2050年までにカーボンニュートラルを達成するために、必要不可欠なのがCCSです。この記事では、CCSの概要を紹介するとともに、CCSのメリットや今後の課題、日本国内外での取り組みについて解説します。CCSについて詳しく知りたい、という方はぜひ参考にしてください。
目次
CCSとはいったい何?CCU・CCUSとの違いは
まずは、CCSの概要および、よく似た言葉のCCU、CCUSとの違いを解説します。
CCSの概要
カーボンニュートラルの切り札とされるCCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」を略した言葉で、その名の通り、Carbon dioxide(二酸化炭素)をCapture(回収)してStorage(貯留)する技術のことを意味します。
より詳しく説明すると、どうしても排出を避けることができない二酸化炭素を地中に埋めることにより、二酸化炭素を削減しようとすることおよび、その一連の技術のことをいいます。
続いて、具体的な回収・貯留方法をご紹介しましょう。二酸化炭素の主な排出源は、発電所や製油所、化学プラントなどです。そのような場所から排出されたガスの中から、まず二酸化炭素だけを分離・回収します。
分離・回収に使われるのは「アミン水溶液」とよばれるアルカリ性の薬剤です。
アミン水溶液は温度によって二酸化炭素を吸収したり放出したりできる特性を持っているので、効率よく回収することができます。
回収した二酸化炭素は船舶やパイプラインなどで地中まで輸送され、地下800メートルよりも深いところにある「貯留層」という地層へ閉じ込められます。中流層はすき間がたくさんある砂岩で形成されており、上部は遮蔽層で覆われているので、閉じ込めた二酸化炭素が漏れることはありません。
CCSによって埋められた二酸化炭素はどうなるのかというと、周辺の岩石と反応することで鉱物化するので、安全性が高い状態で地中に閉じ込めることが可能だ、と言われています。
CCU・CCUSとは
CCSと似た言葉に、CCU・CCUSがあります。CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)は、日本語に訳すと「二酸化炭素の回収および有効利用」です。つまり、CCUは、CCSで貯留した二酸化炭素を、新たな商品やエネルギーへと変換する技術のことをさします。
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)とは、「二酸化炭素の回収・有効利用・貯留」のことです。つまり、CCS同様二酸化炭素を回収・貯留することに加え、有効利用する技術になります。
CCUSの一例が、二酸化炭素を古い油田へと注入し、回収しきれない原油を二酸化炭素の力で押し出す、という技術です。
CCSとCCUおよびCCUSの違いをわかりやすくいうと、CCSは二酸化炭素を地中へと埋める技術、CCUは地中に埋められた二酸化炭素を全く新しいものへと変換する技術、CCUSは、CCSとCCUの技術を併用したもの、となります。
CCSが注目されている理由
CCSが注目されている理由は、大きく分けると2つあります。それぞれわかりやすく解説しましょう。
パリ協定の目標達成に貢献できるため
ひとつ目の理由は、2015年に採択されたパリ協定で掲げられた長期目標達成にCCSが大きく貢献できると考えられているためです。パリ協定には、温室効果ガスの主な排出国が多数参加。締結国の世界の温室効果ガス排出量は、約9割にのぼります。
パリ協定では世界共通の長期目標として
- 世界的な平均気温の上昇を産業革命以前と比較して2℃よりじゅうぶん低く保つと同時に、1.5℃に抑える努力の追求
- 今世紀後半には、温室効果ガスの人為的発生源による排出量と、吸収源による除去量の均衡を達成 の2点が掲げられました。
そして、これらの目標達成に大きく貢献するのがCCSである、と考えられているのです。
カーボンニュートラル実現のため
政府の「カーボンニュートラル宣言」も、CCSが注目を集める一因となっています。パリ協定を受けて、日本は2020年10月「2050年カーボンニュートラル」を宣言。またこれを実現するため、経済産業省が中心となって「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。
グリーン成長戦略では、「洋上風力・太陽光・地熱」「原子力」「船舶」など、14からなる重要分野ごとに目標を掲げ、企業のカーボンニュートラルに向けた取り組みを国が後押しする計画となっています。
しかし、2050年までにカーボンニュートラルを達成するには、温室効果ガス排出量を2020年のおよそ80%まで削減しなければいけません。そのためには、CCSおよびCCUSの更なる技術開発や社会への実装、そして低コスト化が必要不可欠である、と言われています。
CCSのCO2分離・回収方法
CCSの二酸化炭素分離・回収方法は4つあります。それぞれ詳しく紹介しましょう。
物理吸着法
排ガスをゼオライトや活性炭といった吸着剤と接触、温度差や圧力を利用して吸着剤の微細孔へと二酸化炭素を吸着させて分離する方法です。分離の工程や使用する装置がシンプルなので、低エネルギーで分離できる、というメリットがあります。
現在では、物理吸着法に使用する吸着剤の技術開発も進んでおり、従来のものよりもさらに効率よく二酸化炭素を吸脱着させられる材料も出てきています。
また、低圧環境など、これまでは吸着性能がなかなか発揮できない、とされていた状況下でも対応可能な素材が開発されていることから、さらなる低コスト化・効率化が期待されています。
化学吸収法
現在最も多く採用されている二酸化炭素の分離・回収方法です。装置の構造が非常にシンプルなので、大量の排ガス処理が可能、というメリットがあります。
アルカリ性溶液の化学反応を利用して二酸化炭素のみを溶解して分離するCCSの方法で、一般的には炭酸カリ水溶液・アミンなどを使用します。
二酸化炭素を吸収したアルカリ性溶液は再生施設へと送り、大量の蒸気を使って再生処理したうえで二酸化炭素と分離。その後、アルカリ溶液は再び二酸化炭素の溶解に使用されます。
物理吸収法
圧力をかけることによって排ガス内の二酸化炭素をメタノールなどの液体へと溶解し、分離・吸収する方法です。高圧下で二酸化炭素を溶解させた後に減圧させることによって二酸化炭素を取り出します。二酸化炭素を取り除いた液体は、再び二酸化炭素を溶解するために利用します。
この物理吸収法は、石炭由来のガスをはじめとした高温・高圧のガスを処理するのに適している、と言われています。理由は、ガスがもともと持っている圧力を、分離・吸収に活用できるからです。
また、かける圧力が高ければ高いほど二酸化炭素の溶解量は増えます。そのため、より高圧で処理を行う技術や設備が整ったなら、二酸化炭素吸収後に溶液を循環させる動力、溶液の再生にかかるコストが削減できるでしょう。
膜分離法
排ガスを多孔質の気体分離膜へと通し、拡散速度の違いや孔径による「ふるい効果」を利用して、二酸化炭素を分離する方法です。二酸化炭素の分離以外にも、汚水の浄化、溶解した物質の分離などにも利用されています。
膜分離法に適しているのは、メタンが主成分のガス処理です。二酸化炭素はメタンよりも分子が小さいので、比較的分離が容易になるためです。
反対に、酸素や窒素など、二酸化炭素と分子の大きさが同程度のガスへの適用は難しい、と言われています。しかし、近年は技術開発が進んだため、分離の精度も徐々に向上しています。
CCSのCO2貯蓄方法
続いて、二酸化炭素の貯蓄方法を紹介しましょう。
海洋隔離
二酸化炭素を海水に溶解させたり、深海底に液状化した二酸化炭素を送り込ませたりする方法です。しかし、生態への影響や海水の酸性化といった懸念点が多数あることから、近年では実現に向けた動きは見られていません。
また、ロンドン条約が2006年に改正され、二酸化炭素も廃棄物として数えられるようになったことから、CCSの中でも海洋隔離で貯蓄する方法は海洋汚染につながり、現状ではあまり現実的ではない、と言えるでしょう。
地中貯留
二酸化単度を地下800メートル以上深い場所にとどめておく方法です。地下800メートルよりも深い場所には化石燃料や地下水が埋まっています。そのため、二酸化炭素を長期間にわたって安定的に貯留できる、と期待される方法です。
その中でも最も有力視されているのが「帯水層貯留」になります。帯水層は、砂岩などすき間が大きな粒子でできているうえ、塩水や水で満たされている場所です。また、上部は泥岩などの遮蔽層で覆われているので、二酸化炭素の漏洩を防ぐことができます。
そのほか地中貯留には「枯渇油・ガス層貯留」「炭層固定」「石油・ガス増進回収」といった方法もあります。これらは、地中の石油・ガス層や石炭層に二酸化炭素を注入して貯留するのと同時に、石油やメタン、天然ガスなどの採掘も促進する方法です。
CCSのメリット
CCSの技術を活用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、期待される3つの効果について解説します。
CO2が大幅削減できる
CCSを上手に活用することで、大幅な二酸化炭素の削減が期待できます。たとえば出力80万キロワットの石炭火力発電所にCCSを導入することで、年間約340万トンの二酸化炭素放出を防ぐことが可能です。
経済産業省が実施した二酸化炭素貯留適地の調査によると、国内には、約2,400億トンの二酸化炭素貯留ポテンシャルがある、と推定されています。これは、現在の日本における二酸化炭素年間排出量の200年分に相当するのです。
また、日本国内の火力発電所など、二酸化炭素排出源の多くは沿岸部に存在しています。そのため、二酸化炭素を海底まで輸送するエネルギーを抑えることができる、というメリットもあるのです。
炭素が有効活用できる
CCUで回収した二酸化炭素からメタンなどの化学原料を生産して製品を製造、その製品を使用後に焼却処分する際、発生した二酸化炭素を再びCCUで回収…という炭素の循環利用も可能になります。
カーボンニュートラルの社会では、炭素を資源とし、循環利用する考え方が重要です。この先、さまざまな化学製品は、できる限り化石燃料に頼らずに製造することが課題ですが、CCSやCCUがそこに大きく貢献することは間違いないでしょう。
再生エネルギーの普及が進む
CCUSは、再生エネルギー普及促進の一役を担う、と期待されています。風力発電や火力発電などは、気象条件に影響を受けて出力が変動しやすくなっています。そのため、CCUSと使い切れない電力を燃料に貯蔵する仕組みを一緒に検討することが望ましいでしょう。
たとえば、原状ではインフラ整備が十分ではないため、水素を燃料として貯蔵するのは難しい、とされています。しかし、CCUSで回収した二酸化炭素からメタンを製造して貯蔵しておけば、都市ガス用のインフラで利用可能となります。
つまり、メタンを製造することで、水素を貯蔵するためにインフラ整備を待つことなく余剰電力を貯蔵・有効利用できるため、再生可能エネルギーの普及につながる…というわけです。
CCSが抱える課題とは
CCSの実用化には、いくつかの課題があります。それぞれ詳しく解説しましょう。
CO2を貯留する場所の確保
CCSのひとつ目の課題は、二酸化炭素を貯留するのに適した場所を確保することです。二酸化炭素を安全な状態で長く貯留するためには、貯留層の上に遮蔽層があること、地質が貯留に適していることなど、いくつかの条件があります。
前述した通り、国内には、約2,400億トンの二酸化炭素貯留ポテンシャルがある、とされていますが、数十億トン規模の貯留槽は数か所に限られているのが現状です。CCSプラントを効果的に運用するには、引き続き調査が必要となるでしょう。
また、貯留地に住む地域の人々や、土地の所有者との合意も必要です。CCSでは地層の間に大量の二酸化炭素を埋めるので、二酸化炭素が漏れないか、地震を引き起こさないか、などが懸念点として挙げられます。
そのような指摘を受けた場合でも、CCSで二酸化炭素を埋めた後の安全性を明確に伝え、納得していただいてはじめて貯留地として活用できるのです。
コストの低減
コスト面も大きな問題点として挙げられるでしょう。CCSの実用化には、コストの大半を占めている二酸化炭素の分離・回収にかかるコストの低減が重要です。二酸化炭素の分離回収方法には、物理吸着法や化学吸収法など、さまざまな方法があることは先ほど紹介しました。そして、いずれの方法も、さらなるコストカットが求められています。
また、二酸化炭素の分離・回収および貯留に必要な施設は、金銭的なコストはもちろんのこと、稼働のためにエネルギーのコストもかかってしまいます。二酸化炭素を分離・回収する設備を稼働するために、二酸化炭素を余分に排出してしまう…という事態が起きれば、本末転倒でしょう。
輸送の問題
二酸化炭素を排出している場所と排ガスの処理施設、二酸化炭素を貯留するための施設がそれぞれ離れている場合は、どのように輸送するかを検討することも必要です。
工場や発電所で排出された二酸化炭素をCCSプラントまで輸送、さらにCCSプラントで回収された二酸化炭素を貯留地へと輸送するためには、それぞれコストとエネルギーがかかってしまいます。金銭的にもエネルギー面でも、可能な限り低コストで輸送する手段の構築が必要でしょう。
輸送手段は船舶やトラック、パイプラインなどが挙げられますが、コスト面で有力視されているのは短距離でパイプライン、長距離では船舶です。
CCSに対する世界の取り組み
世界各国では、CCSの商業運転や実証実験が進められています。いくつかの事例を紹介しましょう。
ノルウェー:スライプナープロジェクト
ノルウェーは、世界で初めてCCSを実現させた国です。1996年に操業開始した「スライプナープロジェクト」では、ノルウェー沖のスライプナーガス田で天然ガスを採掘する際に、二酸化炭素を分離して地中に貯留。20年間で1,600万トン以上の二酸化炭素の圧入に成功しました。
2008年には「スノービットプロジェクト」を操業開始。300万トン以上の二酸化炭素を圧入しています。先の「スライプナープロジェクト」と合わせると、実に2,000万トン以上の二酸化炭素の圧入に成功したのです。
カナダ:キャピタルパワープロジェクト
カナダの発電会社「キャピタルパワー社(Capital Power)」では、「Genesee CCSプロジェクト」を実施、2022年12月現在、これまで順調な推移を見せている、と発表されました。このプロジェクトは2023年第3四半期までに最終的な投資決定が下され、早ければ2027年に商業運転が開始される予定です。
開始されれば同社の天然ガス複合発電「Genesee発電所」の1号機および2号機より、年間最大300万トンもの二酸化炭素の回収が可能になる、と期待されています。
アメリカ:エクソンモービル社の取り組み
CCSはアメリカの大手企業でも計画されています。アメリカの石油大手「エクソンモービル(Exxon Mobil)」では、2022年3月に同社の操業、また地域産業から排出される二酸化炭素削減のため、テキサス州ベイタウンの複合施設にて、水素製造およびCCSを計画している、と発表しました。
このうちCCSについては、新たに年間最大1,000万トンの二酸化炭素輸送・貯留が実現すると発表。同社の輸送と貯蓄能力が2倍以上に増加する見込みです。
このプロジェクトは2030年までに年間約5,000万トン、2040年までには年間1億トンもの二酸化炭素の回収・貯蓄計画の達成に大きく貢献できる、とされています。
日本国内でのCCSの取り組み事例
日本国内でも、CCSに関するさまざまなプロジェクトが実施されています。また、二酸化炭素削減に向けた取り組みを多くの企業が行っています。
苫小牧での実証実験
北海道苫小牧市では、国家プロジェクトとして、日本で初めてとなるCCSの大規模実証実験を実施しています。2012年度から2015年度にかけては、実証実験設備の設計や建築、試運転などが行われました。
2016年度からは地中への二酸化炭素圧入を開始。2019年11月22日に、目標となっていた累計30万トンの二酸化圧入を達成。現在は、圧入は停止され、モニタリングが実施されています。
エネオスとJ-POWERが共同で事業化
2022年5月、エネオスホールディングス株式会社と電源開発株式会社(J-POWER)が、国内CCSの事業化調査に共同で取り組むことを発表しました。また、両社は国内で初となる本格的なCCSの実装化を実現することで、エネルギーの安定供給と、温室効果ガス排出削減目標達成への貢献を目指す、とされています。
CCSの普及が脱酸素と経済発展のカギ
まだまだ実用化が始まったばかりのCCSですが、今後普及が進むにつれ、CCSを取り巻く新たなビジネスも展開されることが予想されます。つまり、CCSの普及がビジネスチャンスにつながる可能性もある、というわけです。その時が来ても焦らないように、今のうちにCCSに関する正しい知識を身につけておくことが大切でしょう。
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