責任投資原則(PRI)とは?概要や背景、原則と企業事例
(画像=lovelyday12/stock.adobe.com)

近年さまざま投資機関が相次いで署名している「責任投資原則(PRI)」を知っていますか? 責任投資原則について知ることは、昨今広がりを見せるESG投資の理解や、環境・人権保護にまつわる諸問題の把握の足掛かりとなります。

目次

  1. 責任投資原則(PRI)とは
  2. PRIの署名機関数
  3. 責任投資原則(PRI)の「6つの原則」
  4. 責任投資原則(PRI)への署名が進む背景
  5. 責任投資原則(PRI)に署名済みの日本企業【具体例】
  6. 責任投資原則(PRI)に署名済みの企業以外の団体【具体例】
  7. 除名されるケースも
  8. 責任投資原則(PRI)への署名は今後も進むと予想される

責任投資原則(PRI)とは

責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)とは、投資家が負うべき責任について定義された世界的な提言(原則)、およびその参加団体(イニシアティブ)のことです。基本的には原則自体を指しますが、文脈により団体としての側面を意味することがあります。

責任投資原則の特徴は、大きく以下の3点です。

  • 2005年のコフィー・アナン氏の呼びかけが始まり
  • 投資に「ESG」を組み込むべきだとする原則
  • 参加団体はPRIから年次評価が行われる

2005年のコフィー・アナン氏の呼びかけが始まり

責任投資原則は、「投資家は未来のために企業のESGの側面にも目を向けよう」とする提言です。

責任投資原則の歴史は古く、2005年に当時の国連連合事務総長コフィー・アナン氏が世界の大手投資家に対して協調を呼びかけたことから始まりました。続く2006年5月、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)や国際グローバルコンパクト(UNGC)をはじめとする有力団体・専門家の協議により後述する6つの宣言が誕生し、これらが現在まで責任投資原則と呼ばれています。

投資に「ESG」を組み込むべきだとする原則

責任投資原則の根底には、「機関投資家は受益者(投資機関に資金を預ける人)の長期的利益を守らなければならない」とする考えがあります。そのためには、持続可能性のある国際金融システムを作り出し、社会全体が豊かになるように利益を追求していくことが不可欠です。

持続可能性のある社会を作るための取り組みとして挙げられたのが、投資時に企業の財務面のみならず環境保護や人権問題への活動も評価すること、すなわち以下のESGの考慮です。

Environment(環境):温室効果ガスの削減、再利用エネルギーの使用、食品ロスの削減など
Social(社会):格差の解消、ダイバーシティへの配慮、労働環境の改善など
Governance(ガバナンス):会計情報の透明化、中長期の経営指針の明示、外部監査の受け入れなど

責任投資原則の考え方はSDGsにもつながっており、現在に至るまで世界的な広がりを見せています。

参加団体はPRIから年次評価が行われる

団体としての責任投資原則(PRI)は、単に6つの原則を公表するだけでなく、多くの投資機関が内容に賛同し正しく順守することも求めています。そのため、参加・賛同する機関には取り組みを所定の形式で年次報告する義務があり、報告は項目ごとに五段階(1つ星~5つ星)で格付けされます。
(注:星による評価は2021年以降。従来はEからA+での格付け。)

万が一、報告を提出しないなど取り組みが不十分であると、責任投資原則への参加は取り消されます。さらに、公式サイトにて「旧署名団体」として除名理由と団体名も公開されるため注意が必要です。

PRIの署名機関数

2023年3月31日時点でPRIの署名数は、4,841の投資家と550のサービス・プロバイダーの合計5,391に達しています。そのうち、日本の署名数は123です。署名者の運用資産の合計額は120兆米ドルと、世界全体のGDPを上回るほどの金額となっています。

<日本の主なPRI署名機関>

  • 年金積立金管理運用独立行政法人
  • 日本労働組合総連合会
  • 企業年金連合会
  • 国立研究開発法人 科学技術振興機構
  • 学校法人 上智学院
  • 三菱UFJ国際投信株式会社
  • 第一生命保険株式会社
  • 全国共済農業協同組合連合会

成長するPRI

PRIの署名数は、6つの原則が誕生した2006年から毎年増加しています。また、2019年からの4年間で、署名数は約2,500から約5,500と2倍以上に増えています。これは、もともと署名数が少なかった中国やアフリカ、中東などの地域の加入が以前よりも増えているためです。

一方、アメリカや北欧・西欧などの国は早期の段階で署名する機関が多かったため、増加率は鈍化していますが、署名数は以前と変わらず多い傾向にあります。世界全体で見ると、2023年時点の署名者数は2022年から10%増加しています。このことから、現在もPRIは成長しているといえます。

署名機関数が増える理由

PRIの6つの原則に拘束力はありませんが、署名することでESGを考慮した投資をするという意思を示すことになります。これまでは、ESG投資をしていてもそれを証明する手段はありませんでしたが、PRIへの署名はESG投資を表明できる一つの手段となりました。よって、PRIに署名する機関が増えていると考えられます。

またESGに関する問題は、投資のパフォーマンスに影響を及ぼすことが広く認知され始めたことも、署名機関が増えた理由の一つです。例えば、炭素の排出量に課税する「カーボンプライシング」の導入が、世界各国で議論されています。

このような制度が本格的に導入されると、環境に配慮しない経営をする企業の負担は増大します。このように、ESGに配慮した企業を優遇する制度が導入される流れもあり、PRIへ署名する機関が増加していると考えられます。

責任投資原則(PRI)の「6つの原則」

責任投資原則の根幹を担う6つの原則は、以下の通りです。

1. 私たちは、投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込みます
2. 私たちは、活動的な所有者となり所有方針と所有習慣にESGの課題を組み入れます
3. 私たちは、投資対象の主体に対して ESG の課題について適切な開示を求めます
4. 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ実行に移されるように働きかけを行います
5. 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために協働します
6. 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します

引用:PRI「責任投資原則」
PRI

さらに、上記の6つの原則に対して合計35個のアクション(投資機関として具体的に求められる行動)も定義しています。例えば、原則1.に対して定められたアクションは以下の通りです。

・投資方針ステートメントでESG課題を取り入れる
・ESG関連ツール、測定基準、分析の開発を支援する
・内部の投資マネージャーのESG課題組み込み能力を評価する
・外部の投資マネージャーのESG課題組み込み能力を評価する
・投資サービス・プロバイダー(金融アナリスト、コンサルタント、ブローカー、調査会社、格付け会社等)に対し、進化する調査・分析にESG要因を組み込むように依頼する
・このテーマに関する学術研究等を促す
・投資専門家を対象としたESG研修を提唱する

引用:PRI「責任投資原則」

全体として、投資先企業のESGへの取り組みを評価するだけでなく、研究を促したり分析を支援したりするなど、ビジネスパートナーとして協業できるよう意識されています。

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PRIにおけるESGとは

先述の通り、PRIに署名することはESGの課題に取り組むことにつながります。ESGの要件は時代によって変化するものであり、一概に定義することは難しいですが、具体的には以下のような課題が挙げられます。

PRI

PRIへ署名することで、以上のような課題の解決を求められます。このような課題に取り組む企業は、社会的な貢献度が高いことに加えて、業績悪化につながる問題や不祥事を起こすリスクが低いと考えられます。

PRIを行うメリットとは

PRIに署名することで、投資家は財務上のリスクを低減できるのがメリットです。ESGの配慮に欠ける経営を行った結果、実際に大きな損失を被った例がいくつかあります。

例えば、2010年4月に起きたBP社によるメキシコ湾原油流出事故が挙げられます。この事故により11人の作業員が亡くなったほか、推定490万バーレルの原油が流出し、深刻な海洋汚染を引き起こしました。これにより、同社は538億ドル(当時のレートで約5兆円)の損失を被りました。

また、2015年に判明したフォルクスワーゲン社による排ガス不正問題も、ESGの問題が損失を招いた代表例の一つです。この問題では1,100台の車両に不正ソフトが組み込まれ、排出ガスの量を不正に低減していました。これにより同社は、274億ユーロ(当時のレートで約3.7兆円)の損失を被りました。

このように、世界的に名の知れた大企業であっても、ESGの配慮に欠ける経営をすれば大規模な損失を被る場合があります。

PRIに署名してESG投資を行うことは、先述のような問題を起こす企業への投資リスクを低減できるため、投資の長期的なパフォーマンスの向上につながると考えられています。

PRIが求めるESG情報はTCFDで開示

PRIが求めるESGの取り組みは、TCFDで開示できます。TCFDとは、金融安定理事会(FSB)が2015年12月に設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のことです。

TCDFの提言に則ったESG情報の開示は、TCDF開示といわれています。TCDFが公開を推奨している「ガバナンス・戦略・危機管理・指標と目標」に関する情報を、E・S・Gそれぞれの観点から開示することで、ESG情報の開示になります。

なお、TCDFは2023年に当初定めた責務を果たしたとして解散し、気候関連開示の進捗状況の監視業務は、IFRS財団の傘下である国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が引き継ぐこととなっています。

参考:IFRS

責任投資原則(PRI)への署名が進む背景

2022年3月時点で責任投資原則への署名機関は60ヵ国以上、4,900団体を超えており、参加団体の総資産額は約121兆米ドルに達するとされています。なぜこれほどまでに署名が進んでいるのでしょうか?

その背景には、大きく以下の3つの要因が挙げられます。

  • 2015年の「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の署名
  • 2030年達成期限の「SDGs」への関心
  • 「インパクトインテグレーション」の登場

2015年の「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の署名

一つの契機となったのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の署名です。世界最大級の投資機関として知られるGPIFは、2015年9月16日に責任投資原則に賛同して署名機関となりました。

GPIFは、2012年度の運用開始以降現在までに約98兆円もの累計収益を出しており、2022年度第三四半期末時点で運用資産額は約190兆円に及びます。このようなトップオブトップの投資機関の署名は、業界内に大きな衝撃をもたらしました。

2030年達成期限の「SDGs」への関心

責任投資原則と同じく国連が関与する「SDGs」への関心の高まりも要因の一つです。17の開発目標を定めて環境保護や人権の尊重を目指すSDGsは、2030年が達成期限と定められています。

期限が近づきSDGsが注目されるにつれ、近年は「ESG投資(企業の財務面のみならず、ESGの側面を考慮する投資方法)」の重要性が浸透してきました。責任投資原則は、このESG投資の発祥ともいうべき存在です。責任投資原則への参加は、ESG投資を行っていることを対外的にアピールすることに役立ちます。

「インパクトインテグレーション」の登場

最近では、ESG投資のさらに先の概念として「インパクトインテグレーション」が登場しています。PRIの理事である木村武氏によれば、インパクトインテグレーションとは「投資によって投資先企業の行動がどのように変化し、社会に対してどのようなポジティブ・ネガティブな影響が生まれるかまで考慮する投資方法」です。
(出典:日経ビジネス電子版「国連PRI理事に聞く、2022年のESG投資」を参考)

単に「ESGに貢献できていない企業だから投資しない」というのではなく、投資先がポジティブな行動を取るように働きかけたり、社会にポジティブな影響を見込める投資を優先したりすることで、投資機関はより積極的に社会へ好影響を生み出せます。

このようなESGを巡る投資の考え方は、現在でも進化を続けています。その重要性も高まっており、今後もますます責任投資原則に注目する団体は増えていくでしょう。

責任投資原則(PRI)に署名済みの日本企業【具体例】

責任投資原則に署名している日本企業の具体例を見ていきましょう。

三井物産オルタナティブインベストメンツ

三井物産オルタナティブインベストメンツは、オルタナティブ投資(鉱物や不動産、農産物といった債券や上場株式以外への投資)に強みを持つ投資機関です。2001年に設立後、多様なオルタナティブ商品の発掘や開発を行い、投資機関として活躍してきました。

三井物産オルタナティブインベストメンツでは、2021年8月にESG投資ポリシーの策定に取り組み、2022年4月に責任投資原則へ署名しています。署名を公表するプレスリリースにおいては、PRI の 6 原則を表記したうえで、今後は従来以上に受託者責任を果たすと強調しています。

三菱UFJ信託銀行

三菱UFJ信託銀行は、ESG投資のパイオニアを自認しています。2006年5月の責任投資原則の発足と同時に署名し、発足式ではアジアの投資機関を代表する形でスピーチを担いました。スピーチの中では、今後もアジアのフロントランナーとして活躍していくと宣言し、言葉通りに現在も躍進を続けています。

三菱UFJ信託銀行は公式サイト上で責任投資原則による格付け(2020年結果)を公表しており、E~A+の6段階評価のうちA、主要項目はオールA+と素晴らしい成績を残しています。また120ページ以上にもわたる「責任投資報告書」を公開し、自社のESGへの取り組みを誰でも閲覧できるようにしています。

富国生命投資顧問

「お客さまのニーズに応えられる運用会社」を経営指針に多くの保険商品を手がける富国生命投資顧問は2016年3月に責任投資原則の署名機関となりました。2020年6月には「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」にも賛同するなど、環境へも配慮した投資活動を進めている企業です。

富国生命投資顧問は、公式サイト上で「PRIの6原則」とともに、各原則に対応した自社の取り組みもあわせて記載しています。環境や人権の話題でたびたび問題となる「具体的に何をしているのか?」を外部に公表できている好例です。

SOMPOアセットマネジメント

SOMPOアセットマネジメントは2012年1月に責任投資原則へ署名した企業です。公式サイト上では2019年の年次報告の結果が掲載されており、ほとんどがA+と好成績をおさめています。

SOMPOアセットマネジメントの事例の特徴は、公式サイトにてESG投資について説明する動画を用意していることです。ESG投資とはそもそも何か、なぜ取り組むべきなのか、責任投資原則ではどのような内容が定められているのかといった内容が誰でも理解できるように工夫されています。

かんぽ生命保険

かんぽ生命保険は、日本郵政グループの中で生命保険業を担う企業です。2017年10月に責任投資原則へ賛同・署名しており、プレスリリース内では富国生命投資顧問と同様、PRIの6つの原則とそれに応じた自社の取り組みを公表しました。

かんぽ生命保険は国債・準国債・社債など、投資先の区分に応じてどのような要素を考慮してESG投資を行っているのかについても基準を公表しています。あわせて「ネガティブ・スクリーニング」として石炭火力発電や非人道的兵器に関連する投資を行わないと表明するなど、環境負荷や人権侵害を許さない姿勢を強く打ち出しています。

また、基準だけでなく具体的なESG投資の事例も公開しており、透明性を高められるように配慮されています。

責任投資原則(PRI)に署名済みの企業以外の団体【具体例】

責任投資原則に署名しているのは投資団体であり、その形態は企業に限りません。最後に、責任投資原則に署名している企業以外の団体の具体例を見ていきましょう。

上智学院(上智大学)

上智学院(上智大学)は2013年に創立100周年を迎えた歴史ある学校法人です。2015年11月に責任投資原則へ署名し、2020年の年次評価において「国債等の自家運用」を除くすべての項目でA+を獲得しています。総合評価でも3年連続のA+に輝いており、教育機関として自覚と責任を持った形で資産を運用中です。

また、学校ならではの特徴として、6つの原則への取り組みを表明する中で学生に対する指導についても触れられています。例えば、原則5.「私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します」では、ESGを学べる講義の開講を通じて次代を担う学生達を育て上げると明言しています。

東京大学

東京大学も、責任投資原則に賛同・署名した団体です。責任投資原則への署名は2019年に行われましたが、これは国立大学としては初の画期的な出来事でした。

東京大学はかねてよりSDGsの達成に向けて注力してきた学校です。「未来社会協創推進本部登録プロジェクト」として学生や教授によるSDGsに関する研究や活動を登録し、17の目標別に公開しています。2023年1月時点で総プロジェクト数は206にも及び、誰でも閲覧できます。

SDGs登録プロジェクト | 東京大学

JA共済連(全国共済農業協同組合連合会)

JA共済連(全国共済農業協同組合連合会)は2022年11月に責任投資原則へ署名しました。JA共済連はもともと「JAグループSDGs取組方針」として環境や人権の問題に対する姿勢を示しており、その内容は公式サイト上で公開されています。

過去のESG投資の事例も公開されており、栄養改善をテーマに乳児・妊婦・障害者の救済を目指すアンデス開発公社の「ニュートリション・ボンド」や、将来に向けた安全な社会システムを用意するための「神戸市SDGs債」などへの投資実績が語られています。

除名されるケースも

PRIに署名後、以下の項目を満たさなければ除名されることがあります。最低履行要件は以下の4つです。

  1. 責任投資のポリシー策定
  2. 運用資産の50%以上がポリシーを遵守
  3. 社内および社外スタッフによる責任投資の実行
  4. 経営陣による責任投資のコミットメントおよび監督

また、以下の要件の追加が検討されています。

  • 運用資産の90%以上がポリシーを遵守(※現行50%から90%へ引き上げ)
  • 責任投資のポリシー公開
  • 100億ドル以上または総額10%以上におけるESGの組み込み
  • 上場会社へのエンゲージメントと議決権行使
  • 年次報告書の内部検証とCレベル(CxO)の承認と署名
  • 年次報告書の内部監査および外部監査

これらの条件を満たさなければ、除名されることがあります。また、除名された機関は公開されるため、長期的に最低履行条件を達成できるかを確認してから署名しましょう。

責任投資原則(PRI)への署名は今後も進むと予想される

この記事では、責任投資原則(PRI)の概要と6つの原則、署名が進む背景、署名済みの企業と企業以外の具体例についてご紹介しました。

責任投資原則は「ESGの側面を投資に取り入れよう」とする提言で、6つの原則で構成されています。その内容は近年注目される「ESG投資」の基礎となる考えであり、現代の投資家なら必ず意識したいものです。

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