(本記事は、山口 雄大氏、行本 顕氏、泉 啓介氏、小橋 重信氏の著書『全図解 メーカーの仕事』=ダイヤモンド社、2021年9月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
部門横断の経営の意思決定
メーカービジネスにおいて実際に商品に接する「現場」は、販売部門と生産・物流を担うサプライチェーン部門が担っています。一般的に販売部門の目標は売上金額を最大化する、つまり製品を十分な量確保し売り逃しを最小化することです。同時にサプライチェーン部門の目標は、運用効率を最大化する、つまりコストを最小化することです。
しかし、これらの目標は必ずしも両立するわけではなくトレードオフの関係にあります。各部門がそれぞれみずからの部門の目標達成だけを主張していては結論に至ることができないというジレンマがあります。
そのため、需要(販売)と供給(製造)のバランスをとるには、事業戦略に基づいた経営視点での意思決定が必要になります。計画通りに売れないこともありますし、予定通りに調達、生産できないこともあります。定期的に需要・供給計画と実績を確認して乖離の理由を分析し、それを改善するための意思決定を行い、実行していく必要があります。また、最新の需給状況と事業計画との整合性も確認する必要があります。
事業計画とS&OP
事業計画は5カ年計画や10カ年計画といった、中長期的な財務、商品開発、販売、マーケティング、生産などの戦略や計画を踏まえ、通常は年に1回程度、見直されます。これらの計画単位は、SKUレベルではなく、市場単位や事業単位、主要な製品群単位といった、もっと大きなくくりの金額ベースで策定されます。
本章では、事業戦略のオペレーションとしての実行に関する意思決定プロセスとして、グローバルのトップメーカーでは広く知られているS&OP(Sales & Operations Planning)について説明します。
ただ、S&OPは日本に導入されてまだ日が浅く、こうすればうまく運用できる、という勝ちパターンが整理された状態にはなっていません。筆者らは、メーカーのビジネスモデルや戦略、扱うSKU数などに合わせて、S&OPをアレンジする必要があると考えており、本書ではそれを考えるための基本的な概念やいくつかの事例を紹介します。参考文献を含め、標準的な定義を学ばれたうえで、実務の中でアレンジし、各メーカーに最適なS&OPを目指すとよいでしょう。
これからメーカービジネスに関わる皆さんにとっては、S&OPは少し難しい概念です。ただ、2010年以降の日本のメーカービジネスでは、確実に重要になっている概念なので、知っておいてまったく損はないどころか、むしろその考え方を踏まえたうえで業務を学んでいくことには大きなアドバンテージがあります。
S&OPは、事業計画を踏まえた需要予測と供給計画について、少なくとも月一度は会議を実施して、次項以降で解説するポイントについて経営層が意思決定を行うプロセスです(図13-1)。これは部門横断の意思決定になるため、経営層の参画が必要になります。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます