人型ロボット「Pepper」など、ロボットを通じたさまざまな事業展開を続けるソフトバンクロボティクス。2022年から物流事業に参入し、「物流のオートメーション化」を目指して、テクノロジーを駆使した新たなソリューションを提供しています。
「ものづくりDXのプロが聞く」は、Koto Online編集長の田口紀成氏が、製造業DXの最前線を各企業にインタビューするシリーズです。今回は、物流業界のみならず製造業においても活用が期待されるソフトバンクロボティクスの高密度自動倉庫システム「AutoStore」と、部品や荷物を自動で運ぶ搬送ロボット「BellaBot 工業用モデル」の二つについて、お話を伺いました。
事業推進統括部事業開発部部長
前職では、国内製造メーカーや外資系3PLで生産計画、ERPの導入や物流サービスの営業といったサプライチェーンの上流から下流までの一連の業務を経験。その際、AGVと共同で倉庫サービスを提案したことをきっかけに、労働人口が減少する日本において、人による作業がメインの従来の物流オペレーションから、自動化に大きなパラダイムシフトが起こると感じ、ソフトバンクロボティクスに入社。
現在は、主に国内の事業開発および事業企画を担当。高密度自動倉庫システム「AutoStore」を主軸とした自動化ソリューションの提案・販売やマテリアルハンドリング機器の企画・設計・導入、自動化ソリューションに関するコンサルティング業務などに従事。その他、パイプライン強化の為のパートナー連携やデジタルマーケティングも担当している。
前職では医療機器メーカーに所属し、西日本を中心に、医療機関や介護施設に向けて営業担当として業務を担っていた。また、産学連携の歩行ロボット事業にも携わり、マーケティング業務やプロダクトのローンチ責任者を経験。ロボットの普及活動をする中で、医療だけではなく様々な領域でロボットやAIの必要性を体感し多領域で事業展開しているソフトバンクロボティクスへ入社。現在は主に、配膳運搬ロボットを中心に飲食店や工場などの分野へ販促活動に注力している。
商品企画部商品企画課
前職では日本国内のベンチャー企業で画像解析AIのプロジェクトマネージャーを担当。そこで企画立案、開発管理、営業、カスタマーサクセスと幅広い業務を経験。
その中で避けられない労働人口減少の課題と、AIの可能性を日々実感している中、ソフトバンクロボティクスのビジョンに強く共感し入社を決意。
2020年に同社に入社し、代理店管理、カスタマーサクセスを経て、現在は商品企画を担当しており、多くの配膳運搬ロボット、清掃ロボットの新規リリースに携わっている。
2002年、株式会社インクス入社。3D CAD/CAMシステム、自律型エージェントシステムの開発などに従事。
2009年に株式会社コアコンセプト・テクノロジー(CCT)の設立メンバーとして参画後、IoT/AIプラットフォーム「Orizuru」の企画・開発等、DXに関して幅広い開発業務を牽引。2014年より理化学研究所客員研究員に就任、有機ELデバイスの製造システムの開発及び金属加工のIoTについて研究を開始。2015年にCCT取締役CTOに就任。先端システムの企画・開発に従事しつつ、デジタルマーケティング組織の管掌を行う。
2023年にKoto Onlineを立ち上げ編集長に就任。現在は製造業界におけるスマートファクトリー化・エネルギー化を支援する一方で、モノづくりDXにおける日本の社会課題に対して情報価値の提供でアプローチすべくエバンジェリスト活動を開始している。
目次
省スペース、作業の効率化を実現する高密度自動倉庫システム「AutoStore」とは
【AutoStore】
AutoStoreは、ノルウェーで誕生した自動倉庫システム。ジャングルジムのように格子状に組み上げられたグリッド(レール)の中にビンと呼ばれる専用の箱を格納し、グリットの上をロボットが素早く移動してビンをピックアップ、作業者がいる場所まで運びます。物流倉庫はもちろん、多様な部品を運搬する必要がある製造業の工場でも世界中で導入されており、アメリカの顧客導入実績によると、保管効率4倍、出荷数2倍、人件費50%削減を実現しています。
田口氏(以下、敬称略) 最初に、AutoStoreについてお伺いします。物流倉庫などに導入する自動倉庫システムはいろいろなタイプがあると思いますが、このAutoStoreの強み、特徴としてはどのような点が挙げられますか。
岡氏(以下、敬称略) AutoStoreの大きな特徴の一つは、保管効率の高さです。一般的な倉庫では、荷物をピッキング・運搬するために人間やロボット、クレーンなどが移動する通路の確保がどうしても必要となってきます。その点、AutoStoreはその通路が不要となる上、さらに天井の空間も無駄なく使えるため、より多くの荷物を保管することができるのです。また、グリッドと呼ばれるレールの上をロボットが走行する仕組みで各システムがモジュール化されているため、導入した後の倉庫の拡充などに柔軟に対応できるのも特徴ですね。
以前は、保管効率が良い一方で物を出すスピードには若干の課題があったのですが、現在はソフトウエアがかなり進化して、いわゆるシャトル式の自動倉庫とほぼ同じぐらいのスピードでピッキング・出荷ができるようになっています。高い保管効率と出荷スピードを兼ね備えている点が、AutoStoreの大きな強みと言えます。
田口 物流システムは、働き方改革や労働人口減少などの影響もあり、今後ニーズが高まるのではないかと考えています。具体的な市場の規模、成長のスピード感としては、どのように受け止めていますか。
岡 次世代物流システム・サービスの市場規模は、2022年度で約7,000億円と言われています。自動倉庫システムは、かつて大規模に導入されたAS/RS(Automated Storage Retrieval System)が老朽化してこれから入れ替えの時期になるほか、少子高齢化などによる労働力不足に対し、企業の皆さんが具体的な打ち手を模索しています。当社としても需要の伸びが期待できるチャンスと捉えているところです。
2021年にソフトバンク・ビジョン・ファンド2がノルウェーにあるAutoStoreの株式の40%を取得し、当社は翌年9月に、AutoStoreの日本唯一のグローバル代理店という形で物流事業に本格参入しました。まずは日本国内を優先的に対応していく計画ですが、グローバルのお客様からもご期待いただいており、我々としてもニーズの高いソリューションだと考えています。
飲食店の配膳ロボットを工業用にカスタマイズした「BellaBot 工業用モデル」
【BellaBot 工業用モデル】
BellaBot 工業用モデルは、工場や倉庫の荷物を自律的に目的地まで運ぶことができる、工業用の搬送ロボットです。BellaBot 工業用モデルは、レストランなどに導入されている配膳運搬ロボット「BellaBot」を工業用にカスタマイズし誕生したもので、予め登録した目的地まで障害物を避けながら自律的に移動することができます。最大60キロまで積載が可能で、異なるサイズやさまざまな形のものを自由に載せることができ、搬送業務の効率化、人件費の削減などが期待されています。
田口 続いて、BellaBot 工業用モデルについても、特徴を教えていただけますか。
谷口氏(以下継承略) 配膳運搬ロボットは、すでにレストランなどで多く稼働しており、目にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。このBellaBot 工業用モデルは、飲食店の配膳運搬ロボットを物流倉庫や製造業の工場など向けにカスタマイズしたもので、トレイを取り払うなどすることで、より大きなもの・重いものを運搬できるようになっています。また、交換式のバッテリーとなっていて、稼働時間が長い工場様でも24時間稼働することが可能です。
一般的に、工場では運搬ロボットとしてAGV(Automatic Guided Vehicle・無人搬送機)を用いているところが多いと思いますが、BellaBot 工業用モデルはAGVに比べて形が小さく、70センチの幅があれば通過することができます。また、AGVは磁気テープの上を通るため、テープの上に物があると回避できずに止まってしまいますが、BellaBot 工業用モデルは赤外線を使って地形を読み込んで移動しているため、自動で障害物を避けることが可能で、なおかつそうした磁気テープなどの必要もありません。さらに、AGVと組み合わせて使っていただくこともできます。例えば大きなパレットをAGVで運搬し、仕分けした後の細かい通路を通る必要があるものをこのBellaBot 工業用モデルで運搬することで、より大きな効率化、負担の軽減を実現することが可能です。
田口 現時点ではパレットから仕分けしたあとのものの運搬になるんですね。運搬する上で苦手なものやまだ対応が難しいものはあるのですか?
谷口 そうですね。大きさという点ではまだ、AGVに劣るところがあると思います。また、現時点で苦手なのは縦の動きですね。搬送ロボットは基本的に横の動きなので、段差などには弱く、階が異なる場所への搬送は今はできません。将来的には、例えば建物を管理している設備、システムと連携してエレベーターを呼び出し、搬送ロボットがそれに乗って自動的に異なる階の目的地まで行くようなことにも対応していく予定です。
田口 工場向けはまだ誕生して間もないプロダクトかと思うのですが、導入してBellaBot 工業用モデルの魅力を理解してもらうために工夫している取り組みはありますか。
照井氏(以下敬称略) まずは、導入した際のメリットをしっかりと確認した上で導入を決めていただけるよう、実際に搬送ロボットを検討いただく際には、トライアルでかなり詳細な報告書を作り、提出するようにしています。このスキームは、我々の強みの一つでもありますね。具体的には、数週間、1ヵ月といった一定期間のレンタルを利用していただき、その間にBellaBot 工業用モデルが走行した稼働時間はもちろん、それによって生まれた時間に人間がどこで何をできたか、どのような生産に従事したかまで見て、費用対効果を具体的に算出しています。
やはりロボットは人とのトレードオフになってくるので、ロボットを活用したことによって何が創出できたか、さらにはロボットを検討いただく目的は何なのかというところを一緒に確認させていただく流れになっています。そのためトライアルの期間は、私たち営業担当に加えてカスタマーサクセスの担当者も頻度高く現地にお伺いし、実際の動きや設定するマップをあれこれ試行錯誤しながら、お客様に最適なご提案ができるようにしています。
田口 AutoStoreでは、何か導入支援に関して工夫している取り組みはあるのでしょうか?
岡物流はコストセンターという位置づけで捉えられていることが多いため、効果はご納得いただけても、費用の面で社内的に通りづらい、導入できないというお客様がやはり多いのです。その課題を解決するために、我々としてもいろいろなサポートをご提供しています。
一つは補助金関係のご提案です。AutoStore導入の際に活用できる政府の補助金があるのですが、利用には申請や導入効果のレポーティングなど手間や労力もかかります。ここに我々が提携している行政書士などがサポートに入り、より導入しやすくする支援をしています。それから、資産として持ちたくないというお客様も一定数いらっしゃるので、リース会社と一緒に初期費用の負担を限りなく低減するご提案をすることもありますね。効果を実感いただいたにもかかわらず、ファイナンスの面で問題が生じているお客様に対しては、より柔軟にサポートができるようにしています。
田口 導入を検討している顧客との商談や実際に導入した企業へのサポートなどを通じて、製造業の皆さんが悩んでいること、共通している課題などを感じることはありますか?
岡 皆さん共通しているのは人手不足ですね。そもそも採用ができない、という話をよく伺います。それから、倉庫や工場を建てるにも、ここ最近は坪単価が年々上昇しています。スペースが足りなくなっても簡単に新たな倉庫を作るわけにもいかず、通路をつぶして物を置いているというお客様もいらっしゃいました。保管と作業の効率性に関して、やはり皆さん大きな課題を抱えているので、ロボットの活用で解決のお手伝いができればと日々感じているところです。
「物流全体のオートメーション化」を目指し、ソリューションの提供を
田口 例えば将来的に、AutoStoreとBellaBot 工業用モデルの連携の可能性などはあり得るのでしょうか。
谷 製造メーカーがそれぞれ異なりますし、現時点で具体的な構想があるわけではありませんが、ピッキングと運搬という点で、相性はとてもいいと思います。トータルな効率化が実現できるので、将来的な可能性はあるかもしれないですね。
田口 2024年6月19日から東京ビッグサイトで開催される、「ものづくりワールド東京」にも出展なさると伺いました。
岡 はい。多くの製造業の方もいらっしゃる展示会なので、物流のみならず、いろいろな用途に活用可能なAutoStore、BellaBot 工業用モデルを是非見ていただければと思っています。また、9月には国際物流総合展にも出展します。
田口 物流事業に参入した御社として目指す姿、具体的な物流の理想像というのはあるのでしょうか。
岡 当社として目指しているのは、「物流全体のオペレーションの自動化」です。ただ、一足飛びにそこを目指すのではなく、段階的にやっていく必要があります。その中で、現時点ではAutoStoreやBellaBot 工業用モデルといった、最適な自動化と人間のオペレーションを組み合わせたソリューションを提供しています。今後も常に新しい技術に取り組み、究極的には、例えば「人がいない倉庫」などを実現していきたいですね。そこに向け、ポートフォリオを常に増やし、さまざま要求に対応可能なソリューションを生み出していきたいと思っています。
【関連リンク】
ソフトバンクロボティクス株式会社 https://www.softbankrobotics.com/jp/
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/
ものづくりワールド東京 https://www.manufacturing-world.jp/tokyo/ja-jp.html
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