isa-95とは?その仕組みと製造業で導入するメリットについて解説
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DX推進に注力している製造業の担当者の方であれば、工場やオフィスでの業務遂行における自動化や効率化の取り組みを進める中で、「isa-95」という用語を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

しかしながら、その概念を正確に把握している方は少ないかもしれません。

ここでは、製造業において工場のスマート化のきっかけとなるisa-95の概念や導入するメリットについて詳しく解説します。

目次

  1. isa-95とは?
  2. isa-95の歴史
  3. isa-95が重要となっている背景
  4. isa-95の階層
  5. isa-95を導入するメリット
  6. デジタル化のためのisa-95の利用
  7. 再評価されるisa-95で情報共有を円滑に

isa-95とは?

Isa-95とは、「企業と制御システムの統合」を意味する国際的な基準です。企業のシステムと制御システムを一体化するためのもので、コンピュータで統合された製造(CIM)の基本モデルであるパデュー参照モデルに基づいています。これにより、製造業における様々なレベル間でのコミュニケーションインターフェースを作り出すことが可能です。

Isa-95の規格は、情報モデルや用語を一様化し、企業のシステム、制御機能、製造作業システム間での情報のやり取りをスムーズにすることを目指しています。そのため、このisa-95の基準は全ての産業やプロセスに適用可能で、企業同士やサプライヤー、サプライチェーン間のコミュニケーションの強化に役立っています。

isa-95の歴史

isa-95は、1990年代後半にISA(the International Society of Automation :自動機器に関する国際的な標準化団体)によって提唱されました。その歴史を振り返ると、工場現場に統合管理システムが誕生した背景が見えてきます。

1970年代から80年代

1970年代から80年代にかけての、コンピュータ技術の発展がまだ始まったばかりの頃、多くの製造業者は生産管理や材料需給計算などのシステムをコンピュータに移行し始めました。当時は、中央集権型のコンピュータが様々なデータを一括管理し、各部門が個別に行っていた在庫や工程管理などを一元的に処理するCIM(コンピュータ統合製造)が大いに注目を浴びていましたが、理想的なCIMのモデルを見つけることはできませんでした。

その頃の日本では、企業情報システム構築の手法として、既存のパッケージをベースにカスタマイズする方法が主流でしたが、新たな問題が発生したり、既存パッケージにない機能が必要になったりした場合、データが分散化しやすい状況が生じていました。

1990年代

1990年代に入ると、製造業の主要なシステムがMRP-II(製造資源計画)からERP(統合企業資源計画)と呼ばれるようになり、コンピュータ技術を利用して、販売からマーケティング、資材の調達、物流、製造プロセスまで、多岐にわたる業務をサポートするようになります。しかし、個々の機能モジュールや業務アプリケーションソフトウェア間の連携がうまくいかないという問題が起きていました。

製品を実際に生産している工場や製造業の各部門では専用のデータやソフトウェアが多く存在しており、製造に関わる情報システムと経営システムとの間には明確な境界線が引かれる傾向にありました。その結果、データが断片化し、企業の成長を妨げる状況が生じていたのです。

そこで、自動化装置に関する国際的な標準化団体であるISA(International Society of Automation)が、新たに経営システムと製造システムを一体化するために1995年に提示した標準規格がisa-95です。

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isa-95が重要となっている背景

これまでの製造業界では、ITを導入することで品質、コスト、納期(QCD)の改善を目指してきました。これらのIT導入は主に製造技術や製造部門によって行われましたが、導入コストや期間に制約があったため、機能や目的を特定した形で運用されてきました。このようなアプローチを何年も重ねることで、製造ラインの仕組みは、どの会社でも小規模なシステムを組み合わせた非常に複雑なものになってしまいました。

さらに、導入の範囲が限定的で、工場全体をカバーするようなシステムがなく、工場や製造ラインごとに異なるシステムが用いられていることも少なくありませんでした。システム自体も人に依存したものが多く、担当者が異動する、転職する、退職するなどの理由で保守管理が十分に行われず、システムの中身がブラックボックス化する問題が起きました。

今日、製造現場で起こる変化は非常に激しく、従来型のシステムでは対応できない状況になりつつあります。isa-95は、経営管理と製造管理の分野を明確に区別し、製造管理活動をモデル化することで、その特性を理解しやすくしています。ERPシステムとの連携を基礎にしつつ、製造活動に必要な行動や上位システムとの連携が明確に定義されています。

そのため、製造装置の多くの機能を変更しなければならないなどの要求に対応するための理想的な製造システムとして、isa-95が再び注目を浴びてきました。

isa-95の階層

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isa-95は、「オートメーションピラミッド」と呼ばれる5つの階層モデルを提供しています。これは、製造業における管理機能、生産機能、そしてデータ交換に使われるソフトウェアシステムを明確に区分しています。

このモデルは、製造ラインをどのようにモデル化すべきかについての詳細なフレームワークも提供しており、isa-95は特に各レベル間でのデータ通信に重点を置いています。レベル0から2までは安全性が非常に重要なため、専用の産業用ネットワークがフィールドバス通信プロトコルを使用しています。

一方、レベル3とレベル4の通信プロトコルはインターネットベースです。ピラミッドの上に行くほど、一般的なITの特性が強く出てきます。isa-95の階層を理解することで、isa-95が製造業にどのように貢献しているか、そしてその可能性をどのように最大限に活用するかについての理解が深まります。

isa-95のオートメーションピラミッド

レベル0「生産工程」

「生産工程」は、製品を作るための原材料の処理を行う工程で、センサーやアクチュエータといったデバイスがこの工程を自動化しています。データは極めて短い時間、つまりミリ秒やマイクロ秒単位で集められ、処理されています。

レベル1「センシングとマニピュレーション」

レベル0のアクチュエータやセンサーは、PLC(プログラム可能な論理制御器)につながっています。これらのデバイスは、センサーからの信号を読み取り、アクチュエータに指示を送るプログラムを連続的に実行する段階です。

レベル2「監視および監督」

このレベルでは、SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)システムが活用されます。これは、複数のPLC(プログラム可能な論理コントローラ)付き機器が他のPLCと連携する状況に対応します。ここでのPLCは、データを制御や処理するのではなく、監視や管理に重きを置いています。

PLCには、ユーザーが操作パネルを扱え るHMI(ヒューマンマシンインターフェース)が設けられています。これにより、遠隔地からでも一台あるいは複数の機器を同時に制御することが可能となっています。

レベル3「製造オペレーション管理」

レベル2は生産機能を重視していましたが、レベル3ではそれを支える企画立案に焦点を当てています。製造実行システム(MES)ソフトウェアは、原材料から製品完成までの生産プロセスを統括し、ドキュメンテーションのデジタル化やデータ追跡なども実施します。管理者は、集められたデータに基づいて有効な戦略を策定することが可能になります。

レベル4「ビジネスプランニング&ロジスティクス」

このレベルでは、全体的な企業運営をマクロ視点から管理しており、主にERP(Enterprise Resource Planning)システムやPLM(Product Lifecycle Management)システムが利用されます。

収集や保持されたデータは、企業内の様々な部門で活用されます。たとえば研究開発部門では、収集したデータを分析・処理し、製品の改良や新製品の開発に役立てることができます。

isa-95を導入するメリット

(画像=Dilok/stock.adobe.com)

isa-95を導入するメリットは、大きく以下の4つが挙げられます。

工場内作業を自動化・最適化できる

工場での作業をより効率的かつ自動的に行うためには、isa-95を基にしたモデルが便利です。カメラ、センサー、ロボットアームといった機器を活用し、商品が工場に入ってから製造、梱包、検品までの一連の流れを自動化・最適化します。

具体的には、コンピュータの視覚技術を用いてQRコードやRFIDタグを読み取り、商品の情報(どの棚にあるか、誰から供給されたか、消費期限はいつかなど)を把握します。商品がなくなったら、ドローンや他の自動ロボットが補充します。さらに、このようなカメラは、商品の品質をチェックするだけでなく人の出入りも管理します。

このような設備は一般的に「レベル0〜2」と呼ばれ、工場での作業をサポートするとともに、リアルタイムで商品に関するデータを集めます。それにより、何か問題が起きたら部長や社長などの責任者がすぐにその状況を把握できます。

また、データを続けて集めることで、AIの力を借りて未来の需要や潜在的な問題を精度高く予測することが可能です。AIを使ったこの予知保全を導入する企業は増えています。先端技術がより多く使われているほど、予測の精度も上がります。

業務の効率化につながる

従業員が手でデータを入力したり、紙の書類が多かったりすると、ヒューマンエラーによるミスも起きやすくなりますが、isa-95を導入することによりミスの減少や業務の効率化につながります。ビジネスプランニングやエンタープライズエリア(つまりレベル3とレベル4)では、先端技術を使ったスマートなシステムが導入され、ほとんどの作業がデジタル化され、効率 アップが期待できるでしょう。

たとえば、光学文字認識(OCR)を使えば、手で入力する時間を省いて書類をスキャン・デジタル化し、クラウドにも自動でアップロードできます。データを探す時はワンクリックで結果が得られるので実に効率的です。また従業員は、繰り返し行う単純な作業に時間を取られることなく、それぞれができる仕事に集中できます。

データを一括管理できる

isa-95で重視されているのがデータの一元管理です。各階層で先端技術による管理システムを使えば、リアルタイムでデータを集めるだけでなく、それを処理・分析し、保存ができます。

従来は、データ入力、収集、確認、そして報告するまでの一連の作業がすべて人間の手で行われてきました。このような人の手による作業には決して少なくない費用と時間を必要とし、変更に対応するのにも手間がかかる性質があります。

上級レベル(レベル3とレベル4)のERPシステムなどは、レベル0〜2のデバイスで収集されたデータを分析し、価値ある情報を抽出します。全てのデータを一元的に管理することでデータの無駄な損失を防ぎ、データを利用して研究を行う部署(R&Dやマーケティング、経営部など)の業務を助けることができます。

売上増とコスト削減が期待できる

AIなどを搭載したシステムを導入することは、各部署の業務の効率化・最適化、データの一元管理化につながり、運用コストを削減しながら売上向上を実現します。

また、自動化が進むことで、財務関連の作業全体の精度が高まります。請求書の入力などの 大量で日常的な作業は、担当者の疲れやストレス、ミスを生み出す可能性がありますが、AIはそういった制約を持ちません。

さらに、特定の期間に大量の取引を処理することも可能です。その結果、より質の高いデータが生み出され、財務チームはそのデータを有効活用するために、より多くの時間を割くことが可能となります。

デジタル化のためのisa-95の利用

デジタル化により生産を効率化するためには、最新の技術の活用が欠かせません。

そのためにも、ネットワークやハードウェアの従来の階層モデルを一新し、isa-95という新しいフレームワークに移行することは非常に有効です。このフレームワークは、各ベンダーが独自の情報モデルを持つことなくモデリングを共通化し、それぞれの価値を全体として最大化するものです。

具体的には、フィールド機器に高度な分散制御を設置し、企業の境界を超えて改善を図るという目標があります。このロードマップでは、センサーからの情報がビジネスシステムと統合される際、通信と情報管理が重要性を増すことが説明されています。

新たに登場したスマートセンサーは、複数の基準を測定し、自己調整と最適化を行い、他のセンサーやアクチュエータと直接相互作用しながら、コントローラーや企業、クラウドアプリケーションと通信することが可能です。

再評価されるisa-95で情報共有を円滑に

isa-95とは「企業と制御システムの統合」を指しており、これは世界共通のスタンダードとして認知されています。主な目的は、情報モデルや言葉の整理と統一化により企業の情報システム、制御機能、製造作業システムの情報共有を円滑にすることにあります。

isa-95には「オートメーションピラミッド」という考え方があります。これは5層の階層モデルで、それぞれの層が製造業における管理・生産機能やデータ交換を行うソフトウェアシステムを具体化しています。

製造装置の多機能化や変更要求への対応といった課題に対抗するための最適な製造システムとして、今、isa-95は再評価されています。isa-95の階層を理解し、isa-95が製造業にどのように影響を与えているか、そしてその可能性をどう活かすかについての見識をぜひ深めてください。

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