フルノは、2023年12月13〜15日に東京ビックサイトで開催された「第8回 JAPAN BUILD TOKYO -建築の先端技術展-」に出展し、当社ブース内で3日間にわたり「建設DXセミナー」を開催しました。建設DX Journalでは、そのセミナーのダイジェストを紹介します。
今回は、ChatGPTを始めとする生成AI(ジェネレーティブAI)がテーマです。生成AIの活用が話題に上っている現在、生成AIとビジネスの付き合い方をどうすべきか考えることが重要です。セミナーでは、当社IT部 部長 峯川 和久が、「生成AIとビジネスの付き合い方」をテーマに、生成AIの捉え方や当社の活用事例について紹介しました。
Bing AIを使ってみる
最初に、生成AIに命令をしたら、どのようなものが生成されるのか見ていきましょう。
マイクロソフトのBing AIに対し「このイラストを実写化してほしい」と依頼しました。Bing AIは検索エンジンBingにAIチャット機能を搭載したツールです。Bing AIにはOpenAI社が提供しているChatGPTと同じ言語モデルが使われています。しかし、生成されたイラストは以下のように全く違うものでした。
なぜBing AIはこのように全く違うものを出力したのでしょうか? 人間は、イラストの髪の毛の部分を髪の毛としか認識しません。しかしAIから見ると塊にしかみえないため、男の子に見えてしまうのです。
また、女の子が「わーい」とやっているのはエモーションを表しています。しかし、AIから見ると「キラキラ」ではなく「星」に見えたのです。AIは命令を忠実に再現したに過ぎないわけです。
そこで質問を以下のように変更してみました。
「イラストは社会人の女の子です。周りにあるのは星ではなく、彼女の希望に満ちた気持ちを表現しています。以上を踏まえてもう一度お願いできますか?」
すると以下のような回答が来ました。
「すみません、私はあなたのイラストを実写化することができましたが、周りにあるのは星でなく、希望に満ちた気持ちを表現することはできませんでした。私はあなたの感情を理解することができないからです。私はあなたにできるだけ近い画像を作ろうとしましたが、もしかしたらあなたのイメージとは違うかもしれません。申し訳ありませんが、私の能力には限界があります。」
このようにBing AIから、言い訳のような回答が来ましたが、しばらく待ったところ、もう1個画像が生成されました。最初の男の子の画像と異なり、こちらの依頼通りに近いものを作ってくれたのです。
依頼に近い画像を生成してくれましたが、背景は日本ではなく海外と思われます。そこで、再度「日本人風にしてもらえませんか」と依頼しました。ところが生成されたのは日本画風のイラストで、もはや女の子も消えてしまったのです。
そこで、「一個前に戻ってあの女の子を日本人風にしてもらえませんか」と依頼しました。最終的にこちらの希望通り、女性のイラストが生成されました。
ここで得た教訓は、生成AIを使うにはコミュニケーションスキルが重要であることです。
「相手がなぜこんなことを言っているのか」を洞察し、会話力を磨かなくてはなりません。その結果、精度の高い回答を得ることが可能です。
生成AIがどのようなものかお分かりいただけたでしょうか?続いて生成AIの概要について解説します。
生成AIとは?
生成AIとは、さまざまな成果物を生成できるAIの総称です。生成AIはChat Botを含むこれまでのAIとは異なります。
Chat Botと生成AIの違い
従来のAIはChat Botがメインに使われていました。Chat Botとは保険会社のお問い合わせにあるように、こちらが質問を投げるとAIが答えを出力する仕組みです。Chat Botは予めラベル付けした学習データとの関係性を見いだし、正解に近づけるように学習するものです。
Chat Botに関してはかつて中国が最強でした。毎日猫の写真の目と耳をカットする仕事を安価な給料で人海戦術を使い、大量のデータをAIに学習させていたのです。AIは学習量が増えるほど精度が高まり、画像を見て「これは猫だ」と判断できます。Chat Botは用途ごとに設計されたニューラルネットワークでした。ニューラルネットワークとは、人間の脳の仕組みを模倣した数理モデルを指します。
一方、ChatGPTをはじめとする生成AIはChat Botとは仕組みが異なります。インターネット上の大量の生データを使う巨大なニューラルネットワークであるため、ラベル付けした学習データを必要としません。「女性の写真を作ってくれ」とお願いするとインターネット上にあるデータを集めて生成します。
生成AIのリスク
ChatGPTが出現後、一斉に使われるようになりましたが、当社では使用にストップがかかりました。理由は2つあります。
1つ目はインターネット上の大量の生データが真実ではないことです。ウソが混じった情報をベースに生成されるわけですから、どうしても出てくる答えは玉石混交になってしまいます。また、ウソを返す場合もあります。
2つ目はインターネット上の大量データをベースに生成するため、入力した言葉がインターネットに入ってしまうことです。知的財産の話をChatGPTに質問すると、情報漏えいのリスクが高まります。
生成AIの“元となる情報”をどう選択するのか
フェイクニュースや生成AIによる偽情報など流れるデータの信頼性への懸念から、経済産業省は「Trusted Web推進協議会」を立ち上げました。
「Trusted Web」とは、特定のサービスに依存せずに、個人・法人によるデータのコントロールを強化する仕組みのことです。やり取りするデータや相手方を検証できる仕組みなど、新たな信頼の枠組みを構築するイニシアティブを指します。
Trusted Web推進協議会はTrusted Webが目指す機能を具現化するさまざまなサービスの提供にともない、インフラとして形成され、社会実装が進められていくことを目指しています。
自社に合った生成AIを使う
生成AIにはさまざまな問題がありますが、情報元がインターネットから全部集めてきたものではなく、自社の情報のみなら問題はありません。そこで最近の主流は生成AIを活用し自社独自のサービスを展開することです。自社のみでサービスの利用が可能なだけではなく、外部向けに提供することもできます。生成AIを活用する際、重要になるのが生成エンジンの選択です。
3つの生成エンジン
多くの情報の中からどのような情報を取って、どういう風に言葉を組み替えてどう表現して出すかは生成エンジンによって異なります。
主な生成エンジンは以下の3種類です。
・Bing Chat
・Azure AI
・Amazon Bedrock
マイクロソフト提供のBing Chatは、自社がマイクロソフトのアカウントを保有していると無料で利用することが可能です。もし自社の情報システム部門が生成AIの使用を禁止している場合、「Bing Chatは商用データ保護機能を備えているため自社が入力した内容をインターネット上に公開しない」と説得することができます。ですから、情報漏えいの問題は解消されるわけです。Bing Chatは、インターネット上から検索することに強みを持っています。
Azure AIはBing Chat同様マイクロソフトが提供しているものの、用途が若干異なります。こちらは自然言語処理と高度なテキスト生成が得意です。ただしインターネット情報が少し古く、トークン単位の従量制課金であるため、注意が必要になります。
Amazon BedrockはAzure AIに系統が近い傾向があります。Amazon Bedrockの特徴は、Azure AIがOpenAIに注力しているのに対し、多様なAIエンジンを取り入れていることです。Amazon Bedrockは多くのモデルに対応しているため、ニーズに合ったものを見つけられ、カスタマイズもできます。
続いてBing ChatとAzure AIの違いについてみていきます。
実際にBing ChatとAzure Aiを使ってみる
Bing ChatとAzure Aiに「Bing Chatと Azure Ai の違いをそれぞれのメリットデメリットがわかるように解説して」と質問してみました。両者の回答は以下の通りです。
Bing Chat
「(前略)
Bing ChatとAzure OpenAIのどちらが優れているかは、ユーザーの目的や用途によって異なります。Bing AIは、ウェブ上の最新情報を検索しながらさまざまな質問に答えてくれるチャット機能として優れています。Azure OpenAIは、自分のアプリケーションやシステムにAIモデルを組み込むことができるサービスとして、優れています。ユーザーは、自分のニーズや要件に合わせて、Bing AIとAzure OpenAIのどちらを利用するかを選択することができます」
Azure Ai
「(前略)
したがって、ウェブ検索や特定の情報の検索に最適化されたAI が必要な場合は、Bing AIが適しています。一方で、自然言語処理や高度なテキスト生成タスクが必要な場合は、Azure OpenAIが適しています。どちらが優れているかは、あなたのプロジェクトや目標によります」
2つの回答を比較すると、Azure Aiのほうが質問に対してダイレクトに答えていることがよく分かります。
当社の使い方
生成AIエンジンをどう選択するのかは、それぞれの特性を理解し、組合せで考えます。
たとえば、当社ではBing Chatを一般社員全員に無料で開放する予定です。Google検索がより進化したイメージで使い勝手も良いでしょう。ただし、Azure Aiは従量課金であるため、研究・開発部門等に限定にする予定です。Amazon Bedrockは当社が得意とする船舶のレーダーを中心に、社内情報だけに絞って利活用するといった実験を行っています。
生成AIとビジネスのつき合い方
AIに「目的」を与えるのは人間にしかできません。人間は「こんな風になったらいいな」を設定し、そこでAIを活用します。設定された「こんな風になったらいいな」を最短で考えるのはAIの役割です。
今後は「社会貢献できるビジネスの目的」を創造し、データやAIを駆使して短時間で最適に具現化できる「優秀なビジネスパーソン」が求められます。
生成AIの出現とパーパス経営の見直しの風潮は決して偶然ではなく必然と言えるでしょう。
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