AIによる外観検査とは?導入のメリットや注意点、事例について詳しく解説
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品質管理の面で外観検査は大きな役割を担っていますが、手作業に頼った形で行われることが多いため、その効率化が課題となっています。近年発達しつつあるAI技術は、外観検査においても大きな役割を果たしており、精度向上や効率化につながる可能性があるのです。

本記事では、外観検査の効率化に関心がある方、外観検査へのAI導入を検討していく立場の方に向けて、AIによる外観検査の概要から導入のメリットと注意点、導入事例などを含めて解説します。

目次

  1. AIによる外観検査
  2. AIを活用して外観検査を行うメリット 
  3. AIによる外観検査のデメリット 
  4. AIを活用した外観検査で判定できること
  5. AI外観検査の事例
  6. 代表的なAI外観検査サービス
  7. AIによる外観検査の導入費用
  8. AIによる外観検査の導入プロセス
  9. まとめ

AIによる外観検査

ここでは、AIによる外観検査について「外観検査とは何か」という基本的な部分を始めとして、外観検査の種類までを含めて解説します。

外観検査とは

外観検査は、生産された製品の外観や仕上がりを目視または機械的に判定する工程です。特に製造業では、完成後の品質が製品の信頼性に直結することから品質管理において重要な工程とされています。

従来の外観検査では、検査対象の製品に精通した検査要員が人間の五感に加えて、経験や勘を頼りに感覚的に判定していました。しかし、人間の感覚に頼った外観検査では検査員のスキル、体調などに検査結果が左右されるという課題があります。また、人手不足により習熟した検査員を確保できないというケースもあるため、今後は効率化や機械化が求められる分野といえるでしょう。

外観検査の種類

・インライン検査
主に製造工程の中で直接行われる検査手法です。製品が生産ラインを進む中で、センサーなどの検査機器が外観検査を実施します。インライン検査では、即座に問題を検知し、迅速に不良品を取り除くことが可能です。

一方で検査機器の導入にコストがかかること、特殊な検査項目や不測の事態への対応が難しいなどのデメリットがある点に注意が必要です。

・オフライン検査
主に製造工程の外部で採用される検査手法です。製品が生産ラインを離れた後に、専用の検査場で外観検査を実施します。人手による検査が一般的であり、検査に時間を要することがある一方で、より詳細な検査や特殊な検査項目に対応することが可能です。

一方で、オフライン検査は検査員のスキルに依存すること、検査対象が増えた際に検査の時間がかかることなどがデメリットとして考えられます。

インライン検査とオフライン検査の代表的なメリットとデメリットは以下の通りです。

メリットデメリット
インライン検査・検査のスピードが早い
・全数検査が得意
・自動化すれば人件費がかからない
・自動化する場合は設備設計
・設置などの手間
・コストがかかる
オフライン検査・精密な検査がしやすい
・抜取検査が得意
・イニシャルコストを抑えられる
・全数検査が苦手
・目視検査の場合は検査員によって作業のばらつきが出る恐れがある
・目視検査の場合は人件費がかかる

AIによる外観検査の必要性が高まっている背景

近年は外観検査にAIが導入されるケースが出てきていますが、その背景として慢性的な人手不足があります。従来、外観検査は経験豊富なベテラン従業員を担当にすることが多かったのですが、バブル崩壊による景気低迷の影響から新卒採用が絞り込まれたことで、ベテラン従業員の技術を継承する人材が不足しているのです。そのため、属人的なスキルや経験に依存しない形で外観検査を行う手段としてAIに注目が集まりました。

また、近年は働き方改革によって長時間労働を削減しようとする動きがあります。2020年4月には中小企業にも「時間外労働の上限規制」が課されるようになり、長時間労働によって検査の数をこなそうとする考え方はなくなりつつあるといえるでしょう。そのため、AIによって外観検査を自動化することで労働時間の削減につなげたいと考える企業も増えているのです。

AIを活用して外観検査を行うメリット 

近年ニーズが増えているAIによる外観検査の代表的なメリットについていくつか紹介します。

・現行業務の省人化につながりスムーズな事業拡大が可能
・外部要因に左右されない一貫性のある検査が可能
・さまざまなパターンの異常が検知できる

省人化

AIの導入が人手不足解消につながる理由は複数あります。その1つがAIによって高速かつ高精度の検査が実現することです。従来の人手による外観検査では実施できる検査数は人手と労働時間に左右される上に、検査員の疲れによって検査精度が落ちる可能性もありました。一方でAIは昼夜問わず大量の検査を実施できることから検査工程の省人化に貢献できます。

また、事業の拡大によって実施すべき外観検査の数が増えたとしても、すでにAIによる外観検査を導入していれば、既存の仕組みを展開することで検査員の追加が不要になるでしょう。外観検査において必要なスキルを有した検査員の新規採用は難しい一方で、組織の中で育成するとしても長い時間がかかります。AIを使った外観検査は現行業務の省人化につながるとともに、スムーズな事業拡大が可能になるというメリットもあるのです。

検査品質の安定化

従来の人手に依存した外観検査では、検査員の疲労や見落としといった人的な要因によって検査品質が安定しないという課題がありました。特に目視検査の領域ではその傾向が顕著であるといえるでしょう。

一方でAIによる外観検査であれば外部要因に左右されずに一貫性のある検査が可能です。また、AIは検査画像を始めとしたデータを蓄積して分析することから、日々新たなパターンの異常が検知されたとしても安定した品質で検査を実施することが可能です。

さまざまな異常を検知できる

AIによる外観検査では、さまざまなパターンの異常が検知できることも大きなメリットです。従来の人手による検査では、検知できる異常の種類は検査員のスキルや経験に依存し、経験の浅い検査員では限られた異常しか検知できない可能性があります。

一方、AIによる外観検査ではディープラーニングや機械学習などのアルゴリズムを使用して、AIが大量のデータから異常のパターンを学習します。また、学習のために何千もの画像や音声データを取り込むことができ、継続的に判定制度を向上させることが可能です。

製造業の現場では日々さまざまなパターンの異常が検出されるため、それらについて検査員が一つひとつ覚えていくのは苦労を伴うでしょう。外観検査にAIを導入することで日々情報が更新され、幅広い異常を検知することが可能になるのです。

AIによる外観検査のデメリット 

外観検査の精度や効率のアップに寄与するAIですが、導入にあたってはデメリットがあることにも注意が必要です。

・専門知識と初期投資が必要
・相応のコストがかかる
・不良判定を行うための学習に必要なデータが必要

まず、AIによる外観検査を導入するためにはAIモデルを構築するための専門知識と初期投資が必要です。高度な機械学習モデルやハードウェアの導入には相応のコストがかかることに加え、不良判定を行うための学習に必要なデータも揃えなければなりません。

また、AIモデルは訓練された特定の条件やタイプの製品に対しては高い精度を持ちますが、環境が変わると性能が落ちる可能性があります。新しい製品や変更された製造プロセスに対応するためには、再度の訓練が必要になることがあります。

さらに、深層学習などの複雑なAIモデルはその判断基準が不透明であることから、何を根拠に不良判定に至ったのかを理解するのが難しい場合もあるでしょう。

AIを活用した外観検査で判定できること

AIを活用した外観検査では、目視では検知しにくい規格不良や表面不良を検出することができます。外観検査で検出される異常は大きく、規格不良と表面不良に分けられます。規格不良は形状、デザインなど製品の規格に関わる根本的な部分の不良である一方、表面不良はキズやへこみ、付着物などの偶発的な事象によって発生した不良です。また、これらの不良は以下の表にある通り、金属、食品加工といった業界によって違う形で現れます。

<規格不良・表面不良の検査内容>

外観検査内容
規格不良形状変形検査
位置位置ずれ検査
デザインデザインずれ、擦れ検査
表面不良傷、擦れ、打痕などの傷検査
輪郭バリ、欠け検査
表面汚れ、しわ、凹凸、色ムラなどの表面検査
異物異物、チリなどの付着物検査

<業界別の判定可能な内容>

業界判定可能な内容
金属業界サビ、割れ、欠け、バリ、寸法ズレ、変形、気泡、打痕など
食品業界傷、破れ、汚れ、焼け、凹み、異物、印刷ミス、異品種混入など
樹脂業界傷、汚れ、シルバーストリーク、スジ、変色、気泡など
電子デバイス業界汚れ・異物の付着、はんだ不足、ショート、断線など
医療・医療品業界ラベルずれ・破れ、印字ミス、内容量など
日用品業界ミス、ラベル破れ、ラベルずれ、印字など
シート業界ゲル、気泡、割れ、クラック、フィッシュアイなど
半導体業界チップ、リードフレーム、位置ずれなど
電子部品業界溶接、ピンホール、付着物、ネジ、ボルトなど

AI外観検査の事例

ここでは、いくつか代表的な事例を紹介します。

清水建設

清水建設は、ガス圧接継手の外観検査を効率化することを目指し、AIを利用した画像認識技術を導入しました。ガス圧接継手は、鉄筋の接合端面に圧力を加えながら加熱し、接合する工法です。同社は、これまで目視で行っていた検査を画像認識AIによって代替し、1ヵ所あたりの検査時間を約5分から20~30秒に短縮しました。

このシステムでは、スマートフォンのアプリを立ち上げて鉄筋のサイズを指定して撮影するだけで、施工状態を判定できます。不良と判定された場合はその理由も表示されることから、AI導入のデメリットである判定根拠の不明瞭さにも考慮した仕組みであるといえるでしょう。

ヨシズミプレス

プレス加工を手がけるヨシズミプレスは、大量生産される電池部品や金属文具などの検査にAIを導入しました。事前に良品と不良品の画像をAIに学習させることで、検査プロセスを自動化したのです。特に、自動運転のセンサーに使用される半導体レーザーの製造で、従来は6名の従業員が10日間を要していた目視検査を、AIによって大幅に短縮することに成功しています。

この事例では経済産業省のAI支援事業を活用し、ハードウェアの整列機を自社で製作し、ソフトウェアの面ではコンサルティング会社と協力してAIの学習とチューニングを行いました。

金属部品メーカー

ベアリングを製造する金属部品メーカーでは、金属の表面に発生する細かな不良を目視で検査していたことから、長い時間をかけていました。また、人的ミスの発生頻度や検査員の作業負荷が大きいことも課題となっていたのです。

そこで外観検査の工程に不良の判定基準を学習させたAIを導入したところ、0.2秒で不良を判定できるようになり、検査効率が大幅に向上しました。また、わずかなキズやほこりの付着といった軽微な不良に過敏に反応することなく、精度の高い判定を実現したのです。

代表的なAI外観検査サービス

ここでは、AIを使った外観検査サービスについていくつか代表的なものを紹介します。

「InspectAI」(インスペクト・エーアイ)

ARAYAが提供する「InspectAI」は、従来の人間による視覚検査をAI技術で自動化するパッケージソフトウェアであり、食品に混入した毛髪など目視では確認しにくいものでも高い精度で検出できることが特徴です。「InspectAI」は幅広い業界で導入事例がありますが、特に製薬業界における目視検査に強みを持っています。

AISIA-AD(株式会社システムインテグレータ)

「AISIA-AD」とは、製造現場や倉庫での視覚検査者の経験や技術をAIが学習することにより、検査スキルを再現するAIモデルを作成するサービスです。従来、検査員のスキルはベテランから世代を越えて継承されるものであり、組織全体で外観検査の知見を蓄積させるのに長い時間を要していました。

「AISIA-AD」を活用することで、人間の検査員が行っていた作業をAIが模倣し、同じレベルの検査を再現できます。外観検査の効率化と精度向上に留まらず、ベテランからの技術継承という課題に応えられるソリューションだといえるでしょう。

Impulse

ブレインズテクノロジーが提供する「Impulse」は、部品や製品、パッケージなどの微細な異常や不良を検出するために最新のアルゴリズムを用いています。具体的には出荷される製品についた傷、打痕、凹凸などさまざまな異物を検出することが可能です。

「Impulse」の大きな特徴は簡単な画面操作によって機械学習アルゴリズム(判定モデル)の選定やチューニングが可能であることです。AIの活用においては継続的なアルゴリズムのメンテナンスが求められ、専門知識を持った人材によるサポートを必要とするケースが多いのですが、「Impulse」は現場のスタッフでAIのチューニングができるため導入のハードルが比較的低いといえるでしょう。

AIによる外観検査とは?導入のメリットや注意点、事例について詳しく解説
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AIによる外観検査の導入費用

AI(人工知能)を用いた外観検査システムの導入費用は、AIに求める精度、必要な機能、使用されるアルゴリズム、および導入対象の規模によって千差万別です。AIによる外観検査の導入コストとしては以下が考えられます。

・ハードウェア、ソフトウェア、AIモデルを構築するための人件費
・運用開始後のサポート費用など

近年は専門知識を備えた人材がいなくとも設定可能な製品も出てきており、数百万円からでも導入可能なケースもありますが、正確な金額を把握するためには、サービスを提供する企業に直接問い合わせるとよいでしょう。また先述の事例にある通り、政府や産業団体からの助成金や補助金が活用できるケースもあります。

AIによる外観検査の導入プロセス

AIによる外観検査の導入は順序立てて実施することが重要です。ここでは、外観検査にAIを導入する際のプロセスについて解説します。

現状の分析

外観検査に限らずAIを始めとするITソリューションを導入する際には、現状の業務にどのような課題があるか、それを解決することでどのようなメリットが期待できるのかを把握することが重要です。課題の内容によっては、その答えがAIの導入ではない可能性もあります。外観検査の分野においてもAIの導入はあくまで手段であって目的ではないことを念頭に置き、現場の協力を得ながら現行業務の課題抽出に努める必要があるでしょう。

効果検証(PoC)

現状の外観検査で生じている課題解決にAIが適していると判断できた場合、次に実施するのが効果検証(PoC)です。PoCではAIによる外観検査によって実際にどれだけの効果が出るのかを定量的に把握します。また、複数のサービスを比較して最適な候補を絞り込むこともPoCの目的です。まずは少数の製品を対象にAIを使った外観検査を導入するなどスモールスタートの形でPoCを開始するとよいでしょう。

導入

PoCで定量的な効果が検証できた場合は、調達先の選定を経て実際の導入に移ります。選定したサービスによっては運用開始までのサポート、検収、AIモデルの構築なども含めて支援が得られるケースがあります。サービスの調達時には導入支援の充実度なども加味して、調達先を選定するとよいでしょう。

運用

AIによる外観検査は導入後も長きにわたって運用していく仕組みです。そのため、サービスの提供元企業が運用開始後の問い合わせやトラブル対応に力を入れているかが、安定した運用における重要なポイントになります。また、検査対象に新たな製品が加わった時のAIモデル構築など継続的に支援が得られるかどうかもサービス選定時の大きな決め手となるでしょう。

まとめ

従来、外観検査は長年の経験や知見を前提とした業務であり、ベテランから若手へのスキル継承が期待されてきました。しかし、不況による採用の絞り込みや人手不足などの影響から世代間の技術継承が難しくなり、現在では多くの企業がAIを導入して人手に頼らない形での外観検査を模索しています。

近年は比較的安価で設定に専門知識を要しない製品も出てきているため、外観検査にAIを導入することのハードルが下がっており、今後も導入事例は増えていくでしょう。

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