デジタルトランスフォーメーション(DX)とは企業が生まれ変わることであり、その道のりは容易いものではありません。
まずは、「デジタルトランスフォーメーション(DX)後の目指す姿」を定めることが非常に重要であることは言うまでもありませんが、それが定まってからも、実現に向けては様々な課題が存在します。
本コラムでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する過程で発生する代表的な課題について解説します。
課題①:既存システムの負債
今日、あらゆる企業は自社のビジネスを支えるITシステムを何かしら有しています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現には、ビジネスに関わるビッグデータの収集・蓄積・処理が必要となり、スピーディーで柔軟なITシステムの進化が求められますが、既存の古いITシステム(レガシーシステム)がその足かせとなる状態が多数発生しています。
レガシーシステムが足かせとなる理由には、以下のようなものがあります。
- 内部の設計を理解しているエンジニアが存在せず、ドキュメントも整備されていないため、調査・変更に膨大な時間を要する(ブラックボックス化)
- 拡張や連携の仕組みが用意されておらず、レガシーシステムが扱う重要なデータを別システムと連携させるのが困難(孤立化)
- 巨大で複雑なシステムであるため、些細な変更であっても影響範囲が広くテストに時間を要する(複雑化)
- 古い技術を前提としているため、拡張に限界がある・エンジニアの確保が困難・メーカーのサポートが切れている(老朽化)
このような状態に陥ってしまった背景としては、以下のような要因があります。
- ITシステム開発の大部分を外部ベンダーに委託してきたため、社内にノウハウを蓄積させられなかった
- 社内での事業毎に対応するシステムが個別最適化されてきた結果、全社視点で最適化された設計になっていない
- ブラックボックス化したシステムの上に増築を重ねてきたため、見通しが悪く複雑度の高いシステムとなった
- システム開発初期から携わってきた社内人材が、定年退職の時期を迎えている
その結果現在では、現行ビジネスの維持・運営だけでも多額の費用が必要となっており(国内企業のIT関連予算の80%を占める)、そもそもデジタルトランスフォーメーション(DX)実現のための開発に十分な予算を割くことができないという深刻な問題もあります。
この状態を脱却するためにも、現在及び将来のビジネスを踏まえた既存システムの取捨選択や、大規模な刷新など、経営陣の思い切った判断が急務であると言えるでしょう。
課題②:経営陣・組織・人材
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単なるシステムの刷新ではなく、「ビジネスモデルの変革」であるため、社内の組織構造や個々の役割にも大きな変化を迫られることも多くなります。また、全体最適化を実現するために、既存事業の一部は減速させる判断が必要となる場合もあります。
このため、推進の過程では社内各所で抵抗勢力の反対に合うことは避けられません。これを排除することができるのは最終的には経営トップのみなので、デジタルトランスフォーメーション(DX)の完遂には経営陣の強いコミットが必要となります。
しかしながら、現状まだそこまでのコミットをしている経営者は多くはなく、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性は認識し、PoC(概念の実証実験)にはある程度の投資は行っているものの、ビジネス変革にはつながっていない」、という企業が多いのが現実です。
また、CEOをはじめ社員全員がITに対する理解を深めることが必須であり、特に、CEOを支える優秀なCIO(Chief Information Officer)やCDO(Chief Digital Officer)、DX型のスピーディーなシステム開発(※アジャイル開発)を推進できる次世代ITリーダーの存在が成功の鍵となります。現状、多くの企業では社内にこのような人材が不足しているため、採用・育成に向けた中長期的な取り組みが重要な課題となります。
※アジャイル開発:事業担当者とITエンジニアが密なコミュニケーションをとりながら、短いサイクルでビジネス要件をシステム開発に反映していく開発手法。デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現には仮説検証が不可欠であるため、従来型のウォーターフォール開発ではなくアジャイル開発が適しているとされる。
関連記事:製造業にもアジャイル開発は有効?代表的な手法と成功要因
課題③:日本におけるIT産業の構造
日本では、終身雇用を前提とする特有の雇用慣行が背景にあり、システム開発・保守に関わる業務量が安定しない多くの事業会社(ユーザー企業)ではITエンジニアの採用に消極的で、必要に応じて外部のITベンダーに委託する形が一般的です。(このため、ITエンジニアの7割以上がITベンダーに所属しています。)
その結果、ユーザー企業内部のシステム開発力は弱いままであり、要件定義も含めて「請負開発」としてITベンダーに委託するケース(丸投げ状態)も多くなり、課題①で説明した「負債」を抱えることになりました。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現のためには、ユーザー企業自身が新しいビジネスモデルに必要なシステム要件を自分事として深く考え、開発チームと一体となって取り組まなければなりません。
本来であれば、必要なITエンジニアを十分な人数採用し、ユーザー企業自身で開発を行える体制を整えるのが理想ですが、上述の雇用慣行や昨今の圧倒的なITエンジニア不足を踏まえると現実には困難なことが多く、ITベンダーの活用は必須となります。
しかしながら、従来型の請負開発の延長では、DX型のアジャイル開発をスムーズに進めることができません。企業間の責任範囲、コミュニケーション方法、契約形態などを見直し、ITベンダーといかに良い関係を構築できるかが重要な課題となるでしょう。
「2025年の崖」とは
デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現することができず、ブラックボックス化・孤立化・複雑化・老朽化した既存システムが残存したままの場合、ITエンジニアの引退や各種サポート終了等による経済損失は、2025年以降、最大で年間12兆円にのぼるとも試算されています。(2018年9月公開 経済産業省「DXレポート」より)
世界の潮流に乗り遅れ、致命的な日本の国力低下を引き起こさないためにも、日本企業各社は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けてこれらの課題に取り組まなければならないのです。
関連記事:2025年の壁で日本はどうなる?政府と国内企業の対応策
まとめ
本コラムでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けた課題について、①既存システムの負債、②経営陣・組織・人材、③日本におけるIT産業の構造、という3つの側面から解説しました。
これらの課題を乗り越え変革を成功させるには、経営トップの強いコミットとシステムに対する正しい知識と理解が不可欠と言えるでしょう。
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