変電所のデジタル化に向けたセンサソリューションの導入

世界では、エネルギー価格が高い水準で推移しています。これは、新型コロナウィルス感染拡大からの経済活動の回復、天候不順や災害、ロシアによるウクライナ侵攻等により、エネルギーの需要と供給のバランスが崩れたことが原因と言えます。エネルギー価格の高騰は当然、電力分野にも影響があり、一般家庭だけでなく電力を供給する電力会社も苦しい状況です。電力会社は、電力価格を抑えるためのコスト削減が余儀なくされています。

特に送変電分野では、1980年代後半の電力系統拡充期に設置された設備の高経年化も課題のひとつです。各変電所はそのような設備の維持・更新とさらなる効率的運用を求められ、取り巻く環境は厳しさを増しつつあると言えます。

そこで注目されているのが、ビッグデータやIoT、人工知能(AI)等の急速に発展する技術を導入した「デジタル化」です。変電所のデジタル化によるメリットは、制御ケーブルの省配線化をはじめとした設備の簡素化によるコストダウン、遠隔操作による効率化・省人化、センシング技術を活用した設備トラブルの兆候把握と未然防止などが挙げられます。

東光高岳では変電所のデジタル化のニーズに応えるべく、設備の保守管理を支援するセンサソリューションを開発し、実設備で検証を行いました。

変電所のデジタル化に向けたセンサソリューションの導入

目次

  1. Technology
  2. Profile
  3. 01 送変電分野が抱える課題とニーズに応えるために
  4. 02 現場調査と検討を重ね、磨き上げたソリューション
  5. 03 電力会社はもちろん、一般産業にも適用拡大を目指して

Technology

構築・導入のしやすいセンサソリューション

送変電分野において、高経年化設備の維持や、効率的な運用のためにデータを活用した効率化の動きが高まっています。その背景のもと、東光高岳では変電所設備における保守管理のデジタル化を図るセンサソリューションを開発し、東京電力パワーグリッド株式会社(以下、東電PG)岬町変電所(千葉県いすみ市岬町)に納入、実証検証を行いました。

センサソリューションは、設備の状態を計測してデータ化する各種センサ、各種センサからの情報を取りまとめるセンシング装置(Sensor Interface Unit、以下SIU)、センシング情報を受信・集約しデータサーバへ伝送するエッジ端末、データを蓄積するデータサーバと保守データ分析システムで構成されています。SIU、エッジ端末を経由してデータサーバへ集められたセンシング情報は、保守データ分析システムにより任意の拠点で閲覧が可能となるため、遠隔でも設備の劣化兆候が把握でき、設備トラブルの未然防止に寄与します。

変電所のデジタル化に向けたセンサソリューションの導入

適用したセンサの多くが市販品のため、センシング対象設備が多数ある場合でも低コストで構成することが可能です。入手性も良いため、故障時の交換も簡単に行えます。

SIUとエッジ端末間の通信は、有線通信と無線通信の2種類を用意しました。有線通信は国際標準プロトコルIEC61850規格を採用し、汎用化を図っています。また、有線通信であることから、高速、大容量のデータ通信が可能となっています。無線通信は長距離通信の特長を持つLoRa方式を採用しました。ケーブルの敷設はもちろん不要で、SIUとエッジ端末が離れていてもデータ伝送が可能です。SIUとエッジ端末間で通信が不安定な場合は中継器を設置することにより、さらなる長距離通信が可能となることで、センシング対象設備の設置場所によらずセンシングができます。なお、中継器を設置する場合は2段中継まで接続可能です。

保守データ分析システムにデータベースを内蔵しているため、データサーバが存在しなくても構築可能な点も特長です。今回の実証検証では東電PGが所有している既設のサーバを使用しました。

今後は検証で得られた情報を評価し、その情報の活用方法や有効性の検討を行っていきます。今回の実績をふまえ、国内の電力会社、一般産業向けにも適用拡大を目指します。

Profile

篠﨑宏司
篠﨑宏司
株式会社 東光高岳
電力プラント事業本部
電力システム製造部
保護制御装置設計グループ
沼尻 稜平
沼尻 稜平
株式会社 東光高岳
電力プラント事業本部
電力システム製造部
保護制御装置設計グループ

01 送変電分野が抱える課題とニーズに応えるために

篠﨑 電気の安定供給のためには、送変電設備の保守・管理が大変重要です。現状は電力会社の作業員が各変電所を巡回し、保守業務を行っていますが、昨今は作業員の高齢化や人材不足という課題があり、業務の効率化、省力・省人化がニーズとして挙がっていました。今回のソリューションは、そのニーズに応えるものになります。当社のソリューション導入により、点在する変電所を作業員が巡視せずとも、遠隔からリアルタイムで監視が可能になりますので、少ない人員で効率的に状態を確認できます。

沼尻 もちろん、設備故障に伴う停電のリスクも軽減できます。設備故障が予知できれば、故障が起こる前に対策をして停電を最小限にできます。停電に関しては電力会社だけではなく電力需要家にも影響がありますので、そういった面でもメリットが期待できます。

篠﨑 また近年、電力分野でもビッグデータやIoT、AI等の新たなデジタル技術を活用した「デジタル化」が注目されています。変電所におけるデジタル化の内容は多岐に渡りますが、当社のソリューションはIoTを活用して設備状態の確認・保全を省人化するものとなります。

変電所のデジタル化に向けたセンサソリューションの導入

02 現場調査と検討を重ね、磨き上げたソリューション

篠﨑 今回のソリューション開発で、私はSIUの開発とセンサの選定を担当しました。その中で特にこだわったのは、使用するセンサを市販品中心に選定したことです。専用品を開発するとどうしても高コストになりやすいのですが、市販品ならコストを抑えることができ、入手性が良いため交換も簡単にできるというメリットがあります。また、センサ自体が長期的に壊れないタイプのものを選ぶことで、メンテナンスフリーになるよう心がけました。巡視をしなくても済むように取り付けたセンサなのに、そのセンサのメンテナンスのために現場に出向くのでは本末転倒ですからね。SIUの開発では、通信方式に無線と有線の2種類を用意し、変電所の立地や取り巻く環境、ニーズに合わせて選択できるようにしました。

無線方式には長距離の通信が可能なLoRa無線を採用していますので、敷地面積が広いなどで無線が届くかどうか懸念のある場合でも、導入しやすいように考慮しました。有線方式に関しても、国際規格を採用することで汎用性を高くしています。

沼尻 私が担当したのは、センサやSIUの上位にあたる通信プロトコルの検討や、保守データ分析システムの部分です。今回はお客様の方で、既設のデータサーバを使うということでしたので、データ伝送についてはお客様のご要望を踏まえて仕様を決めていき、システムのインタフェース部分を新規開発しました。本ソリューションでは、このようにお客様からのご要望に沿ってシステムを調整することが可能です。逆に、データサーバを含めて一式すべてを当社で用意することもできますので、設備環境に合わせた柔軟な提案をさせていただきます。

篠﨑 データサーバなどはお客様ごとに異なるケースが考えられますので、ご依頼があった際には仕様について事前に相談させていただくことになりますね。東電PG様とも、提案後は月に1回程度打合せをさせていただきましたし、何度も現場に赴いて調査・検討を重ねました。どんな構成にするか、センサはどのようなものを使用するかなど、お客様と一緒に決めていきましたが、お客様が必要とするセンシング項目のすり合わせに苦労しました。ソリューションの導入は、変電所が停止するタイミングに合わせる必要があるため、現場作業の日程はもちろん時間も限られています。今回は納入が2月という冬場でしたので、設備停止時間が長時間に及ぶと冬の電力需要に影響します。時間内の作業で、期日通りに納めるためにも、部材の手配から変電所外に設置する保守データ分析システムの対応までチーム皆で一丸となって進めていきました。

沼尻 保守データ分析システムの開発では、お客様に合わせた仕様を決めていくことが難しかったです。お客様側で行っている別の検証に、当社が仕様を合わせる必要があったことも検討を難しくした要因かもしれません。調整は大変でしたが、やりがいがありました。保守データ分析システムは海外の協力会社と一緒に開発を行ったのですが、やはりコミュニケーションには苦労しましたね。通訳を介してもこちらの意図や要望がしっかり伝わるように、情報を適宜整理・確認しながら進めていきました。

篠﨑 苦労という面では、このソリューションの納入後、同じ建屋の中に別の製品を入れることが予定されていました。事前にお客様と相談しながら、当社の装置はここ、後から入れる装置はここに…と、お互いに影響を出さないよう調整していきましたね。実際のものが現場にしかない場合、社内ではどうしても机上検討のみになりますので、現場での調査や取り付け作業時の試行錯誤が多かったなと思います。

変電所のデジタル化に向けたセンサソリューションの導入

03 電力会社はもちろん、一般産業にも適用拡大を目指して

篠﨑 現状は、現場への納入以降に蓄積されたデータを分析して、その結果をもとにお客様と次のステップに向けて相談していく段階に入っています。納入して終わりではなく、得られたセンシング情報を評価して、その情報の活用方法を提案していきます。実証検証で収集したデータには、予想していなかった情報が数値になって表れることもあるでしょう。その数値を示したとき、設備がどういう状況・状態なのかを一つひとつ分析を行い、知見として蓄積し、将来的に設備の異常や故障を見つける手がかりとして活用していきたいと思います。そして今回の実績をもとに、今後は他の電力会社様にもこのソリューションを広げていきたいですね。それから電力会社様だけでなく、一般産業でも大きな工場には電力設備が設置されていますので、そういったお客様にも提案していきたいです。

沼尻 今回のプロジェクトで初めて通信まわりの仕様検討から携わったのですが、そこをきちんと決めきれて、無事に納入と実証検証を迎えられたことがよかったです。海外の協力会社とやりとりをするのも初めてでしたので、今後の開発や、あるいは別のプロジェクトにも今回の経験を活かしたいと思います。

篠﨑 初めてという点では、今回のような提案型の業務は私自身初めての経験でした。お客様に提案して受け入れていただけたこと、ソリューションとして形をまとめ、実証検証までつなげられたことは、自分としても成果を出せたという実感があります。形の無いところから何かを作り出す時、自分で考えながら作っていけることが技術者の醍醐味であり楽しいところだと思いますので、新しい情報や技術をどんどん自分の中に取り込みながら、今後も開発を続けていきたいです。

変電所のデジタル化に向けたセンサソリューションの導入

(提供:株式会社 東光高岳 https://www.tktk.co.jp/research/

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