現代社会における企業経営においてイノベーションの重要性は、ますます高まっています。しかし独創的なアイデアを生み出すことは容易ではありません。そこで注目されているのが「TRIZ(Theory of Inventive Problem Solving):発明的問題解決理論」です。
TRIZとは、過去の発明事例の法則性を膨大なデータを用いて解析し、理論としてフレームワークに落とし込んだ革新的なアイデアを生み出すための体系化された思考法のことです。本記事では、TRIZの概要や歴史、その内容と優秀さ、具体的な問題解決の手順について詳しく解説します。
目次
TRIZとは?発明的問題解決理論の意味と歴史
はじめにTRIZの意味と歴史について解説します。
TRIZの意味
TRIZ(読み方:トリーズまたはトゥリーズ)とは、旧ソ連(現ロシア)で生まれた「発明的問題解決理論」という意味の体系化された発想支援手法です。ロシア語の表記は“Теория Решения Изобретательских Задач”です。
ロシア語表記 | 読み方 | 意味 | 英語訳 |
---|---|---|---|
Теория | ティオリア | 理論 | Theory |
Решения | リシェニア | 解決 | Solving |
Изобретательских | イズブレタチェルスキフ | 発明 | Inventive |
Задач | ザダチェ | 問題 | Problem |
ロシア語の頭文字を並べると“ТРИЗ”です。これを発音し、英語のアルファベットで表記すると“TRIZ”となります。英語で同じ意味になるよう表記すると“Theory of Inventive Problem Solving”です。頭文字をつなげてもTRIZとはなりません。そのため英語でこの発想法は“TIPS”という名称で呼ばれています。一般的に日本語では「発明的問題解決理論」と訳されます。
TRIZの誕生の経緯
TRIZは、1950年代に旧ソ連海軍の特許審査官だったゲンリッヒ・アルトシューラー(Genrich Altshuller)によって作られたものです。特許審査官として日々、画期的な発明や特許に触れ審査していたアルトシューラーは、やがて以下の2つのことに気づきます。
「分野が違っていても、問題解決の手法には共通要素がある」
「ある分野で新たに解決された問題のうち、9割は、ほかの分野で既に解決されている」
アルトシューラーは、審査に回される何千件という特許から発明の共通要素を抽出し、法則化してTRIZと名づけました。そして最終的に「問題解決プロセスの一般化」にたどり着き、作られたのが「40の発明原理」です。これは、世の中に膨大に存在する「具体的な問題と、その解決策」を40の一般的な原理(パターン)に落とし込んだものです。
通常、問題解決のためにはその問題に対する知識や解決の経験が必要ですが、ない場合は試行錯誤したり、ほかの人たちと協力したり、一から調べたりして進めていくため、時間がかかります。TRIZでは、問題となっているものを40の発明原理を使って組み合わせることで、問題解決のためのヒントを得ることが可能になります。
TRIZの日本での広がり
TRIZは、1990年代に日本でブームになったあと、いったん衰退しています。衰退した理由は、日本に伝わった当時のTRIZが米国TRIZをもとに開発されたソフトウェアが中心だったからと考えられます。TRIZの本来の思考プロセス自体は、一部しか伝わっておらず「ソフトを導入しさえすれば問題解決できる」という安易な期待で導入した企業も多かったため、「使えない」となって廃れてしまったようです。
その後、あらためて本来のTRIZの理論が紹介されるようになって理解や研究が進み、日本独自の活用法も考案され現在は、さまざまな企業や組織などで活用されています。
TRIZの特徴・他の発想手法との違いと優れている点
ここでは、TRIZがほかの創造的手法や理論と異なる点について解説します。
TRIZは200万件以上の事実や事例から導かれた理論
世の中には、さまざまな発想技法や創造技法がありますが、TRIZはほかの技法と大きく異なります。TRIZは、世の中に出た時点ですでに膨大な数のサンプル(特許という形の)を用いた「立てた仮説に対する定量的検証」が完了していました。
多くの場合、ある新しい創造技法やその理論は提唱者の主観や仮説で成り立っているため、世の中に出た時点で仮説段階のものが多いかもしれません。そのため実際にその技法を使って得られる結果は、「世に出たあとに」検証数(サンプル)が増えていくことになります。つまり改良が加えられたり、そもそも理論が間違っていたりする結論になるものもあるわけです。
しかしTRIZの問題解決理論は、世に出た時点ですでに200万件以上のデータを精査し解析して成立していました。高性能パソコンもAIもない時代に人の手だけを用いてやり遂げたことからも、やり遂げられた成果の功績と信頼性が理解できるのではないでしょうか。これは、アルトシューラーだけの実績ではなく多くの弟子たちが賛同して検証作業を引き継いだからこそなしえたものといえるでしょう。
TRIZは旧ソ連の技術力を支えたと言われる理論
この優れた手法が近年までほとんど知られていなかった理由は、東西冷戦にあります。当時、現在のロシアがソ連だったころ、TRIZは西側諸国に門外不出とされていました。当時のソ連は、西側諸国と比較してデータ解析やコンピューターの能力では劣っていましたが高い技術力を持っていました。その飛躍の陰に、このTRIZがあったのではないかという意見もあります。
TRIZは、ベルリンの壁が崩れた翌年の1990年以降、世界へ流出し大きなインパクトを与えたといわれます。特に米国においてコンピューター技術との融合により大きく発展しました。日本には、米国経由で1996年ごろに「発明的問題解決理論」として紹介されて現在に至ります。
TRIZでの問題解決に必要な「矛盾マトリクス」と「特性パラメーター」
TRIZでは、私たちが何か解決したいと思う「問題」を抱えているとき、「それは矛盾した2つ以上のことが同時に存在するから」と考えます。どちらかを優先するともう一つが成り立たなくなるような状況です。TRIZでは、この同時に成立しない関係にある悩みのもとを「特性パラメーター」と呼びます。
TRIZで問題解決のために体系立てられた40の発明原理のうち、自分の問題にどれが有効なのかを探すときは、39×39の巨大な「矛盾マトリクス」と呼ばれる表を用います。それぞれの縦軸と横軸の特性パラメーターが交差するセルを参照すれば有効な発明原理(解決方法)が書かれているという仕組みです。
前述したようにアルトシューラーは「分野が違っていても問題解決の手法には共通要素がある」ことを仮説として立て、膨大なデータで実証し体系立てました。そのエッセンスが「矛盾マトリクス」に総括されています。
【図】矛盾マトリクスの一例
TRIZの問題解決の具体的な手順
ここでは、TRIZの基本的な問題解決の手順について解説します。
①「問題」を具体的にする
まずは、問題となっている事柄を具体的にし、記述します。
②矛盾する1組の(2つの)「悩みのもと」を抽出する
何と何が矛盾して問題となっているのかを明確にします。
③矛盾マトリクスのなかの特性パラメーターに当てはめる
縦軸と横軸から自分の矛盾している2つのもので当てはまるものを探します。
④矛盾マトリクスの交差するセルを参照する
③で見つけた2つの交差するセルを参照します。
⑤発明原理をヒントに問題を解決する
④のセルに書かれている発明原理の番号が、問題を解決するためのヒントです。発明原理の一覧を参照かつ参考にして問題解決を行います。
この流れのなかで最も難しいのは「特性パラメーターのどれに自分の悩みのもとが当てはまるのか」といったことです。また発明原理の一覧は、関連書籍や専門家のセミナーなどで手に入ります。それぞれの特性パラメーターの内容が詳しく解説されているため、実際に手に取ったり、参加したりして行ってみてください。
TRIZ以外の創造技法
ここでは、想像力を鍛える発想方法としてTRIZ以外の創造技法・フレームワークを紹介し、それぞれの概要を簡単に解説します。
オズボーンのチェックリスト(オズボーンの9分類73質問)
オズボーンのチェックリストとは、あらかじめ用意された9つの視点(「転用」「応用」「変更」「拡大」「縮小」「代用」「再配置」「逆転」「結合」)による質問項目に応える形でアイデアを生み出す発想法、フレームワークです。オズボーンのチェックリストは、ブレインストーミングの考案者であるA.F.オズボーン氏により考案されたアイデア抽出手法。
自由な発想法のブレインストーミングと異なり、最初から視点(質問)が用意されているため、発想のヒントにすることができます。「自由すぎるとどのようにアイデアを出すための取りかかりをつかめばいいかわからない」という人には、ブレインストーミングよりオズボーンのチェックリストのほうが向いているかもしれません。
マンダラート
マンダラートとは、マス目のなかにアイデアを書き込んで思考を整理する技法です。マンダラートは、9×9の81マスを作成して使用します。名称の由来は、その形状が仏教の曼荼羅模様に似ていることから名づけられました。
マンダラートは、目標達成のための思考整理のほか、ビジネスのアイデア出しにも使えます。例えば目標達成に用いていたことで有名なのは、メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手。高校時代にマンダラートを作成し、目標達成に必要なことを明確にしていたそうです。
使い方は、ビジネスでアイデア出しに活用する場合も同じです。最初に中央のマス目にメインテーマを書き込み、その周りの8マスにテーマから連想されることを書き込みます。その後、中央の9マスを囲む8つの9×9マスの中央に連想されることを書き写し、さらにその周りに連想されることを書き込みます。
用意された81のマス目を埋めることはなかなか大変ですが、無理にでも発想し考えて埋めることで固定観念を払拭できるでしょう。これまで思いつけなかった新しい発想が出てくる可能性があります。
SWOT分析
主に企業や事業において、現状を把握するために使用するフレームワークです。企業や事業に影響を与えるものを内部環境の「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」、外部環境の「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」に分け、それぞれに内部と外部、強みと弱みで掛け合わせて4種類の戦略を導き出します。
目的を最初にしっかりと設定し、自社や事業の良い点から問題点までを冷静に俯瞰することで課題が見つかり、改善策と戦略を立てることに役立ちます。
まとめ
本記事では、TRIZにおける定義や歴史、優れている点、具体的な問題解決方法に至るための手順について解説しました。TRIZは、膨大なデータとその分析に裏打ちされた信頼性の高い、体系立てられた科学的思考支援ツールです。その使い方を理解し活用することで、多くの問題は解決方法にたどり着けるとされています。TRIZを理解し、業務や自分自身の悩み、問題の解決に役立ててください。
(参考資料・文献)
NPO法人 日本TRIZ協会
「特許情報の大量分析から生まれた「TRIZ」」,大阪市立科学館,ソニー㈱ 永瀬 徳美,『月間うちゅう』2019年9月号,p.4-p.11
「トリーズ(TRIZ)の発明原理40 あらゆる問題解決に使える[科学的]思考支援ツール トリーズ(TRIZ)の発明原理40」,高木芳徳,ディスカヴァー・トゥエンティワン (2016/11/25)
「TRIZ とは―その考え方と主な技法・ツール」,澤口 学,早稲田大学 理工学術院,大阪学院大学,標準化と品質管理 Vol.66 No.2
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