デジタルツインとは

製品の開発には、多くの時間とコストがかかります。実際に製品を製造して思わぬ問題が発生することも少なくありません。このような課題を解決するために、近年注目されているのが「デジタルツイン」という技術です。

デジタルの仮想空間上に現実世界と同じ環境を「双子(ツイン)」のように精密に再現する技術で、現物を製造しなくても設計段階でシミュレーションできるため、製品開発期間の短縮やコスト削減につながります。

この記事では、デジタルツインの概要と技術、メタバースとの違い、導入するメリット、国内外の活用事例についてわかりやすく解説します。

目次

  1. デジタルツインとは何か
  2. デジタルツインはなぜ注目されているのか
  3. デジタルツインとメタバースの違い
  4. デジタルツインとシミュレーションの違い
  5. 製造業がデジタルツインを導入する5つのメリット
  6. デジタルツインを導入して得られる一般的なメリット
  7. デジタルツインを実現する技術
  8. デジタルツインの国内活用事例
  9. デジタルツインの海外活用事例
  10. デジタルツインの発展性
  11. まとめ

デジタルツインとは何か

デジタルツインとは、直訳すると「デジタルの双子」です。あたかも「ツイン=双子」のように、現実空間にあるモノや環境から集めたデータを用いて、バーチャル(仮想)空間上に現実とそっくりそのまま同じに見える環境を再現する技術を指します。

【図1】デジタルツインのイメージ

デジタルツインのイメージ

現実の設備と同じものが仮想空間にあれば、IoT(Internet of Things)デバイスで収集したデータをもとにして、仮説を立てての実験ができます。現実の設備は1つしかなく、運転を止めての実験ができなくても、デジタルツインであれば仮説を試すことができるのです。

たとえば、設備のある一部分の動きが悪くなった場合、全体としてどのような影響が出るのか、機械の配置を換えると効率はどのように変化するのか、など現実の世界で試すことができないことが実験できるようになります。

また、これまでIoTによって蓄積されたデータを使ってAIで分析し、近い将来起きるかもしれない障害を予測することも可能になるほか、障害が起こった際にどのように対処するのが最も効率的か、なども試すことができるようになります。

このように、デジタルツールを活用して現実空間をデジタル上に再現すると、従来では簡単にできなかったさまざまな分析や実験が可能になります。その結果を現実空間にフィードバックすることで、「異常の早期発見や的確な戦略立案が可能になる」「コストや時間を著しく削減できる」「現場の生産性向上に寄与し、変化のスピードがこれまで以上に加速される」など、多くのメリットが享受できるでしょう。

また、近年のIoT技術のめまぐるしい進歩により、データ収集や分析、フィードバックを高速で行えるようになっています。これらの作業を自動化したりリアルタイムで情報共有したりすることもデジタルツインでは可能になるため、より広範囲な場面での活用が期待されています。

【図】デジタルツインで実現できること

デジタルツインとは

デジタルツインはなぜ注目されているのか

近年、なぜデジタルツインに注目が集まってきているのでしょうか。デジタルツインが注目され始めた背景には、VRなど3D映像の技術やIoT、AIの発達があります。精度の高い仮想空間を構築できるようになったため、現実の設備を仮想空間に再現することができるようになったことが大きい要因と言えます。

精度の高い仮想空間の出現に合わせて、これまで蓄積されていたIoTによるデータとAIによる分析を加えて、現実の世界でできないことを仮想空間で再現できるようになったのです。

航空宇宙局(NASA)は1960年代、アポロ計画の際に「ペアリング・テクノロジー」というものを編み出しました。これは宇宙を飛行中の機材と全く同じものを地上にも設置しておき、もしもの時に対処法を伝えるために考え出された方法です。現代のデジタルツインはNASAのペアリング・テクノロジーと同じことをコンピュータの中で再現できるようにする技術だといえます。

この技術革新を背景に、デジタルツインは注目を集め、現在は各産業に大きな改革をもたらすと考えられています。たとえば、製造業やエネルギー産業といった分野において、さまざまな機器のメンテナンスや修繕等といった設備保全に関する情報をデジタル上で分析・予測すれば、より安全性の高い事業運営が可能になるでしょう。

また、製造ラインの状況をリアルタイムで情報収集してAIで分析すれば、より高品質な製品を低コストで製造できるようになる可能性があります。国内だけでなく海外企業も含めて競争が激化する時代の中でデジタルツインをうまく活用すれば、一歩抜きん出た経営を行える可能性もあるため、デジタルツインを導入する企業は増えていくと予想されています。

デジタルツインとメタバースの違い

仮想空間上に現実世界を再現するものとしてはメタバースがあります。混同されやすいメタバースとデジタルツインですが、2つの最も大きな違いは、使用目的による「再現するものの中身」にあるといえます。

メタバースを提唱したとされるマシュー・ボールによると、以下の7つの要件を満たすものが、メタバースと定義しています。

1.Be persistent – which is to say, it never “resets” or “pauses” or “ends”, it just continues indefinitely

2.Be synchronous and live – even though pre-scheduled and self-contained events will happen, just as they do in “real life”, the Metaverse will be a living experience that exists consistently for everyone and in real-time

3.Be without any cap to concurrent users, while also providing each user with an individual sense of “presence” – everyone can be a part of the Metaverse and participate in a specific event/place/activity together, at the same time and with individual agency

4.Be a fully functioning economy – individuals and businesses will be able to create, own, invest, sell, and be rewarded for an incredibly wide range of “work” that produces “value” that is recognized by others

5.Be an experience that spans both the digital and physical worlds, private and public networks/experiences, and open and closed platforms

6.Offer unprecedented interoperability of data, digital items/assets, content, and so on across each of these experiences – your Counter-Strike gun skin, for example, could also be used to decorate a gun in Fortnite, or be gifted to a friend on/through Facebook. Similarly, a car designed for Rocket League (or even for Porsche’s website) could be brought over to work in Roblox. Today, the digital world basically acts as though it were a mall where every store used its own currency, required proprietary ID cards, had proprietary units of measurement for things like shoes or calories, and different dress codes, etc.

7.Be populated by “content” and “experiences” created and operated by an incredibly wide range of contributors, some of whom are independent individuals, while others might be informally organized groups or commercially-focused enterprises

(出典・参考)
The Metaverse: What It Is, Where to Find it, and Who Will Build It, Jan 13, 2020
Written By Matthew Ball, MatthewBall.co
『ザ・メタバース 世界を創り変えしもの』マシュー・ボール (著), 井口耕二 (翻訳), 飛鳥新社(2022/11/8)

要約すると、以下のようになります。

【表】メタバースの7つの条件

必要とされる条件内容
1.永続性各ユーザーの意思に関わらず、インターネット上の世界は永続的に存在し、ユーザーはその世界にリアリティを感じられる
2.現実との同期性現実とのリアルタイム性があり、現実世界同様の体験、コミュニケーションが可能である
3.上限のない同時接続性同時接続ユーザー数に制限がなく、多くの人々が個々のアイデンティティを保ちつつ仮想世界の一員として主体的に、一緒に参加できる
4.経済性の確立メタバース上で提供された価値に対して現実世界と同様の価値をもつ対価が支払われることでメタバースが発展する
5.シームレスなリアル(物理世界)とバーチャル(デジタル)リアル世界とバーチャル世界の垣根がなく、自分が実際にその世界に存在するかのような没入感がある
6.相互運用性異なるメタバースのプラットフォーム間(多元宇宙:マルチバース)でも個々のアバターやアイテムは自由に使え、移動できる
7.さまざまな企業や個人からの貢献特定の企業ではなく幅広く多様な企業や個人によってその体験や価値が提供され、成長できる

メタバースは、仮想空間で他人とのコミュニケーションを楽しむことを主目的としています。そのため、メタバースは必ずしも現実世界を忠実に再現するものではありません。あり得ない想像上の世界を構築することもあります。また、メタバースには、“アバター”という人間の分身が必要です。

一方、デジタルツインでは、メタバースにおけるアバターのような人間の分身は必須ではありません。デジタルツインは現実世界の設備や物を完璧に再現することを必要としています。デジタルツインの主目的は「現実世界ではできないシミュレーションを行うこと」のため、メタバースと似た技術を使っていても、目指すものや用途、中身が異なります。

デジタルツインとシミュレーションの違い

デジタルツインと似た意味に「シミュレーション」があります。

現実の設備を忠実に仮想空間に再現するデジタルツインはシミュレーションと何が違うのでしょうか。それは、現実の情報を仮想空間に連動できる点、リアルタイム性が高い点、発生する事象の予測ができる点の3つです。それぞれを掘り下げて見てみましょう。

現実の情報を仮想空間に連動できる点

現実空間での未来を実験・予測するという点で両者の意味は共通していますが、シミュレーションは現実空間における事象を複数の場所で再現して、情報収集や分析、将来の出来事を推測することを指します。仮説を立ててから実験を開始し、分析・フィードバックを行うのに時間がかかります。

一方、デジタルツインではデジタル空間でこうした作業を行うため、手間や時間を抑えて将来予測をすることができます。デジタルツインとシミュレーションとの違いを知っておくと、両者をうまく使い分けて業務に取り組めるようになるでしょう。

リアルタイム性が高い点

シミュレーションは「仮説に基づいて実験をやった結果を踏まえ、対策を講じていく」という手順を踏まざるを得ません。対策を講じて結果が出るまでに時間がかかるために、後れを取ってしまうという欠点があります。デジタルツインでは現実のデータをもとにするので、そのデータに基づいた予測のもと、実験を行います。仮想空間でそのまま実験を行えば結果が出るまで待つ必要がありません。

発生する事象の予測ができる点

シミュレーションでは不可能なことですが、デジタルツインでは、想定される事態を実際に起こしてみることができます。また、今の状態のまま経過した場合、あとどれくらいでその事態になりうるのかなどの予測が可能になります。現実の空間にこれらの情報を共有すれば、「不測の事態」などと呼ばれてきた事象を減らすことができるようになります。

製造業がデジタルツインを導入する5つのメリット

特に製造業を主体とする企業がデジタルツインを取り入れる具体的なメリットとして、次の5つが挙げられます。

  • 製品の品質を保証しやすくなる
  • 顧客数や売上の増加につながる
  • 効率的な開発・製造が可能になる
  • アフターサービスを充実させられる
  • 社会的な課題の解決につながる

ここでは、これらのメリットについて詳しく解説します。

製品の品質を保証しやすくなる

デジタルツインを導入すると、現実空間ではできなかった情報収集や分析を行えるため、その結果を活かしてより高品質な製品を製造しやすくなります。デジタル空間では現実世界で起こりがちな物理的な制約を取り除いたシミュレーションが可能なので、さまざまな条件下での製品テストが可能になります。

また、極端な条件下での実験もできるため、製品の不具合を早期発見するなど発売前のエラーを回避することもできます。リコールなど甚大な損失を回避して自社製品を安心・安全に顧客に使用し続けてもらえれば、企業の信頼性をさらに高められるでしょう。

顧客数や売上の増加につながる

企業の信頼性を高める高品質な製品づくりは、将来的な顧客数や売上の増加にもつながります。もちろん、価格設定や営業手法など、マーケティング手法などの要素によっても顧客数や売上は変動しますが、デジタルツインの導入によって今まで見えなかった改善点を発見できれば、さらに成果を伸ばすことができるでしょう。

また、デジタルツインを活用すれば、デジタル空間上で製品の体験をしてもらえます。現実空間では運ぶのが困難だった製品を遠方で体験してもらえるため、自社製品の魅力をより多くの人に届けられるでしょう。

効率的な開発・製造が可能になる

デジタルツインを活用すると、製造の段階だけでなく、企画・設計の段階でもさまざまな実験ができます。

従来は設計書を作成して試作品をつくり、修正・変更するのに膨大な時間と労力がかかっていましたが、3Dのデジタル空間でいくつもの試作品を創り出せば、コストを抑えて理想的な製品を設計できます。

試作品ごとに現実空間にプロトタイプを製造する必要もないため、より効率的な開発・製造が可能になるでしょう。

アフターサービスを充実させられる

デジタルツインを活用するメリットは、製品の企画・製造だけではありません。

デジタルツインをうまく使えば、自社製品が顧客の手に渡った後も製品の状態をリアルタイムに把握することが可能です。それによって、たとえば部品の摩耗やバッテリーの劣化といった状態を適切に把握し、必要なタイミングで交換を打診できるようになります。

機器のトラブルによっては顧客の信頼を著しく損なうリスクがあるため、デジタルツールを活用して顧客に丁寧なアフターサービスを実施すれば、高い顧客満足度を維持できるでしょう。

社会的な課題の解決につながる

デジタルツインは、商品開発や製造分野だけでなく社会的な課題解決にも貢献します。

具体例として、デジタル空間上に農場を再現し、気象状況や土壌データをもとに効率的な農業経営をサポートすることが挙げられます。ほかにも、居住エリアごとの地理的特徴をもとに自然災害で起こり得る被害を予測し、災害時の被害を抑える対策をしたり避難訓練の実施に役立てたりすることも可能です。

このように、デジタルツインをうまく活用すれば、人々の安定的な暮らしを守ることもできるため、今後の普及が期待されています。

デジタルツインを導入して得られる一般的なメリット

ここでは、製造業に限らず、さまざまな業態や分野で活用できる一般的なデジタルツインのメリットとして「コスト削減」「品質の向上」「予知保全」「遠隔管理」の4つに整理して解説します。

コスト削減

工場では物を作る前に何回も試作を繰り返す必要があります。デジタルツインで試作を行えば、仮想空間上の3Dモデルで検討できます。現実の工場で行う試作や試験には時間上、空間上の制約がありますので限界がありますが、仮想空間で試作を繰り返せる範囲で行う分には、何回でもチャレンジできます。

この方法で、製品に欠陥が生じないかどうかの発見が可能になるのです。時間や材料費の節約になりコスト削減につながります。また、後述しますが、故障してラインが止まってしまうことを予知し、防止することによるコスト削減も挙げられます。

品質の向上

試作品を仮想空間で繰り返し作ることによって、それまで現実空間で製品開発をしていた際にはできなかったことができるようになります。人間では気付かないことに気づいたり、目に見えない箇所に手を入れたりすることができるようになる場合もあります。デジタルツインで、これまでのやり方では不可能、あるいは気が付かなかった加工法が生まれた結果、品質が向上することもあるのです。また、部品の耐久性の問題などについても、ビッグデータから解析して不具合を発見できるようになります。デジタルツインで試験をしながら製造した製品の信頼性は格段に上がるでしょう。

予知保全

デジタルツイン環境には、現実の工場に設置したIoTによる各種センサーのデータが蓄積されて分析できるようになっています。これらデータをAIで分析することによりこのままでいけば、どこがいつ故障するのか事前に知ることができるようになります。

工場のラインがひとたび故障すれば、そのラインを停止して修理しなければならなくなりその分、生産効率が落ちてしまいます。いつ頃限界がきて故障するのかわかっているのならちょうどその事態が発生する前に交換するなどの措置を取ればよいことになります。こうした機械の故障による生産活動停止の事態を、あらかじめ知ることで保全することができるのです。

遠隔管理

世界各地に工場がある場合でも、デジタルツインを本部に構築しておけば、現場の状況がデータとともにわかるので、遠隔地から監視をしたり、指示を出したり、といったことができるようになります。何か問題が生じるたびに、遠隔地まで出向くのはコストと時間がかかります。デジタルツインで監視しながら指示を出すことで済むのであれば、わざわざ出張する必要はなくなります。コスト削減にもつながりますが、働き方改革にもつながる効果です。

デジタルツインを実現する技術

デジタルツインは、どのような技術で成り立っているのでしょうか。DXを構成するいくつかのキーワードを整理すると、デジタルツインには主に次の技術が用いられていることがわかります。

  • AR・AR
  • IoT
  • 5G
  • AI

ここでは、これらの技術とデジタルツインの関係について詳しく説明します。

AR・AR

デジタルツインを実現するには、「拡張現実」と呼ばれるARと「仮想現実」と呼ばれるVRも不可欠です。なぜなら、デジタルツインは現実空間とデジタル空間を視覚的に結び付けて将来を分析・予測する技術だからです。

ARとは「Augmented Reality」の略称です。日本語では「拡張現実」と訳されます。スマートフォンなどのデバイスが提供するデジタル情報と現実世界とを重ね合わせることで新たな価値、さまざまなサービスや体験を生み出します。

VRとは「Virtual Reality」の略称です。日本語では「仮想現実」と訳されます。「限りなく現実に近い仮想空間」は、一般的には(狭義には)HMD(Head Mount Display)をつけて仮想空間を自分の視点で映像をチェックするシステムのことを言います。ただし、VRを概念としてとらえたときに、デジタルツインはその一部だということができます。

AR・VRによって従来見えなかった課題や問題をデジタル空間上に可視化すれば、それを的確に現実空間にフィードバックできるようになります。将来的にこれらの技術がさらに発展すれば、より高精度なフィードバックを受けられるようになるでしょう。

IoT

IoTは日本語で「モノのインターネット」とも言われ、通信機能付きのテレビやエアコン、冷蔵庫やスピーカーなどを指します。

この技術がなければDXそのものが発生しなかったという基礎的な技術です。インターネットに接続できる各種のセンサーが、それまで人間の手によって計測することができなかったさまざまなデータを大量に取得することができるようになりました。モノのインターネット(Internet of Things)があるからこそ膨大なデータを取得することができ、それをもとにデジタルツインが再現できるのです。デジタルツインでは膨大なデータをさまざまな機器から収集するため、ハイレベルなデジタルツインを作成するにはIoTの活用は不可欠だといえます。

しかし、IoTには多種多様な製品があるため、どの機器からどのような情報を収集するかを適切に判断しなければなりません。場合によっては国境を越えてIoTからデータを収集する必要があるため、タイムリーな活用を可能にする国際的な仕組みづくりが重要視されるでしょう。

AI

「人工知能」とも呼ばれるAIは、デジタルツインを活用する際に集められた膨大なデータを分析するのに役立ちます。収集するデータの量によってはマンパワーで分析することもできますが、AIを活用すればさまざまな多角的なデータ分析が可能になるので、より的確な経営戦略の立案が可能になるでしょう。

また、収集するデータ量が増えてAIの自己学習機会が増えると、より精度の高い分析結果をフィードバックしてもらえる可能性があります。より正確な未来を予見して事業運営に活かすためにも、デジタルツインにおけるAIの活用は欠かせません。

デジタルツインでは、IoTで収集したデータをどのように生かすかが重要になります。単に物理的な設備の再現だけをするのではあまり意味がなく、IoTで収集したデータからAIが自立学習をすることに意味があります。故障の予知や、部品の耐久性など、長年の経験や長時間の試験などによってしか得られなかった情報が、デジタルツインとAIの力によって実現しているのです。

5G

5Gを略さずにいうと「第5世代移動通信システム」となります。5Gには次のような特徴があります。

  • 高速大容量
  • 高信頼・低遅延通信
  • 多数同時接続

日本では2020年春からサービスが開始されました。実はこの5GがDXに果たす役割は大きいと考えられています。

われわれが利用してきた携帯電話などでは、4Gが使われてきました。4Gが主流になって以来ゲームや動画などのコンテンツが普通に楽しめるようになってきた経緯があります。5Gは4Gと比較したときに、通信速度が20倍、遅延は10分の1、同時接続台数は10倍になるといわれており、これによるさまざまな進化が見込まれています。

新たな高速通信技術である5Gは、大容量かつ高速な通信を可能にするため、リアルタイムな情報収集や分析、フィードバックが求められるデジタルツインには不可欠です。デジタルツインに関係の深い技術であるIoTにおいては、「多数同時接続」が可能な5Gによって、ますますデータ解析の精度は上がっていくでしょう。機械学習の飛躍的な進化も期待できます。

送受信するデータによっては、解像度の高い画像や動画も含まれます。これらをタイムリーかつ鮮明に送受信するには、より高速なネットワーク環境が求められます。5G基地局の整備や5Gに対応するIoT機器はまだ普及しているとはいえない状況ですが、今後デジタルツインを取り入れて事業運営に活かすためにも、技術を活用できるような体制を整えておくことが重要です。

デジタルツインの国内活用事例

デジタルツインとは

実際にデジタルツインはどのように活用されているのでしょうか?ここでは、デジタルツインの国内活用事例をいくつか紹介します。製造業に限らず、さまざまな分野で活用されていることを確認してみてください。

ダイキン工業

エアコンでよく知られているダイキン工業は、2018年に新設した堺製作所臨海工場でデジタルツインを導入しました。工場内には、「工場IoTプロジェクトセンター」が設置され、各工程の検査結果や加工条件の情報を集約しトレーサビリティを取っています。これは、製造ライン上に設置したIoT機器により収集された生体、制御、温度・CO2濃度データ等をリアルタイムにデジタルツイン上に再現し、AIで異常値を発見して重大な事故を防ぐ取り組みです。

この取り組みにより、工場の生産ラインの停止、従業員の労働安全衛生、品質の保証をより高度に行うことができます。工場で起こった何らかの停止を防ぐことが可能になるほか、前年度比で3割強のロスを削減する見込みだといいます。

旭化成

旭化成は2021年、福島県に建設した水素製造プラントにデジタルツインを導入しました。化学製品を製造するプラントには、プラントごとに専門化したベテラン技術者がいて、現場で異常時などの対応をしています。ところがこのベテラン技術者の人数は限られており、出張や休みの時などに不在になってしまうことがありました。そこで差し迫った問題を解決するためにベテラン技術者が不在であっても遠隔地から指示できるようなシステムを考案しました。

化学プラントの設備に何らかの異常が起きた時の対応は、マニュアル化することが難しく、ベテラン技術者の存在は不可欠です。そこでデジタルツインでプラントを丸ごと仮想空間に再現して、異常が起きた箇所を遠隔地からでも確認できるようにしました。

同社では将来的に、海外のプラントでも日本国内から支援できるような体制も視野に入れているといいます。

サントリー食品インターナショナル

清涼飲料メーカーのサントリー食品インターナショナルは、2021年5月に稼働した「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」にデジタルツインを導入しました。

このデジタルツインは、主に製品のトレーサビリティを厳密に行う役割を持っています。これはペットボトル1本に対して、どの設備、どの部品によって製造されたのかをトレースするものです。万が一設備に異常が起こり、不良品が混じった可能性が発生しても、その製品がどの段ボールに梱包されて、今どこにあるのかがわかるようになっています。

このほかにも、IoTでデータを収集してリアルタイムに監視しているため、異常が発生しそうな場合はすぐにわかる体制なのだといいます。デジタルツインが品質の向上に寄与しており、食の安全のために貢献しているといえる事例です。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、あらゆるモノやサービスが連携している都市づくりを進めています。都市づくりをする際は、デジタルツインを活用してデジタル空間上に街をつくり、人や車がどのように流れているか、都市がどのように機能しているかをシミュレーションしています。

今後はARやVRを活用した観光体験やドローンを用いた荷物の配達など、さまざまなテクノロジーを活用した街づくりが検討されています。現実世界ではできなかった「都市のバーチャル化」は、デジタルツインだからこそできる実験だといえるでしょう。

(参考)TOYOTA Woven City

国土交通省

国土交通省は、「PLATEAU(プラトー)」という3D都市モデルを整備し、オープンデータ化するプロジェクトを2020年4月に公開しています。この3D都市モデルは、デジタルツインとして誰でも利用できるのが特徴で、さまざまな都市でオープンデータ化が進んでいます。

このサービスを活用すれば、離れた場所からでも観光を楽しめるだけでなく、自治体ごとにスマートな街づくり計画を立案・実践することも可能です。まだオープンデータ化している地域は限られていますが、将来的にすべての都市がオープンデータ化すれば、より豊かな生活を実現できるきっかけになるでしょう。

東京海上日動

国内の大手保険会社は、大規模災害へのより的確な補償を検討するために、他社と協力してデジタルツインの活用に取り組んでいます。

この事例では、デジタルツインの運用を推進するために他社が保有するリスクデータやデータ分析手法、人の流れや空間データ、災害予測技術や災害研究データなどを複合的に活用しています。それによって、災害発生時のタイムリーな被害予測や、災害ごとの対応方法の立案といった現実での施策をデジタル上でシミュレーションし、より的確な補償ができるようになると期待されています。

(参考)NTT Com・東京海上日動・東京海上ディーアールが Smart City 領域で協業開始

デジタルツインの海外活用事例

デジタルツインは、国内だけでなく海外でも活用が進んでいます。ここでは、デジタルツインの海外活用事例を紹介します。

シンガポールでの活用事例

都市開発が活発に進むシンガポールは、高い人口密度や渋滞、建設現場からの騒音など、さまざまな社会課題を抱えています。

こうした課題を解決するために、シンガポール政府はデジタル空間上に道路や建物、公園などを3Dで再現する取り組みを進めています。デジタルツインを活用することで、効率的なバス輸送や公共工事の効率化が期待されており、将来的に多くの人々が暮らしやすい社会が実現するかもしれません。

デジタルツインの発展性

デジタルツインの工場への導入は、2023年現在でもまだ始まったばかりだといえます。まだまだ伸びしろのある分野で応用範囲も広がってくるでしょう。

グローバルインフォメーション(GII)が提供するKBV Researchの市場調査レポート「デジタルツイン市場規模、シェア、成長分析:ソリューション別、展開別、企業規模別、用途別、最終用途産業別、地域別 - 産業予測(2024年~2031年)」によると、世界のデジタルツインの市場規模は、2031年までに1,546億9,000万米ドルに達すると予測されています。デジタル仮想空間の中でトライアンドエラーを繰り返すことのできるデジタルツインは、新しい発見や発明を加速させることのできるアイテムだとも言えます。

また、遠隔地から監視をしたり、ベテラン技術者をサポートしたりするなど働き方改革に寄与することもわかってきました。これまでご紹介してきた利用法以外にも、想定できないような使い方が生まれてくる可能性があります。

デジタルツインは、これまで不可能とされていたことを次々と可能にしてきています。デジタルツインが世界中の製造業が飛躍的に効率を高め、日本国内におけるDXを進展させるための重要な要素になる可能性を持っています。

まとめ

この記事では、デジタルツインの概要、メタバースとの違い、製造業や一般的な企業などに導入するメリット、国内外のデジタルツイン活用事例、デジタルツインの今後の展望について解説しました。

設計やシミュレーション、製造やアフターサービスには、コストがかかる傾向にあります。しかしデジタルツインを導入することでコストを抑えて、より顧客満足度の高いサービスを提供することも可能です。本記事の内容を参考に、デジタルツインの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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