テクノロジーを駆使したデータドリブンな企業変革(DX)が求められる製造業ですが、DX人材の不足などの要因で思うように推進できていない企業が多いのが現状です。
DXの推進を担える人材を採用するためには企業自身の変化も求められます。
今回は、人材サービスのグローバルリーダーであるAdecco Groupで、日本における人材紹介・転職事業を展開するLHH転職エージェントのEMC紹介部部長の原真人氏とNew Tech&Plant紹介部部長の今井健介氏に、製造業DXにおけるハイクラス人材やその採用、定着などについて伺いました。上下編に分けてお届けします。
上編では、原氏に「DX人材の採用と定着に成功している企業の特徴」「製造業で求められるDX人材像」についてお聞きしました。
成蹊大学工学部卒業。旅行代理店を経て、大手人材紹介会社で製造業を担当。2021年にLHH転職エージェント(アデコ株式会社)に入社。製造業領域を中心とした幅広い知見を有する。
――原さんが所属しているEMCについて教えてください。
原氏(以下同) LHH転職エージェントでは、製造業という大きな括りの中で、化学、自動車、半導体、電機、最先端技術、プラントといった6つの分野に分けて、求職者のサポートをしています。私が所属するEMCでは、化学、自動車、半導体、電機業界を担当しています。
――どのような求職者が御社のサービスを利用されるのでしょうか。
将来のキャリアビジョンが明確な方が多い印象です。例えば、自身の技術を世の中で役立てたいメーカーの技術者や、英語力を活かした海外営業に自身の活躍領域を広げたいと望む方などがいます。弊社では、求職者の方と面談する際に、条件から入るのではなく、ビジョンから伺うことを徹底しています。
――製造業の転職市場における「ハイクラス人材」とは、どのような方ですか。
技術革新を実現するスキルと知識を持ち合わせ、かつ語学が堪能な人材を指すと思います。エンジニアのポジションですと、DXやSCM(サプライチェーンマネジメント)の分野で採用の需要が高まっており、営業や購買のポジションではグローバルな観点で活かすことができるスキルが求められます。
――製造業のDX人材に求められる力を具体的に教えてください。
デジタル技術などのイノベーションに活用できる知識があることに加え、製造プロセスについても精通していることが重要になります。アナログの製造プロセスをデジタルデータで管理できるようにした上で、自動化の実現まで推進することが期待されています。
また、AIやIoTを使ってデータ解析をしたうえで、SCMや予知保全体制の構築などができる人材が求められるケースも多いです。日本の製造業におけるDXは世界と比較し遅れている傾向にあり、難易度は高いものの、DXのあるべき姿に至るまでのイメージを持っている人材が理想です。
――不足する製造業のDX人材を確保するためには、企業はどうするべきですか。
製造業以外でのDX経験者を採用する、もしくは外国人人材を採用する必要があります。ただし、人材が希少であるため、相応のコストもかかります。
――別の業界から製造業のDX部門に転職する人材は増えているのでしょうか。
少しずつ増えています。例えば、消費財や医療業界からの転職です。しかしながら、求職者の立場になると、コンサルタント職など選択肢も幅広く、給与水準を理由に必ずしも製造業への転職を選択するわけでもありません。また同じ製造業であっても外資系企業との争奪戦もありえます。
――では、DX人材の採用・定着に成功している企業にはどのような特徴がありますか。
従業員満足度が高く、退職率が低い企業はDX人材の採用に成功しやすいと考えています。このような企業は社員のつながりを活かしたリファラル採用を自信をもって行えるのが強いですね。
獲得人材の定着という観点でいうと、明確なビジョンをもって企業運営をしている点も重要です。DX人材に限った話ではありませんが、明確なビジョンに基づいて経営方針がたてられ、それに沿って事業を行っていく企業は、入社前後でのイメージのギャップも生じづらく、DX人材も定着しやすいです。
さらに、入社後の研修に力を入れている企業も多いです。生涯雇用を前提として、特定の研修が管理職への道筋になっていたり、英語力などの明確に測れる基準が管理職になるための条件になったりしている企業は、自分の立ち位置、キャリアパスも明確になります。
――逆にDXに失敗している企業の特徴はありますか?
人材に起因する理由で失敗することが多いと思います。例えば、DXを推進しようとしたものの適切な人材を確保することができず大量生産に失敗したり、研究開発で結果が出せなかったりするケースです。メーカーですと、技術の秘匿性などから外部に委託しづらく、生産についても自前で開発しなければなりません。研究開発も重要ですが、それと同じくらい生産ラインを整えることも重要になってきます。
――製造業のDX人材に関する求人数と求職者数は増えていますか。
データ分析やIoT、ロボット技術など、求人数は増加している一方、求職者数は微増という程度です。製造業でのDX人材は人手不足感が否めません。
――そのような状況下で、企業は人手不足を解消するためにどのような打ち手が考えられますか?
短期的にみれば、外国人人材を採用するべきです。日本は少子高齢化が進み、DX人材の増加を見込むことが短期的視点ではなかなかできません。また、社内で育成するにしても時間がかかります。
――日系企業が、DXを推進できる外国人人材を獲得するためには何をすべきでしょうか。
企業ブランディングを向上させることです。世界的に知名度を上げることで外国人人材を呼び込む必要があります。また、給与体系改定も求められます。最近では新卒でも年収1千万円以上の報酬を提示する企業も増えています。
――日系企業に転職する外国人人材はどのような方が多いのでしょうか。
過去に日系企業とのつながりがあって、日本の文化に愛着がある方が多いです。また、日系企業の充実した研修制度に魅力を感じて転職する方もいますね。
――大手企業と中小やベンチャー企業を比べたときに、DX人材の獲得の違いはありますか。
中小やベンチャー企業もDXを進める必要があるとは思いますが、大手企業に比べると採用が難しいのが現状です。実際にDXを進めるには、人材の採用、設備投資などコストがかかります。「やりたくてもできない」というのが中小企業の実情だと思います。
また、ベンチャー企業ではある特定の分野でのDX人材を採用しているケースはあります。しかし、DXは幅広い分野で想定される技術でもあり、大手企業ではさまざまな分野で対応できる人材が求められています。
(下編に続きます)
ポイント
・製造業DXで求められるのは、技術とモノづくりの知見があり、語学が堪能な人材
・DX人材の転職市場では人材が不足しており、外国人人材の採用も検討する必要がある
・DX人材獲得の鍵は、ブランド力強化と給与体系の改定
DX人材の転職市場においては、求人数は増加している一方、求職者数は微増にとどまっているため、人材不足の解決の糸口はなかなか見つかりません。しかし企業は外国人人材の獲得の積極的な検討や、DX人材を獲得し定着させるために、企業のブランド力向上とスキルに見合った柔軟な給与体系への転換が求められています。
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