
デジタル技術の急速な進化により、企業はビジネスモデルの変革を迫られています。
そんな中、経済産業省が策定した「デジタルガバナンスコード」が注目を集めています。
このコードは企業がデジタル技術を活用して持続的な価値創造を実現するための指針であり、2020年の初版から2024年には3.0へと進化しました。
企業価値向上のための「3つの視点」と「5つの柱」を軸に構成され、経営ビジョンとDX戦略の連動から成果指標の設定、ステークホルダーとの対話まで体系的に網羅しています。
本記事では、デジタルガバナンスコードの本質と実践方法を解説するとともに、導入事例や注意点も紹介します。
デジタル変革を成功させ、競争力を高めたい経営者必読の内容です。
目次
デジタルガバナンスコードとは?定義や目的
デジタルガバナンスコードは、企業がデジタル技術を活用して価値を創造するための指針です。経済産業省が2020年11月に策定し、2022年に2.0、2024年に3.0へと進化してきました。
経営者が実践すべき事項をまとめたもので、企業のデジタル化を促進し、競争力を高めることを目的としています。このコードは、経営ビジョンの策定や戦略の立案など、5つの柱で構成され、企業規模や業種を問わず、すべての事業者が対象です。
デジタルガバナンスコードを実践することで、企業は新たな価値を生み出し、成長につなげられます。また投資家や取引先に対して、自社のデジタル化への取り組みをアピールすることも可能です。
このように、デジタルガバナンスコードは企業の未来を左右する重要な指針となっています。
デジタルガバナンスコード3.0|3つの視点と5つの柱

企業がデジタル技術を活用して事業変革を進めるためには、明確な指針が必要です。
経済産業省が公開した「デジタルガバナンス・コード3.0」では、企業価値向上のためのDX推進において「3つの視点」と「5つの柱」という重要な枠組みが示されています。この枠組みを活用することで、企業は体系的にデジタル変革を進め、持続的な競争力を獲得できるでしょう。
ひとつずつ順番に解説していきます。
視点1:経営ビジョンとDX戦略の連動
経営ビジョンとDX戦略の連動とは、会社の目指す姿とデジタル技術活用の計画を一体化させることです。
多くの企業ではDXをIT部門だけの取り組みと捉えがちですが、本来は経営陣が主体となって策定すべきものです。経営者自身が納得し、実現可能と思えるビジョンと戦略を練り上げることで、全社一丸となった取り組みが可能になります。
明確なDXビジョンを持つ企業は、組織内の連携が図りやすくなるだけでなく、投資家や取引先からの信頼も獲得しやすくなるという利点があります。
DXは単なるシステム導入ではなく、企業のあり方から変える企業変革そのものであり、経営者のコミットメントが不可欠なのです。
視点2:As is - To be ギャップの定量把握・見直し
As is - To be ギャップの定量把握とは、現状と目指すべき姿の差を数値で表し、課題を明確にする取り組みです。
この考え方では、まず理想の状態(To be)を描き、次に現状(As is)を把握し、そのギャップを生み出している原因を分析します。
例えば、DX推進において必要な人材の質と量を定義し、現状との差を数値化することで、具体的な人材戦略を立てられます。この分析を通じて、デジタル面の課題を特定し、DX戦略を継続的に見直すサイクルを確立できるのです。
ただし実務では「KPIを設定するのに必要な情報がない」といった問題も多く、まずは測定可能な指標の設定から始める必要があります。
視点3:企業文化への定着
企業文化への定着とは、DX推進を一時的な取り組みではなく、組織の価値観や行動規範として根付かせることです。DXの本質は単なる技術導入を超え、企業文化や働き方そのものを変革する点にあります。
特に日本企業では「変化への抵抗感」や「経営層の関与不足」がDX推進の障壁となっており、これらを克服する文化醸成が重要です。
企業文化を定着させるには、経営陣からの積極的な発信、企業文化に結びついた行動の促進、人事評価への組み込み、採用基準への反映などの取り組みが効果的です。
デジタルガバナンスコード3.0では、持続的な企業価値向上を支える企業文化はDX戦略の実行を通して変革・醸成されるという認識を持ち、目指すべき企業文化を明確にすることを求めています。
柱1:経営ビジョン・ビジネスモデルの策定
経営ビジョン・ビジネスモデルの策定では、データ活用やデジタル技術の進化による社会および競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえて、将来の方向性を明確に描くことが求められます。
具体的には、自社の強みと弱みを明確化し、デジタル技術を活用してどのように事業を変革していくかを計画します。認定基準としては、データ活用やデジタル技術の進化による社会および競争環境の変化の影響も踏まえた経営ビジョンおよびビジネスモデルの方向性を公表していることが挙げられています。
このプロセスでは、経営者自身が主体となり、単なるIT導入ではなく、企業全体の価値創造に向けた変革を図ることが重要です。
デジタル技術はコストではなく、新たな価値を生み出すための投資として位置づけることで、従来のビジネスモデルを超えた発想が可能になるでしょう。
柱2:DX戦略の策定
DX戦略の策定は、経営ビジョンとデジタル技術活用の計画を一体化させる重要なステップです。DX戦略では、現状(As is)と目指すべき姿(To be)のギャップを分析し、そのギャップを埋めるための具体的な道筋を描きます。
特に「DXに投じる資金はコストではなく、価値創造に向けた投資である」という認識を持ち、経営資源の最適配分を計画することが求められています。
戦略策定においては、デジタル技術の活用だけでなく、組織体制や人材育成、企業文化の変革も含めた総合的な視点が必要です。
明確なDX戦略があることで、社内の各部門が同じ方向を向いて取り組むことができ、投資家や取引先からの信頼も獲得しやすくなるという利点があります。
柱3:DX戦略の推進
DX戦略の推進では、策定した戦略を実行に移すための具体的な取り組みが焦点となります。経営者はリーダーシップを発揮し、組織横断的な推進体制を構築することが重要です。
DX推進には、デジタル人材の育成と適切な配置が不可欠であり、必要なスキルセットの定義や人材育成計画の策定も含まれます。また、ITシステムの技術的負債化を防ぎ、柔軟で拡張性のあるシステム基盤を整備することも推進における重要な要素となっています。
DX推進の過程では、部門間の壁を取り払い、データやナレッジの共有を促進する文化づくりも重要です。
企業文化への定着を図るためには、経営陣からの積極的な発信や、DX推進に貢献する行動を評価する仕組みの導入なども効果的とされています。
柱4:成果指標の設定・DX戦略の見直し
成果指標の設定・DX戦略の見直しでは、DX戦略の達成度を測る指標を定め、指標に基づく成果についての自己評価を行うことが求められます。
具体的には、企業価値創造に係る財務指標、DX戦略実施により生じた効果を評価する指標、DX戦略に定められた計画の進捗を評価する指標などが考えられます。
経営者は事業部門やITシステム部門と協力し、デジタル技術の動向や自社システムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、DX戦略の見直しに反映させます。
取締役会は経営ビジョンやDX戦略の方向性を示す役割を果たすとともに、経営者の取り組みを適切に監督する責任があります。
KPIを設定することで、経営レベルでDX戦略の進捗や成果を即座に把握できる環境を整えることが重要であり、定期的なモニタリングと戦略の見直しのサイクルを確立することが成功への鍵となるでしょう。
柱5:ステークホルダーとの対話
ステークホルダーとの対話では、企業は経営ビジョンやビジネスモデル、DX戦略、推進方策、成果指標に基づく成果について「価値創造ストーリー」として投資家をはじめとした適切なステークホルダーに示すことが求められます。
経営者はDX戦略の実施にあたり、ステークホルダーへの情報発信を含め、リーダーシップを発揮することが重要です。認定基準としては、経営ビジョンやDX戦略について、経営者が自ら対外的にメッセージの発信を行っていることが挙げられています。
透明性の高い情報開示は、投資家からの信頼獲得につながるだけでなく、取引先や顧客との関係強化にも寄与します。対話を通じて得られたフィードバックは、DX戦略の改善に活かすことができ、より実効性の高い取り組みにつながります。
経営者自らが積極的に情報発信することで、社内外に自社のDXへの本気度を示し、変革への機運を高める効果も期待できるでしょう。
デジタルガバナンスコードの導入事例
ここからは、デジタルガバナンスコードの導入事例を3つ紹介していきます。
順番に見ていきましょう。
事例1:建機メーカーのAR技術活用
建機メーカーでは、修理対応の品質にばらつきがあるという課題を抱えていました。この問題を解決するため、3Dモデルと拡張現実(AR)技術を活用した故障診断アプリを開発しました。
スマートフォンをかざすだけで建機内部の故障箇所や対象部品を視覚的に特定できるシステムを構築したのです。この取り組みにより、修理担当者の経験や技術レベルに関わらず、一定水準以上のサービス提供が可能になりました。
デジタル技術を活用して現場の問題を解決した好例といえるでしょう。
事例2:酒類製造業のデジタル技術活用
北海道の酒類製造業の企業では、DXの取り組みを積極的に進めています。
この企業ではデジタルガバナンス・コードに基づき、ワイン製造残渣を利用した新規機能性素材の研究開発を、経済産業省のサポイン事業や地域未来投資促進法を活用して進めています。
さらに、スマート農業化に向けた産官学連携の取り組みや、サステナブル社会形成のための新たなブドウ栽培モデルケースの確立など、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革に取り組み中です。
この事例は、製造業におけるデジタル技術の活用が単なる業務効率化ではなく、ビジネスモデル全体の変革につながることを示した事例です。
事例3:電気機器メーカーのDX認定取得
ある電気工業メーカーは、組織を整備してデジタル変革(DX)を推進してきたものの、自社がどの程度デジタルガバナンス・コードに適応しているか把握できていませんでした。
そこで、自社の現状を客観的に評価するベンチマークとして、DX認定取得にチャレンジするプロジェクトを2022年夏に開始しました。
専門企業のサポートを受けながら、ビジョン、戦略、組織、人材など多岐にわたる分野での自己診断を実施。良い点と改善点を明確にしながら準備を進め、2023年6月にDX認定事業者として認定を取得しました。
IT専門ではない事業会社がこの認定を取得したことで、社内外に自社のデジタル変革への本気度を示す効果がありました。
デジタルガバナンスコード導入時の3つの注意点
デジタルガバナンスコードを導入する際は、以下の3点に注意したいところです。
- 明確な目的とビジョンの設定
- 組織体制と人材育成の整備
- 段階的な実施とPDCAサイクルの確立
順番に解説していきます。
注意点1:明確な目的とビジョンの設定
デジタルガバナンスコード導入において、まず明確な目的とビジョンを設定することが最重要です。
多くの企業では、経営層がビジョンや経営計画にDXを十分に考慮していないため、現場に具体的な方向性やゴール設定ができていません。
デジタル技術を活用した戦略の策定には、ビジネスとITシステムを一体として捉える視点が必要です。DXは複雑で長期的な取り組みとなるため、目的やビジョンを明確に定め、現場に落とし込むことを優先しましょう。
企業全体で共有できる明確なビジョンがあれば、各部門が連携して効果的に取り組むことが可能になります。現状分析から始め、デジタル・ガバナンスにおける課題やニーズを把握することで、具体的な目標設定につながります。
注意点2:組織体制と人材育成の整備
デジタルガバナンスコード導入には、適切な組織体制と人材育成が不可欠です。
全社横断的にDXを推進する部門が存在せず、各部門が独自に取り組む形では、プロジェクト運営が非効率になりがちです。
DXへの理解が不足している状況では、社員がデジタル化を進める意義を理解できず、変革への抵抗が生じる可能性があります。人事部門は、デジタル戦略を推進するための人材を定義し、育成および確保を行う重要な役割を担います。
技術的な課題に対応するため、IT部門との密接な連携や社員への技術トレーニングの提供も必要となるでしょう。現場との意見調整を十分に行わないと、デジタル化後の業務フローが適切に構築されず、期待した効率化が実現できない恐れがあります。
注意点3:段階的な実施とPDCAサイクルの確立
デジタルガバナンスコードの導入は、一度に全てを変革するのではなく、段階的に実施することが重要です。
まず現状を把握し、課題と対策方法を明確化した上で、アクションに優先順位をつけて実行していくプロセスが効果的です。導入後も継続的なサポートとフォローアップが必要であり、定期的な進捗状況の監視と計画の修正が求められます。
デジタル技術による社会及び競争環境の変化を理解し、リスクと機会を常に評価することでより良い結果につながります。効果測定を行い、結果に基づいて改善策を講じることで、継続的な改善が可能となります。
PDCAサイクルを確立することで、長期的な視点でのデジタル変革を実現し、持続可能な成長を達成できるでしょう。
デジタルガバナンスコードの今後の発展
デジタルガバナンスコードは2020年の初版から2022年の2.0版を経て、2024年9月に「デジタルガバナンス・コード3.0」として最新版が公開されました。
今後はDX認定制度やDX銘柄の認定基準にも変更が加えられ、特にデータ活用の要素が明示的に含まれるようになります。
2025年には「DX調査2025」が発表される予定で、デジタルガバナンスコード3.0の内容が反映された新たな評価基準が示されるでしょう。
企業にとっては、デジタル人材の育成・確保やサイバーセキュリティ対策など、時勢の変化に対応した取り組みがより一層求められる流れとなっています。
まとめ
デジタルガバナンスコードは、企業がデジタル技術を活用して価値を創造するための指針です。経済産業省が2020年に策定し、2024年9月に3.0版が公開されました。
企業価値向上のためのDX推進には「3つの視点」と「5つの柱」という枠組みが重要です。
【3つの視点】
1.経営ビジョンとDX戦略の連動
2.As is - To be ギャップの定量把握・見直し
3.企業文化への定着
【5つの柱】
- 経営ビジョン・ビジネスモデルの策定
- DX戦略の策定
- DX戦略の推進
- 成果指標の設定・DX戦略の見直し
- ステークホルダーとの対話
今後はデータ活用の要素がより重視され、DX認定制度やDX銘柄の認定基準にも反映される見込みです。
企業はデジタル人材の育成・確保やサイバーセキュリティ対策など、時代の変化に対応した取り組みが求められています。
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