製造業において刷新し続ける必要があるのは、製品だけではありません。製品の変化にともなう、営業やバックオフィスなどの業務の効率化も大きな課題です。この記事では、製造業の次世代を担うシステム「CPQ(Configure,Price,Quote)」に注目し、メリット・デメリットや注意点を解説していきます。
目次
CPQ(Configure,Price,Quote)とは
構成が複雑な製品の仕様にあわせて価格を導き出し、正確な見積りを作成するためのシステムとして製造業においてトレンドになりつつあるのが「CPQ」です。
CPQは次の単語の頭文字を取って名付けられました。
- Configure(製品仕様)
- Price(価格設定)
- Quote(見積り)
顧客がオーダーメイドで発注するような製品は、組み合わせの数が膨大になります。取引先に応じて価格に変動があったり、割引が適用されたりするとより条件は複雑化します。そんな中で、CPQは製品の組み合わせや価格などの複雑な条件をプログラムし、正確かつスピーディーな見積りを可能にします。
CPQは、クラウドサーバー上のシステムの一部をインターネット経由して利用できるサービス「SaaS」として提供されるケースが増えています。SaaSは「Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)」の略で、代表的なものとしてWEB会議ツールのZoomやオンラインストレージのDropboxなどが挙げられます。
従来のソフトウェアはパッケージ版として販売されるのがスタンダードでしたが、SaaSはデバイスにインストールする必要がないため、場所や端末を問わずにアクセスできたり、多数のメンバーで共有できたりするメリットがあります。
CPQを製造業で導入するメリット
CPQを製造業に取り入れるメリットは次の3つです。
- 見積もり業務の効率化
- 営業活動を強化できる
- マスカスタマイゼーションが実現できる
CPQで見積りをスピーディーに作成できるようになれば、業務が大きく効率化します。では、詳しく見ていきましょう。
見積もり業務の効率化
従来の見積書作成のプロセスでは、多くの工数と時間を要しましたが、CPQを導入すれば、担当者に頼らずに誰もが迅速に正確な見積りを作成できます。
例えば、複雑な製品の見積りを作成するには、製品の知識とある程度の経験が必要となり、業務が技術者や設計者などに依存する「属人化」が見積書作成上の大きな課題となってきました。また、複雑な条件ゆえのミスも避けられない状態でもあったのです。
しかし、CPQの導入で業務を標準化すれば、誰もが見積書を作成できるようになります。つまり、属人化の解消やミスの防止、見積書作成に割いていたリソースを他業務に充てることなどにつながるため、業務の効率化が促進されるのです。
営業活動を強化できる
昨今では、インターネットの普及に伴い顧客の意思決定スピードが速まっています。一方で、従来の見積書の作成方法では時間がかかってしまい、対応遅れによる失注リスクが増大しがちでした。
しかしCPQを導入すれば、誰もがスピーディーに見積書を作成でき、営業活動がスムーズに進みます。例えば、複数社に相見積りを取ったとき、レスポンスの速さで契約を獲得できる可能性も高まります。このように営業活動におけるスピード感と正確さは、顧客の信頼につながります。
また、CPQは価格や顧客の意向を汲み取った上で見積りを作成できるため、新規開拓などの営業活動にも大きく貢献します。営業活動の負担を減らしながら、安定的な品質のサービスを提供できるため、自社の売上向上やイメージアップにも役立つはずです。
マスカスタマイゼーションが実現できる
CPQは大量生産(マスプロダクション)と受注生産(カスタマイゼーション)をかけ合わせた「マスカスタマイゼーション」を実現できると言われています。マスプロダクションとカスタマイゼーションには、次のようなメリットとデメリットが存在します。
- マスプロダクション:生産コストを抑えられるが、顧客の細かいニーズには対応できない。
- カスタマイゼーション:顧客の複雑な要望にも対応できるが、生産コストがかさむ。
このように、マスプロダクションとカスタマイゼーションは、本来かけ合わせることができないと言われてきました。しかし、複雑な条件にも対応できるCPQなら「マスカスタマイゼーション」が実現できます。
CPQを製造業で導入するデメリット
業務効率化に大きく貢献するCPQですが、時間や費用などのコストがかかることも理解しておきましょう。CPQを導入するデメリットは大きく次の2つです。
- 業務フローの変更が必要となる<
- 従業員への教育やマニュアル整備が必要となる
業務フローの変更が必要となるCPQを導入することで、これまでの業務フローが大幅に変わる可能性があります。見積り作成や営業に携わっている担当者が多いほど、業務フローの変更は大きな影響を与えます。
業務に慣れるまでは、かえって業務効率が悪くなったり、従業員の間で不満が生じたりする可能性もあるでしょう。そのため、CPQを導入するときは従業員の意向を調査し、理解を得られた上で検討するのがおすすめです。
業務フローの変更が必要となる
CPQを導入することで、これまでの業務フローが大幅に変わる可能性があります。見積り作成や営業に携わっている担当者が多いほど、業務フローの変更は大きな影響を与えます。
業務に慣れるまでは、かえって業務効率が悪くなったり、従業員の間で不満が生じたりする可能性もあるでしょう。そのため、CPQを導入するときは従業員の意向を調査し、理解を得られた上で検討するのがおすすめです。
従業員への教育やマニュアル整備が必要となる
CPQを導入するときは従業員がスムーズに業務を進められるよう、業務フローやトラブルシューティングなどを含めたマニュアルを整備する必要があります。CPQはさまざまな種類があり、操作性や機能もそれぞれ異なります。
なかには高度なITリテラシーを有するツールも存在するため、企業によってはCPQの導入がかえって従業員の負担になるケースもあるでしょう。マニュアルを整備するときは従業員のITリテラシーを十分に把握し、スムーズに業務フローを変更できる体制を整えるのがおすすめです。
CPQの導入事例
こちらでは、手間と時間を要する見積書作成や、ミスを誘発する煩雑な受注プロセスなど、自社の抱える課題をCPQ導入で解決した企業事例を紹介します。
株式会社旭製作所社
旭製作所は、中小型の理化学用ガラス製単品器具から大型ガラスプラントまで、様々な大きさのガラス製理化学汎用機器や実験装置を手掛けるメーカーです。
製品の種類が膨大かつ組み合わせも複雑で多岐にわたるため、営業部は見積書作成のたびに、製品の価格情報や図面などについて複数の部署に問い合わせが必要でした。そのため顧客の依頼に対して正確な見積もりや図面の迅速な提供が難しく、失注リスクが悩みの種だったのです。
そこで、株式会社構造計画研究所が手掛ける3DCADでの自動作図が可能な「OrderCPQ」を導入し、中小型製品の見積もり作成にかかる労力と時間を削減し、設計を大型製品の特注案件に集中させるために、図面の作成を含む見積書作成の自動化と迅速化を実現しました。
いくつかのステップを踏んで、2021年10月には外部ECサイトと連携し、実験器具を使用する研究者などより多くの一般ユーザーがウェブ上で製品の見積書を作成し、購入することが可能になるなど、ビジネスチャンスの創出にも貢献しています。
Fassi Gru社
Fassi Gru社はイタリアの国際的なクレーン車メーカーで、この分野では世界2位のブランドです。すべてのクレーン車は顧客ごとにオーダーメイドで作られるため、同社の製品は60種類以上、30,000種類以上の構成が可能という複雑さと幅広さを持っています。
その複雑さゆえ、グローバル展開する中でメールやfaxによる受注が激増する中、それらをシステムに入力する前に手作業で間違いをチェックし技術面での修正を行うのに時間を要し、営業レベルでは、自社製品の技術的な知識が十分でないため、生産計画レベルで管理する必要があるといった課題も顕在化していました。
受注に割く時間を短縮し、販売プロセス全体の効率を高めるために、Fassi社は、デモを見て気に入ったCincom社の「Cincom CPQ」を導入しました。このプロジェクトは、Cincom社スタッフの支援のもと、Fassi社のスタッフ4人によって約半年かけて実施され、4、5日のトレーニングで使い始められるようになったと言います。
Fassi社は、世界中から24時間体制で受注できるようになり、異なるタイムゾーンからの注文は、イタリアの営業所が朝仕事を始めるときには、すでにシステムに入っている状態が可能になったのです。
CPQを導入する方法
CPQを導入する方法はおもに次の2つです。
- バックオフィスやEコマースなどのシステムと連携する
- クラウドツールとして導入する
CPQは導入しただけで業務が効率化する万能ツールではありません。導入方法を確認して、ツールとしての役割を最大化できるよう活用しましょう。
CRMとの連携
CPQの役割はあくまでも見積書の作成ですが、ほかのシステムと連携させることでマスカスタマイゼーションを目指ざすことが可能です。ただし、マスカスタマイゼーションを実現するためには、受注から販売までのプロセスをシームレスに連携させる必要があります。
たとえば、顧客管理を効率化し、顧客との良好な関係を構築するシステムであるCRM(Customer Relationship Management)とCPQを連携させれば、顧客の要望に合った提案ができるようになり、顧客管理をしながら受注を増やすことが可能です。加えて、見積書完成までの過程の効率化にもつなげられるでしょう。
【関連記事】
ビジネスや技術のトレンドに反応しながら進化を続けるCRMの事例を紹介
クラウドツールとして導入する
CPQはクラウドツールを選択し、インターネット上で操作できる環境を整えるのがおすすめです。クラウドツールは既存のシステムに影響を与えることがないため、導入までの手間やリスクを削減できます。
導入までのリードタイムも短縮できるため、スピーディーなCPQ導入が可能です。また、クラウドツールのほとんどは、年単位や月単位で支払いを行う「サブスクリプション型」の支払い方法を採用しています。
パッケージ版を購入するよりも初期費用が抑えられるため、中小企業でも比較的導入しやすいでしょう。
導入目的を明確にする
CPQシステムの導入を検討する際にまず行うべきことは、どのような課題を解決したいのか、どのような状態を目指しているのかなどといった導入目的を明確化することです。
導入目的としてよく挙げられるのは、「複雑な見積もりを早く作成したい」「属人化している見積もりスキルを資産化したい」といったものです。設定した導入目的を実現するためにも、自社に合ったシステムを選びましょう。
機能を確認する
CPQシステムで利用可能な機能は以下のとおりです。自社の導入目的・課題を解決できるか、必要な機能を見直しましょう。
構成管理・価格設定
製品やサービスの構成・価格設定を管理する機能見積書・注文書の生成
顧客の要件や選択した構成、価格設定ルールに基づいて、見積書を自動的に生成する機能ワークフロー管理
見積もりを受け入れてオーダーを処理する機能。顧客の承認後、見積もりをオーダーに変換し、注文処理のワークフローを管理
また、CPQシステムは見積りに特化しているため、ほかの業務と連動させるためには、システムの連携が必要です。CRM(顧客関係管理ツール)や会計ソフトなど、既存のシステムと連携できるかどうかを確認して、CPQシステムを選びましょう。
CPQシステムは、導入してみないとわからない短所長所もあります。無料トライアルを実施している製品もあるので、導入前に操作性を十分に試してから選択するとより確実です。
自社のシステムに合っているものを選ぶ
CPQシステム(ツール)は見積りに特化しているため、ほかの業務と連動させるためには、システムの連携が必要です。CRM(顧客関係管理ツール)や会計ソフトなど、既存のシステムと連携できるかどうかを確認して、CPQシステム(ツール)を選びましょう。
CPQシステム(ツール)を導入しても、ほかのシステムと連携できないと、業務が冗長化する原因になります。業務の冗長化はミスを生む可能性が高いため、CPQシステム(ツール)を選ぶときは、十分に検討しましょう。
CPQシステムの比較ポイント
企業により解決したい課題はさまざまですが、数あるCPQからどれが自社に最適なのか選びかねている方もいらっしゃるでしょう。そこで、CPQシステムを決めるに当たりどのような点を比較・注目すればいいのかを解説します。
自社の既存システムと連携できるか
CPQは既存のCRMや会計ソフトなどとの連携により、作業負担やミスを軽減させます。社内の既存システムでCPQに連携が必要なものを洗い出し、それらと容易に連携できるCPQシステムを選ぶのが安心です。マスターのメンテナンスは容易か
製品の仕様やオプション、価格が変化すると、オプションや価格の情報を登録しているマスターのメンテナンスが必要になるため、メンテナンス頻度が高そうな企業の場合、CPQシステムのトライアルでメンテナンスが容易に行えるかどうかを確認した上で選ぶようにしましょう。自社のアルゴリズムに見合った計算能力はあるか
自社の見積もりのアルゴリズムを整理し、それに見合った計算能力のあるシステムを選びましょう。運用オペレーションはスムーズか
誰がCPQシステムを使うのか、使いこなすためにどの程度の教育が必要なのか、営業、経理とCPQの間でどのように情報共有するのかなど、運用オペレーションがスムーズに行えそうな製品を選択したいものです。
主要なCPQシステム
CPQ市場は日本国内では依然として成長段階にあり、CPQを導入したくとも、具体的な情報を得る機会は限られています。そこでこちらでは、CPQシステムについてより理解を深めていただくために、主要なCPQの機能や特長を紹介していきます。
Salesforce CPQ
株式会社セールスフォース・ジャパンの「Salesforce CPQ」は、1ユーザー当たり月額9.000円という安価が魅力の製品です。
機能面では、ブランド名入りの見積書・提案書の作成、フォローアップが必要な見積書や期限切れの見積書を可視化・通知する機能を備えており、生産性や正確性を向上させることで、成約率を高めることができます。
また、価格設定の詳細オプションとして、数量割引、サブスクリプションのパーセンテージ、事前交渉による契約価格、チャネル価格やパートナー価格などの設定も可能です。
Oracle CPQ Cloud
日本オラクル株式会社の「Oracle CPQ Cloud」は、同社が販売する「Oracle Cloud」はもちろん、20種類以上のERP(Enterprise Resources Planning/企業の経営資源を統合的に管理する効率的なマネジメント手法)と連携して注文管理が行えます。
また、製品・価格の基本情報からロジックまで、ノーコードで各種設定情報の更新が可能なため、マスターの更新が頻繁なケースでも柔軟に対応し、販売見積もりをいち早く社内で共有でき、より正確な販売予測が可能です。
さらには、堅牢なセキュリティ対策が施されたOracle Cloud上でシステムが稼働するため、サイバー攻撃による被害が多発する昨今、外部からの不正侵入や情報漏えいを防げます。
Cimcom CPQ
シンコム・システムズ・ジャパン株式会社が提供する「Cimcom CPQ」は、Microsoft DynamicsやSalesforceなどの主要なCRMシステムと連携可能で、カスタマイズの自由度が高いのが特長です。完全なマルチチャネル販売プラットホームを構築し、販売コストを削減して購入者の利便性を向上させ、あらゆる規模や種類の取引に対応して利益率をアップさせます。
さらに、BOM(Bill Of Materials/部品表)や3Dモデルの自動生成といった機能が搭載されているので、製造工場に発注する顧客がカスタマイズした製品仕様をその場で決定し、スピーディーに生産指示を行うことも可能です。
Infor CPQ
インフォアジャパン株式会社の「Infor CPQ」は、以下のような汎用システムを導入することが困難なカスタム製品の製造販売に携わる幅広い業界に特化した機能を提供しています。
- 航空宇宙・防衛の保守、修理、点検
- 特殊車両・船舶
- ドア・窓の製造及び販売
- ファッション装飾
- ポンプ・メーター…など
機能面では、ガイダンスによる直感的で効率的な見積もりソリューションで、販売機会を増やし、より多くの見積書を生成し、受注・製造の流れをスムーズにします。
CPQを製造業に取り入れるときの注意点
製造業のDX化に欠かせないCPQを取り入れる際は注意するポイントもあります。次の3つの点に注意して、CPQを最適化していきましょう。
- テレワークにも対応できるよう対策する
- 将来性を考えて導入する
- セキュリティ面を強化する
テレワークにも対応できるよう対策する
感染症対策やSDGsなどの影響を受け、事務や経理などのバックオフィスだけでなく、営業などのフロント業務もテレワークが浸透しつつあります。今後、さまざまな働き方の可能性を踏まえ、テレワークにも対応できるように対策をしておくのがおすすめです。
たとえばクラウド型のCPQは、端末に依存しないため、場所や時間を問わず見積り作成が可能です。また、社外での業務が多い営業職にとって、出勤せずに見積りを作成できるのは大きなメリットでしょう。
業務負担はもちろん、手間や交通費などのコスト削減にもつながるため、端末に依存しない働き方は積極的に考えていく必要があると言えます。
将来性を考えて導入する
CPQを導入するときは、自社や業界の将来性を考慮する必要があります。
国際競争が顕著である製造業では、今後さらにマスカスタマイゼーションのニーズが高まっていくでしょう。そのため、製品がより複雑化したり、別部署のシステムとの連携が必要になったりする可能性があります。
問題が発生した時点でCPQツールを変更すると、会社にとっても従業員にとっても負担が増えるでしょう。現状では十分な機能性があっても、将来的に不足する可能性も考慮してCPQを導入するのがおすすめです。
セキュリティ面を強化する
製品を販売する際に重要なのがセキュリティ面です。近年はECサイトでの買い物が一般化し、個人情報を狙ったサイバー攻撃が大きなニュースとなることもあります。
サイバー攻撃の標的は大企業だけではありません。中小企業を狙った無差別攻撃も顕著な問題となっています。
CPQや連携するシステムには顧客情報が多く含まれるため、セキュリティ面の強化が目下の課題なのです。CPQシステムのなかには権限を設定できるものもあります。
情報漏洩は企業の信用を大きく失うだけでなく、多くの顧客も失う原因になります。多くのシステムと連携が可能なCPQだからこそ、万全のセキュリティ対策を行いましょう。
CPQは製造業のDX化を担っている
CPQは製造業のDX化を後押しするシステムとして、今後ますます注目されることが予想できます。国際競争が激化するなか、企業が経営を継続していくためには、大量生産と受注生産を実現する「マスカスタマイゼーション」を目指す必要があるでしょう。
CPQはCRM(顧客関係管理ツール)やEコマースなど、さまざまなシステムと連携することでマスカスタマイゼーションの実現を目指せます。CPQで業務効率化を図り、自社の生産性や売上アップを実現しましょう。
【こんな記事も読まれています】
・【会員限定動画】サプライウェブで実現するマスカスタマイゼーション時代の企業戦略
・製造業における購買・調達業務とは?課題の解決方法も紹介
・ビジネスや技術のトレンドに反応しながら進化を続けるCRMの事例を紹介