「2024年」は物流対策も製造業の主要業務に 製・配・販の連携をタギングで

「2024年問題」の、まさにその年の半分が過ぎました。あらゆる業界で、物流への真剣な取り組みが進んでいます。サトーが提供する、バーコードやRFIDなどを活用した自動認識ソリューションは、特に製造の物流現場からのニーズが増加。その対象はサプライチェーンやバリューチェーンへと広がっています。「あらゆるものを情報化して、社会のうごきを最適化する。」をブランドステートメントに掲げる同社の最新の取り組みはどのように展開しているのでしょうか。Koto Online編集長の田口紀成氏が、サトーの国内営業本部 物流市場戦略部Business Development担当 専門部長である天川広一氏にお話を伺いました。

天川広一氏(株式会社サトー)、田口紀成氏(Koto Online編集長)
左から天川広一氏(株式会社サトー)、田口紀成氏(Koto Online編集長)
天川 広一氏
株式会社サトー
国内営業本部 物流市場戦略部Business Development担当 専門部長

物流系ソフトウエア開発の企業の代表として物流現場の改善に従事し、2014年に株式会社サトー(現・サトーホールディングス株式会社)へ入社。営業部やソリューション推進部で営業を担当し、2020年から市場戦略部に所属。倉庫内の最適化から物流に至るまで、自動認識ソリューションを活用した物流改善の提案を多数行ってきた。
田口 紀成氏
Koto Online編集長
2002年、株式会社インクス入社。3D CAD/CAMシステム、自律型エージェントシステムの開発などに従事。
2009年に株式会社コアコンセプト・テクノロジー(CCT)の設立メンバーとして参画後、IoT/AIプラットフォーム「Orizuru」の企画・開発等、DXに関して幅広い開発業務を牽引。2014年より理化学研究所客員研究員に就任、有機ELデバイスの製造システムの開発及び金属加工のIoTについて研究を開始。2015年にCCT取締役CTOに就任。先端システムの企画・開発に従事しつつ、デジタルマーケティング組織の管掌を行う。
2023年にKoto Onlineを立ち上げ編集長に就任。現在は製造業界におけるスマートファクトリー化・エネルギー化を支援する一方で、モノづくりDXにおける日本の社会課題に対して情報価値の提供でアプローチすべくエバンジェリスト活動を開始している。
(所属及びプロフィールは2024年5月現在のものです) 

目次

  1. RFIDの極意は使い方 ショールームはお客様に気づきを得てもらう場所
  2. 自社の作業現場も見学対象 江東サポートセンターで実現した棚卸し期間の短縮(3日→3.5時間)を実例に
  3. 製造と物流、販売の連携をタギングで
  4. 「2024年問題」の現在地 物流改革がメーカーのミッションになりつつある

RFIDの極意は使い方 ショールームはお客様に気づきを得てもらう場所

田口氏(以下、敬称略) まずは天川さんの職務内容や、ご経歴についてお聞かせいただけますか。

天川氏(以下、敬称略) 私は途中入社です。前職は、サトーのパートナー企業であるソフト会社におりまして、サトーのお客様に納品するソフトを提案したり作ったりしておりました。その中でも最も多かった業務が、物流に対する改善の提案やソフトの作成でした。サトーへの入社は2014年です。ソリューションにかかわる製品を販促するため、全国を営業して回っていました。

田口 もともとソフトウエアの方にかかわっていらっしゃって、開発もされてきたということなのですね。

天川 そうですね。もともと開発をやっておりましたが、自分の性格もありましてもっと外に出たいと感じまして、営業に移りました。現在は、物流市場戦略担当として、市場で売れるかどうかの見極めがある程度ついた製品を、市場にどんどん出していく役割を担っています。

田口 御社が提供するRFID技術について詳しくない方のために、簡単にご説明いただけますか。

天川 RFIDとは、Radio Frequency Identificationの略で、電波を利用してヒトやモノを識別する際に使われる技術です。電波を用いて一括読み取りができるので、バーコードのように一つ一つのタグを読み取る必要がないため、棚卸しなどの際に威力を発揮します。交通系ICカードもRFIDの一種です。当社は、RFIDやバーコードなどの自動認識技術を使ってモノと情報を紐づける「タギング」を得意とし、さまざまなソリューションを提供しています。

田口 ショールーム「S-cube」には、RFIDなどを活用したさまざまな製品が使い方とともに各々のブースに分かれて展示されていて特徴的ですね。ご紹介いただけますでしょうか。

天川 はい。展示ブースは、対象となる業界と技術とに分けて紹介しております。業界としては、物流、食品、流通、製造、ヘルスケア(病院・医薬)に分かれており、利用シーンを再現するような形で展示しています。

田口 病室のようにベッドや点滴スタンドがあるエリアもあれば、物流のブースにはカゴ車も置かれています。

天川 活用シーンを再現したうえで、各ブースはあえてガラス張りにしています。見学に来られたお客様が別業界のブースを見たときに、何らかの気付きを得られるかもしれないからです。たとえば、病院で使う患者さん識別用のリストバンドを見て、ヘルスケア以外の業界の方が「うちの会社でも使えるのではないか」といったこともあります。

サトー 天川氏
「活用シーンを再現したうえで、各ブースはあえてガラス張りにしています。見学に来られたお客様が別業界のブースを見たときに、何らかの気付きを得られるかもしれないからです」(サトー 天川氏)

製造業のブースで紹介しているのは、指示書にRFIDを使う方法です。製造現場では、指示書に基づいた作業がどれくらい行われたかを確認したいというニーズがあるのですが、実際の作業状況と記録が必ずしも一致しないという課題がありました。そこで、指示書にRFIDのチップを貼り付けて、作業する現場にRFIDリーダを設置してそこにかざすことで、指示書に基づく作業の進捗状況を逐一、記録できるようにしました。

田口 この指示書を通じて得られた情報は、どのように活用されるのでしょうか。

天川 生産工程の中で、ボトルネックを見つけたいときなどですね。どこの工程で停滞しているのか、どこで間違い発生しているのか。あるいは通常より時間がかかっているのは必要な材料が届いていないからなのか人がいないからなのか、などボトルネックの背景一つをとってみてもいろいろあります。何が起きているのかの情報を取る手段としてご提案しています。

自社の作業現場も見学対象 江東サポートセンターで実現した棚卸し期間の短縮(3日→3.5時間)を実例に

田口 技術的に新しいというよりも、アイデアが効いているという感じですね。

天川 はい。我々は技術から入るのではなくて、お客様の課題から入っていきます。そこでマッチするのはRFIDかもしれませんし、場合によっては位置測位と呼ばれるポジションを把握する仕組みとの連携をお勧めすることもあります。現場においてお客様の課題を把握し、担当営業および我々のメンバーが一丸となって現場を改善するという点に、当社では最も力を入れているのです。

田口 こちら(下写真)は、鉄製品にタグが付いていますが、RFIDに必要な電波がシールドされないのでしょうか。

鉄製品にタグ

天川 確かに、金属にタグを直接貼ると電波が減衰してしまうのですが、これはご覧の通り、RFIDを一部浮かせてタグをつけることで、減衰することなく読み取りやすくなっています。

田口 なるほど!使い方も重要なのですね。

天川 はい。タギングのポイントはいかにして、正確なデータを欲しいときにあげられるかであり、その手法の一つがRFIDです。

お客様のほうが、当然のことながら現場のことをよく分かっていらっしゃいますので、工場長のような立場の方に見ていただくと、「こうやってやればいいのか」と気づいていただけることも多いです。S-cubeに来ていただくときはもう、実際に使う現場の方に考えてもらうツールとして、「武器」を渡すような感じですね。たとえば、「このタグの付け方だと嫌だ」とか、逆に「こういう付け方だと作業が楽になる」と分かると、現場でも率先してやってもらえます。「新しい方法に変わったから、やれ」と伝えるだけでは現場は動きませんよね。

RFID導入時に製造業においてとくに重視されるのは、いかに現場のオペレーションを変えず、現場の方の負担にならない方法で導入するかです。先ほどお見せしたRFIDを貼った指示書ならば、作業者自身には記録作業をさせずに、しかし指示書どおりの作業が行われているかを正確に把握できるので、お客様のニーズにもかなっています。必要なときにいつ、どのように付けるかをうまくご提案できるのかが、サトーの強みです。

田口 御社製ラベルプリンタの保守業務を行うサポートセンター(東京都江東区)も、お客様が見学できるのだそうですね。2024年上半期のプレスリリースによると、RFIDを活用して棚卸を3.5日から3時間へ短縮したと発表されています。相当な効率化が進んだのですね。

天川 そうなのです。スマートフォンを装着したRFIDリーダー(下写真)をかざすだけで、周囲の在庫品に付与されているRFIDを読み取って在庫を把握できます。以前は3.5日かけて2,371点の部品(実証実験時)の棚卸しを行っていたところを3時間に短縮できたことで、作業者の精神的な負担は減りました。これによって、担当者は本来の業務に専念できるようになり、効率化が実現しました。少量多品種化が進む中で、効率化への取り組みは欠かせません。

RFIDリーダー

我々のRFID技術を、お客様により身近に感じていただくためには、我々が使ってどれくらい効果が出ているのかをきちんと実証した上で、そこに来て実際に触っていただくことなのです。実際に動いている現場で生の声を聞いていただくと、説得力が全く違います。

田口 実際にビジネスを回しているということを示せるのはパワフルですよね。見ていただいたお客様に、「このサポートセンターみたいなものまるごとを作ってくれ」と言われることもあるのでは。

天川 ありますね。

製造と物流、販売の連携をタギングで

田口 技術的には、どのような変遷があるのでしょうか。

天川 RFIDの技術自体は20年ほど前からあるのですが、その間に3回ほど技術進歩のサイクルがありました。現在は、RFIDのチップの技術が進み壊れにくくなり価格も下がっているので、お示しした指示書などに貼り付けて使用できるようになりました。

例えば、アパレル業界において海外の生産現場でタグを付けた状態で日本国内に入ってくるのが主流になっていまして、同様に他の業種でも製造過程でタグを付けて物流までつないでいきたいというお客様が増えているように思います。

田口 メーカー側としては、ものが作られて物流に運ばれて小売店に行って……というこの一連のことを本当に把握したいのですが、実際には物流に製品が一度渡るとトラッキングができなくなることが多いですよね。でも御社は、トラッキングできるポジションにいますよね。関係企業との協調は必要だとは思いますが、データを提供できれば分析もはかどるでしょうね。

Koto Online編集長 田口氏
「メーカー側としては、ものが作られて物流に運ばれて小売店に行って……というこの一連のことを本当に把握したいのですが、実際には物流に製品が一度渡るとトラッキングができなくなることが多いですよね」(Koto Online編集長 田口氏)

天川 まさしく、製・配・販の連携*ですね。私が所属する当社の「市場戦略部」も2024年から、製・配・販に集中して横串で動くのがミッションに含まれるようになっています。我々サトーの強みは業種に応じた事業部を設けて流通、製造、食品、物流、それから別会社**となりますが、ヘルスケア。各現場の物流につながる技術を持っているので、そこをうまく活用して現場にどんどん入りながら、お客様のニーズをすくい取るという、なかなか他にはないビジネスモデルです。
* メーカー(製)、卸・物流(配)・小売(販)を連携することで、サプライチェーンの改善を図ること。
** サトーホールディングス傘下のサトーヘルスケア。

田口 これがある程度形になると、まさに、あらゆるものがつながった状態になるのですね。

天川 初めに付けたタグが、最後まで使えるというのがベストですね。アパレルの例のように、作る段階から運送、販売までを全て、RFIDのタグで流せる。そのハブ役を我々が担うことで、社会の役に立てると考えています。

田口 ロジスティックスを最適化しやすくできますね。垂直統合ができないという社会では、どうしても効率が悪くなってしまいます。物流サイクルも速くなっていると聞きます。

天川 そうですね。社会環境の変化が大きいですね。たとえば消費者の購買行動が、店舗から通販に変わってきているために、物流における物の出し方もどんどん変わってきているのです。コロナ禍で一気に加速したような気がします。パート・アルバイトの人材不足もあります。我々としては、社会環境の変化に合わせた物流サイクルに合わせて、物の出し方に対するラベルを含めたタギングの仕方をご提案していくことになります。

以前ならば、量販店に納品するときに箱単位での明細を貼って店舗側の受け入れを楽にするというラベルの仕組みも提供していたのですが、今度は配達先が個人宅になると、送り状や明細書が必要になるなどもっと細分化されるので。物流の手間はかなり増えています。

「2024年問題」の現在地 物流改革がメーカーのミッションになりつつある

田口 今後の課題は、どのように捉えていますか。

天川 RFIDの需要はどんどん増えていますが、製品に合わせたRFIDの取り付け方や、技術とコストをどうすり合わせていくのかといった課題はまだあると思います。

田口 製品開発においては、マーケットイン中心の動きとなるのでしょうか。

天川 いまは現場の回転がかなり速いので、お客様のスピード感について行こうとするとどうしてもマーケットインから入ることになりますが、サトーはメーカーでもあります。プロダクトアウト的な要素とマーケットインの両方を組み合わせていくことが、会社が成長し続けるには重要だと思っています。

また、サトーと連携することで我々の製品の価値を上げていく技術を持ったパートナー企業を見つけアライアンスを広げていくかについても、最も力を入れているところです。

サトー 天川氏
「サトーと連携することで我々の製品の価値を上げていく技術を持ったパートナー企業を見つけアライアンスを広げていくかについても、最も力を入れているところです」(サトー 天川氏)

田口 いろいろなソリューションも含めて、自社の製品を強み活かす形で伸ばしていくということですね。2024年問題に触れるまでもなく、物流の課題はたくさんありますよね。江東サポートセンターでみられたように、従業員の方の精神面の負担軽減も大切ですね。

天川 そうですね。現場の方が安心して働けるようにしたいという要望も、お客様のところでよく聞きます。社員の方が簡単に、負担なくできること。慣れている人なら商品を見ただけで識別できますが、そこに依存できませんからね。

田口 そうですね。外国人の方が多い場合もあります。

天川 今後は誰でもできる仕組みにしていかないと、現場が立ち行かなくなります。以前は、お客様から差し出される名刺に「DX推進部」などの部署名が書かれていたのが、そこに「物流」が付け加えられている会社様が増えてきていると思います。「物流改革チーム」「物流改革推進プロジェクト」といった感じです。製造業様がとくに「熱い」ですね。非常に物流に課題を感じていて何とかしたい、2024年問題を何とかしないといけないと姿勢の現れだと思います。

田口 実際に働く時間を減らさなければいけないうえに、そもそも就職する人が減っている状況なので、人だけでどうにかしようということができなくなっていますね。その状態で、生産性を維持するのにどうしようかという状態。でも江東サポートセンターのように、作業が3.5日から3時間に大幅短縮したところをみると、いろいろとやる余地はまだあるのですね。

天川 そう思います。そのためにも、今回の例は棚卸し作業でしたが、そこだけを見るのではなく、入荷の時にタギングするなどもう少し前手から取り組む必要があると思います。もっと前手のオペレーションを変えないと、後ろの改善というのはできないと感じています。タギングとはまさしく、前できちんとタギングして、それぞれの場に来た時にしっかりとチェックしてトレースができる仕組みを作りませんかというご提案が、今は多くなっているように思います。初めの段階でRFIDを貼ることで、過程が全てトレースできます。

田口 いろいろな方の名刺に見られるように、DXプラス、物流改革がミッションになっているのですね。

天川 そうですね。現場では労働力不足を実感しているので、今までは費用が合わなかったところでも、まずはそこに手をつけないと。ものが出ないと、売上が上がりませんからね。今までは物流の部分は人手で何とかなっていたのが、今はそうでなくなっており、各社さんとも深刻に捉えて本気で取り組んでいることを、現場へ行くたびに感じます。切実なミッションを持たれていて、その成果を挙げるために、手段としてのDXで求められていると感じます。タギングでバリューチェーン全般を網羅していきたいと思います。

田口 製造や物流の課題解決に、これからもたくさん貢献されていくのが楽しみですね。貴重なお話をありがとうございました。

「2024年」は物流対策も製造業の主要業務に 製・配・販の連携をタギングで

【関連リンク】
サトーホールディングス株式会社 https://www.sato.co.jp/
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/

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