぶこともあります。こうした企業全体に及ぶ部門のデータを統合管理し、データを活用して企業経営を推進するものとなっています。

SCMが重要視される理由

では、サプライチェーンのDXとして、なぜSCMが重視されているかを、いくつかのトピックに分けて考えてみましょう。

生産拠点などのグローバル化

原材料調達の効率化や人件費削減を目的に、日本の製造業の多くは海外に生産拠点を構えています。さらに、中国をはじめとしたアジア諸国の経済発展によって、生産拠点だけでなく販売拠点としても海外市場が重要になっています。それに伴い、サプライチェーンは複雑化しています。グローバル化に伴い、効率の良い生産・供給体制を構築する必要があります。より複雑なサプライチェーンを管理するために、ITシステムとしてのSCMが求められています。

労働人口の減少

日本において近年では、製造業に限らず少子高齢化による人手不足が深刻化しています。経済産業省の資料によると、製造業の中で人手不足と感じている大企業は41.9%、中小企業では42.2%もおり、多くの企業が人材不足や人材育成に課題を感じています。

人手不足を解消するためには、新しい人材を確保するか、業務を効率化して少人数でも操業できる体制を構築する必要があるでしょう。少子高齢化によって人材の全体数が減っているため、採用活動など人員を増やす対策だけでなく、業務を効率化し省人化を図れる仕組み作りが重要です。

その点、SCMを導入することにより、サプライチェーンの無駄を省く効果もあります。今までよりも各プロセスの工数が少なくなることにより、従来よりも少ない人員でも業務が成立します。このように、SCMにより業務が効率化できれば、人材不足の解消に貢献するでしょう。

IT技術の革新やECの需要増加

IT技術の革新もSCMが注目されている大きな要因です。課題を解決するためだけでなく、既存のビジネスを加速させるためにもSCMは利用されています。例えば、IoT技術により従来よりも収集できるデータの種類は多くなりました。

また、サプライチェーンは原材料価格・生産量・利益率などさまざまなデータを蓄積できます。これらのビッグデータを、最新技術を活用して分析することにより、より精度が高い需要予測・売り上げ予測を行えるでしょう。

近年では消費者の行動も変わってきており、ECサイトを利用して商品を購入する顧客が増えています。原材料の調達から生産、出荷というプロセスを経て消費者のもとへ商品が届きますが、その期間が短くなれば顧客満足度は高まるでしょう。これらを実現するためにも、高機能・高性能なSCMが求められています。

感染症や災害が起きた際の対策

昨今では、新型コロナウイルスのまん延により多くの製造業が打撃を受けました。感染症以外にも、災害が発生した際にも同様の影響を受けるでしょう。その中でも、ビジネスを継続するためには、効率が良い生産体制の構築が必要です。サプライチェーンの無駄を省き、効率化することにより従来よりも生産を続けやすくなります。

VUCAの時代への対応

現代は、「VUCAの時代」と呼ばれています。VUCAとはVolatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字です。さまざまな技術革新によって顧客・市場のニーズが多様化し、環境が複雑化した結果、将来の予測が困難になっています。

つまり、近年では想定外のことが次々と起こる可能性があり、新しい価値を提供する商品やサービスが登場します。製造業においてもこの激しい変化に対応することが必要です。このVUCAの時代を生き抜くためには、自社の強み・得意分野を伸ばすだけでなく、精度が高い需要予測を実現できる環境も求められるでしょう。

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SCMを最適化することで得られるメリット

SCMを最適化することによるメリットは多くあります。ここでは、SCMを実現するメリットをご紹介します。

調達コストの削減・調達の効率化

SCMを導入することにより、サプライチェーンのさまざまなデータを管理・把握できます。そのため、原材料価格や仕入れの際に発生するコストの無駄を見つけやすくなります。また、在庫状況を明確にし、適正な仕入れ量を算出できれば過剰在庫を防げます。

その結果、倉庫スペースの無駄や、保管している原材料の劣化による品質低下を防ぐなど、コストを抑えやすいです。他にも、仕入れ・在庫管理・販売管理などのデータを一元管理することによって、調達業務全体の効率化も実現できます。

実際に、過剰在庫は企業のキャッシュフローを悪化させる原因になります。そこで、SCMの導入により生産工程のスタートである「調達」を効率化することにより、在庫の適正化も図りやすいでしょう。

人材配置の効率化

SCMを活用し、市場分析・予測を行うことにより、急激な需要の変動にも対応しやすくなります。また、クラウド対応のSCMであれば、インターネット環境があれば利用できるため、テレワークの従業員にも対応できるでしょう。

これらのことから、需要の変化に対して柔軟に対応できるようになるため、人材配置も効率化しやすいです。必要な場所に必要な分だけの予算を割けるようになるでしょう。

サプライチェーンの最適化によるリードタイムの短縮

SCMの導入により、原材料の仕入れから販売までにかかるリードタイムを短縮できます。SCMを導入せずとも、各プロセス内での効率化は図れますが、個別に管理することになるため、リソースの偏りが発生しやすいです。そこで、SCMを活用することで全体を把握しやすくなり、無駄を削減して効率化を図りやすいです。

サプライチェーンにおけるリソースの中で、過剰な部分を削減し、不足している部分は補充できるでしょう。結果として各プロセスがスムーズになり、リードタイムを短縮できます。

製造業におけるSCMの課題

製造業が在庫を抱えないように生産するためには、ユーザーのニーズを明確にした上で、調達・生産・物流・販売という流れを進めなければなりません。そのため、最終的な販売情報を効率良く収集し、分析することが不可欠です。

遅延や過剰在庫の問題

しかし、サプライチェーンにはさまざまな企業が存在しており、それぞれが違った要因による影響を受けます。例えば、原材料のサプライヤーや中間品のメーカーの納期が遅れることにより、自社商品のリードタイムは伸びて、消費者のもとに届くスケジュールが後ろ倒しになるでしょう。

そのため、製造業は需要を予測しながら、各企業の情報についても適切に管理しなければなりません。需要の変動や仕様の変更があれば、過剰在庫や輸送費の増大などのロスが発生します。これらの課題を解決するためには、サプライチェーン全体を把握する必要があります。また、より精度が高い需要予測を行うためにも、有効なデータや消費者に近い情報を収集しなければなりません。

様々なリスク対応の必要性

また、既存のサプライチェーンの中で無駄が生じていると、コストが増えるだけでなく、何か変化が起きた際の対応も難しくなるでしょう。そのため、これらの変化に対して迅速に対応できる管理体制を構築する必要もあります。

セキュリティ対策も考慮する必要があります。2022年には、大手自動車メーカーのサプライチェーンを構成していた企業が、ランサムウェアと呼ばれるマルウェアによるサイバー攻撃を受けました。これにより、グループ企業を含めた自動車の生産活動が一定期間止まってしまうという事件が起きました。

SCMの課題を解決につなげるAI技術

SCMの課題を解決するためには、単純にシステムを導入するだけでは不十分です。近年では、AIなどの最新技術を活用する動きも増えてきました。ここでは、SCMの課題を解決につなげるAI技術をご紹介します。

配送ルートの最適化

製造業・流通業界では、ビッグデータの活用によってリードタイムの短縮を実現する企業が増えています。配送プロセスにおいては、GPSを取り付けた配送車を活用することで、ドライバーの運転状況や交通状況を把握し、AIを使った分析によって最適な配送ルートを選択できます。

結果として配送コストの削減につながり、顧客は注文から手元に届くまでの時間が短くなるため、顧客満足度の向上につながります。

設備の稼働率向上

製造業の生産システムにIoTセンサーやAIを活用することで、機械設備の監視・予知保全の取り組みが行われています。これまで活用していなかった設備機械のデータや、IoTセンサーによって収集したデータをAIが分析します。

その結果として、設備の不調を回避し、工場全体の生産性向上や稼働率低下を抑えることにつながります。

需要予測による経営判断の精度向上

ビッグデータを活用しAIが分析することで、精度の高い需要予測を行えます。従来では、従業員や経営者の経験、直近のデータをもとに需要予測を行っていたため、予測が外れると過剰在庫や供給不足に陥りかねません。

AIを活用することにより、今まで人が行っていたデータ分析を代行できるため、従来よりも複数の要素や大量のデータを使った分析も可能です。例えば、サプライヤーの情報や前年の売り上げや生産量だけでなく、天候や各種キャンペーン時の顧客の行動データなども活用できます。さらに、AI技術は機械学習により、データが蓄積すればするほど精度が高まっていきます。

このほか、サプライチェーンリスクを抑えるためのAIによるセキュリティ技術などもさまざまなものが登場しています。

サプライチェーンのDXを進めよう

製造業の根幹であるサプライチェーンには、さまざまなプロセスがあり、複数の企業が含まれているため、複雑化し状況把握が難しくなりやすいです。そこで、サプライチェーンを管理するシステムであるSCMを活用しDXを進めることにより、サプライチェーンの流れを適正化できます。今まで発生していた無駄を削減することにより、利益率も高まるでしょう。

ただし、サプライチェーンが複雑化している場合は、システム導入だけでは不十分な可能性があります。近年では、AI技術を活用して精度が高い需要予測や、配送ルートの最適化、リードタイムの短縮を実現できます。まずは、サプライチェーンのDXについて知り、自社に適したSCMを構築しましょう。

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