近年ではクラウドサービスの活用が進んでおり、さまざまな企業が導入・活用しています。代表的なクラウドサービスの種類にはSaaS(サービスとしてのソフトウェア)、IaaS(サービスとしてのインフラ)、PaaS(サービスとしての基盤)などがあります。「aaS」は「~as a Service」を略したもので、日本語にすると「サービスとしての〜」という意味です。それらを総称するXaaSが注目を浴びており、SaaSのほか、さまざまなas a Serviceが登場しています。
現代の製造業は人材不足や技術継承などの課題を抱えており、デジタル化を進める必要性が問われています。その際に自社で用意するのではなく、クラウドサービスを利用して実現する手法がXaaSと言えるでしょう。
さらに、データ活用を推進することにより商品を生産するだけでなく、自社でもXaaSを提供できるようにビジネスが加速する可能性もあります。本コラムでは、XaaSについて解説します。XaaSの代表的な種類や製造業と関連が深いもの、製造業のサービス化が進む背景などについても触れるので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
XaaSとは
XaaSとは「X as a Service」の略であり「ザース」と呼びます。クラウド技術を活用したサービスには「as a Service」という概念があり、XaaSとはこれらの総称でもあります。冒頭の通り、XaaSにはさまざまな種類があり、代表的なものにはSaaS(Software as a Service)やIaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)などがあります。
これらは、物理的なサーバーを購入・所有してシステムを活用するのではなく、インターネット環境を通じてサービスを利用する形式がほとんどです。また、システムを買い切るのではなく、月額料金を支払うサブスクリプション型で利用するのが一般的です。
導入費用が抑えられることから、中小企業でも手軽にITシステムを活用できるため市場規模は拡大傾向にあります。また、サービスの利用者だけでなくシステムの提供側の選択肢も広がり、さまざまな形式で自社製品・サービスを提供できるようになっています。
XaaSの代表的な4つの種類
現在、XaaSにはさまざまな種類が登場しており、業界や業種によって適したものは異なります。その中でとくに製造業などのビジネスに関わりがあるものについて紹介します。
MaaS
MaaSとは「Mobility as a Service」や「Manufacturing as a Service」の略であり、XaaSの中でも製造業との関連性が深いです。
・Mobility as a Service
Mobility as a Serviceは「サービスとしての移動」という意味であり、自動車・バス・タクシー・飛行機などによる交通手段を組み合わせ、満足度の高い移動を実現する考え方です。
XaaSには個人所有から複数の利用者へ共有することにより、サービスの満足度を高める目的もあります。
Mobility as a Serviceでは、カーシェアサービスやアプリによる情報提供などにより、効率良い移動を実現できます。例えば、アプリに目的を入力することにより、移動手段や料金を検索でき支払いまで完結できるようなサービスがあります。
・Manufacturing as a Service
Manufacturing as a Serviceは「サービスとしての製造」という意味です。基本的に製造業は商品を生産して提供することが役割ですが、アフターサービスの充実や商品のレンタルという形でも満足度を高められます。近年では、AIやIoT、クラウド技術が発展してきていることもあり、製造業でもさまざまなサービスを提供できる環境が整っています。
例えば、製品にIoTデバイスを組み込むことで、使用期間や消耗しているパーツのデータを取得でき、適切なタイミングでメンテナンスや買い替えに必要な情報を提供できます。このように製造業がMaaSに取り組むことで、ビジネスの幅が広がったり顧客の満足度が高まったりします。
RaaS
RaaSとは「Robotics as a Service」や「Retail as a Service」の略です。
・Robotics as a Service
Robotics as a Serviceは「ロボットのサービス化」という意味であり、ロボットを活用した新しいサービスの提供形態のことです。基本的にロボットや制御システムをクラウドサービスとして提供し、利用者側は必要なものを必要な分だけ利用できます。
今まではロボットの技術を活用する際の初期費用が大きいことから、利用は設備投資できる体力のある企業に限定されていました。そこでRobotics as a Serviceでは、クラウド環境を活用し必要な量だけを使用できるためコストを大幅に抑えられます。
これは、すでにクラウド環境上にロボットなどのサービスが用意されているためで、利用者は自社でロボットや制御システムを構築する必要はありません。ロボットはとくに人材不足の企業のニーズが高く、課題を解決する有効な手法として注目を集めています。
・Retail as a Service
Retail as a Serviceは「小売りのサービス化」のことです。主に、企業がこれまでに蓄積した顧客情報・ノウハウを活用し、サービスとして提供します。現在では、インターネットの発達に伴い顧客の消費者行動が多様化しています。そこで、Retail as a Serviceを活用することにより、ビジネスの幅を広げられサービス提供の選択肢が増えるでしょう。
このRetail as a Serviceでは、中間流通を介さずに商品を販売できたり、商品の体験型ストアを展開できたりできます。そのため、活用方法によっては売り上げの増加や、商品の認知度アップを実現できるでしょう。
BaaS
BaaSには「Banking as a Service」「Backend as a Service」「Blockchain as a Service」など業界によっていくつかのサービスがあります。
・Banking as a Service
Banking as a Serviceは「サービス化としての銀行機能」という意味であり、銀行が提供している機能・サービスを、自社のサービスに組み込み利用できる環境を提供します。
これまでは、銀行をはじめとした金融機関以外の企業による、決済・送金・融資といったサービスの提供は困難でした。そこで、アプリケーションを利用し銀行のシステムと繋げることにより、金融サービスを自社のサービスの一部として提供できるようになります。
・Backend as a Servic
Backend as a Serviceは、主にWebアプリやモバイルアプリなどのバックエンド環境をサーバー側で代行するクラウドサービスです。Webサービスを提供する際には、データの処理・保存・計算・変換といったバックエンド処理が必要です。Backend as a Serviceでは、このようなバックエンドの処理を代行してもらえるため、コストを抑え効率良く環境を構築できます。
BaaSのうち、近年、新しく登場したもの中にはBlockchain as a Serviceがあります。これは、ブロックチェーンを活用したサービスを開発するとき、基盤の設備・環境を補完するクラウドサービスのことです。ブロックチェーンは暗号化技術や改ざん防止機能が高いですが、その環境を構築する難易度は高いです。
そこでBlockchain as a Serviceを活用することにより、ブロックチェーン技術を活用したサービスを提供しやすくなります。
製造業におけるデータ活用の必要性
製造業では、多くの企業で人手不足や技術・技能の伝承が課題になっています。また、近年ではさまざまな企業がDXを推進していることもあり、IT技術やクラウドサービスの利用が盛んになっているでしょう。
社内に散在しているデータを有効活用することで、生産プロセスの一部を自動化・効率化でき、人手不足を解消する可能性があります。また、熟練の従業員の技術もAIやIoTなどのITシステムを活用することにより、効果的に継承できる可能性があるでしょう。
とくにこれらの問題は、大企業と比較すると資金力・従業員数が劣る中小企業で深刻化しており、ITシステムやデータ活用が遅れている傾向にあります。
製造業におけるデータ活用の課題
クラウドサービスを利用しデータ活用を進める企業は増えているものの、課題を抱える企業も多いです。自社のデータ活用を進めるためにも、どのようなことが課題に挙がっているかを押さえましょう。ここでは、製造業におけるデータ活用の課題について解説します。
データ活用の運用体制にコストがかかる
製造業ではセキュリティ面の懸念から、オフラインの環境でオンプレミスのシステムを構築し、データを管理している企業は少なくありません。オンプレミスのシステムでは、全て自社で管理する必要があり、保守・運用の担当者を用意する必要があります。サーバーの管理に人件費などのコストがかかり、高額になりやすいです。
データを効率良く収集できない
オフラインやオンプレミスのシステムを活用している場合、それぞれの部門ごとにデータを管理しています。必要なデータを一元管理するのが難しく、スムーズに共有する環境を構築するのも手間がかかるでしょう。
製造業の中でも規模が大きく、グループ会社や協力会社が多い場合、それらのデータが散在していれば収集に苦労します。データ活用を進めるためには、関連している企業のデータを効率良く収集する環境が必要です。
管理できるデータ量に限界がある
データ活用しビジネスを改善するためには、膨大な量のデータが必要になります。反対にいえば、データ量が多ければビジネスを改善しやすくなるでしょう。しかし、オンプレミス環境では、システムを構築した際のデータ容量が限界を迎えると、データの削除や保存容量の拡張を行わなければなりません。
日々の収集するデータ量が多いと、それを管理・整理する必要があるため業務負担は増加するでしょう。そのため、データを蓄積するためには保存容量を自由に増やせるような、柔軟性も求められます。
製造業がクラウドサービスを利用するメリット
XaaSにはさまざまな種類があり、製造業が利用することでメリットを得られるもの、提供サービスとしてビジネスの幅を広げるものがあります。ここでは、製造業がXaaSといったクラウドサービスを利用するメリットについて解説します。
インターネット環境があれば利用可能
クラウドサービスは、インターネット環境があれば場所を選ばずに利用できます。そのため、工場などの生産設備を複数持つ製造業であれば、1つのサービスをさまざまな拠点でも使用できます。クラウドサービスによりデータを共有できる体制を構築すれば、自宅でも仕事ができるテレワーク環境も整備できます。
他にもIoT機器を利用することにより、外部のデータも収集可能です。工場の生産設備におけるデータを収集・分析することにより、プロセスを可視化・改善し品質を高められるでしょう。
蓄積したデータを共有・活用しやすい
クラウドサービスでは、利用開始から蓄積したデータを手軽に共有・検索できます。オンプレミスでファイルサーバーを構築している場合、工場や部門ごとにデータが分散していることが多く、必要な情報を横断的に検索することが難しいです。
その点、クラウドサービスを利用していれば、必要に応じて使用するデータ量を調節しやすく、デバイスやネットワークに関係なく使用できます。データは全てサービス提供元で管理されることから、分散しにくく活用しやすいです。今までデータを有効活用できなかった企業にもメリットがあるでしょう。
低コストで利用可能
クラウドサービスは自社にサーバーを構築するオンプレミスよりも、初期費用が安くランニングコストもかかりにくいです。オンプレミスの場合、構築するためにはサーバーを購入する費用だけでなく、システムを組むエンジニアの人件費も必要です。さらに、自社でシステムを管理するための保守費用も必要になるでしょう。
このように、オンプレミスの場合は想定される費用が大きくなりやすいことから、導入を断念する企業は少なくありません。その点、クラウドサービスであれば既に構築されているシステムを、インターネットを介して利用するため、初期費用を抑えやすいです。
さらに、初期費用を抑えられるだけでなく、一定期間のみお試しで利用することも可能です。契約期間が決まったサブスクリプション形式であるため、小規模で試してみてから本格的に導入することもできるでしょう。ただし、月額コストはユーザー単位で発生するため、利用する従業員が多いと高額になる可能性があります。
製造業のサービス化が進む背景
近年では、製造業がXaaSを活用することでビジネスの幅を広げる動きが見られています。主な要因は、製造業の競争力が高まったことです。製造した商品を販売するだけでは、グローバルな世界における競争優位性が保ちにくくなりました。
また、これまでの製造業のような大量生産が中心の体制は、価格競争の激化にも繋がります。そこで、XaaSを取り入れてサービスを提供することにより、自社のビジネスの幅を広げられるでしょう。
消費者の価値観の変化
時代の流れに伴い消費者の価値観は変化してきています。従来までは、商品を自身が購入し所有することを重視する「モノ消費」の時代でしたが、近年では「コト消費」へと変化してきました。コト消費とは、商品やサービスの使用価値や使用した際の経験を価値として感じることです。
製造業のサービス化は、サービス要素を絡めた商品を顧客に販売するビジネスモデルであるため、製造業のサービス化により商品自体の付加価値を高め、コト消費のニーズを満たすことが可能になります。新しい顧客体験を創出できれば、ビジネスとして大きな競争力になり得るでしょう。
また、製造業のサービス化には顧客との接点の増加や、顧客の囲い込みが可能になる点が大きなメリットです。商品を購入した顧客との関係を維持し、継続してサービスを提供できるため、顧客生涯価値(LTV)を最大化できる点も魅力といえるでしょう。
サービス化を実現するためには
製造業のサービス化を実現するためには、データ活用を有効活用することが有効です。XaaSの中でどのビジネスモデルが該当するのかによっても異なりますが、いずれのケースでもデータを収集・蓄積・分析することにより、現状よりも業務効率のアップや新しいサービスの創出を実現しやすいです。
そのためにも、製造に関する受発注や生産、販売などのデータを管理できるようにデジタル化を進める必要があるでしょう。また、社内のシステムを連携することで、効率良くデータを収集する体制も求められます。データを可視化し分析できるような状態になれば、現状の課題点や改善点が見えやすくなるでしょう。
このように効率良くデータ活用を実施できる環境であれば、製品のサービス化を考える際に得られる売り上げやコストを算出しやすくなります。
クラウドサービス・XaaSを有効活用しよう
XaaSは、クラウド技術を活用したサービスである「as a Service」という概念の総称です。製造業の場合、これらを自社に導入することにより、生産プロセスや業務の効率化・自動化を実現できます。さらに、収集したデータを分析するなど活用することにより、新しいビジネスの創出にもつながるでしょう。
実際に、製造業のサービス化もXaaSの概念の1つであり、「商品を生産して販売する」だけでなく、顧客に継続的なサービスの提供が可能になります。そのため、XaaSといった自社に適したビジネスモデルを構築することにより、売り上げアップや顧客満足度の上昇を実現できるでしょう。
このような体制を実現するためにも、まずはクラウドサービスを活用し生産プロセスなどの業務をデジタル化するなど、データ活用が可能になる体制を築きましょう。
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