ESG投資やSDGsの活動の一環として、カーボンフットプリントを表示する製品が増えてきました。カーボンフットプリントへの取り組みは、環境問題の解決に役立つだけではなく、企業の経営や国の発展にも関わることをご存じでしょうか。
本記事では、カーボンフットプリントの計算方法や知っておきたい類似用語、誕生の背景などについて解説します。
目次
カーボンフットプリント(CFP)とは
カーボンフットプリントとは、製品のライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス(GHG)を表示する仕組みのことです。経済産業省と環境省は、カーボンフットプリントを以下のように定義しています。
「Carbon Footprint of Product」の略語。
製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される GHG の排出量を CO2 排出量に換算し、製品に表示された数値もしくはそれを表示する仕組み。
出典:「カーボンフットプリント ガイドライン」経済産業省、環境省
例として、オレンジジュースのカーボンフットプリントを考えてみましょう。オレンジジュースの製造において、CO2を排出する工程と排出量を以下のように仮定します。
工程 | CO2を排出する行為 | CO2排出量 |
---|---|---|
原材料調達 | アルミ缶の製造・原材料の栽培 | 30g |
生産 | 原材料からジュースへの加工・アルミ缶への充填 | 20g |
流通・販売 | 輸送・冷蔵・販売 | 30g |
使用・維持管理 | 冷蔵 | 10g |
廃棄・リサイクル | 空き缶回収・リサイクル | 10g |
カーボンフットプリントはこれらの値を全て足し合わせたものです。すなわち、上記のオレンジジュースのカーボンフットプリントは100gということになります。
カーボンフットプリントの表示が進み、温室効果ガスの排出量を削減できれば、地球温暖化をはじめとする気候変動の悪化を抑制できます。地球温暖化を放置した場合の経済的損失は、世界のGDPの20%にも及ぶと考えられています。一方で、対策を講じるのにかかるコストは世界のGDPの1%程度で済むと試算されています。
地球温暖化を食い止めるため、温室効果ガスの排出量削減は世界中の急務です。環境保護だけでなく産業発展という観点でも、温室効果ガスの排出量削減は重要とされています。日本では、2050年のカーボンニュートラル実現を目指してカーボンフットプリントの活用を推進しています。
カーボンフットプリント(CFP)と似た用語と関係性
カーボンフットプリントには、いくつか似た用語があります。以下で紹介する用語は、全てカーボンフットプリントと合わせて議論されることの多い用語です。それぞれの概要や関係性を見ていきましょう。
- カーボンニュートラル
- カーボンオフセット
- カーボンクレジット
- カーボンマイナス
- エコロジカルフットプリント
- ウォーターフットプリント
カーボンニュートラル
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量が均衡している状態を指します。日本では、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。カーボンフットプリントを活用して温室効果ガスの排出量を削減できれば、カーボンニュートラルの実現が近づきます。
カーボンオフセット
カーボンオフセットは、企業や個人の自らの活動により排出する温室効果ガスを認識し、排出量を別の活動でオフセット(offset=埋め合わせ)する取り組みのことです。「知る・減らす・埋め合わせる」の3ステップで実施されます。
人間が活動するには、少なからず温室効果ガスを排出します。その排出量を、温室効果ガスの排出削減や吸収量の増加につながる取り組みをすることで、相殺しようとする考え方です。具体的には、以下のような活動が挙げられます。
- ボイラーやLEDなどの省エネ設備の導入
- 太陽光などの再生可能エネルギーの導入
- 植林や栽培などの森林管理
カーボンクレジット
カーボンクレジットとは、削減した炭素の排出量や、吸収・除去した温室効果ガスの量を取引できるようにした仕組みのことです。カーボンクレジットで取引する温室効果ガスの量は、カーボンフットプリントにより算定されます。
カーボンクレジットの購入は、カーボンオフセットにも役立てられます。例えば、温室効果ガスの排出量の削減が難しい業界や企業は、カーボンクレジットを購入することにより排出量を相殺できます。
カーボンマイナス
カーボンマイナスは、温室効果ガスの排出量よりも吸収量が多い状態を指します。「カーボンネガティブ」と呼ばれることもあります。これは、カーボンオフセットに取り組んだり、カーボンクレジットを購入したりすることにより実現します。
カーボンマイナスは、カーボンニュートラルを実現した後も、カーボンフットプリントやカーボンオフセットなどの取り組みを続けることにより達成できます。
エコロジカルフットプリント
エコロジカルフットプリントとは、人間が生活を維持するために生態系にかけている負荷を表した指標です。カーボンフットプリントは環境負荷を温室効果ガスの重量で表していますが、エコロジカルフットプリントは環境負荷を土地や水域などの生態系の面積で表しています。
ウォーターフットプリント
ウォーターフットプリントとは、人間が生活を維持するために生態系にかけている負荷を、水の量で表した指標です。ウォーターフットプリントは水の消費量以外にも、富栄養化や酸性化などの指標を用いて水の利用可能性の影響を算定しています。
カーボンフットプリント(CFP)が重要視される背景
カーボンフットプリントは、国だけでなく企業や投資家などからも注目されています。その理由は、地球温暖化などの環境問題が、生活だけでなく経営にも悪影響を及ぼすことがわかってきたためです。
カーボンフットプリントが誕生する前は、製品一つがどれだけの温室効果ガスを排出しているのか分からなかったため、環境問題は経営や投資をするうえで現在よりも重要視されていませんでした。しかし、「GHGプロトコル」が国際的な温室効果ガス排出量の算定基準を制定してからは、企業単位で二酸化炭素排出量を測定できるようになりました。
これを機に、投資家も企業の環境問題への取り組みを重要視するようになりました。金融安定理事会のTCDF(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言では、投資家が投資先の選定において、企業のESG(環境・社会・企業統治)活動を重視していると言及しました。
実際、投資先の分析と意思決定にESGを組み込むことを宣言するPRI(責任投資原則)への署名数は年々増加しています。また、世界全体のESG運用資産額は2015年から2022年にかけて約20倍にまで成長しています。その結果、企業は環境問題に取り組むため、SDGsやESGなどを経営戦略に組み込むようになりました。
ただし、環境問題への取り組みを定量的に判断するには、温室効果ガスを数値化できるカーボンフットプリントが欠かせません。CFPはどのように誕生し、世界や日本はどのように動いてきたのかを時系列に沿って見ていきましょう。
誕生の経緯
カーボンフットプリントは、エコロジカルフットプリントが派生したものだと考えられています。エコロジカルフットプリントは、1990年から1991年にかけてカナダのウィリアム・リースと、マティス・ワケナゲルによって提言されたものです。
先述の通り、エコロジカルフットプリントは環境負荷を土地や水域の面積で表します。これを、温室効果ガスの重量という一般消費者にもわかりやすい指標で表したのがカーボンフットプリントです。
カーボンフットプリントは2003年にモロッコで開催された国際専門家会議において、国際的な場面で初めて議論されました。それ以降、国連環境プログラム(UNEP)で推進され続けており、持続可能な社会の形成において大きな役割を果たすようになりました。
カーボンフットプリントが初めて活用されたのは、カーボントラスト社の働きによるものです。同社は2006年12月にカーボンフットプリントの利用を宣言し、2007年からウォーカー社のポテトチップスで表示し始めました。
エコロジカルフットプリントのほうが早く提言されましたが、温室効果ガスの排出量を土地や水域などの面積で表すよりも、排出量をそのまま表したほうが不確実性を排除できると議論され、カーボンフットプリントが一般的に用いられるようになりました。
パリ協定からの世界的な動き
国単位で具体的な排出量削減の目標を設定したのは、2015年に開催されたCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)21のパリ協定です。パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低くする(2℃目標)ことのほか、1.5℃より低くするよう努力する(1.5℃目標)ことが共通認識として確認されました。
その目標として、締結国は2030年までに削減する温室効果ガスの量を目標として設定しました。日本の目標は、2030年の温室効果ガス排出量を2013年比で26.0%削減することです。
「日本の約束草案」として決定し国連に提出しました。その内容は「国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比-26.0%(2005年度比-25.4%)の水準(約10億4,200万t-CO2)にすること」としています。
引用:外務省「日本の排出削減目標」
締結国は、それぞれが設定した目標を達成するため、さまざまな施策を講じています。環境保護の意識が高いEUを例にとると、欧州委員会では2022年3月に「循環型経済行動計画」を発表し、カーボンフットプリントなどの環境影響評価指標を用いて、持続可能な製品の枠組みを整備しました。
そのほか、カーボンフットプリントや製品移動の履歴を「デジタルプロダクトパスポート」で追跡することをエコデザイン規則法で義務付けました。また、食品のカーボンフットプリントの表示の義務化も進めています。
日本での動き
日本がカーボンフットプリントを本格的に利用し始めたのは、2008年頃です。温室効果ガスの排出量を見える化することを目的に、「低炭素社会づくり行動計画」の中でカーボンフットプリントの制度化を推進することを表明しました。
同年に発表した「地球温暖化対策法に基づく指針」では、カーボンフットプリントを活用して、日常生活用製品の温室効果ガスの排出量を見える化するよう告知しました。カーボンフットプリントの実用化と普及に向けた「実用化・普及推進研究会」には、大手企業を中心とした31社が参加し、指針やPCR(商品種別算定基準)の策定に着手しました。
2009年から2011年には、CO2排出量を「見える化」して国民が適切な行動をとれるようにすることを目的とし、「カーボンフットプリント制度試行事業」を実施。PCR原案の策定やPCR認定までをコンサルティングして、制度の普及を図りました。
また、2012年には「CFPコミュニケーションプログラム」を設立し、カーボンフットプリントの普及を推進してきました。同プログラムは2017年に「エコリーフ環境ラベル」と統合し、「SuMPO環境ラベルプログラム」という名前で環境負荷の低減を図っています。
政府は2020年10月に、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目指すと宣言しています。2021年に開催されたCOP26終了時点では、日本を含む150以上の国が2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すことを宣言しています。
カーボンフットプリント(CFP)の算定方法
カーボンフットプリントは、ライフサイクルアセスメント(LCA)をもとに算定されます。ライサイクルアセスメントとは、製品のライフサイクル(原料生産・製造・流通・消費・廃棄・リサイクル)全体から環境負荷を算定する手法です。
すなわち、製品の原料生産から廃棄またはリサイクルするまでにどれだけの温室効果ガスを排出するかを算定します。具体的には、温室効果ガス排出量を計算するルールであるPCRに当てはめて計算します。
まず、SuMPO環境ラベルプログラムの「認定PCR一覧」で該当する製品のPCRを確認し、記載されているルールに従って計算します。該当する製品のPCRが登録されていない場合は、新たにPCRを策定し、認定を受ける必要があります。その際は、SuMPO環境ラベルプログラムの算定ツールを用いて、環境影響を算定します。
CFPマークの取得
新規PCRの策定の検証結果は、第三者が検証します。検証に合格後、登録公開申請をすれば、宣言がWebサイト上に公開され、以下のマークを利用できるようになります。
カーボンフットプリント(CFP)の算定の課題とデメリット
カーボンフットプリントを活用した取り組みは、温室効果ガスの削減に役立ち、国が目指している2050年のカーボンニュートラル実現に寄与します。しかし、現状のシステムや算定方法には、以下のようなデメリットがあります。
- CO2排出量の算定に時間・コストがかかる
- 客観的な共通ルールがない
- 消費者の理解が得られていない
CO2排出量の算定に時間・コストがかかる
カーボンフットプリントを算定するには、製品のライフサイクル(原料生産・製造・流通・消費・廃棄・リサイクル)の全工程の温室効果ガス排出量を求めなければならないため、非常に多くの時間やコストがかかります。
例えば、排出量を概算できる排出係数はすでにありますが、間接排出量はそれぞれ計算しなければなりません。また、CFPマークの取得には多額の資金がかかります。SuMPOによると、新規の認証を取得するには840万円に加えて、審査員の交通費や宿泊費の実費がかかるようです。
決して安い金額ではないため、CFPの認証は資金力のある企業に限られてしまいます。取り組みを広く推進するには、企業の時間・コスト負担を軽減する必要があるでしょう。
算定の共通ルールがない
カーボンフットプリントの算定には共通ルールがないため、算定手順を模索する必要があります。カーボンフットプリントを算出するには、PCRや業界独自のガイドラインが策定されている分野を除き、一般的にISO14067:2018やGHG Protocol Product Standardを参照します。
しかし、これらの国際的なルールを実務に落とし込む際、解釈の仕方によってはカーボンフットプリントを実際の値より低く算出することもできるでしょう。
企業によって算定ルールが違えば、結果にばらつきが出てしまいます。そのため、カーボンフットプリントを広く普及するには、業界内の企業や団体が結束し、業界のガイドラインやルールを策定する必要があるでしょう。
消費者の理解が得られていない
現在、世間にカーボンフットプリントが浸透していないため、カーボンフットプリントを表示したとしても消費者の理解を得られない可能性があります。
「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査」によると、7割以上の日本人が環境に負荷をかけない商品を選びたいと思っています。しかし、実際に環境に負荷をかけない商品を選んでいる消費者は4割にとどまっています。
環境に負荷をかけない商品を選んでいない理由は「どの商品であれば、環境負荷が低いのかがよくわからない」が最多でした。このことから、環境負荷の大きさを測れるカーボンフットプリントが浸透していないことがわかります。
消費者が環境負荷の低い製品を選べるようにするには、カーボンフットプリントを今以上にわかりやすく伝える必要があるでしょう。
企業はカーボンフットプリントの取り組みが求められる
カーボンフットプリントを表示している製品はまだ少ないですが、EUで表示義務化の議論がされていることを考えると、将来的には日本でも表示の必要性がでてくるかもしれません。
今後企業は、カーボンフットプリントのほかにも、環境変動に関するあらゆる問題への対応が求められるでしょう。ESGやSDGsなどの知識を深め、自社の経営に活かせる活動がないかを考えてみてはいかがでしょうか。
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