ステージゲート法とは?新規事業開発の成功確率を高めるフレームワーク

近年の市場環境の変化により企業にとって新規事業開発の成功は、ますます重要になっています。しかし多くの新規事業開発プロジェクトは、成功に至るまでに多額の費用と時間を浪費してしまうのが現状です。そこで注目されているのが「ステージゲート法」と呼ばれる新規事業開発のフレームワークです。

ステージゲート法は、アイデア創出から市場投入までを複数の段階に分け各段階に明確な評価基準を設けることで開発プロセスの効率化と意思決定の迅速化を図る手法です。本記事では、ステージゲート法の概要や具体的なステップ、導入のメリットとデメリット、デザインレビューとの違い、成功事例などについて詳しく解説します。

目次

  1. ステージゲート法とは
  2. ステージゲート法の目的
  3. ステージゲート法とデザインレビュー(DR)の違い
  4. ステージゲート法のメリット
  5. ステージゲート法のデメリットとそれを生む誤解
  6. ステージゲート法を導入する場合の注意点
  7. ステージゲート法の評価ポイントと評価方法
  8. ステージゲート法の具体的なステージ・各ステージで行うこと、ゲートの項目
  9. まとめ

ステージゲート法とは

はじめにステージゲート法の定義や概要、特徴について解説します。

ステージゲート法の定義

ステージゲート法とは、新規事業や新製品開発などにおいて、アイデアの創出から市場投入までのプロセス全体を複数の段階(ステージと呼ぶ。多くは5〜6段階)に分けて管理(マネジメント)するフレームワークです。

各ゲートでは、商業化成功に必要な要件(実現可能性、収益性など)があり、通過の際に要件に従ってチェックを行い、次のステージへ進むか、中止するかを決定します。次の段階に進むには、そのステージで目標とする要件をクリアし各段階の最後に設けられた「ゲート」を通過することが必要です。すべてのゲートを通過しなければ商品化や事業の実現には至りません。

【図1】ステージゲート法と各ゲート

ステージゲート法は、成功確率の低い製品開発を見極めて無駄な資源の投入を防ぎ、より成功確率の高いプロジェクトに集中することができる、また製品開発を効率的かつイノベーティブに行う手法です。

ステージゲート法の歴史

ステージゲート法は、1986年にマックマスター大学(カナダ)のロバート・G・クーパー(Robert G. Cooper)教授によって開発され、1987年に登録商標(Stage-Gate®)されています。1987年、米国のモトローラ社がステージゲート法を採用して開発期間短縮に成功したことから北米で普及しました。日本でもその後紹介され、普及しています。

すでに導入・活用している企業は北米の製造業では7割、日本でも100社以上といわれています。

ステージゲート法の特徴

ステージゲート法の主な特徴は、以下のとおりです。

  • 段階的に評価を行うことで早期に問題点を発見し、開発計画への是非を決定できる
  • 不確実性の高いアイデアを段階的に個々の要件で検証することで「売れない製品」を見極められる。これにより無駄なコストを防ぎリスクを低減できる
  • 成功確率の高いプロジェクトにのみリソース(人的、コスト、その他)を集中させることで効率的な開発が可能になる

なおステージゲート法は、開発プロジェクトの種類や規模によって最適なプロセス設計が必要です。各ゲートを通過するための評価基準は、企業戦略やプロジェクトの特性に合わせて設定します。

ステージゲート法の目的

【図2】技術開発プロセスとステージゲートプロセスの関連

ステージゲート法とは?新規事業開発の成功確率を高めるフレームワーク
(出典)ステージゲート法―製造業のためのイノベーション・マネジメント(2012)
ロバート・G・クーパー著,浪江一公訳,2012

ステージゲート法とデザインレビュー(DR)の違い

ステージゲート法と比較されるものに「デザインレビュー(DR)」があります。ステージゲート法とデザインレビューは、どちらも商品化までの開発プロセスにおいて行われ、成果物(実際に販売することになる製品やサービス)の評価の一環として用いられるものです。しかし両者は、その目的や対象、評価のポイントが異なります。

またステージゲート法は、プロジェクト全体の成功を目的とした「戦略的な評価」であり、デザインレビューは、設計の品質を確保するための「技術的な評価」ともいえます。

【表1】ステージゲート法とデザインレビューの違い

ステージゲート法デザインレビュー
主な目的プロジェクト全体の成功(事業面での成功)製品の品質確保(製品をより良いものにする)
対象プロジェクト全体成果物の設計
評価ポイント・市場性(顧客ニーズに合致しているか、競合との差別化が図れるか)
・収益性(投資に見合う収益が期待できるか)
・実現可能性(技術的な実現性、資源の確保可能性は問題ないか)
・リスク(市場変動や技術的な課題など、プロジェクトに潜むリスクはないか)
・設計の正確性(設計図面が正確に作成されているか)
・品質(成果物の品質が確保されているか)
・性能(要求仕様を満たす性能が実現されているか)
・製造可能性(設計に基づいて製造できるか)
特徴・プロジェクト全体を複数のステージに分割し、各ステージの最後にゲートを設置
・各ゲートを通過する際にプロジェクトの継続または中止を決定
・評価は、市場性、収益性、実現可能性など多角的な視点から行われる
・一つのアイデアを育てるのではなく、たくさんのアイデアから実現可能性の高いものをふるいにかける手法
・設計の各段階で実施される
・評価は、設計の専門家によって行われる
・設計の改善点や問題点を洗い出し、設計の品質向上につなげる
・一つのアイデアをより良いものに成長改善させることのできる手法
実施時期プロジェクト全体における各ステージの最後製品設計の各段階(厳密に決まっているわけではない)
得意分野新規事業開発・既存製品の改良
・アイデアの育成、醸成
哲学的に言うと……性悪説(悪いものが必ず混じるため切り捨てる)性善説(よくないものも活かして改善する)

ステージゲート法の目的は、その事業や企画などの「実現可能性」「成功可能性」「収益性」の実現の見極めることです。つまり「実際に作ることができ、かつ売れる商品」をふるい分けることにあります。ゲート通過ごとに成功率の低いものについては切り捨てられるため、ステージゲート法では、より成功率の高いものだけを残すことが可能です。

一方、デザインレビューの対象は設計開発される製品に限られます。その目的は、設計の「完成度」を高めて成果物の「品質」を担保することです。デザインレビューにも、いくつかの段階は設けられます。しかし画一的なゲートを設けて要件に合わないものを切り捨てるのではなく「より良い成果物にするために、どうすればよいか」を主に専門的な観点を持つ人がレビューしてブラッシュアップするものです。

デザインレビューには、マニュアル化された評価軸や手順はなく、それぞれの企業や組織、対象となる製品やサービスによって異なります。ステージゲート法は「市場で成功するかどうかの判断を最も重要とする」という点が、デザインレビューとは異なる内容といえるでしょう。

【関連記事】
デザインレビューとは?目的と必要性、各工程の効率的な進め方を解説

ステージゲート法のメリット

ステージゲート法のメリットは、以下のとおりです。

意思決定プロセスの明確さ

評価基準やポイント、次に何をするかが明確になっているので分かりやすい点がメリットです。日本企業で導入するには「日本の企業文化・風土に合わせて柔軟にステージを変更する」「ゲートで判断に迷ったら(評価が難しい斬新なアイデアなど)進める」「ステージゲートの評価を専門とする事務局を作る」などの工夫も必要です。

プロジェクト成功率の向上

プロジェクトが理由なく中止になったり直前で中止になったりするケースを減らすことができ成功率を高められます。「なぜそのプロジェクトが中止となったのか」について基準を明確にして伝えやすく食い違いも生まれにくくなります。

企画テーマの絞り込みがしやすい

事業の目的やプロセス全体と評価ポイントが見えるため、開発時点でテーマの絞り込みが比較的しやすくなります。

成果としての収益に対する意識が高まる

企画開発したものが実際に製品化され、成果としてどのぐらい利益を上げて企業に貢献できるのか、全体が見えるため、モチベーションも上がりやすくなります。

ステージゲート法のデメリットとそれを生む誤解

ステージゲート法のデメリットと、その原因になっている誤解された事項について解説します。

ステージゲート法のデメリット

ステージゲート法は、ゲートという「関門」ごとに厳しいチェックが行われます。ステージゲート法の目的は、前述のとおり「事業の成功」です。しかしこのゲートがあるために人によっては「ゲートを通過すればよい(=抜け道探し)」「ゲートを通過できるような無難な企画にすればよい(テーマの小粒化、アイデアにあふれたテーマが出てきにくくなる)」という発想になりかねません。

また上記のような発想をするうちに「人」自身の考えにゆがみが生じてきます。

【例】
・視野が狭くなり、研究意識が薄まる
・どうせ通過できないならば簡単なものにしようと練られたアイデアを出さなくなる
・小粒の企画を出すためゲートは通過できるものの失敗経験ができず、学習機会が減り成長できない
・良いものを見つけ出す能力、判別する能力(目利き)が育たない
・管理者はゲート審査を厳しくしなければならないと思い込み、指標だけを見てそのプラン自体を見ない
・ゲートが通過できたなら、あとから問題に気づいても黙っている

ステージゲート法のよくある誤解

上記のデメリットは、誤解から生じているケースもあります。以下は、本来のステージゲート提唱者であるクーパー氏は否定していますが、誤解されていることの多い項目です。

【誤解1】ゲートを一度通過したら前の工程には戻れない
工程は、行き来可能です。一度ゲートを通過しても問題が発覚したり、発案者が気になる点を見つけたりした場合は管理者へ伝え改めて前工程からやり直せます。同様にゲート前のステージ内で事業内容を改善することも可能です。

【誤解2】ゲートの審査を徹底的に厳しくしなければならない
ゲート自体が重要なのではありません。顧客に受け入れられる製品やサービスを市場に出し、事業を成功させることが目的です。

【誤解3】ゲートを通すための基準さえクリアできればよい
KPIは、ある程度念頭に置くべきですがゲートでの指標も柔軟に運用したほうがよいでしょう。逆に基準となる評価がクリアできていても課題があるものや検討が必要と管理者が判断した場合は指し戻しや却下することも可能です。

ステージゲート法を導入する場合の注意点

ステージゲート法を導入する場合、メリットばかりではなく上記のデメリットや誤解されやすい点に注意が必要です。またステージゲート法として広く紹介されるものは、あくまでも一つの手法であり、すべてのプロジェクトに必ずしも完全に当てはまるわけではありません。各企業やプロジェクトの特性に合わせてステージゲート法のカスタマイズが必要になる可能性もあります。

なぜステージゲート法を選んだのか、目的を見失わずに活用するようにしましょう。

ステージゲート法の評価ポイントと評価方法

ここでは、ステージゲート法の評価ポイントの一例や評価に使われる手法を紹介します。

ステージゲート法の評価ポイント

【表2】ステージゲート法の評価ポイントの例

評価ポイント内容具体的な質問例
1.競争優位性競争に勝てる優位性やアイデアの高さがあるか・独自の価値提案
既存の製品やサービスと比べて、どのような点で優位性があるのか、顧客にとってどのような価値を提供できるのか
・競合との差別化
競合他社との比較を行い、自社の製品やサービスがどのように差別化するか
・市場のニーズへの適合性
市場が求めているものと自社の製品やサービスが合致しているか
・アイデアの新規性
既存のアイデアの組み合わせではなく、革新的なアイデアになっているか
2.戦略との適合性戦略との適合性、論理的根拠があるか・企業ビジョンとの整合性
プロジェクトが企業の長期的なビジョンや目標に貢献できるか
・事業ポートフォリオとのバランス
既存の事業との関係性、相乗効果が期待できるか
・資源配分の合理性
プロジェクトに必要な資源が企業全体の資源配分計画に合致しているか
・リスクとリターンのバランス
プロジェクトのリスクと期待されるリターンは適切にバランスが取れているか
3.技術の実現性技術の実現性があるか・技術的な実現可能性
現在の技術レベルで実現可能か、または近い将来に実現できる見込みがあるか
・技術的な課題
実現するために克服すべき技術的な課題は何か
・知的財産リスクの確認
特許やノウハウなど、知的財産に関するリスクは存在しないか
・技術の将来性
将来的に技術が陳腐化するリスクは存在しないか
4.コスト・リターンコストとリターンが見合っているか・開発コスト
プロジェクトの開発に必要な費用は、当初の予算内で収まるか
・製造コスト
製品やサービスの製造コストは、競合製品と比較して競争力があるか
・販売価格
顧客が喜んで支払う価格を設定できるか
・収益性
投資回収期間はどのくらいか
・ROI(投資対効果)
投資額に対して、どの程度の利益が期待できるか

これらの評価ポイントは、単独評価ではなく総合的な判断が重要です。例えば技術的な実現性が低いアイデアであっても市場のニーズが高く、高い収益が期待できる場合はプロジェクトを進める価値があるかもしれません。

【表3】ステージゲート法の評価方法の例

評価方法具体的な手法
定量的評価売上予測、コスト計算、ROI計算など、数値に基づいた評価
定性的評価顧客インタビュー、競合分析、専門家による意見聴取などに基づく質的な評価
リスク評価各評価項目に対して、リスクを数値化し、リスクマトリックスを作成する
SWOT分析強み、弱み、機会、脅威を分析し、プロジェクトの全体的な評価を行う

評価項目や評価基準は、各企業やプロジェクトの特性に応じてカスタマイズできます。評価には、複数の関係者が参加し多角的な視点から検討が必要です。評価結果に基づいてプロジェクト計画を修正したり、新たなアイデアを検討したりすることが重要となります。

ステージゲート法の具体的なステージ・各ステージで行うこと、ゲートの項目

ステージゲート法のプロセスは、企業やプロジェクトの規模、性質によって多少異なりますが、一般的に6つのステージと5つのゲートに分けられます。ここでは、それぞれで具体的にどのようなことを行うかを一例として解説します。

具体的なステージ・各ステージで行うべきこと

【表4】ステージ・各ステージで行うべきこと

ステージ何をするか内容
0.アイデア創出・評価ステージ・新規事業アイデアの創出
・アイデアの検討
・新規事業アイデアを創出するためのワークショップやブレインストーミングの実施
・必要に応じて簡易的な市場調査
1.初期調査ステージ・コンセプトの策定
・市場調査の実施
・技術的な実現可能性の検討
・市場調査を通じて、顧客ニーズや市場動向を把握する
・技術的な実現可能性を検討し、技術的な課題を洗い出す
・ビジネスモデルを検討し、収益性を評価する
2.事業戦略策定ステージ・製品やサービスの概念設計
・詳細な市場調査
・競合分析
・技術的な詳細設計
・ビジネスモデルの構築(事業計画の策定)
・製品やサービスの具体的なイメージを固める
・詳細な市場調査を行い、ターゲット顧客を明確にする
・競合製品との差別化ポイントを明確にする
・技術的な詳細設計を行い、製造コストを算出する
・ビジネスモデルを具体化し、収益計画を作成する
3.開発ステージ・プロトタイプの開発
・設計の検証
・製造プロセスの構築
・品質管理システムの構築
・プロトタイプを開発し、機能や性能を検証する
・設計図面を完成させ、製造工程を確立する
・品質管理システムを構築し、製品の品質を確保する
・サプライヤーとの連携を強化し、安定的な供給体制を構築する
4.検証ステージ・テストマーケティングの実施と検証
・顧客フィードバックの収集
・製品やサービスの改善
・生産体制の最終確認
・テストマーケティングを通じて、顧客からのフィードバックを収集する
・製品やサービスの改善点を洗い出し、改良を行う
・生産体制を最終確認し、量産体制に移行する準備を進める
・マーケティング戦略を最終決定する
5.市場投入・拡大ステージ・製品やサービスの正式な発売
・マーケティング活動の実施
・販売網の構築
・生産量の拡大
・製品やサービスを正式に発売し、市場に浸透させる
・広報活動や広告活動を行い、ブランドイメージを確立する
・販売網を拡大し、流通チャネルを強化する
・生産量を拡大し、需要に対応する

各ステージのゲート

各ステージの最後に設けられる「ゲート」では、以下の項目について評価が行われます。

  • プロジェクトの進捗状況:予定通りに進んでいるか
  • 目標達成度:目標とする売上や利益を達成できるか
  • リスク:今後の開発で発生可能性のあるリスクが考えられるか、リスクがある場合どう回避するか
  • 資源の配分:必要な資源、材料などが確保できているか
  • 市場の動向:市場環境の変化に対応できるか

まとめ

本記事では、ステージゲート法における手法の概要や歴史、特徴、デザインレビューとの違い、メリットとデメリット、各ゲートでの評価ポイントについて解説しました。ステージゲート法を用いることで企業は、より成功確率の高いプロジェクトの選別と成功(市場で売れる製品の開発)が可能になります。またステージゲート法の活用で無駄なコストの発生やリソースの枯渇を防ぐことも可能です。

一方で「ゲートを通過できればよい」とゲート通過そのものが目的になってしまうケースもあります。導入する際は、本来のステージゲート法の目的を十分に理解し柔軟に運用することが大切です。

(参考文献・資料)
ステージゲート法 : 製造業のためのイノベーション・マネジメント」,ロバート・G・クーパー著 ; 浪江一公訳,英治出版, 2012.12
※原著タイトルおよび著者名:“Winning at new products : creating value through innovation”,Cooper, Robert G. (Robert Gravlin)
化学系ブティック型(領域特定型)日本企業へのステージゲート法適用の課題と提案」金子 浩明,久保 裕史,千葉工業大学,2014

※Stage-Gate® はStage-Gate International社の登録商標です

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