製造業は原材料を仕入れ、製品を作り出荷することが仕事です。そのため、仕入れた物品や完成した商品を保管する必要があり、一定数の在庫を抱えることになります。しかし、過剰在庫・在庫不足になると、大きな損失が生まれる可能性があるため、適正量を維持できるように、在庫管理を効率化する必要があります。
この記事では、製造業における在庫管理を効率化する方法を解説します。
目次
在庫管理とは
製造業における在庫とは、製造に必要な原材料や完成して出荷可能な状態の商品のストックです。健全に企業活動を行うためには、過剰在庫・在庫不足にならないように、常に必要な量を必要なときに供給できる体制を維持しなければなりません。適切な在庫管理を行うことは、製造業における土台となる重要な業務といえます。
在庫管理の重要性とは
在庫管理の状況により、商品を作るための原材料、販売するための商品の量が変わるため、それにより企業の売り上げも大きく影響を受けます。例えば、在庫が足りない状態であれば供給が滞るため、商品を販売して現金化するまでのリードタイムが長くなります。それだけでなく、販売機会の喪失にもつながるでしょう。
一方で、在庫が過剰な状態になると、倉庫のスペースを圧迫したり保管料などのコストが発生したりします。入庫から出荷までの時間が長くなると、キャッシュフローが悪化して経営が圧迫される可能性もあります。例えば、食品メーカーであれば、在庫期間が長くなることで原材料や商品の品質が低下してしまうでしょう。
このように、適切な在庫管理を行うことで、企業として売上・利益の確保につながるため、企業活動の中でも重要度は高くなっています。
適正な在庫量の考え方
在庫管理を効率化するためには適正な在庫量をキープする必要があります。適正な在庫量は、受注から納期までの期間と生産のリードタイムによって変わります。例えば、生産に時間がかかるものでも、短納期のものは、ある程度の見込み生産になるのは仕方がありません。この場合でも、管理しているデータと在庫量の数字を基本に、数量を決定します。
まずは、今までの受注実績・生産計画を参考にして在庫期間や生産量などを予測すると良いでしょう。受注から納期まで、現在の生産のリードタイムで十分に間に合うものは、受注生産に切り替えます。最終的には生産リードタイムを短縮することが、在庫量の削減につながります。
そのため、在庫を保管する場所を明確化し、入出荷台帳を整備して在庫管理体制を整備した後は、生産効率の向上が求められます。効率化が図られることでリードタイムが短くなるでしょう。
在庫管理業務とは
在庫管理業務では、主に現在の在庫数を正確に把握し、適正な数・状態を維持します。そのためには、常に顧客の需要を予測して必要な分の原材料を仕入れ、適切なスケジュールで生産する必要があるでしょう。
在庫管理業務は、適正な在庫を維持して顧客に商品を安定供給することと、在庫の無駄をなくし利益を最大化することが主な役割です。また、在庫管理には大きく分けて「入庫作業」「出庫作業」「棚卸」の3つの業務があります。在庫管理を効率化するには、それぞれの業務に含まれる各作業の細かい部分まで把握し、無駄をなくすように見直す必要があるでしょう。
入庫作業
入庫作業には、原材料を受け取り倉庫で保管する作業、製造した商品を出荷するまで保管する作業、それらに関するデータ管理が含まれています。まずは、荷受けとして倉庫で商品を受け取ります。このときに次の作業を行えるように検品場所に配置し、伝票と照らし合わせます。
荷受け後は、商品の数量と状態を確認する検品作業に移ります。検品時に問題がなければ、商品を指定の場所へ移動して保管します。複数の商品を扱う場合では、同じ倉庫内にさまざまな在庫品を保管することになるため、商品のサイズや利用・出荷頻度に合わせて適切な場所に配置して保管しなければなりません。
このとき適正化を図るためには、適切なルールを定めて整理整頓すると良いでしょう。また、工場や倉庫の規模が大きいほど、在庫管理に携わる人数は多くなる傾向があるため、誰が担当になってもピッキングしやすいようにする必要があります。細かいことですが、1つ1つの作業に気を配ることで、効率良く出荷に備えられます。
また、入庫作業では、入庫日が古いもの・賞味期限が近いものを優先して出荷できるように、手前に保管・出庫する「先出し先入れ」を実施し、在庫品の品質が低下しないように注意する必要があります。入庫作業は商品を保管するだけでなく、データを管理する作業も含まれます。在庫数が多くなると保管されている物品を見ただけでは、すぐに数量や状態を把握できません。
そこで、入荷日時や商品の基本情報をまとめるなどのデータ管理を行います。このようにデータ管理を行うことで、現場にいなくても在庫の状況を把握できます。
出庫業務
出庫業務では、出荷する商品をピックアップして梱包・出荷する作業から、データ管理までを行います。まずは、受注を受けるなどして出庫する商品が決まった後は、該当する在庫品を保管場所からピッキングします。このとき、入庫時と同様に、受注内容と品番、数量を照合して商品の状態をチェックします。
入庫時に検品する場合でも、出庫までに期間があると経年劣化などが生じる可能性があるため、不良品を出荷しないように確認する必要があります。検品が完了した後は、発送するために梱包などの作業を行います。
最後に、出庫内容のデータを入力し、在庫の数量の帳尻が合うように管理します。このときのデータは自社で在庫状況を確認するだけでなく、発注者への発送連絡などにも関わるため注意して行う必要があります。
棚卸業務
在庫管理では、入庫・出庫以外にも、保管している商品の数量のデータと、実際に保管している数量を照合する棚卸を実施する必要があります。適切に業務を実行していれば、数量に差が出ることはないため、数字が一致しない場合は原因を追求する必要があります。
在庫管理を適正化するメリット
在庫管理は手間がかかる業務ですが、企業にとって重要度が高いため、適正化することのメリットは大きくなります。ここでは、製造業の企業が在庫管理を適正化するメリットを紹介します。
無駄の削減
在庫管理を適正化することで得られる最大のメリットは無駄の削減です。社内で適切に在庫を管理するルールを作成し、在庫品を整理・整頓しつつ、管理データをもとに受注することで、在庫やスペースのロスを削減できるでしょう。過剰在庫やスペースの無駄遣いは、リソースを無駄にしていることになるため、在庫管理を適切に行う必要があります。
安定した品質維持
在庫管理を行う際には都度検品する機会があり、不良品を出荷するリスクを抑えられます。そのため、品質を安定・維持しやすくなるでしょう。また、検品を各プロセスで行うことで在庫の余剰やロスなどの無駄が減り、適切な在庫数や回転率の算出にも役立ちます。
在庫管理の効率化を阻む主な課題
在庫管理は製造業にとって必要であり重要な業務ですが、適切に管理することは簡単ではありません。そのため、各企業はさまざまな課題を抱えていることが多いです。ここでは、在庫管理の効率化を阻む課題について紹介します。
在庫に対する部門間の認識のかい離
生産現場では在庫の適正量を維持したいと考えつつ、供給不足にならないようにする必要があるため、在庫は多めに見積もるケースが多いです。それに対して、経営層は、原価分析を行う関係から在庫の数は必要最低限に絞りたいと考えています。
このように、部門によって在庫に対する認識や考え方は異なります。企業規模が大きくなるほど認識を統一するのは難しいでしょう。過剰在庫はキャッシュフローの悪化につながることもあります。適正量を維持するために、過剰でも過少でもない状態にする必要があるのです。
部門間の管理手法のばらつき
製造業の中には、在庫管理に関して全社共通のルールがなく、それぞれの部門で実行しているケースも多いです。在庫の適正量に関する認識と同様に、企業の規模が大きくなるほど部門間の管理手法に差が出やすくなるでしょう。
例えば、同じグループの会社内でも、ロボットを導入して在庫管理を効率化している工場がある一方で、全ての業務を手作業で行っている工場もあるとします。このような場合、情報の複雑化が起きることによって、在庫管理の一元化は困難になります。また、各部門がそれぞれの手法で在庫管理を行うと、分析のためのデータが不足する可能性もあります。
作業量過多によるミスの増加
在庫管理をExcelや紙ベースの在庫台帳を利用している企業の場合、在庫管理を適切に行おうとすると作業量は膨大になります。在庫数のカウントを紙に記録した場合、Excelやシステムにその情報を転記する手間が発生するでしょう。
また、人の手でデータの入力や分析を行うと、入力ミスや目視確認のミスも発生しやすくなります。さらに、在庫の品目や数量が増えることにより、在庫管理のための人員を確保・増強する必要性が出てくるため、人件費の総額が大きくなるでしょう。
在庫管理を効率化する方法
製造業における在庫管理は複雑化しやすいため、効率化を図る方法を把握する必要があります。ここでは、在庫管理を効率化する方法を紹介します。
明確なルール設定と徹底
まずは、各部門で適切に在庫管理を行えるように、明確なルールを設定して統一化を図る必要があります。それぞれの部門が別々のルールで在庫を管理することで、無駄や情報の複雑化が発生します。全社共通のルールを設定することで、在庫の無駄を省き、適切な在庫を維持しやすくなります。
データ管理方法の見直し
在庫に関するデータ管理の方法を見直すことも有効です。現場によっては、紙に記入した数量をExcelなどに転記することがあり、その際にミスが発生する可能性が高まります。例えば、バーコードなどを導入することにより、カウント作業の手間が削減されるだけでなく、ミスも少なくなるでしょう。
・Excel管理の問題点
Excelは多くの企業で採用されているデータ管理の手法ですが、1つのファイルに記録できるデータ量は決まっており、それを超えるデータは別のシート・ファイルに保存しなければなりません。また、項目を個人で自由に設定できるため、余計な要素が加わるなど、統一化が図れない場合もあります。
他にも、リアルタイムで更新できない場合やデータが消えることもあり、さまざまなリスクも発生します。
在庫管理システムを導入するメリット
製造業の在庫管理を効率化する有効な手段の1つに「在庫管理システムの導入」があります。手作業ではなくシステムを活用することにより、さまざまな手間や工数を削減でき、在庫管理の効率化を図れます。
例えば、人の手によるデータ入力や棚卸し業務を削減できるため、工数が少なくなることにより人件費などのコスト削減につながります。また、人為的なミスが減少することによる品質の向上も図れるでしょう。
在庫に関するデータを細分化して分析することにより、適正な在庫量を維持しやすくなります。これらのデータを活用して管理することにより、常に在庫を適正に保ちやすくなります。在庫管理システムを利用して、過剰在庫・在庫不足を防ぐことにより、余剰分の仕入れコストの低減や、経年劣化・不良在庫の削減も期待できるでしょう。
在庫管理システムは、人の手で分析するよりも精度が高い需要予測を行えます。担当者の経験・感覚ではなく、データに基づく客観的な分析が可能になるため、従来よりも精度の高い販売予測や計画立案が可能になるでしょう。さらに、需要の変化によって在庫に増減があっても、欠品を防ぎ、販売機会を失いにくくなります。
先端技術を活用した在庫管理のスマート化
近年では、ITシステムの導入だけでなく、AI技術やIoT機器を利用することにより、より正確な在庫管理を実現できるようになっています。これらの技術を利用したスマートファクトリーであれば、省人化・自動化を図れるため、業務効率が飛躍的に向上します。ここでは、先端技術を活用した在庫管理のスマート化について紹介します。
IoTを活用した在庫管理
在庫管理にIoT機器を利用することで、従来よりも大幅に作業を効率化できます。例えば、ハンディを使用して商品の在庫数をカウントすることで、ピッキング作業の内容をリアルタイムに把握できます。従来よりも作業の工数が大幅に減るため、省人化や人的ミスの削減につながるでしょう。
製造業の倉庫や物流センターで使われている代表的なIoTデバイスには、「ビーコン」「ハンディターミナル」「重量計」の3つがあります。それぞれメリットとデメリットがあるため、倉庫や在庫管理の状況に合わせて使い分けることが大切です。
在庫の位置を読み取るビーコン
ビーコンは無線通信技術を利用し、リーダー(受信機)に対し信号を発信する機器です。入荷した商品にビーコンを取り付け、カウントなどの作業時にリーダーで信号を受信することで商品の位置・数量などを自動的に把握できます。
作業員がリーダーを商品にかざすこともあれば、倉庫内の特定箇所にリーダーを設置することで、そこを通過した物品の情報が自動的に反映されるため、大幅な工数削減に貢献するでしょう。また、在庫管理に特化したビーコンを利用すると、出荷状況やピッキング状況などの情報もリアルタイムに把握できます。
商品をスキャンするハンディターミナル
ハンディターミナルとは、専用のリーダー(受信機)を使ってバーコードやQRコードを読み取る機器です。ビーコンと同様に、入荷した商品にバーコード・QRコードを貼り付け、カウント時にリーダーで読み取ることで商品の情報がシステムに反映されます。
商品に貼り付けるバーコード・QRコードにかかるコストは少ないことから、初期投資を抑えられる点がメリットです。しかし、1つ1つ商品をスキャンする必要があるため、ビーコンよりも手間はかかるでしょう。
在庫を乗せてデータを読み取る重量計
重量計とは、マットなどの上に商品を乗せることで、さまざまな在庫情報を自動で取得できるデバイスです。商品を特定の場所に乗せるだけであるため、ハンディターミナルよりも手間がかからない点が特徴です。また、商品にバーコードを貼り付ける手間もかかりません。
他にも、小さな物品・粉末状の商品など、対象の形状を選ばずに在庫情報を読み取れる点もメリットです。
AIを活用した在庫管理
AIは、在庫管理に関するさまざまなパターンを学習させるなど、大量のデータを分析することで、人間と同じように作業の手順を覚えたり、精度の高い需要予測が可能になったりします。AIを活用することにより、データ入力や分析などの在庫管理業務を自動化できるでしょう。
また、精度が高い需要予測を行うことにより、原材料を必要な分だけ仕入れることができ、過剰在庫を防ぎやすくなります。他にも、今まで人間が手作業で行っていた作業をロボットなどに代行させられるため、倉庫の省人化も図れるでしょう。未来を見据えると、ドローンの活用なども実証実験が進んでいます。
ただし、AIシステムの導入やロボットの購入などは、初期費用やランニングコストがかかる点が大きなデメリットです。また、機械学習には時間がかかるため、導入後すぐに結果が出るとは限りません。他にも、専門的な技術を持つIT人材がいなければ、上手く活用できない可能性がある点に注意が必要です。
自社に合った方法で在庫管理を効率化しよう
製造業であれば在庫を管理する業務の効率化を図ることは、利益を高めることにつながります。ただし、企業の規模が大きくなり、品目数や数量が多くなると、在庫管理業務は複雑化してしまいます。適切な在庫管理ができなければ、過剰在庫・在庫不足を招くでしょう。
そのため、在庫管理システムなどを導入して効率化を図る必要があります。また、近年ではIoT機器やAIを使った効率化の方法もあるため、自社に合った方法を選択しましょう。
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