デザインレビューとは?目的と必要性、各工程の効率的な進め方を解説
(画像=Cassova/stock.adobe.com)

製造業における設計や開発では、各プロセスで成果物を評価し、最終的な製品化を成功させること、すなわちデザインレビュー(Design Review:DR)が重要になります。この記事ではデザインレビューについて、製造業におけるデザインレビューの基礎知識、意味、実施する目的とメリット、実施タイミングと各フェーズ(DR1~DR4)についてわかりやすく解説します。

目次

  1. デザインレビューとは|概要
  2. デザインレビューの5つのメリット
  3. デザインレビューの2種類の手法と使い分け
  4. デザインレビューを行う4つのフェーズ|それぞれの目的と内容
  5. デザインレビューで審議すべき内容
  6. デザインレビュー運用の課題|レビューを依頼する側とレビューする側の問題点と対策
  7. デザインレビューを運用する際の注意点
  8. まとめ

デザインレビューとは|概要

はじめに、デザインレビューの定義や目的など概要を解説します。

デザインレビューの定義

デザインレビュー(Design Review:DR)とは、ISO9000シリーズやJISにおいて定義されている「設計審査」を意味します。製品やサービスの設計初期段階において設計書や図面などの成果物を複数の参加者で見直して「設計上の問題点がないか」を評価し、対策や改善案を講じる活動、またその機会を指します。

デザインレビューにおける評価は開発プロセスの節目ごとに行われ、次のステップへ進むべきか判断を下します。設計途中で「今行っているやり方は正しいかどうか、このまま進めて問題ないか」を、単なる図面のチェックではなく、設計の妥当性や整合性を多角的に検証し審査するものです。

製品やサービスの品質向上、開発期間の短縮、コスト削減などの効果が期待できることから、開発効率化を図るための重要なプロセスといえるでしょう。

(参考)
ISO 9001:2015 Quality management systems Requirements(品質マネジメントシステム 要求事項)
ISO 9000:2015 Quality management systems Fundamentals and vocabulary(品質マネジメントシステム 基礎と用語)
日本産業標準調査会(JISC)

デザインレビューの目的

デザインレビューの目的は、企画・開発からの一連の製造プロセスにおける節目の成果物について、品質を確実なものにすることです。これは、開発に携わる者だけで進行すると製品やサービスの評価に偏りが生まれ、販売や部品調達、実際の生産工程など多角的な観点が失われ重大なミスなどを見落としてしまうリスクを回避するために行われます。

デザインレビューでは、多方面から成果物を精査し、完成に向けて品質をより確かなものにしていきます。このため、レビューを行う関係者は、開発部門だけではなくプロダクトライフサイクルの流れ全体に関わる者が選ばれます。

デザインレビューの必要性

製品開発に伴って決定される事項(品質やコスト)は、設計段階で全体の80%以上を占めるといわれます。設計段階でのミスは、後の工程になってから修正するほど無駄なコストや後戻りによるリソースの浪費が大きくなります。

デザインレビューは複数人の多角的な視点を取り入れることで、設計者が見落としがちな問題点を発見し、初期段階で製品の品質を高く作り込み、後工程での無駄をなくすための仕組みです。そのため品質マネジメントシステム(ISO9001)の企画においても、設計審査(デザインレビュー)の実施を必要事項としています。

デザインレビューの5つのメリット

上記のとおり、デザインレビューは「QCD*」を確保し、製品やサービスを高品質に安定して企画・開発するために非常に重要なプロセスです。ここではさらに、デザインレビューの実施によって得られる具体的なメリットについて解説します。
*「QCD」:Q(Quality)=品質、C(Cost)=コスト、D(Delivery)=納期を表す言葉

品質を担保でき製品価値が高まる

デザインレビューを行うことで、製品やサービスの問題点や不備を早期に発見できます。設計開発の各フェーズで「品質」「納期」「コスト」などの観点から複数の専門家が集まってレビューを行うことで、潜在的な問題点を早期に発見・修正できるため、製品やサービスの品質が担保されます。

開発の後戻りがなく納期までの期間を短縮できる

デザインレビューにより潜在的な問題や不備を早期に発見、修正することで、開発プロセスの後戻りが削減されます。製品が潜在的に問題を持っている場合、それに気づかず放置したまま開発を進めてしまうと、実際に問題が発覚した場合には開発初期からかなりの時間が経っていることが多くあります。構想段階、使われる素材や部品を選ぶための試作段階などいくつかの段階(フェーズ)に分けて問題がないか確認することで、問題が大きくなることを防ぎ、万が一問題が起きた場合も解決までの時間をできるだけ短くする効果が望めます。

開発する製品やプロジェクトに一貫性を持たせられる

デザインレビューを行うことで製品のコンセプトやプロジェクトそのもののビジョンに一貫性を持たせられ、自社のブランドコンセプトなどの認識にブレが起こりにくくなります。製品開発の各フェーズで関係者は情報を共有し、話し合い、審査することでその内容が明文化されます。デザインレビューを通じて形式知となることで、よりその製品の仕様や目的、届けたいユーザーなどが明確になるため、フィードバックや次の段階の提案などもしやすくなり、滞りない開発を後押しすることが可能となります。

製品やサービス、企業の競争力向上につながる

デザインレビューの実施により製品開発に起こり得る無駄な時間やリソース、コストを削減できると、開発期間が長期化することを回避でき、市場投入までの時間を短縮できます。顧客満足度の高い製品を開発することに注力できることから、競争力も強化されると期待できます。

開発力を強化できる

複数の専門家や関係者が参加することで、設計における視野や知識が広がり、チームや企業全体の開発力が強化されます。設計レビューを通じて異なる視点やアイデアを取り入れることは、設計者のスキルや知識を向上させ、より優れた製品やサービスを生み出すことが可能になります。また部門間の連携を強化し、組織全体の開発力、問題解決能力や創造性を高められ、より優れた製品やサービスを開発することにつながります。

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デザインレビューの2種類の手法と使い分け

デザインレビューの種類にはいくつかありますが、ここではそのうちの2つを紹介します。

フォーマルデザインレビュー(FDR)

フォーマルデザインレビューは、事前に定められたプロセスに基づいて行われる規模の大きなデザインレビューです。通常、専門家や関係者が集まり、特定の基準に沿って評価やフィードバックを行います。全社的にフィードバックの内容を形式知として共有・蓄積し活用することができ、それが新たな課題の発見にもつながります。

インフォーマルデザインレビュー(IDR)

インフォーマルデザインレビューは、柔軟なアプローチで行われるレビューです。通常、チームメンバー間での議論や意見交換が中心となります。フォーマルデザインレビューの前段階で行われることが多く、インフォーマルデザインレビューを開催することでフォーマルデザインレビューの進行がスムーズになるメリットがあります。

デザインレビューを行う4つのフェーズ|それぞれの目的と内容

デザインレビュー 4つのフェーズ
(画像:Koto Online編集部)

ここではデザインレビューを行う際の4つのフェーズと、各フェーズの目的・内容について解説します。

【DR1】商品企画フェーズ

このフェーズの目的は、市場ニーズや技術動向を踏まえ、製品コンセプトの妥当性を検証することです。製品やサービスの基本的な概念や要件が確立されます。

具体的には市場調査結果によるニーズの把握、製品コンセプトの具体化、競合製品との比較分析(差別化)、技術的な実現可能性などがデザインレビューで検討されます。

【DR2】構想設計フェーズ

このフェーズでは、製品やサービスの基本的な仕様や構造、機能などが検討され、設計方針の妥当性について検証を行います。また機能性や使いやすさ、デザインの妥当性なども評価されます。

【DR3】詳細設計フェーズ

このフェーズでは、製品やサービスの詳細な仕様や設計が決定されます。デザインレビューでは、技術的な実現性や製造性、コスト効率などが検討されます。

【DR4】試作評価フェーズ

施策評価フェーズでは、製品やサービスの試作が行われ、実際に試作品の動作や性能が評価されます。設計だけでは見えない実機特有の具体的な課題を洗い出し評価する段階です。試作品の品質に問題点があれば検討され、改善が行われます。

デザインレビューで審議すべき内容

デザインレビューで審議すべき内容については以下のようなものがあります。

1. 設計の妥当性について

  • 設計内容が仕様書の内容や設計基準満たしているか
  • 設計意図が明確に伝わっているか
  • 設計内容に矛盾や漏れがないか、安全性、信頼性、耐久性などの性能が確保されているか
  • 製造性、保守性、コストなどを考慮した設計になっているか
  • 法規制や規格を遵守しているか

2. 製品の品質に関する問題点の発見・修正について

  • 製品の部材に問題はないか
  • JIS標準規格や社内規格、その他の必要な規格を満たしているか
  • 実際に製造できる技術力や人材、製造ラインなどが配備されているか
  • 製造工程に問題はないか

デザインレビュー運用の課題|レビューを依頼する側とレビューする側の問題点と対策

デザインレビューを運用するための注意点を、レビューを依頼する開発側とレビューする関係者の視点から解説します。

レビューを依頼する側の課題

デザインレビューを行う際、レビューされる側(開発サイド)に問題があって起こり得る事態としては以下が考えられます。

  • 共有すべき資料の完成度が低い、あるいは難しすぎ、レビュアーに伝わらない。またレビュー時間内に理解できない
  • レビュアーから出た意見や指摘を全て記録しないためフィードバックが効果的に行われず製品に反映できない事態が発生する
  • 同じ企業内にもかかわらず製品担当者ごとにデザインレビューの進行やルールが異なっており、レビュアーが混乱し進行が滞る
  • レビュアーのスケジュールを合わせられずレビューの開催に遅れが生じる

【課題解決の対策】

レビュー対象となる製品やサービスについての資料は、デザインレビュー開催までにチェックリストなどを用いて完成度を高めておきます。また事前にレビューで使用する資料類は、レビュアーに配布し目を通してもらい、どのような観点が欲しいのかを伝えます。また指摘された項目は記録漏れが起きないよう、書記を用意し、進行が脱線しないよう時間やルールを決めておきます。できれば全社的にレビューのルールを作成して周知徹底するとよいでしょう。

そのほか、レビュアーが参加しやすいよう日程には余裕をもってレビューを設定し、早めの依頼を心掛けます。スケジュールにはデザインレビューの日程もあらかじめ組み込むようにします。

レビュアー側の課題

レビューを依頼された関係者に問題があるケースには以下のようなものが考えられます。

  • 指摘を何度もまとまりなく行う。そのためレビューがスムーズに進まなくなる
  • レビュアーがあらかじめ資料を読むなど準備してこないため、レビュー時間中に具体的なレビューまで進められない
  • 思い付きで指摘するため課題解決のためのビジョンが無い

【課題解決の対策】

事前に受け取ったレビューのための資料は、必ずレビュー当日までに読み込み、開発している製品・サービスについて目的や仕様、どのようなユーザーをターゲットにしているのかなど把握しておきます。また時間内に気づいた点をわかりやすく伝えられるよう、事前に見るべき点を自分の担当部門からピックアップして確認します。

デザインレビューを運用する際の注意点

上記の課題をふまえ、ここでは、デザインレビューを効果的に運用するための注意点を解説します。

一貫性をもった指摘を行う

デザインレビューでは企業ブランディングや開発目的にそって、一貫性をもった指摘やフィードバックを行うことが重要です。レビュアーは思い付きや主観的なその場の意見を出すのではなく、客観的かつ根拠のある視点で設計を評価することが必要です。

各フェーズの成果物について意見を求めるのがデザインレビューですが、開発担当者ではない関係者の意見は、あくまでもその成果物の質を高めるためのものです。場当たり的にそのときの思い付きで意見を言うことは開発者を混乱させるおそれがあります。この問題を防ぐには課題を指摘するだけでなく、解決方法まで提案し、解決まで発言者が責任をもつことです。指摘の形式についてもルールを決めておくことが望ましいといえます。

レビューを反映させ開発プロセスの改善を継続する

デザインレビューで得られたフィードバックや指摘を適切に製品・サービスに反映させると同時に、開発プロセス自体も改善を継続することが重要です。現在の開発プロセスがベストと思わず、より業務効率を高められるよう、常に最適化を目指して継続的な改善を行うことで、製品やサービスの品質だけでなく企業価値や競争力を向上させることができます。

設計時間に余裕をもたせ設計者に負担をかけない

デザインレビューのスケジュールを適切に調整し、設計者に十分な時間と余裕を与えることが重要です。過度な時間制約や負担は、設計の品質に逆に悪影響を与える可能性があります。

◯【参考】デザインレビューとステージゲート法の違い

デザインレビューと比較されるものにステージゲート法があります。ステージゲート法は、開発プロセス全体を複数の段階(多くは5~6段階)に区切って「ゲート」を設定し、そのステージで目標とする要件をクリアできていればゲートを通過し次のステージへ進むという、新規事業開発などで用いられるフレームワークです。すべてのゲートを通過しなければ商品化や事業の実現には至りません。

デザインレビューの目的は設計の完成度を高めて成果物の品質を担保することです。一方、ステージゲート法の目的はその事業や企画などの実現可能性を見極めることにあります。成功率の低いものについてはゲートを通過できなかった時点で切り捨てるため、成功率の高い事業だけを残すことができます。「市場で成功するかどうかの判断」を最も重要とする点が、デザインレビューとは異なります。

まとめ

この記事ではデザインレビューについて解説しました。デザインレビューは、製品やサービスの設計段階において、品質の向上や開発効率の向上を実現するための重要なプロセスです。適切なフェーズごとに行われるレビューやフォーマル・インフォーマルレビューの使い分けなど、適切な運用が求められます。また、デザインレビューを通じて得られたフィードバックを正確に反映し、開発プロセスそのものも継続的な改善を行うことで、より優れた製品やサービスの開発につながります。

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