近年は生産年齢人口の減少による人手不足がさまざまな領域で深刻化しており、その解決策としてロボットによる業務の自動化が注目されています。従来は限定した用途で活用するロボットですが、近年は技術の発展により広い領域でロボットの活用が模索されています。
本記事では、ロボットの導入を検討されている方に向けて、ロボット導入のメリットや導入までのプロセスから代表的な先行事例を含めて解説します。
産業用ロボットの導入による自動化
産業用ロボットの導入による自動化が幅広い分野で注目されていますが、これにはどのような背景があるのでしょうか。
現在、日本では少子高齢化に加えて生産年齢人口の減少も進んでいます。それに伴い、過酷な業務を伴う業界や業種では十分な人材を採用できずに慢性的な人手不足に陥っているのです。具体的には、夜勤を伴う製造業、介護、飲食や小売といったサービス業が人手不足に悩む分野であるといえるでしょう。
人手不足を解消するためには、少人数でも業務を回せるよう生産性を向上させる施策が求められます。生産性向上を図る手段の1つとして、産業用ロボットの導入に注目が集まっているのです。
ロボットでの自動化を実現することのメリット
ここでは、ロボットの導入によって期待できるメリットのうち、代表的なものをいくつか紹介します。
省人化の実現
ロボット導入の意義の1つが省人化です。ある業務をロボットが代替することで、従来は複数人で担当していた業務を1人で遂行できるなどの効果が期待できます。また、労働集約的な業務に従事していた人員を、人にしかできない価値ある業務や創造的な業務に配置できます。
オフィスワークの分野でもRPA(Robotic Process Automation)というソフトウェアのロボットによって、定型的な業務の省人化を図ることが一般的になりつつあります。今後もロボットが代わりに担える仕事はロボットに任せ、人にしかできない仕事に限られた人的リソースを充てようとする動きが大きくなるでしょう。
生産性の向上
少子高齢化や人口減少の影響により、あらゆる業界で生産性向上のための施策が検討されていますが、ロボットの導入も生産性向上に大きく寄与する選択肢といえます。
特に製造業の現場においてはロボットによる自動化を実現することで、品質を担保しつつ長時間の稼働が可能になり、生産量を増やすことができるでしょう。もし、短期間に注文が集中した場合でもロボットであれば稼働量を増やして対応することが可能です。逆に、すべて人手による作業であれば残業規制を考慮しつつ勤務シフトを調整するなどの手間が発生し、柔軟な対応が難しくなるでしょう。さらに、作業が長時間に及ぶ場合は作業員の疲労による生産性低下にも注意しなければなりません。
また、ロボット導入のコストよりも削減される人件費が大きい場合は、組織全体の利益率向上にもつながる可能性があります。ロボットを導入することは現場の生産性向上に留まらず、経営面でもメリットがあるのです。
属人化の解消
人手不足が深刻化している領域では、業務スキルの属人化を解消することも重要な課題です。属人化とはある業務のスキルが特定の個人に依存している状況を指します。業務が属人化している場合、担当者の退職によってスキルが継承されないなど組織全体で大きな損失を生むリスクがあります。
例えば、外観検査の領域では検査精度がベテランの作業員が持つ経験や勘に依存する部分が多く、検査員によって精度にばらつきがでることが課題とされています。一方で、ロボットによる外観検査であれば検査員のスキルや経験に依存せずに一貫性のある検査が可能です。ロボットは備え付けられたセンサーから得られた情報と事前に設定された条件によって検査を行うため、人手による検査よりも精度のばらつきが少なくなるでしょう。
一部の従業員にしかできなかった作業をロボットが担当することで、特定の従業員への負荷集中や休暇の取りづらさといった事象も解消されることが期待できます。
従業員の安全確保
ロボットの導入によって、人間の代わりに危険な環境での作業を任せ、人間が危険にさらされる可能性を減らすことができます。特に高所での作業や有害物質が発生する場所での作業は安全対策を講じたとしても事故のリスクが残るため、ロボットに作業を任せることができれば従業員は安全です。
また、ロボットの導入によって疲労による集中力の低下や習熟度不足による事故の発生も抑えることが可能です。現在も倉庫内の搬送には自動搬送ロボットが用いられており、従来の人手による運搬が代替されつつあります。さらに近年は介護の領域でもロボットの導入が模索されており、力仕事が多いとされていた介護の仕事でも、従業員の疲労や安全性を考慮した職場環境の実現が期待されます。
ロボットでの自動化を実現するプロセス
ロボットの導入によってさまざまなメリットが期待できますが、ロボットによる自動化を実現するためには段階を踏んで検討を進めることが重要です。ここでは、ロボットの導入に向けたプロセスについて解説します。
作業標準書を作成する
ロボットによる自動化を考える際には、まずは作業標準書を作成することが重要です。作業標準書の作成にあたっては、作業を構成する一つひとつのプロセスを整理した上で、誰にでもわかるよう簡潔な記載にしましょう。
そして、作業内容のみならず「異常かどうかを判断する基準」も決めて作業標準書に記載します。製造ラインの故障や原材料の不良が見つかった場合など、異常と判断するポイントを明確に記載し、初心者であっても異常の判定ができるように作業標準書を整備することが重要です。
大手の自動車メーカーでは製造ラインの後工程に問題を引き継いでしまうと、ラインの停止など大きな悪影響が発生します。そのため、異常を判断するポイントを具体的に定義してマニュアルに落とし込むことで、経験の浅い作業員でも異常検知時に製造ラインを停止できるよう手順として整備しているのです。
自動化したい項目を明確にする
作業標準書を作成した後は、実際にロボットを導入して自動化したい項目を明確にします。一般的に自動化に適した作業は、同じ動作を反復するような単純作業だと言われていますが、自動化したい項目を考える際には、QCDの観点も持つとよいでしょう。QCDとはQuality:品質、Cost:費用、Delivery:納期を表す概念であり、具体的には以下の通りです。
また、製造業の場合は上記のQCDに加えてS(Security:安全性)という項目も重視する必要があります。短納期での出荷を優先するあまり、安全が疎かになってはいけません。自動化を考える際には安全が最優先となるように検討を進めることが重要です。
作業項目の中には、顧客からの注文に基づいて細かい作りこみが必要な工程や人の感覚に頼らざるを得ない検査項目などがあるでしょう。どうしても人が対応したほうがよい作業については自動化したい項目からは除外します。
専門家への相談
ロボット導入による自動化を検討する企業では、ロボットや自動化に関する有識者がいないことが多いでしょう。そのため、必要に応じて専門家の支援を仰ぐことも重要です。近年はロボットの導入に関するニーズが高まっていることから、多くの企業がこの領域に参入しており導入事例が蓄積されています。自社で業務を自動化する目的を正しく伝えた上で相談することができれば、費用対効果を考慮した提案を受けられるでしょう。
また、ロボットは導入して終わりではなく、長期間の運用を前提としたものです。そのため、導入後のサポート体制やこれまでの評価なども重視して、パートナーとなれるような企業を選定するようにしましょう。
ライン構想やシステムの仕様の策定
製造業においてロボットを導入する場合、ロボットを製造ラインの構成要素として見ていく必要があります。ロボットの導入を前提とした製造ラインやシステムの仕様を決めていく際はハード面とソフト面の両面で考えることが重要です。
まず、ハード面ではロボットが設置される製造ラインの状況やレイアウトを調査し、現状の動線や作業プロセスへの影響を洗い出す必要があります。ソフト面においては、すでに導入されている生産管理システムとの連携、安全確保のために整備されたルールとの整合性などを考慮しなければなりません。また、IoT技術を活用したセンサーなどが製造現場に設置されていることもあるため、これらのIoT機器との連携にも注意する必要があります。
導入・稼働
ハードとソフトの両面での仕様が確定すると、いよいよロボットの本格的な導入に向けて契約、発注と進んでいきます。契約関連の手続きが完了した後は、決められた仕様に基づいてロボットの設計と導入作業が進められます。ロボットの導入と並行して、周辺機器との接続や既存システムの改修なども必要になります。
また、ロボットの導入によって従来の作業手順や作業員の動線が変わることも考えられます。ロボットの導入前には従業員への周知や手順書の修正といった対応も済ませておきましょう。ロボット導入による影響を見極めるために、一部のラインから導入して効果検証を行ってから全面的に展開するなどの対策も考えられます。
運用
ロボットの導入後は、長期にわたって運用するための定期的なメンテナンスが欠かせません。そのため、運用開始後のサポートや問い合わせの体制が充実した企業のロボットを選定することが重要です。運用開始後の支援が手厚い企業は、数多くの導入実績があり、インターネット上でも高い評価を得ていることが多いため、選定における評価基準にするとよいでしょう。
また、中長期的には組織の内部でもロボットの運用技術を持った人材を育成または採用していくことも重要です。
工場自動化の事例
近年は人手不足による自動化のニーズが高まっていることから、工場における作業をロボットによって自動化するケースが増えています。ここでは、ロボットを用いた工場自動化の事例について代表的なものをいくつか紹介します。
安川電気
産業用ロボット製造の大手である安川電機は、製造業におけるロボット自動化のリーディングカンパニーです。同社のロボットシステムは、自動車組み立てラインや電子機器の製造ラインなどの領域において世界中で幅広く活用されています。
同社では人協働ロボットの「MOTOMAN-HC10DT」を製造現場に導入しています。人協働ロボットは従来の産業用ロボットでは必須であった安全柵を不要とし、人と共同で作業ができることが大きな特徴です。
また、人協働ロボットの導入は作業品質や作業時間を平準化するというメリットに加えて、省スペースであることもコスト面でプラス要素になるでしょう。さらに、人協働ロボットは固定した形で設置する必要がないため、台車での運搬が可能であり生産ラインの組み直しが容易になることもうれしいポイントです。
アイリスオーヤマ
家電大手のアイリスオーヤマは、ロボット自動化の分野でもさまざまな実績があります。同社は、製品としても以下の通り多彩なロボットを展開していることが特徴です。
企業や施設での清掃作業:「Whiz i アイリスエディション」
飲食店や宿泊施設での配膳や運送:「Servi アイリスエディション」「Keenbot アイリスエディション」「DeliveryX1」
このようにロボットの販売も手掛ける同社ですが、LED照明を始めとした家電の製造工場においても、ロボットによる自動化を実現しています。特に近年新設されたつくば工場では、3つの製造ラインすべてが自動化されており、作業員は各ラインに1人しか配置されていません。LED照明の製造ラインでは、次々と流れてくる基盤にLEDチップを装着する作業をロボットが担っています。また、次のラインへの運搬もAGV(Automatic Guided Vehicle)と呼ばれる無人搬送車が担当するため、人手が介在するプロセスがほとんど存在しません。
同社では、今後も人手不足の状況が続くことを見越し、大量生産を前提とした汎用品の製造でさらに自動化を進めていくことを目指しているのです。
NTN株式会社
ベアリングの製造を手掛けるNTNは、ロボット自動化の分野でも多くの成功事例があります。その中でも特筆すべきなのは、自動車部品の製造プロセスにおけるロボットの活用です。
同社では自動車用CVJ(等速ジョイント)の組み立てラインにおいて、部品の形状が不安定であることから人手に頼った作業が残り、自動化が遅れているという課題がありました。また、作業自体の難易度も高く、現場の負荷も高い状態が続いていたのです。
そのような現状を踏まえ、ロボット導入による自動化の検討が始まりました。ロボットの導入に際しては全工程の作業や熟練者の動きを詳細に分析し、最適な動作をロボットに学習させたことにより、人に代わって作業ができる領域が広がり60%もの省人化につながったのです。ロボットの導入検討に、複数の生産技術者や現場作業者が参画したことが成功の秘訣といえるでしょう。
まとめ
ロボットによる自動化には、省人化や生産性向上といったメリットがあり、生産年齢人口の減少による人手不足に対する解決策となります。また、ロボットの導入にはコストがかかるものの、今後人件費が高騰していくことを考慮すれば投資対効果も期待できるでしょう。
一方で、ロボットの導入は作業プロセスの分析を始めとして、段階を踏んだ検討が必要です。自動化用のロボットを販売する企業は数多くありますが、導入後の運用も見据えて長い付き合いができるロボットメーカーを選定しましょう。
ロボット導入の目的を明確にした上で、適切な検討プロセスを経ることで将来的な人手不足を見越した自動化が可能になります。この機会にぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
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