(本記事は、アーサー・ディ・リトル・ジャパン氏の著書『製品開発DX: 「製造業」の経営をリ・デザインする』=東洋経済新報社、2024年1月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
製品開発手法の統合
製品開発DXは、これまでに説明したMBDやCAEといった個別の開発手法を統合して実現します。複数の開発手法を俯瞰して製品開発の進化を捉えるための2つの軸を紹介し、さらに事例について見ていきます。
製品アーキテクチャーと開発プロセスの2つの軸
製品開発は日々進化しています。その進化は、2つの軸で捉えることができます。1つが「製品アーキテクチャー」、もう1つが「開発プロセス」です(図表2-9)。前者は製品が機能を実現するメカニズムをどこまで理解しているか、あるいは要求性能に応じて製品を開発しやすい形に整理できているかを表し、後者は開発プロセスの最適化を表します。図表2-9では前者を横軸、後者を縦軸に取っています。
製品アーキテクチャーの軸線上では、例えばハードウエア製品の場合、その製品のメカニズムの解明が進めば進むほど、狙いどおりの製品を自在に設計できるようになります。
製品アーキテクチャーは、最初は完全擦り合わせ型であり、試行錯誤を繰り返して完成を目指すしかない状態にあります。しかし、そこから各部品と機能の関係性の理解が進めば進むほど、モジュラー型へ進化していけます。モジュラー設計が進めば進むほど、モジュールごとの小さな単位で開発できるようになり、アジャイル開発への道が開けてきます。
一般的に、企業の開発プロセスはウォーターフォール開発で始まり、フロントローディングを取り入れながらアジャイル開発へと進化していきます。フロントローディングでは、開発の早い段階でシミュレーションを活用することで、課題の抽出と解決を早め、あらゆる検討を前倒しで進めていきます。
また、ウォーターフォール開発がアジャイル開発へ進化すると、小さな単位で複数の開発を同時並行的に進めることが可能になります。加えて、課題の抽出と解決のサイクルを高速で回すことにより、開発スピードが向上していきます。
開発の状態をこの2軸で見ていくことで、自社の開発レベルを評価できます。開発の早い段階でシミュレーションを使用し、後工程の課題を潰すフロントローディングがどの程度進んでいるか。また、モジュラー設計により開発を小さな単位に分けて仮説の検証や課題解決を高速に繰り返すアジャイル開発がどの程度実現できているか。私たちはこの2軸で評価しています。この2軸は、お互いにキャッチボールしながら進化していきます。
企業がまず取り組むべきことは、製品の機能がどのような部品の構成・仕様で実現されているのか、そのメカニズムを解明することです。前に説明した言葉を使えば、機能をどこまでモデル化できるかです。
こうしたメカニズムを数理モデルで表現できるようになると、CAEによるシミュレーションが可能になります。コストをかけて実機を作らなくても、計算によって機能や性能を検証できるようになり、開発効率は一気に向上します。同時に、シミュレーションが可能になればフロントローディングの導入も進み、図表2-9の斜め右上へ向かって進んでいくことができます。
モジュラー化を進めていけばフロントローディングをさらに進めることができる、という関係性もあります。製品アーキテクチャーが擦り合わせ型の状況で機能ごとに開発と設計を進め、最後に各機能を合体させて製品全体として機能検証すると、数多くの問題が噴出してくる可能性があります。しかし、モジュラー化がしっかりと行われていれば、それぞれの機能とモジュールの組み合わせが独立した状態になっているため、ある程度開発を進めた後に合体させても、大きな問題は起きづらくなります。
つまり、メカニズムの解明から機能の切り分けをしっかりと行い、モジュラー化を進めれば、フロントローディングが進み、効果的なアジャイル開発が可能になっていくわけです。ここからは、横軸である製品アーキテクチャーをどのように高度化させていくかを、ハードウエア側から、つまり“モノ”視点で考えていきます。
“ モノ” 視点の進化“
モノ”視点での開発の進化は、製品を成立させている機能・性能のメカニズムの解明から始まります。
メカニズムを解明できれば、精度の高い設計が可能になると同時に、機能のモデル化が可能になり、実機を使ったテストとそん色のない精度の高いシミュレーションが可能になります。これを開発の早い段階に繰り返し活用することで、フロントローディングを効果的に導入できるわけです(図表2-10)。
また、機能・性能のメカニズムを解明できれば、製品の仕様と機能・性能の因果関係が明確になり、製品のアーキテクチャーを単純化できます。単純化することで、設計/評価対象を削減して課題をシンプルに整理できます。
次に、機能ごとに部品あるいは複数部品のグループと1対1の関係性でモジュラー化が可能になるため、モジュールごとに分けて開発できるようになります。すなわち、モジュールごとの開発チームが同時並行的に仕事を進められるようになるわけです。
このフロントローディングとモジュラー化の両方を組み合わせることで、従来型の実機を用いた試行錯誤による課題解決のループから脱却できます。アジャイル開発が可能になるという構造になっています。
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