近年、製造業の工場はITシステムを活用することにより、業務効率が高まっています。このような工場を「スマートファクトリー」と呼びますが、5Gの通信技術によって、さらに技術革新が起きています。

本コラムでは、5G通信とスマートファクトリーの関係について解説します。5G通信を活用した事例にも触れるため、ぜひ参考にしてください。

5G通信を活用しスマートファクトリー化を進めよう
(画像=jeson/stock.adobe.com)

目次

  1. スマートファクトリーと5G
  2. 5Gでスマートファクトリーが加速する
  3. 製造業で利用する5G通信の特徴
  4. 製造業が5Gを利用するメリット
  5. 工場に5Gを導入した活用事例
  6. 製造現場におけるローカル5G導入のガイドライン
  7. 自社に合った形で5Gを導入しよう

スマートファクトリーと5G

近年、製造業のビジネスを改革するためにスマートファクトリー化を進める企業が増えています。また、5G回線を利用する動きも広がっています。ここでは、スマートファクトリーと5Gについて紹介します。

スマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは、ITシステムやデジタルデータを活用して生産工程を改革し、品質や生産性の向上を実現する工場のことです。生産ラインなどのプロセスで収集されるデータを活用し、状況を可視化することにより、無駄な工数やコストを見つけやすくなるため、業務効率の改善を図れます。

スマートファクトリーにはいくつかの段階があり、それらが生産工程の可視化・最適化・自動化・自律化を実現します。また、スマートファクトリー化の対象も各生産工程から工場全体、企業全体、サプライチェーン全体へと変わります。

スマートファクトリーは「考える工場」と訳されることもあります。これは自動化・自律化が進むことにより、最終的には人の判断が不要になる状態を目指すことを意味します。このときに使われる技術はITシステムの中でも高度なもので、AIやIoT、ビッグデータなどを活用します。

また、IoTセンサーやカメラ、AIを活用することにより、遠隔監視・遠隔制御も可能になりました。これによって人に依存する作業が少なくなり、生産現場の省人化や品質の向上なども見込めます。近年では5Gなどの次世代無線通信技術も登場しているため、システムの利便性や効率性がさらに高まっています。

5Gとは

5Gは「5th Generation(第5世代移動通信システム)」の略で、次世代の通信規格です。従来の通信規格よりも高速で、大容量のデータ通信も可能です。通信の遅延がごくわずかになり、より安定した通信を実現できます。同時に複数の機器をネットワークに接続できるため、多くのデバイスを使っても影響が小さいことも特徴です。

5Gのイメージ
(画像=5G)

ローカル5Gとは?

ローカル5Gとは、地域の企業や自治体などが個別に利用できる5Gネットワークのことです。また、NTTドコモやソフトバンク、KDDI、楽天モバイルといった通信事業者ではない企業・自治体が、一部のエリアまたは建物・敷地内に専用の5Gネットワークを構築する方法でもあります。

ローカル5Gを企業が運用するには、無線局の免許を取得する必要があります。2019年から申請受付が始まり、2020年から利用されています。通信事業者によって提供されているパブリック5Gは、都市部を中心に整備が進んでいます。

しかし、地方では5G回線の整備が進んでおらず、使用できるエリアは限られています。そこでローカル5Gの場合は、免許を取得し契約することで、パブリックつまり公衆回線として5Gがないエリアでも5G回線を利用できます。

5Gでスマートファクトリーが加速する

製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン
出典:総務省『製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン』

2020年春から日本国内でも5G通信の実用化が段階的に始まっており、製造業の工場などでも活用が進められています。従来は、通信の安定性とリアルタイム性を確保するために有線接続がメインでしたが、5G通信を活用することにより無線の通信環境を整備できます。

2019年9月にNTTドコモ・ノキアグループ・オムロンの3社が、製造現場における5Gの活用について実証実験を実施しました。5Gが整備されていない地域においても、ローカル5Gなど通信環境の利用を可能にするための取り組みが進んでいます。

総務省はローカル5Gを導入するためのガイドラインを策定し、5G無線局免許の申請受付を開始しました。パブリック5Gの通信網は、スマートフォンの通信需要が集中している都市部から整備されています。そのため、製造業が多い地方では実用化が遅れるでしょう。

そのため、限定的に5G回線を利用できるローカル5Gにより、製造業の5G通信の利用やスマートファクトリー化が進むことが期待されています。現在では、製造業でもクラウドサービスや通信環境の整備などによって、スマートファクトリー化が進んでいます。

5G通信を利用することにより、これまでよりも生産設備の利便性や効率性が向上するため、製造業におけるビジネスのプラットフォームとしての役割も期待されています。

製造業で利用する5G通信の特徴

製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン
出典:総務省『製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン』

製造業が5G通信を利用することには、スマートファクトリー化が進むなどさまざまなメリットがあります。自社に適した技術を取り入れるためにも、まずは5G回線の特徴を押さえておきましょう。ここでは、製造業が利用する5G通信の特徴を紹介します。

超高速・大容量のデータ通信

5G通信の最大の特徴は、大容量のデータを超高速で扱えることです。4G回線の数十倍のデータ処理が可能になるため、製造業で扱う膨大なデータであっても無線通信で対応できます。通信の処理速度がネックでIoTを使ったスマート化が進められない場合でも、5Gを利用することで最適な機器・デバイスを利用できます。

超低遅延処理

5G通信は高速であるだけでなく超低遅延処理が行われるため、データ通信時に遅れが発生することがほぼなくなります。そのため、産業用ロボット・工作機械といった設備をリモートで稼働させられるでしょう。また、生産管理に用いるセンサーなどのIoT機器からの情報も、リアルタイムに近い速度で処理できます。

多数同時接続

無線通信を利用する際の懸念の一つに、同時接続できるデバイスの数があります。同時に多くのデバイスが無線通信を利用すると、データ処理量が膨大になり遅延が発生しやすくなります。場合によっては接続数が限定される場合もあり、無線化が実現できないケースもあります。

5G通信では、多くのデバイスを同時に接続しても快適に利用できるため、設備同士のネットワークを構築しやすく、データ活用が進みやすいといえます。

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製造業が5Gを利用するメリット

5Gの通信技術とスマートファクトリーを組み合わせることで、自社の工場はさらに発展するでしょう。ここでは、製造業が5Gを利用するメリットを紹介します。

5G通信を活用しスマートファクトリー化を進めよう

生産能力の向上

生産設備にIoT機器を組み込むことにより、工場の可視化や管理の自動化が進みますが、取り扱うデータ量が膨大になるため、実現が難しいといえます。従来の方法ではネットワークを接続するために大量の配線設備が必要になり、設備投資だけでなくスペースも圧迫するでしょう。

5G通信を利用すればデータ転送量を増やすことができ、通信の遅延も少なくなるため安定します。そのため、遅延が許されない産業用ロボットなどの設備の自動化も実現できるです。生産設備が5G通信によって進化することで、生産能力が高まることが期待されます。

スマートファクトリー化が進むことで生産工程の一部を自動化でき、ミスの削減や業務の効率化につながります。

工場内の配線が少なくなる

5Gの通信回線は、超高速で安定した通信を実現します。これまでは、無線通信よりも有線通信のほうが高速で安定していました。そのため、生産ラインを安定稼働させるために有線通信を利用しており、工場内は生産機械やシステムを接続する配線が複雑になり、スペースを圧迫しています。

配線が複雑になることにより、新しい機器の設置やメンテナンスが難しくなり非効率になることが課題でした。5Gの通信技術を活用すれば、工場内の配線は必要最低限に抑えられるため、必要に応じて生産ラインを変更することも可能になります。今後IoT機器を導入する際の配線工事も不要になるため、コスト削減にもつながるでしょう。

大容量データも簡単に処理できる

5G通信は、生産工程から収集できる膨大な量のデータを簡単に処理できます。大規模データを簡単に処理できるようになり、大容量データの送受信が可能になれば、工場の管理能力は向上するでしょう。

例えばカメラなどを用いれば、保管している在庫の量・内容・位置を詳細に把握できるため、在庫管理が効率化します。これまでデータ量が多く実現できなかった場合でも、対応できるでしょう。また、データの処理能力の向上により画像の品質が高まるため、現場で実物を確認しなくても、遠隔で不良品の検出をより正確に行えるようになります。

リアルタイムで遠隔地と情報共有できる

5G通信を活用すれば、高画質の画像や動画の送受信も簡単に行えるため、遠隔地との情報共有をリアルタイムで行えます。遠隔指示や遠隔作業が実現すると、どこからでも作業を支援できるため、工場の省人化につながるでしょう。

例えば工場が複数ある場合、別の工場にいる熟練技能者の指示をリアルタイムで得られます。また、本来は現場で実物を確認する必要がある、製品の細かい仕上げなどのチェックも可能になるでしょう。さらに、遠隔でロボットを操作して危険な作業を行うこともできるため、安全性の向上にもつながります。

品質保証の向上

製造業で最も重要なのは、品質保証です。品質に異常があれば、製品の出荷が止まります。流通に乗ってしまえば返品や再生産といった対応に追われ、企業の信頼も低下するでしょう。

5G通信を活用すれば大量の機器を同時に接続でき、安定した回線で製造過程をリアルタイムでチェックできます。高画質なデータの転送も可能であるため、遠隔での検査結果の精度も高まるでしょう。課題や改善点などをリアルタイムで生産現場にフィードバックできれば、さらに品質を高める施策を実施できるでしょう。

複数の機械を同時接続できる

5Gは1平方キロメートルのエリアで、最大100万台の端末がネットワークに接続できる環境を構築できます。この特性を活かすことにより、工場内の機器・装置を無線のネットワーク環境に接続できます。無線ネットワーク上にさまざまな設備を接続することにより、従来よりも快適にデータを活用できるようになるでしょう。

工場に5Gを導入した活用事例

5G通信は工場における業務効率化に役立ちますが、その用途は多岐にわたります。自社に応用するためにも、どのような活用事例があるのかを把握しておくとよいでしょう。ここでは、工場に5Gを導入した事例を紹介します。

高精細な画像・映像を活用した検査自動化

以前から製品の検査には画像が活用されていましたが、固定カメラで製品や人の動きを録画し、事後の分析に活用することがメインでした。解像度が高いデータを大量に送るためには、安定した通信環境が必要になるからです。

5Gを活用すれば、生産ラインの製品に微細な欠陥があっても高解像度カメラで捉えることができ、そのデータをリアルタイムでモニタリングできます。その際にAIエンジンも活用すれば、ロボットを使って欠陥品をピックアップできるでしょう。カメラとロボットが連携して一連の動作を行うことで、リアルタイムでの処理と検査が可能になります。

ARを活用した作業者支援

AR技術を利用し、作業者支援を実施した事例があります。現在製造業では少子高齢化に伴って人材不足が深刻化しており、熟練作業者の高齢化も進んでいます。このままでは熟練者の技術を適切に継承できず、生産現場の技術力が低下しかねません。

そこで、ARグラスを活用し、熟練者が遠隔で作業者支援を行う取り組みが始まりました。経験の浅い現場作業者は熟練者よりも作業効率が低いため、作業完了までに多くの時間がかかります。人材不足が続く状況では、作業効率を高めなければなりません。

ARグラスを活用し、遠隔地にいる指導者が現場作業者にリアルタイムで作業支援を行えば、経験が浅い作業員でも短時間で作業を完了できます。リアルタイムで指導を受けることで、現場作業者を短期間で教育でき、習熟度も向上します。

ARグラスを利用する際には、現場の状況を正確に遅延なく共有する必要があります。4Kカメラなど高精細映像をリアルタイムで送受信する必要があり、それは5G通信を利用することで実現できます。これにより、遠隔地にいる指導者・熟練者が現場にいる感覚で情報を得られ、適切に指示を出せます。

5G通信を活用しスマートファクトリー化を進めよう

ロボットの遠隔操作

近年、製造業ではロボットの遠隔操作技術が注目を浴びています。遠隔操作においては、オペレーターの操作とロボットの反応速度の差を小さくしなければなりません。差が大きいと操作の難易度が高まり、オペレーターのストレスが大きくなります。

5G通信による高速で安定した環境を活用すれば、ロボットの遠隔操作の快適さと安全性が高まります。将来は、ロボットによる遠隔手術なども実現するかもしれません。ロボットのプログラミングも遠隔で行うことができるため、リアルタイムで調整できます。

5G通信を活用しスマートファクトリー化を進めよう

これまで、技術者がロボットの調整を行うためには設置されている工場に行く必要がありましたが、5Gを活用すればそれが不要になります。その結果、少人数でメンテナンスを行えるようになるため、業務効率化につながります。産業ロボットの調整作業は危険を伴うため、遠隔操作が可能になれば安全性も高まるでしょう。

製造現場におけるローカル5G導入のガイドライン

5G通信を活用しスマートファクトリー化を進めよう

総務省は、製造現場における5Gの導入に対してガイドラインを策定しています。導入の手順は以下のとおりです。

①導入目的の明確化
②導入・運用体制の検討
③導入計画の策定
④環境構築
⑤干渉調整・免許申請
⑥落成・設置
⑦保守・運用

まずはローカル5Gを導入する目的を明確にするため、現状の課題や実現したいビジョンを把握し、最適なローカル5Gの活用方法を検討します。同時に、運用の管理者や責任者を決めるなど、導入・運用体制を考える必要があります。導入計画を決める際には、ローカル5G導入に関わる実施事項やスケジュールをあらかじめ整理しておきましょう。

導入にあたって、機器の選定や調達、無線の環境の確認に合わせてソフトウェア開発を行います。環境が整ったら通信事業者や基地局と調整し、免許の申請を行います。ローカル5G機器の導入には、適切な工事が必要です。導入後の運用に関しては、工場のレイアウトの変更や、工場の環境変化を想定したルール作りが必要になります。

自社に合った形で5Gを導入しよう

5G通信を利用すれば、ITシステムの業務効率化が高まるだけでなく、AIやIoTといった技術も活用しやすくなります。IoT機器を活用する場合は膨大なデータをやり取りすることになりますが、そのためには大量のデータを安定的に高速で通信できる環境が必要です。

5G通信はこれらの問題を解決できるだけでなく、高画質の画像・映像データなども活用できるため、従来の業務プロセスを大きく変革するでしょう。スマートファクトリーにはいくつかの段階があるため、自社に適した形で5Gを活用し、スマート化を進めてください。

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