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昨今のDXの進展に伴って、ものづくりを支える部品や機械はどのように進化を遂げているのでしょうか。「メーカー商社」としてさまざまなものづくりの部品や機械を製造・販売するリックスは、鉄鋼から食品まで幅広い業界の課題解決を目指しています。

2022年4月に行われた東京証券取引所(東証)の市場再編に際し、同社はプライム市場に残ることを決めて挑戦を続けています。背景には、同社が初めて策定した長期ビジョンがありました。

製造業DXの最前線を各企業にインタビューする本シリーズ第11回は、コアコンセプト・テクノロジー(CCT)CTOでKoto Online編集長の田口紀成氏が、リックス代表取締役社長執行役員の安井卓氏に、同社が取り組む挑戦について伺いました。

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左より田口 紀成氏(コアコンセプト・テクノロジー)、安井 卓氏(リックス)
安井 卓氏
リックス株式会社 代表取締役社長執行役員
2003年九大院総合理工学府修士修了、同年古河電気工業入社。2006年にリックス入社、事業企画部長、海外子会社管理部長、取締役などを経て2019年4月に代表取締役社長に就任。
田口 紀成氏
株式会社コアコンセプト・テクノロジー 取締役CTO兼マーケティング本部長
2002年、明治大学大学院 理工学研究科修了後、株式会社インクス入社。2009年にコアコンセプト・テクノロジーの設立メンバーとして参画し、3D CAD/CAM/CAEシステム開発、IoT/AIプラットフォーム「Orizuru」の企画・開発などDXに関する幅広い開発業務を牽引。2015年に取締役CTOに就任後は、ものづくり系ITエンジニアとして先端システムの企画・開発に従事しながら、データでマーケティング&営業活動する組織と環境構築を推進。
*2人の所属およびプロフィールは2023年9月現在のものです。


目次

  1. 世界のものづくり現場の「課題解決屋」でありたい
  2. 東証プライムはチャレンジを続ける決意表明
  3. パートナーと共に課題解決を創る場を2024年にオープン
  4. EVを中心とする成長分野で、2030年までに売上高100億円を積み増す
  5. 「深化と探索」を支えるDXとESG

世界のものづくり現場の「課題解決屋」でありたい

田口氏(以下、敬称略) まず、御社の事業概要をお聞かせください。

安井氏(以下、敬称略) 当社は、製造業をお客様とするBtoBの会社です。お客様の現場の課題を解決する「課題解決屋」でありたいと考えております。自社の事業形態を「メーカー商社」とし、自社内に一貫して製造を行う設備や部隊もあり、製品を仕入れて販売する商社機能もございます。販売・技術・製造・サービスの高度な融合を目指すメーカー商社として、世界の産業界に貢献することを経営理念として掲げております。

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田口 この融合が、現場の課題解決屋さんであるということですね。

安井 そうです。今年が中期経営計画(以下、中計)の最終年度に当たり、現在は次期3ヵ年の中計の策定作業に入っているのですが、そこでも課題解決屋のコンセプトを打ち出していくつもりです。当社はワールドワイドに事業を展開していますので、世界のものづくりの課題解決屋になって産業界に貢献していきたいと思っています。

田口 安井社長のご来歴も、合わせてお聞かせいただけますか。大学卒業後は、古河電工に勤めていらしたとか。

安井 はい、そうです。妻と結婚する時に、義父となる元社長に「リックスで働かないか」と誘われ、2006年に入社しました。私は、当社の創業家の娘婿なのです。理系出身なので、「ものづくりがやれるかどうか」が入社の判断基準でした。リックスはものづくり企業でしたので、決断しました。商社でありながら研究開発センターもあり、技術開発を行っている点も大きかったですね。入社当初は技術開発センターで、ロータリージョイントのシール素材など、基礎的な研究をしておりました。

その後、イギリスに留学してMBAを取得し、帰国後は当時の社長だった義理の父の傍らで、経営企画部門の仕事に従事しました。2012年に経営者が義父から前社長へとバトンタッチされ、私は2019年に代表取締役に就任しました。

田口 前職で経験したものづくりのテイストとの違いは、何か感じることはありますか。

安井 ありますね。以前の勤め先は完全なメーカーでした。大企業でしたので研究開発の予算をたくさん持っていましたね。私が配属された部署は当時、ハイブリッド車などに使われるモーターの巻線の被覆材の研究開発をしていました。巻線に被覆されている絶縁用の樹脂のことです。当時の巻線は形状が丸ではなくて角でした。平角(ひらかく)線といって、コーナーの部分に樹脂が載りづらくなっています。丸だと塗るのが簡単なのですが。そのため、ダイスという道具を使って導線に樹脂を塗る量を調整していました。マニアックでしたね。

リックスでもモーター関連の仕事をしているので、このときの経験が活きているなと思うことはあります。現在のハイブリッド車のモータージェネレーターは平角線を使っていて、樹脂の塗り方は当時とは違うのですが、経験がつながっていると感じます。

田口 しっかりつながっていますね。大企業から転職されて、現場がより見えるようになったのではないですか。

安井 そうですね。当社はいい意味で分業になっておらず、現場が「あれもこれもやらなければ」という感じです。予算も潤沢にあるわけではなく、限られた予算の中でうまくやってゆかなければなりませんでした。

東証プライムはチャレンジを続ける決意表明

田口 御社は東証プライムですね。どのようなご判断があったのでしょうか。

安井 当社は2008年に東証2部に上場し、2016年に1部に指定されました。去年4月に行われた東証の市場再編に際して、当社は基準を満たせるかどうかの当落線上にあったので、上場基準の厳しい「プライム」として残り続けるか、あるいは「スタンダード」という選択肢を取るかでとても迷っていた時期もありましたが、プライムに挑戦する道を選びました。取締役会の総意であり、私の判断でもあります。

理由としては、海外展開が特に大きかったからですね。当社はグローバルで展開しているので、グローバルスタンダードに従うことが求められます。そのために、コーポレートガバナンスなどを整え、海外の取引先にもしっかりした会社であることを示したいと思いました。

それから、チャレンジすることを私自らが示したいと思っています。現在の中計は、私が社長に就任してから初めて策定したものなのですが、その際に、スローガンに“新しいことにチャレンジしよう”と文言を使いました。社員に対してもチャレンジを推奨しています。東証でスタンダードを選ぶことは、易きに流れるような気がしまして、ここは一つ、チャレンジしようと。また、プライムに挑戦し続ける姿勢を示すことで、社員や投資家の皆さんにも安心して頂きたいというのもありました。

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「プライムに挑戦し続ける姿勢を示すことで、社員や投資家の皆さんにも安心して頂きたいというのもありました。」(リックス 安井氏)

田口 プライムであることの価値は高いですよね。ただし、維持コストも大変ですが。

安井 そうですね。維持コストを研究開発に回すべきではないかという意見も一部ではありまして、確かにそれも一理あるのですが、今回の決断となりました。プライムの基準を満たす努力をしつつ、研究開発や設備投資の両方に取り組んでいくということはもう、決意あるのみ。やるしかない、という感じです。

田口 プライムの基準は結構、厳しいですよね。

安井 そうですね。でも、やるべきことをやらずに、最初からスタンダードに行くというのはちょっと無いなと思いました。実は、東証の市場再編がある前までは、広報IR活動の類いはほぼしていなかったのです。

しかし、東証プライムの上場維持基準の中で、流通時価総額が100億円以上であることと、1日当たりの平均売買代金が2,000万円以上という、この2つのポイントをクリアできていなかったので、去年1年間で広報IR活動をかなり精力的に行うとともに、株主還元を良くする方向にしました。業績が良かったことが一番だと思いますが、株価が1年ほど前と比べて倍になりました。これで、基準をすべてクリアできました。

田口 すごいですね。プライムの基準に合わせて、広報IR活動をきちんと拡充した結果ですね。

安井 いま振り返ると、反省点でもあります。東証再編前の上場は関所のようなもので、いったん上場が認定されると、それきりになりやすい面があったのかもしれません。株主さんやステークホルダーの皆さんに、目が向いてなかった部分があるのかもしれないと反省しました。

ただ、広報IR活動をしていく中で、個人投資家さんとも接点ができました。我々は福岡に本社があるのですが、福岡で個人投資家向け説明会を開いた時には、「こんな会社が地元にあるのを知らなかった」「応援したい」といった声を聞きました。当社を知ってもらう活動を強化してよかったなと感じています。

パートナーと共に課題解決を創る場を2024年にオープン

田口 御社は先ほど言われたように、「メーカー商社」とのこと。売り上げの割合はどのようになっていますか。

安井 9対1ですね。「1」は、メーカーとしての売り上げの部分です。

田口 利益という観点で見ると、どうでしょうか。

安井 利益はやはり、自社製品の方が大きいですね。そのため、中計でもオリジナル品をどんどん増やしていこうと謳っております。オリジナル品とは、自社製品、グループ会社製品、専売仕入れ品など、当社のみが取扱い・販売できるモノ・サービスのことを言います。汎用の商材よりも利益率が高いので、現状30%程度の売上比率を長期ビジョンでは2030年に55%まで高めることを目標に掲げています。

田口 なるほど。その場合は、「作る」仕組み、つまり工場などの設備が必要になってきますね。

安井 はい。我々のリソースだけでは足りないと思っておりまして、外部のリソースも活用していこうと考え、協力して創り上げるという意味の「協創」をキーワードに掲げています。これを促進するための研究開発の中心として、「リックス協創センター」(以下、協創センター)を新たに設立します。2024年6月末の完成予定です。

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リックス協創センターのイメージ

ここは当社だけではなく、お客様や仕入れ先様と一緒に、新たなソリューションを創り出していく場です。我々が得意とするところは、お客様がどんなことで困っていて、それを解決するためにはどこと組めばいいのかなど、コーディネートするための情報を豊富に持っていることです。自社内に製造部隊も技術開発系の部隊もあるので、融合させていくつもりです。

田口 協創センターは、どんなコンセプトに基づいているのでしょうか。

安井 まず、「両利きの経営」でいうところの「深化」と「探索」にならい、深化系と探索系の開発を分けることにしました。深化とは既存事業における開発業務のことで、探索とは既存事業の枠からはみ出すような開発のことを指します。深化系の開発センターとしては、当社工場のすぐ横に技術開発センターがあります。今ある商品のラインを増やしたり、関連製品を開発したりするのが主な業務です。

これに対し、新しくできる協創センターは探索系ですね。我々のコア技術は流体を制御する技術ですが、今までの製品とは少し離れた製品を開発にも取り組みます。しかし、既存製品が近くにあると、どうしてもそちらに寄ってしまいます。私が入社してから15年ほど経ちますが、その間はなかなか新しい自社製品が生まれづらい状態でした。おそらく、従来の思考回路から離れづらい面があるのだと思います。そのため、協創センターは既存事業を行っている工場の敷地からも物理的にも離しまして、当社工場から車で15分ぐらいの距離にしました。

田口 具体的に、どのような協創が考えられますか。

安井 実は先行して、当社の中部テクニカルセンター(愛知県豊田市)で、EV向けリチウムイオン電池生産ライン向け装置の開発・販売を進めています。この装置の開発は、お客様と協創しています。お客様と協創の取り組みができることは、とても強いと思います。我々は課題解決屋なので、課題を解決することによってお金をいただいています。現場では、次から次へと新しい課題が出てきますので、協創できることは大きいですね。

EVを中心とする成長分野で、2030年までに売上高100億円を積み増す

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Long term Vision for 2030定量目標(リックスのホームページより)

田口 協創は、大事なキーワードなのですね。

安井 はい。自前だけではできることが限られるので、外部パートナーと一緒になってソリューションを創り出し、またそうすることで産業界に貢献していこうと考え、中計と長期ビジョンの両方で謳っています。

田口 御社の長期ビジョンでは、どんなことを目指しているのですか。

安井 当社は、長期ビジョン「LV2030(Long term Vision for 2030)」において、「“販売・技術・製造・サービスの高度な融合”とパートナーとの“協創”により、世界の産業界の課題解決のためのソリューションを提供します」と謳っています。長期ビジョンはこれまで当社にはなかったのですが、2020年の中計を策定する中で10年後どうなっていたいのかを考え、私が社長に就任してから初めて策定しました。

10年間に、中計が3回あります。連結の売上目標を700億円に定め、2023年までに売上高500億円を達成し、2026年までに600億円、2030年に700億円と、中計ごとに100億円を積み増していくイメージです。

田口 売上目標を達成するためには、具体的にどの分野を伸ばしていくのですか。

安井 具体的な分野の1つとして、成長分野の売り上げを伸ばしていきたいと考えています。その中でも特に当社はEV・HEVに注力しており、中部テクニカルセンターでの事業もその一環です。

田口 自動車がEVになることで内燃機関からモーターに変わると、部品の点数が減るという面もあると思いますが、御社しては自動車業界が引き続きお客様であるということなのですね。

安井 当社はもともと、内燃機関しか扱っていませんでした。2006年時点の電池モーター関係の売り上げが占める割合は、全体の1%にも満たない程度でした。それが、最近では44%程度になっていることをIRの指標としても示しています。前社長の時にトップダウンで進めた結果ですね。前社長の時に内燃機関からEVへとシフトさせ、私はそれを継承しながら、成長分野をどんどん取り入れて事業成長を加速させていきます。

田口 既存の領域は、どうやって伸ばしていきますか。

安井 当社は生産現場や保全が主戦場だったのですが、ここを川上と川下に広げていこうとしています。川上は、生産技術や開発です。開発が進むと、現場の仕事はもっとやりやすくなると考えています。また、川下にも使い終わった後の製品のリサイクルに商機があると見ています。現在の中計では、まず川上を広げる方を中心に取り組んでいます。

田口 具体的にはどのような方法で、上下に広げているのでしょうか。

安井 たとえば、鉄鋼業界であれば、当社は業界の複数の大手と取引があります。そのうちの1社で成功事例があれば、それを横展開できます。製鉄設備は各社で似通っているので、いわゆる仮説提案として、A社さんでこういうニーズがあったからB社さんにもあるのではないかと考えられます。伸びしろはまだまだあると思っています。自動車業界とはコラボレーションを進めていますが、鉄鋼業界とはこれからなので、面白い商材がある時は共有しながら取り組みを進める余地はありますね。

「深化と探索」を支えるDXとESG

田口 御社では、DXをどのように進めているのでしょうか。

安井 社長就任時から、デジタルとアナログをうまく融合させていこうということを掲げています。現在は、社内の情報共有システムを刷新している最中です。課題解決の事例については、お客様の了承の下で社内共有しています。リニューアル中の社内の情報共有システムを活用していくことで、色々な引き出しができていくと思います。

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「社長就任時から、デジタルとアナログをうまく融合させていこうということを掲げています。」(リックス 安井氏)

組織としては、NB(ニュービジネス)開発本部の中にデジタル事業開発部を新設しました。ロボットやドローンなどのデジタル系の商材を扱うほか、ベンチャーへの出資なども行います。こちらも、基本は現場の困りごとに対する課題解決です。たとえばドローンであれば、「普段見て回れないところを見たいので導入したいが、どうしたら良いか分からない」という声などを頂いています。

田口 ESG(環境・社会・企業統治)に関しての取り組みはいかがでしょうか。取り組みを進める上での課題は、何でしょうか。

安井 たとえば、CO2の排出を減らすために当社本社や工場など全体の76%をCO2フリーの電気に変えたのですが、原価に跳ね返ってきます。しかし、価格転嫁をすることが許されるものなのか迷います。エコになることはお金がかかるという意識や理解を、国全体で醸成していかなければならないのではないでしょうか。少なくとも、「一企業だけが頑張って損する」という流れにならないようにと願っていますね。

田口 個人はともかくとして、企業と企業間の取引では、ある程度は価格が高くなるという理解があってもいいはずですよね。

安井 日本企業は、価格転嫁を避ける努力をする傾向がありますね。欧米の企業は毎年、値上げが当たり前です。

田口 御社が長期ビジョンで掲げている「深化と探索」において、ESGの取り組みはつながっていきますか。

安井 つながっていかなければならないと思っています。我々はビジネスを通じてお客様の課題を解決しており、お客様の課題は何らかの社会課題につながっているからです。商材をお客様に提供すること自体が、ESGにつながるのです。たとえば機械を保守しながら寿命を延ばすなどは、ずっと取り組んできている仕事です。

田口 ESGで求められていることを満たしながら、サステナブルな形で売り上げや利益目標の達成を目指されていると思います。その際に、どういった課題を乗り越えると目標を達成できるのか、イメージされていることはありますか。

安井 人が少ないということがボトルネックになっていますが、M&Aや技術提携など、やり方は色々あると思っています。協創も含め、時代や環境の変化に柔軟に対応できる会社になっていきたいです。そして、ステークホルダーの皆さんに喜んでもらうこと、これが一番だと思っています。喜んでもらえれば応援してもらえますし、その結果、企業価値が上がっていくからです。

2022年4月に、「RIXing Action」という行動規範を策定しました。「善悪を損得に優先させよ それが、私たちの礎(いしずえ)です」など当社の理念や社風などを9つにまとめています。ここでは、お客様、従業員の皆さん、仕入れ先様、そして社会、投資家の皆さんを主なステークホルダーと捉えています。

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(リックスのホームページより)

我々が目指す方向を示し、そこに向かって愚直に実戦することでファンになって頂きたいと思っています。また、ここで掲げる行動を取れる人材を育て、新しい課題に対応したアクションを追加していくことが、企業の永続につながると考えています。

田口 今後も御社の挑戦を応援しています。貴重なお話をありがとうございました。

【関連リンク】
リックス株式会社 https://www.rix.co.jp/
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/

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