TQMとは?全社的品質マネジメントにおける意味とTQCとの違い

TQM(Total Quality Management:全社的品質マネジメント)とは、顧客満足を追求するため、全社員が自社製品の品質に対する意識を共有することで継続的に品質を改善していくマネジメント手法のことです。TQMは、製品やサービス品質改善のPDCAサイクルだけでなく顧客満足度の向上やコスト削減、組織全体の活性化など幅広い取り組みを行いながら目標を実現します。

本記事では、TQMの定義と概要、TQCとの違いとメリット、導入を成功させるための手順について詳しく解説します。

目次

  1. TQMとは?TQMの定義・品質の定義
  2. TQMの目的
  3. TQMとTQCの違い
  4. TQMの手法|活動の進め方
  5. まとめ

TQMとは?TQMの定義・品質の定義

はじめにTQMの定義とその目的について解説します。

TQMの定義

TQMとは「Total Quality Management」の略で和訳すると「全社的品質マネジメント」「総合的品質マネジメント」などと呼ばれています。企業活動において品質の維持向上を図るための考え方や取り組み方を体系化したものです。以下は独立行政法人国際協力機構(JICA)による定義です。

TQMは“Total Quality Management”の略で、日本科学技術連盟(日科技連)のTQM委員会
では「総合質経営」としてTQCとの差を示している(略)、一般的にはTQMという呼称が定着している。品質管理(QC)が製造現場における品質管理、つまり製品単体の品質向上を目指していたのに対し、顧客の要求が品質を決めるとの認識から、総合的な品質管理(TQC)の概念が生まれた。つまり品質は製品固有のものではなく、企業のすべての部門の活動が最終的な製品の品質を決めるという認識である。

(引用)独立行政法人 国際協力機構(JICA)資料:TQMとは

TQMは、製品やサービスの品質だけでなく組織全体の運営や従業員の働き方、さらには企業価値そのものなど、あらゆる側面にわたって品質向上を目指します。TQMのもとになった概念に「TQC(Total Quality Control:全社的品質管理。同じ日本語訳になることもある)」があります。

ManagementとControlは、どちらも日本語では「管理」と訳すことができるため、TQMでは「マネジメント」とカタカナで表記したり、意訳して「品質管理経営」としたりする場合もあります(これについてはTQMの歴史、TQMとTQCの違いに関する項目で後述します)。

TQMにおける品質とは何を指すか

品質は顧客によって求められるものが異なる
「品質」の内容は、求める人(顧客)の要求によって異なります。例えばスマートフォンの品質について考えてみると、ある人は“カメラ性能”に着目し、“その質が良いか”に注目するかもしれません。またある人は“軽さ”を、またある人は“画面の大きさ”を、さらに別の人は“操作のしやすさ”を求めるかもしれません。なかには“全体の性能とコストのバランス”を見る人もいるでしょう。

このような場合「品質」は、標準化されたものではありません。Aというスマートフォンの品質向上を検討するとき顧客が求めていない部分の性能を高めても顧客満足度にはつながらないことになります。そのため個別の製品やサービスの顧客満足度を高めるには、まず「顧客がその製品やサービスの品質のどの部分を求めているのか」について情報を集め分析することが必要です。

世界基準の品質管理基準
個々に「品質」の受け取り方が異なるケースがある一方、世界基準で同じレベルのものを求める考えもあります。ISO9001は、ある製品やサービスに関して世界中で同じ品質のものを提供できるようにする国際基準です。例えば私たちが日常使うカードのサイズ(ISO/IEC 7810)は、国際基準により統一された規格のものです。

また製品やサービスそのものではなく品質マネジメントシステム(組織の活動の品質をそれぞれの分野において管理する仕組み)への国際基準もあります。

TQMの歴史

TQMの概念の提唱者は、Crosby(1979)とされ、QC(Quality Control:品質管理)が源流といわれています。QCは1930年代、米国で製造業を中心に始まったもので統計的手法を用いて「成果物(製品など)」を「評価」するためのものでした。その後QCは、プロセスの改善を行って品質向上につなげることに重点を置かれるようになります。

その後、QCをベースにFeigenbaum(1961)によってTQCが提唱され、1960年ごろから日本企業に導入されるようになりました。米国でのTQCはあくまでも品質とプロセスの管理にとどまりますが、日本のTQCは、携わる従業員などのモチベーションを高める取り組みなども含み、この点で米国のものとは異なります。

やがてTQCは、米国で再構築されTQM(total quality management)と呼ばれる品質管理にとどまらない経営手法として広がっています。日本でもTQCの再構築や「Control」の意味合いについての協議が進み、企業活動全体を視野に入れた「Management」に置き換えが広がり、1996年に日本科学技術連盟はTQCをTQMに名称変更するとしました。

TQMのメリット

TQMには、導入により以下のようなメリットが期待できます。

TQMのメリット
  • 企業目標の達成(利益を上げる など)
  • 企業価値の向上
  • 生産性の向上
  • 生産品と生産管理体制の品質向上
  • 品質管理マネジメント体制の確立
  • 生産プロセスの効率化
  • コスト削減
  • 従業員の意識改革とモチベーション向上がかなう
  • 顧客満足度の向上 など

TQMの目的

TQMの目的は、大きく分けて以下の2つに集約されます。

品質改善を行い「顧客満足度を向上させる」こと

顧客が求める品質とは何かを理解し、製品やサービスを改善することで顧客満足度を高めることが可能です。不良品・不良サービスを減らし、顧客からのクレームや返品を防止することもできます。また高品質な製品やサービスを提供することで顧客との信頼関係を築き、長期的な顧客獲得を目指します。

品質向上・管理を「全社で取り組み進める」こと

役職や部門関係なく社員全員が製品・サービス、またそれを扱うシステムなどすべてにおける品質向上に関心を持ち自らの仕事に責任を持つことを促します。そのため組織全体の連携強化が必要です。品質向上に関するデータを収集・分析し、PDCAサイクルを回すことで常に改善活動を続けていきます。

なお目的の2つ目(品質向上と管理を全社で取り組むこと)については、後述するTQCもほぼ同じといえます。

企業・組織自体の価値を高めること

近年は、製造ラインやサービスの提供におけるロスの削減やコストの低減、品質と価格のバランスをとるなど多くの企業が工夫し改善に取り組んでいます。さらに企業や組織は、SDGsやサステナビリティの観点から社会全体の利益となる活動を行うなど企業・組織自体の価値の評価も求められている傾向です。TQMを取り入れることで全社的に改善が進み、企業・組織の品質・価値を高めることが期待できます。

TQMとTQCの違い

TQCは“Total Quality Control”の略称です。和訳すると「総合的品質管理」「全社的品質管理」などと訳されます。TQMとTQCは、どちらも和訳では同じになるケースがあるものの両者の内容には違いがあります。

TQCとは

TQCは、その企業・組織において統一した「品質管理目標」を設定し、その水準を維持できるように取り組むものです。主に製造業(建築なども含む生産関連業)で導入されています。

TQMとTQCの違い

対象となる業種の範囲の違い
TQMとTQCは、主にその手法が使われる業種の範囲が異なるケースが多い傾向です。TQCが製造業中心に導入されるのに対し、TQMは製造業だけでなく医療、介護や福祉など「人」を対象にしたサービス業も含み、幅広い業種をカバーできるマネジメント手法となっています。

目的の違い
TQCの目的は、品質自体の管理と品質を管理するプロセスそのものを全社的に同じ高いレベルで維持することです。一つの製品の企画設計段階から販売後のアフターサービスまでプロダクトライフサイクル全体の一貫した品質保持を目的としています。製品やサービスの品質を安定的に維持し、向上させることで製造工程における不良品を減らし「製品に対する」信頼を高めることを目指しています。

一方、TQMの最終的な目的は、業務・経営・製品やサービスを含む「企業全体」の品質向上による「顧客満足度の向上」です。

製品やサービスを購入してもらったときの満足度を上げるだけでなく最終的に「企業そのもの」への評価を高めてもらい、さらに新しい製品やサービスを選んでもらえる(リピーターとなってもらえる)仕組みをつくること、製品やサービスの品質にとどまらない統合的な品質向上が目的です。

経営(マネジメント)か、管理(コントロール)かの違い
前述のとおり、両者の違いは「マネジメント(経営)か」「コントロール(管理)か」といえます。TQCは、製造業や建築など「生産」に関する業種での品質管理を全社的に全プロセスで総合的に行うものです。一つの部門だけが取り組むのではなく現場作業を行う者や現場監督者、設計者、経営者など全員で標準化されたブレのない品質とプロセスを管理します。

一方で、その管理はあくまでも「製品・サービスの品質の担保」にとどまります。TQMは、顧客の求める品質の製品を市場に出し、顧客満足度を高めるための「経営手法」と考えることができるでしょう。製品やサービスの種類が同じでも顧客によって「品質」のとらえ方が異なることは、前述したとおりです。

「企業が良いと思ったもの」「売りたいもの」「企業の技術や思想に合わせた商品」は、プロダクトアウトと呼ばれます。顧客ニーズに合ったものは、マーケットインと呼ばれ「顧客ありきの戦略」といえるでしょう。現代において企業や経営者には、マーケットインの視点が求められる傾向があり、顧客のほしいと思うもの、かつ品質の高いものを提供することが企業の強みになります。

顧客満足度を高めるために「何をつくり、どのように提供し、どのように品質を維持管理するか」という統合的な視点が必要となるのがTQMといえるでしょう。現在は「総合的品質管理」「全社的品質マネジメント」と日本語で示す場合は、TQMを指すことが多く品質管理の一般的な表現としてTQMが定着しているといえます。

TQMの手法|活動の進め方

ここでは、TQMを用いて活動を進め、実際に品質を向上させる流れ(QCストーリーといいます)について解説します。品質問題解決のためにTQM活動を進める場合、QCサークル活動と呼ばれる、小規模グループでの活動が一般的です。なおここで取り上げた方法は問題解決型アプローチと呼ばれるものです(ほかに課題達成型QCストーリーもあります)。

(1)テーマの選定

解決すべき問題をテーマとして選びます。理想とすべき姿と現状、現実とのギャップを埋めるようなテーマを選びましょう。

(2)テーマを取り上げた理由の明確化

なぜそのテーマを取り上げたのか、理由を明確化し共有化できるようにします。そうすることでテーマの重要度がわかり、より重要なもの緊急性の高いものから取り扱えるようになります。テーマ選定を誤ると従業員のモチベーションが下がるなどの悪影響もあり得るため、現場の担当者などからヒアリングし解決が現実的な実際に落とし込めるテーマを選びます。

この時点で客観的なデータが現場で得られれば、それも準備しておくとよいでしょう。

(3)現状の把握

問題の現状を詳細に把握します。現物の観察やデータ測定などは、このステップで基本的に行います。

(4)原因の解明

上記で得られたデータ測定結果や分析結果などを用いて問題が起きている原因を解明します。このとき用いられる手法としては「QC7つ道具」などがあります。

【QC7つ道具】
①グラフ/管理図
②パレート図
③チェックシート
④ヒストグラム
⑤散布図
⑥層別
⑦特性要因図

(5)対策

原因に対する対策を実施します。再発防止のための方策を考えたり、成功例があれば別の製品やサービスにも応用できないか(水平化)も確認したりします。これは、QCサークルの全員で行うため、コミュニケーションをしっかりとりながら進めましょう。

(6)効果の確認

実際に行った対策に効果が出ているか、確認します。効果が不十分な場合は、問題の原因究明まで戻ってやり直します。

(7)標準化

対策後、時間が経過してしまうと、なぜその対策を行ったのかの記憶が全体から忘れられてしまうおそれがあります。現場で習慣化させるためにも標準化を進め(マニュアルなどの策定)、周知徹底を全社的に行いましょう。

(8)反省と今後の計画、反復

問題解決での失敗や悪影響などを記録して反省と修正を行います。以降は、この流れを繰り返します。また必要に応じて研修なども行います。

まとめ

本記事では、TQMについて定義や歴史、TQCとの関連と違い、具体的なTQMの進め方を解説しました。また「そもそも品質とは何を指すのか」という品質の定義についても考察しています。TQMは、企業が製品やサービスの品質を向上させ顧客満足度を高めるための経営手法です。

また品質管理を製造工程だけでなく企業活動のあらゆる側面に広げ、組織全体で品質向上に取り組み、企業の価値そのものを高めることを目指します。TQMは、TQCをもとに発展したマネジメント理論ですが、より範囲が広く組織全体のマネジメントまで含む点が特徴です。

TQMを導入することで企業は競争力を高め、持続的な成長を実現することが期待できるでしょう。

(参考)
日本科学技術連盟:品質経営(顧客価値創造・TQM)
国立研究開発法人 科学技術振興機構(JREC):全社的品質管理(TQM)

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