AI活用のカギを握る!ディープラーニングの活用事例と課題を解説
(画像=Murrstock/stock.adobe.com)

企業向け・一般消費者向けを問わず、すでに様々な製品やサービスでAIが活用されています。AIの活用が進んだ背景には、インターネットの普及やそれに伴うIoT技術の進歩、コンピュータの処理速度向上など、様々な要因があります。

そして近年、AI領域に大きなインパクトを与えているのがディープラーニング(深層学習)です。本コラムではディープラーニングの定義や活用例、活用時の課題などを解説していきます。

目次

  1. ディープラーニング(深層学習)とは
  2. ディープラーニングの活用事例
  3. ディープラーニングが抱える3つの問題点
  4. ディープラーニングの活用における課題
  5. ディープラーニングを活用した製品・サービスの開発や運用は専門家へ相談を
  6. まとめ

ディープラーニング(深層学習)とは

機械学習の手法の一つとして登場したのがディープラーニング(深層学習)です。ここではまず、ディープラーニングの概要を解説します。

ディープラーニングの仕組み

ディープラーニングとは

ディープラーニング(深層学習)とはAI(人工知能)分野における「機械学習」の中の一つの手法とされます。膨大なデータを用いて多層(ディープ)的な構造を構築し、そのデータの背景にあるルールやパターンの特徴を自動的に抽出し学習させます。

ディープラーニングの根幹には、ニューラルネットワークの存在があります。ニューラルネットワークとは、人間の脳をモデル化した数理モデル(※1)です。

一般的なデータ分析ではインプットとアウトプットの二層の関係を分析します。一方、ディープラーニングは中間層を設け、さらに中間層を多層化して情報を複雑化させることでデータ分析精度を高めます。ディープラーニングは深層学習という和訳が示しているとおり、多層のニューラルネットワークを組み合わせることでより人間に近い学習や判断を実現しようという試みです。

ディープラーニングはすでにその高度な学習能力により、画像認識、音声処理、自然言語処理などの分野で驚異的な成果を上げています。それによって、人間に近い能力を備えた新たな技術の可能性を広げているといえるでしょう。今日では、自動車の運転(※2)や部屋の掃除など、これまで人間が行っていたことをAIが代替できるようになりました。

なおディープラーニングの主な適用領域は「画像認識」「音声認識」「自然言語処理」の3つですが、サービス実用化レベルに達しているのは「画像認識」「音声認識」で、「自然言語処理(※3)」については一部を除き研究レベルの段階となっています。

※1:現実の世界で発生する様々な事象を簡略化し、方程式などを用いて数学的に表現すること ※2:2019年8月時点では、法規制の影響もあり、ブレーキの操作や高速道路の走行など、一部の運転操作に限って実用化されている※3:人間が日常生活において利用している日本語や英語といった言語をコンピュータに処理させる技術のこと

AI・機械学習とディープラーニングの関係

ディープラーニングを用いない機械学習の場合、AIが判断基準を獲得するためには人間が指示を与える必要があります。一方でディープラーニングを用いた機械学習の場合、人間が指示を与えなくともAI自身が何らかの特徴を見出して判断基準を獲得することができます。

人間の作業をAIが代替するには、AI自身が人間と同じように判断できる必要があります。たとえば、自動車の運転の場合には、走行速度、道路標識、車線、ルート、ほかの自動車との距離など、膨大かつ多岐にわたるデータを瞬時に処理して周辺環境を認識したうえで、次のアクションを判断する必要があります。

従来型のシステムのようにすべての条件文をプログラム中に記載しておくという方法で、あらかじめAIに判断基準を与えておくというのは現実的ではありません。そのため、自動車の運転のような複雑な判断を求められる作業においてAIを活用する場合には、必然的にAI自身が学習することによって自ら判断基準を増やしていくことが求められます。

そして、その具体的な手法として用いられているのが「機械学習」です。機械学習を用いることで、従来のように人間がすべての条件を想定して条件文を記載する必要がなくなり、AI自身が新たな判断基準を獲得できるようになります。このような特徴のあるディープラーニングは、すでに様々な分野で活用されています。

ディープラーニングを用いるか・用いないかで異なる機械学習の具体例

たとえば画像内の要素を特徴ごとに分類する場合、ディープラーニングを用いるか否かでプロセスに違いがあります。ここでは以下の作業を例に説明します。

【実行作業】 「『シルバーの自動車』と『ブルーの自動車』が混在している画像」について、画像内の自動車を「シルバーの自動車」と「ブルーの自動車」に分類する。

【ディープラーニングを用いない機械学習】
あらかじめ人間が「自動車の色に着目して、色ごとに分類しなさい」という指示を出す必要があります。コンピュータはその指示をもとに色のデータを学習することで画像内の自動車を分類します。

【ディープラーニングを用いた機械学習】
あらかじめ人間が何に着目するのかという指示を出す必要はありません。画像データを与えると、自動車の「色」という特徴=着目点を自動的に見つけ出し、「シルバーの自動車」と「ブルーの自動車」に分類していきます。

機械学習では人間がある程度、学習の方向性をコントロールできます。一方で、ディープラーニングは場合によっては思わぬ方向に学習が進み、人間が意図しない結論に至る可能性もあります。

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ディープラーニングの活用事例

実際にディープラーニングの活用で成果を上げている企業も現在では多数存在します。ここでは具体的な事例を紹介します。

「画像認識」:画像・映像の分類や対象物の抽出

ディープラーニングを活用することで、画像・映像の分類や、画像・映像に含まれる対象物の抽出といった作業を自動化することができます。そのため、セキュリティ用途や娯楽用途など、画像・映像に関わる様々な製品・サービスで活用されています。

【例】

  • パナソニック社の顔認証システム「FacePRO」
  • Snow Corporation社のスマートフォン向けカメラアプリ「SNOW」

「音声認識」:スマートスピーカーやAIアシスタント

ディープラーニングを活用することで、AIは入力された音声の内容をより正確に認識できるようになり、かつ、より自然な内容で応答できるようになります。この技術は、身近なところではスマートスピーカーやAIアシスタントと呼ばれる製品・サービスで活用されています。

【例】

  • Google社のスマートスピーカー「Google Home」
  • Amazon社のスマートスピーカー「Amazon Echo」
  • Apple社のAIアシスタント「Siri」
  • Google社のAIアシスタント「Googleアシスタント」

「自然言語処理」:自動翻訳

ディープラーニングを活用することで、「自然言語処理」の精度を向上させることができます。また、他言語に翻訳する際の精度向上にもつながります。前述したように「自然言語処理」はまだ研究レベルの段階ですが、Google社やNTTコミュニケーションズ社などはすでに自動翻訳サービスでディープラーニングを活用しています。

【例】

  • Google社の自動翻訳サービス「Google翻訳」
  • NTTコミュニケーションズ社の自動翻訳サービス「COTOHA Translator」

ほか、「異常検知」(故障や異常動作の検知)、金融トレーディング(投資タイミングの予測)などもあります。近年では囲碁・将棋におけるプロ棋士のディープラーニング活用も話題となっています。

(参考)東洋経済ONLINE:将棋AI開発者が語る「藤井聡太五冠」の秘めた世界 AIが自らの一手を言葉で説明する時代がくる

関連記事:機械学習で製造業はどう変わる?AI活用5つの事例を紹介

ディープラーニングが抱える3つの問題点

ディープラーニング(深層学習)は優れた能力を持つ一方、いくつかの問題点も存在します。その問題点を3つ挙げて解説します。

【問題点1】データの質や量により精度が落ちる

ディープラーニングは分析のために膨大なデータを必要とします。訓練データの質や量に依存するため、不適切なデータセットや偏ったデータが与えられると、精度が低下する可能性があります。ほか、新しいデータに対しては一般化が難しい場合があります。

【問題点2】膨大な計算資源が必要のためコストがかかる

ディープラーニングは高度な計算処理を必要とします。多層のニューラルネットワークを訓練するには、大規模な計算リソースや高速なGPUが必要です。これは専用のハードウェアやクラウドサービスの利用によって解決できますが、導入や活用のためにはコストの問題のほか、アクセスの制約なども発生します。

【問題点3】ブラックボックス問題

「ディープラーニングはブラックボックス」と聞いたことがあるかもしれません。これは、ディープラーニングによって結果や解答が出されても、内部の決定プロセスが明確に解釈できない、その答えの根拠がわからないことを指しています。根拠が無いことをAIの判断だからと無責任にそのまま受け入れると、業務などで重大なミスを犯すリスクがあります。

これらの問題点に対処するために、すでにさまざまな研究も始まっています。しかし何より、「ディープラーニングは人が考えて使わなければならない」ことを念頭に置くことが必要です。

ディープラーニングの活用における課題

大きな可能性を秘めているディープラーニング。一方で、実際にディープラーニングを活用する際に課題となるのがAI人材の確保と学習データの準備です。

AI領域のスキルをもつ人材確保

ディープラーニングを含むAI領域への注目度の高まりとともに、人材獲得競争は激しさを増しています。経済産業省の調査(※4)によると、2018年時点でAI人材の需給ギャップは3.4万人となっており、需要が供給を大きく上回っているという結果が示されています。

特に、ディープラーニングを活用するにはPythonなどによるプログラミングスキルはもちろん、線形代数、微積分や統計といった数学的知識、人間の脳構造に関する知識、データモデリングに関する知識などを兼ね備えた人材が必要となります。そのため、人材獲得は非常に困難であると言わざるを得ない状況です。
(参考)日経ビジネス:「半人前でも奪い合い」、激化するAI人材獲得競争

学習データの準備

いくら高度なAIでも、適切かつ大量の学習データベースが整備されていなければ効果的な学習を行うことができません。AIを活用するためには、まずは有効なデジタルデータを蓄積することが必要になります。

ただし、GAN(敵対的生成ネットワーク)(※5)によりAIが自ら学習データを生成する「教師なし学習」や、人工知能同士の自己対局という「強化学習」を行える「Alpha Go Zero」(※6)のように、学習データがなくてもAIが自律的に学習するような研究も進んでいます。このため、データがボトルネックになってAI活用を諦めざるを得ないという事態は減少していくかもしれません。

※4:経済産業省「-IT人材需給に関する調査- 調査報告書
※5:篠崎隆志「GAN─敵対的生成ネットワーク─の発展」(情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター)
※6:日本経済新聞:AI「アルファ碁」を改良、将棋・チェスでも最強 グーグル、独学で鍛える(2017年12月6日)

ディープラーニングを活用した製品・サービスの開発や運用は専門家へ相談を

今回ご紹介したように、すでに国内においても、ディープラーニングを活用した新たな製品やサービスが続々と登場しています。一方で、最後に述べたように、ディープラーニングの活用にあたっては人材獲得が大きな壁となります。

  • システム開発
    AIやディープラーニングといった先端テクノロジーも駆使しながら、製品・サービスの開発はもちろん、業務効率化やコスト削減などお客様それぞれの課題の解決に向けて伴走支援しながらシステムを開発致します。

  • SES
    受託開発のみならず、圧倒的な人材調達力とスピードで最適なチームを構築するSES(システムエンジニアリングサービス)もご提供しています。AIやディープラーニングに明るい人材を含む3,000社以上のパートナー企業様、20,000人以上のIT人材のなかから、お客様のご要望に合わせて迅速にプロジェクトチームを編成します。

まとめ

ディープラーニングは、膨大なデータを用いて多層のニューラルネットワークを構築することで、高度な学習能力を持つ人工知能の一分野です。その能力により、画像認識、音声処理、自然言語処理などの分野で驚異的な成果を上げています。

一方で、ディープラーニングを企業や組織へ導入し活用するには、人材確保や環境整備などいくつかの課題があります。これらの課題に対処するためには、企業や組織自体のITに対するスキルアップはもちろん、外部の専門家への相談も有効です。

ディープラーニングの進化は、今後も技術革新や業界の変革をもたらす大きな可能性を秘めています。ディープラーニングの長所を最大限に生かし、効率的な企業の成長や組織運営に役立ててみませんか。

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