近年、政府が提唱したSociety 5.0は現代ビジネスを大きく変える概念です。官民連携プロジェクトも進んでおり、2018年からはスマートシティの実現が目指されています。どのような社会となるのか、将来の可能性や現状を押さえていきましょう。
目次
Society 5.0とは?従来社会との違い
Society 5.0とは、経済発展と社会課題の解決を目指す新たな社会のことです。ビッグデータやAIを用いた「サイバー空間(仮想空間)」と、私たちが暮らす「フィジカル空間(現実空間)」の融合によって生み出される社会であり、政府による第5期科学技術基本計画で初めて提唱されました。
Society 1.0:旧石器時代に形成された狩猟社会。
Society 2.0:弥生時代から確立された農耕社会。
Society 3.0:1800年代後半から始まった工業社会。
Society 4.0:1990年代から始まった情報社会。
従来の情報社会(Society 4.0)では、クラウド上にさまざまなデータやシステムが保管されており、これらを利用するにはフィジカル空間からのアクセスが必要でした。一方、Society 5.0ではAIやIoTなどの技術を活用し、サイバー空間とフィジカル空間のやり取りをスムーズにすること(高度な融合)が目指されています。
Society 5.0で実現できる社会とは?Society 4.0から変わること
従来の情報社会からSociety 5.0に切り替わると、幅広いニーズに対応できる社会や、新たな価値が生まれやすい社会を実現できます。
Society 4.0で見られる課題 | Society 5.0で変わること |
・人材によって知識量が異なる ・遠隔地でのリアルタイムな情報共有が難しい ・チームや部署間での連携ができない |
IoTであらゆるモノと人がつながり、情報共有やコミュニケーションが容易になる。また、新たな価値も生まれやすい。 |
・地域課題への対策が不足している ・高齢者のニーズに対応できない ・個々の消費ニーズに対応できない |
ビッグデータや物流システムの発達など、イノベーションが起こることで個々のニーズに対応できる。 |
・情報の入手に探索が必要 ・情報分析に大きな負担がかかる ・高いITリテラシーが求められる |
AIが必要な情報を判断し、必要なタイミングで個人に提供してくれる。 |
・年齢を重ねるほど職種が制限される ・障害を抱えると行動範囲が狭まる ・健康状態によって生活のしやすさが変わる |
車の自動運転やロボットの活躍により、健康状態によるハンデがなくなる。高齢者や障害者であっても、さまざまな業種で働ける。 |
また、Society 5.0は2015年に採択されたSDGs(エス・ディー・ジーズ)とも深く関係しています。
持続可能な開発目標であるSDGsには、社会問題・環境問題を解決するためのゴールやターゲットが設定されています。例えば、「産業と技術革新の基盤をつくろう」「働きがいも経済成長も」などのゴールは、AIやIoTを活用することで達成に近づきます。
Society 5.0を実現する代表的な技術
Society 5.0の実現には、サイバー空間とフィジカル空間を融合させる技術が欠かせません。中でもAIやIoT、ビッグデータ、ロボット、5G通信は、Society 5.0を支える重要な役割を担っています。
複雑な情報を高度分析する「AI(人工知能)」
AI(Artificial Intelligence)とは、データに対して推論や探索を行う人工知能です。2012年以降は「ディープランニング」と呼ばれる深層学習システムが開発されたことで、複雑な情報をより高度に分析できるようになりました。
世の中に存在するAIは、大きく4つのレベルに分けられています。
レベル1:単純な制御プログラム(遠隔操作をするリモコンなど)
レベル2:古典的なAI(ゴミを識別して自動吸引するロボット掃除機など)
レベル3:機械学習を使ったAI(気象情報から天気を予測するシステムなど)
レベル4:ディープランニングを使ったAI(翻訳アプリなど)
Society 5.0は、人が探索をしなくても必要な情報が提供される社会なので、高度なAIの活用が欠かせないでしょう。
あらゆるモノ・サービスをネット接続する「IoT」
IoT(Internet of Things)とは、あらゆるモノやサービスをインターネットに接続する技術です。身の回りのモノにIoTが導入されると、使用環境などのデータが収集・分析され、遠隔地から操作・制御することも可能になります。
分かりやすい例としては、外出先からスマートフォンで操作できる家電類があります。また、在庫状況やトラブルをリアルタイムで共有するなど、IoTは企業の生産現場にも導入されています。
スマートファクトリーにも活用される「ビッグデータ」
膨大なデータ群である「ビッグデータ(Big Data)」も、Society 5.0の実現には欠かせません。例えば、AIに高度なデータ分析をさせて、複雑な仕事をするロボットを製造するには、ビッグデータを活用して学習効率を上げる必要があります。
また、大量の顧客データから消費ニーズを把握したり、取得した映像から今の状況を判断したりなど、ビッグデータにもさまざまな活用方法があります。製造業でよく見られる「スマートファクトリー(※)」も、ビッグデータの分かりやすい事例です。
(※)すべての生産プロセスをデジタル技術によって最適化した工場のこと。
人の仕事を代行・サポートする「ロボット」
人に代わって仕事をするロボットは、すでに幅広い分野で活用されています。中でも産業用ロボットは、企業のモノづくりやサービスの提供方法を大きく変化させるものです。
垂直多関節ロボット:ロボットアームと呼ばれる、人の腕と似た動きをするロボット。
水平多関節ロボット:スカラロボットと呼ばれる、アームが水平方向に動くロボット。
パラレルリンクロボット:プレス加工でよく見られる、出力を1点に集中させるロボット。
直交ロボット:直線的な移動のみ行う、シンプルな構造のロボット。
最近ではロボット設計の自由度が高まっており、直交ロボットと多関節ロボットを組み合わせたものなども見られます。
データの高速化や大容量化を実現した「5G通信」
5G通信(5th Generation通信)は、高速化や大容量化を実現する新しい通信規格です。スマートフォンなどですでに実用化されており、ほかにも低遅延や多数同時接続、高い信頼性といった特徴があります。
ここまで紹介した技術と同じく、5G通信も多分野への導入が期待されています。
・自動車の自動運転
・あらゆる家電や設備をIoT化したスマートホーム
・VRやARなどを活用した映像技術
5G通信はIoTとの相性が良く、大量のデータを高速で送受信することにより、さまざまなモノづくりやサービスに利用できる可能性があります。
Society 5.0における産業別の先行事例
Society 5.0は、すでにモノづくり以外の業界でも実現が目指されています。食品や医療、交通など、身近な製品・サービスにも事例は少なくありません。
ここからは6つの産業に分けて、Society 5.0の先行事例や目指されている社会を見ていきましょう。
医療・介護分野──ひとり一人に寄り添った治療や支援
医療・介護分野では、ビッグデータの共有やAI解析、ロボットの導入といった先行事例があります。どのような社会が目指されているのか、いくつか例を見ていきましょう。
・医療ロボットの導入による現場の負担軽減
・ビッグデータ共有による最適医療の提供
・リアルタイムで受けられる自動健康診断
・生理計測データの取得による病気の早期発見
・ロボットが一人暮らしの高齢者をサポート
上記のような社会が実現すると、従事者の負担軽減によって人材不足が解消されたり、社会的なコストを削減できたりする可能性があります。また、高齢者の生活の質が向上することで、健康寿命の延伸効果も期待できるでしょう。
防災分野──高速な情報共有やロボットによる災害リスクの低減
地震や津波、洪水をはじめ、日本はさまざまな自然災害が起こりやすい国です。そのため、防災分野におけるSociety 5.0では、以下のような取り組みによって災害リスクを抑えることが期待されています。
・避難情報の高速共有により、安全な避難を確保
・ドローンの活用による救援物資の配送
・ロボットによる救助活動の迅速化
・事前対策による被害の軽減
・ビッグデータなどを活用した被災地の早期復興
防災分野にはすでに多くの情報収集ツールがあり、具体例としては人工衛星や気象レーダー、建物センサーなどが挙げられます。これらのツールで得た情報を最大限活用するために、高度なAIの誕生が目指されています。
食品分野──高度な市場分析による食品ロスやコストの削減
食品産業の課題としては、アレルギーの発症や食品ロスなどが挙げられます。Society 5.0が実現すると、食に関するあらゆる情報が共有・分析されるため、これらの課題は一気に解決するかもしれません。
・ビッグデータ分析により、個人の健康状態に合わせた食品を提案
・ひとり一人の嗜好に合わせたメニューの提案
・冷蔵庫情報の管理により、家庭の食品ロスを削減
・在庫や市場を分析することで、業界全体のムダを削減
ビッグデータやAIによる高度な市場分析が可能になると、顧客ニーズに合わせて食材を発注できるため、企業の食品ロスも改善されます。また、余計な仕入れコストや廃棄コストを抑えられるので、品質面やサービス面の向上も期待できるでしょう。
交通分野──移動のスムーズ化による渋滞・事故・温室効果ガスの削減
交通分野のSociety 5.0では、渋滞や事故を減らす社会が目指されています。すでに実現された先行事例も含めて、分かりやすい施策を見ていきましょう。
・AIによる自動走行で事故を防止
・カーシェアリング+公共交通機関で移動をスムーズ化
・自立型車いすによる高齢者や障がい者への移動支援
・天候データを活用した最適ルートの構築
上記のほか、交通分野では移動のスムーズ化による温室効果ガス(GHG)の削減や、観光スポットの提案による地域活性化といった効果も期待されています。また、高齢者や障がい者への支援が充実すると、本人や家族などの負担が軽減されるため、ひとり一人が充実した生活を送りやすくなるでしょう。
農業分野──超省力・高生産を目指したスマート農業
国内の農業は、深刻な人材不足や高齢化に悩まされています。従事者の平均年齢は70歳に迫りつつありますが、農業分野でもこれらの課題を解決するために、Society 5.0の実現が目指されています。
・ビッグデータ解析によるムダな生産の削減
・消費者ニーズに合わせた自動適時配送
・天候データやニーズをもとにした、農業計画の最適化
・ロボットによる作業の自動化や効率化
・生育データの自動収集や分析
Society 5.0による超省力・高生産な農業は、「スマート農業」と呼ばれています。スマート農業には、食料を安定生産する効果も期待できるため、食品分野にも良い影響が生じるでしょう。
エネルギー分野──発電や供給の効率化で、持続可能な社会やSDGsの実現を目指す
主要な原油生産国などに比べると、日本はエネルギー自給率がきわめて低い傾向にあります。2018年度時点の自給率は11.8%であり、ほとんどのエネルギー資源を輸入に頼っている状態です。
さまざまな産業に影響するリスクがあるため、エネルギー分野でもSociety 5.0への取り組みが進められています。
・気象データの活用により、エネルギーの地産地消をサポート
・エネルギーが不足している地域への迅速な供給
・ビッグデータ解析によるエネルギー需給の調整
・情報提供による各家庭の節電を促進
・太陽光発電や風力発電の最適な運用
エネルギー分野のSociety 5.0には、温室効果ガスの削減効果もあります。つまり、持続可能な社会やSDGsの実現につながるので、社会的意義の強い取り組みといえるでしょう。
Society 5.0で企業に求められるアクションプラン
国内の大手企業で構成される経団連は、Society 5.0で企業が変わるためのアクションプランとして、以下の3つを提唱しています。
- 産業の高付加価値化
- 産業の新陳代謝・構造変革の促進
- 組織の変革
具体的にどのような施策が求められるのか、ここからは各項目の詳細を解説します。
1.産業の高付加価値化
Society 5.0を実現するには、さまざまな企業が新たな価値を創造することが求められます。生まれた価値の増大も必要になるため、ひとり一人の従業員が積極的に活動をしなければなりません。
また、Society 5.0を後押しする概念としては、前述のSDGsもカギを握ります。世の中にあふれる課題やニーズに対応しながら、Society 5.0とSDGsの産業化に取り組むことが重要視されています。
2.産業の新陳代謝・構造変革の促進
産業の新陳代謝とは、分かりやすくいえばスタートアップ(新興企業)を立ち上げることです。既存産業で実現できることは限られるため、Society 5.0への持続的な活力を生み出すには、新規産業に目を向けなければなりません。
また、イノベーションの可能性を高める手段としては、「構造変革の促進」も挙げられています。具体的には、本社や主要事業から離れた組織の構築が有効とされているので、プロジェクトを推し進める体制の見直しも必要になるでしょう。
3.組織の変革
イノベーションを生み出し、新たな価値・ニーズに対応するためには、組織の多様化や若返りが必要です。従来のビジネス慣行や働き方に固執していると、社会の変化についていくことができません。
また、従業員全体でデジタル技術を活用する必要があるため、経団連は「AI-Ready化(※)」を企業のアクションプランに含めています。
(※)AIを活用しやすい組織につくり変えること。
Society 5.0はあらゆる産業構造を変える新しい社会
Society 5.0は、消費者の生活や企業の在り方を大きく変える概念です。SDGsとも深い関係があり、国内でもさまざまな企業が取り組みを進めています。
あらゆる産業構造を変革する可能性も秘めているため、成長や生き残りを目指す企業は最先端技術などにも目を通して、Society 5.0への理解を深めていきましょう。
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