製造業を取り巻く市場環境においては、価格競争の激化が進む一方で、人手不足や人材育成・能力の開発が滞っているという問題を抱えています。日本が世界に誇る産業なだけに、衰退ではなく前進が必要です。
そこで注目すべきが「ファクトリーオートメーション」です。各企業が採り入れることで、製造業全体の発展が期待できます。しかしながら、ファクトリーオートメーションがどういったものか理解できていない人も多いでしょう。
この記事では、ファクトリーオートメーションの要点を押さえた上で、デジタルトランスフォーメーション(DX)への発展や、実施することによるメリット・デメリットを解説します。また、ファクトリーオートメーションを実現するためのITシステムについても、例を挙げながら紹介します。
目次
ファクトリーオートメーションとは?
ファクトリーオートメーション(Factory Automation)とは工場における生産工程の自動化を図ること、つまり人間からロボットの作業に置き換えることです。なお、ファクトリーオートメーションの対象は加工・組立・マテリアルハンドリング・管理の4分野です。
例えば、不良品の検査など従来人間が担っていた作業は、ファクトリーオートメーションにより自動化が図られています。
そして、現在のファクトリーオートメーションにおいてITシステムは欠かせません。ファクトリーオートメーションを構築するITシステムには、製造システム・基幹システム・社外関係者管理システムの大きく3つに分けられます。
ファクトリーオートメーションとDXの違いとは?
DXとはデジタルトランスフォーメーションのことで、企業がAIやIoT、さらにはビッグデータなどのデジタル技術を用いて業務フローの改善や新たなビジネスモデルを作り出すことを指します。
DXでは、過去の技術や仕組みで構築されている“レガシーシステム”から脱却し新たな事業モデルをつくること、あるいはそれを前提とした企業風土の変革が重要です。
グローバル化やインターネット購買の普及、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を重視する考え方の台頭など、市場環境が変化し続ける現代において、競争で優位性を維持するためには、DXが必須と言っても過言ではありません。
ファクトリーオートメーションとDXの違いは、人主導型となる肉体労働からロボットによる作業へと変わるものか、データを活用し頭脳労働を助けるかといった点です。
ファクトリーオートメーションの目的は、自動化を図ることによる生産性の向上や業務効率化です。一方で、DXは働き方の改革や企業における柔軟性がキーになっていると言えます。
ファクトリーオートメーションが進んだ背景
ファクトリーオートメーションの歴史は古く、1950年代後半から登場しエレクトロニクス分野の技術革新とともに発展していきます。自動車製造における製鉄業や造船業において、連続鋳造や溶接装置による大量生産がきっかけです。
1960年代後半には工作機械にIC(集積回路)が組み込まれたことで、産業用のロボットが実用化されはじめます。この時代からアメリカのGM社では、ロボットアームが導入され材料の搬入や溶接、さらには塗装や組立といった作業に活用されました。
1970年代後半には数値制御によるNC工作機械が普及し始めます。日本製のNC工作機械が世界に広がり、加工工程のオートメーション化が進みだしたのです。この時期から、現代のファクトリーオートメーションに近付きはじめます。
1990年代後半になると、世界的にインターネットが急激に普及します。また、計算機が値下がりしたことによりCAD (Computer-Aided Design:コンピュータ支援設計)やCAM(Computer Aided Manufacturing:コンピュータ支援製造)、さらにはCAE(Computer Aided Engineering)やPLM(Product Lifecycle Management)などが普及したことで、製造現場以外に設計と連携したオートメーション化が加速していきました。
そして、2006年にドイツで開始したインダストリー4.0は、IoTによりファクトリーオートメーションの進化につながった要素と言えます。これにより機器同士がインターネットでつながりサーバーが処理することで、高度な連携が可能となったのです。
近年では社内だけでなく社外の工場と連携が取れるようになったことで、業務の効率化が図れるよう発展しています。このように、ファクトリーオートメーションは時代とともに進んでいったのです。
ファクトリーオートメーションのメリット
ファクトリーオートメーションが注目されている理由には、どういったものがあるのでしょうか。そこには、企業として利益を得るために欠かせない要素が複数あります。ここでは、ファクトリーオートメーションのメリットについて紹介します。
人件費の削減
ファクトリーオートメーション最大のメリットと言っても過言ではないのが、人件費の削減が期待できることです。製造業において、各工程で人手を必要とする作業は少なくありません。つまり、企業においては相応の人材を確保しなければならないのです。
製造業において生産コストは切っても切れない課題です。日本企業が中国をはじめアジア諸国に生産拠点を持つ理由は、労働力に要するコスト削減が目的と言えます。一方で、現代は人件費が高騰しているため、海外生産のメリットが薄くなっているのです。
こういった背景が、ファクトリーオートメーションに注目が集まるきっかけとなっています。つまり、人間ではなく産業用ロボットに各工程を任せることで、人件費を軽減することが目的です。
品質の維持・向上
ファクトリーオートメーションのメリットには品質の維持・向上も挙げられます。古来日本のものづくりは、熟練した技術を持つ職人によって支えられてきました。
しかし、現代では高齢化が進み少子化による後継者不足の影響から、職人技が断絶してしまい、消滅してしまう可能性が危惧されています。人手が足りなくなるとものづくりにかけられる時間が少なくなり、結果として品質の維持・向上は難しくなる可能性があります。
そこで、ファクトリーオートメーションによるロボットの導入を積極的に進めることで、人手だけに頼らない生産システムの構築が実現するのです。つまりは、品質を落とさず、維持する効果が見込めます。
生産効率の向上
ファクトリーオートメーションは、組立や製造過程だけでなく製品の検査においても業務効率化が期待できます。例えば、これまで人間によって検査をしていた場合、目視であればせいぜい1秒間で数個しか確認できないでしょう。
その点、ロボットが検査を実施した場合は1秒間で数百個も確認できる可能性を秘めています。製品を検査する作業は、業務の停滞や生産性の低下を招いている工程・箇所と言っても過言ではありません。
今まで要していた時間をファクトリーオートメーションにより軽減に成功すると、生産効率は大幅に向上すると言えるでしょう。
ファクトリーオートメーションのデメリット
ファクトリーオートメーションには人件費の削減や品質の維持・向上・生産効率アップといったメリットがあります。 同時に留意すべき点もいくつか挙げられます。ここからはファクトリーオートメーションのデメリットについて紹介します。
大きな初期投資が必要
ファクトリーオートメーションで生産効率の向上や品質維持を図るうえで、生産ラインを自動化するシステムの構築には初期投資が必要です。初期投資と言っても設備を導入するための費用だけでなく、システムを運用するうえで必須となる技術者の雇用といった人材確保が欠かせません。
システムを導入するにあたって、各ライン設備との連携や安全面を確保するための費用もかかります。ロボットに置き換えるうえで必要な機械やシステムはいくつもありますが、いずれにしても数十万円から数百万円と高額な費用を要するでしょう。
さらに、生産ラインをしっかりと確保するためロボットを稼働させ続けるには、メンテナンス費もかかります。
ファクトリーオートメーションを実現する際は、機械の導入費やメンテナンス費、それらを管理する技術者の人件費が必要になると理解しておきましょう。
仕事を奪われる不安感が生まれる
ファクトリーオートメーションはロボットに各工程を任せるため、業務の効率化が期待できる一方で、これまで各工程に携わっていた就労者は仕事がなくなるのではという不安感が生まれるかもしれません。
今まで人間の手で実施していた作業が機械化することで、製造業に関する職種減少を懸念する人も多いでしょう。就職や転職を考えている人にとっては、仮に応募求人が大幅に減るとなると大きな問題と言えます。
ただし、この点についてはポジティブな要素も含まれています。いくらファクトリーオートメーションと言っても、あくまで機械と人間による協業です。つまり、完全に職種がなくなるとは考えにくいでしょう。
なお、人材を確保するにあたって企業側としては、専門知識を習得するための研修や教育制度は欠かせません。そこを怠るとファクトリーオートメーションをうまく機能しないため、手間を要することへの理解も必要です。
ファクトリーオートメーションを実現するシステムの一例
ファクトリーオートメーションを実現するには、自動化に関連する各種システムが欠かせません。ここでは、システムの一例としていくつかピックアップし、それぞれの特徴を紹介します。
PDM(製品情報管理システム)
PDMとはProduct Data Managementの略で、製品情報管理システムのことです。CADデータやBOMなどの製品・設計に関するデータを一元管理します。なお、PDMは製品設計データの一元化により、設計部門と他部署間で情報共有や連携をサポートすることで、生産性向上の実現につながるのです。
PLM(製品ライフサイクル管理)
PLMとはProduct Lifecycle Managementの略であり、製品ライフサイクル管理のことです。設計や開発、さらには保守や廃棄、リサイクルといった製品のライフサイクル全般を一元的に管理するシステムになります。
これら一連の工程における情報を管理することで、利益の最大化が期待できます。昨今はIoTをはじめとするデジタル技術に着目し、ものづくり体制を強化する企業は少なくありません。そこで、PLMシステムが注目されているのです。
CAD(コンピュータ支援設計)
CADとはComputer Aided Designの略で、コンピュータを用いて設計する、またはその際に使用するツールのことです。車やスマートフォン、さらには冷蔵庫といった身近な製品などは図面を基に作られています。
その図面を設計・作図するために、CADは欠かせないツールです。飛行機を設計するため、1960年代に大手航空機メーカーのロッキード社によってCADAMという二次元CADを開発しました。
それから時代が進むにつれ自動車や機械系の製造に用いられ、今のCADシステムが一般に広く普及したのです。現代はさらに、3DCADへと移り変わろうとしています。
CAM(コンピュータ支援製造)
CAMとはComputer Aided Manufacturingの略で、コンピュータ支援製造のことです。CADで設計・製図した図面から工作機械のプログラムを作成するシステムになります。CADとCAMの工程をまとめてカバーするツールは多く、一つの製品で二つの工程を実施できる点がメリットです。
CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)
CAEはComputer Aided Engineeringの頭文字を取った略称です。コンピュータで制作するモノの性能が良いか悪いかなどをシミュレーションし、目的とする機能を発揮できているかを計算するツールになります。
つまり、研究や開発の過程でコンピュータ上の試作品から数値解析等を実施し、設計の事前検討をするシステムのことです。CAEによる分析を実施するタイミングは、CADで製図をする前になります。
これまでは試作品と言っても、製品を完成させてから動作試験を実施し、不具合があれば改善するといった流れでしたが、CAEでは製図前に特性を計算できることから、手間を大幅に軽減できます。
CAT(コンピュータ支援テスト)
CATはComputer Aided Testの略で、コンピュータ支援テストという意味です。CAEと組み合わせることでコンピュータ上にてテストデータを生成し、自動テストを実施、結果解析を行うシステムのことです。
APS(生産計画スケジューラー)
APSはAdvanced Planning and Scheduleの略で、受注から購買や生産、さらには出荷までのスケジュールを一括で管理するシステムになります。製造ラインの稼働率を考慮した上で、最も効率良く生産できる計画の策定を支援してくれるものです。
APSを導入することにより、リードタイムの短縮や在庫の削減、そして投資効率の向上といったメリットがあります。
これまで多く使用されていたMRP(製造資源計画)は、資源は無限の能力を持つことが前提のため、実現が難しいスケジュールを組まれるのが一般的です。スケジュール調整のため工程スケジューラー等を導入する必要があるものの、MRPを前提とした納期に変更されることで製造指図の納期や部品の要求納期のバランスが取れなくなってしまいます。つまり、計算した結果は結局のところMRPへ戻し再計算するという手間がかかるのです。
そこでAPSを活用することにより、全工程を把握しながら適切な生産計画の策定や実行につなげることが可能です。
業務効率化や人件費削減を実現しよう
人手不足や人材育成が進まない点は、製造業が抱えている大きな課題です。それらを改善するうえで、ファクトリーオートメーションに注目が集まっています。
人間からロボットに置き換えて作業を進めることは人件費削減に効果的ですが、それ以外にも品質の維持・向上などのメリットがあります。また、生産性の向上も期待できるでしょう。
ただし、初期投資やファクトリーオートメーションの実現に必要なシステムを把握しておくことが重要です。
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