株式会社ワイ・ディ・シー 共動創発事業本部(以下、「共動創発」)は、日本製造業の経営者・ビジネスリーダーのためのメディア「Collaborative DX」を2021年8月27日(金)にリリースしました。
元々我々の中でメディアを作る構想は5年前からあり議論してきました。しかしコンサルティングサービスを生業とする「共動創発」が、慣れてもない「メディア」を作り、自ら編集に携わり運営するのはなぜか、誰の何に貢献したいのか。これらを強く言語化するために長い時間を費やしました。
そのわけを我々は、“日本製造業の「この指とまれ」が未来を創る”というメディアコンセプトに込めております。「Collaborative DX」リリースにあたり、本記事で我々がどんな議論を重ねたのか、その一端でもお伝えできたらと思っております。
目次
1. 日本の新たな成長の源泉「グリーン」と「デジタル」
2020年に新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、日本のみならず世界中の人々の生活が大きく影響を受け、この影響はいまだに続いております。またアメリカ大統領選が行われバイデン政権が誕生し、日本においても首相が交代するという政治的にも大きな変化がありました。
そのような2021年の年明けに、私は新たに首相となった菅内閣総理大臣が我々国民に対してどのようなメッセージをするのか大きな関心を持ち、リアルタイムでその年頭所感を見ておりました。
冒頭は多くの方が想像されたとおり、昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大についてお話されたのち、その次に以下のように日本の新たな成長の源泉が「グリーン」と「デジタル」であると言われたことが非常に印象に残っております。
“我が国の新たな成長の源泉となるのは、「グリーン」と「デジタル」です。イノベーションを目指す大胆な投資を率先して支援し、全ての政策資源を集中し、あらゆる改革を断行することで、経済社会を大きく変革し、次なる時代をリードしていきます。”
出典:「令和3年1月1日 菅内閣総理大臣 令和3年 年頭所感」(首相官邸ホームページ)
“日本の新たな成長の源泉は「グリーン」と「デジタル」”、日本という国が、何に投資をし、資源を集中し、自ら変革を起こすべきなのかを、年頭所感という短いお話の中で端的に、そして見事に言い表していると思います。
日本製造業の改革をご支援しているコンサルティングサービスを生業にしている我々が、なぜ慣れていないメディアを立ち上げたのか、それも他に委託するのではなく、我々自らが編集部になり運営するのか。その理由を一言で言うなれば、時代はまさに「グリーン」と「デジタル」であるからです。そして、そのような時代に「デジタル」だけの支援では、真に貢献したことにはならないと日々痛感しているからです。本サイト「Collaborative DX」をリリースするにあたり、この「グリーン」と「デジタル」について、私の理解を書かせていただきたいと思います。
2. 「デジタル」は「生産性向上」を象徴するテーマ
「グリーン」と「デジタル」の2つのうち、まずは「デジタル」は日本経済の重要な課題である「生産性向上」を象徴するテーマであるといえます。日本は他の国と比較しても、急速に少子高齢化が進んでいることは今更説明する必要はないと思います。
その中で、生産活動の中心にいる人口層である15歳以上65歳未満の人口である「生産年齢人口(working age population)」は1995年をピークに減少に転じています。その原因の一つはベースとなる人口減少であり、こちらも2008年をピークに減少に転じています。そしてもう一つは高齢化であり、65歳以上が占める割合である高齢化率は1950年の5%弱から2020年には28.7%と大幅に増加しています。
この大きな潮流を人為的に食い止めることはなかなか容易ではありません。しかし予測できる未来には対策を講じることが可能です。そこで重要な課題は「デジタル」を活用した「生産性向上」なのです。
この「デジタル」を活用した「生産性向上」は、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)という言葉の浸透とともに、多くの産業や企業で進められていますが、中身を見るとその実行レベルに大きな差があるテーマでもあります。その中でもDX先進企業と呼ばれる企業においては、このDXを経営者やビジネスリーダーのようなトップマネジメント層自らが直接的に関与し、ビジネス戦略と適合させ、長期的かつ全体最適に設計し、推進されています。
日本の成長シナリオとしては、全産業におけるDX先進企業の占める割合を増やしていくことが重要です。そのためには多くの経営者やビジネスリーダーが、企業の壁を越えた情報共有や対話をしてもらい、危機意識を共有し、その方たちにDXによるビジネス変革の主体者となっていただくことが何より重要なのです。
特にこの「デジタル」というテーマは、普遍性の高いテーマであるがゆえに難しいテーマです。我々はコンサルタントとして日本製造業企業のDX推進をご支援してきておりますが、そこで成果を出すために重要視している一つのことは、“いかに俯瞰した絵で全体最適な動的システムモデルを描くか”ということです。そのためには“システム思考”で全体構造を捉え、メカニズムを把握する能力が重要となります。
例えば、ある企業で一部門だけDXが進み、業務が効率的になったとしても、その前後の業務を担う部門がアナログのままであれば、その部門で業務は滞留し、企業全体としては何にも変わらないのと同じこととなります。しかし一部門の業務効率化を目的に改革を進めた時に、他部門の状況まで把握しようとする人は決して多くない。これは高度成長期の一助となったヒエラルキー組織の壁を越える改革を、ボトムアップで進めるということの難しさが原因だからです。しかし一旦業務組織の横断的な改革が軌道にのったなら、部門別に雑巾を絞るようにして出す成果よりも、より大きな成果を出す余地が大いにあるのです。
そのような思考でもう少し大きく俯瞰して想像すると、一つの企業のみがDXに成功し企業収益として成果を出したとしても、産業全体として停滞してしまっては大きな成果が得られないということもあるのです。「デジタル」をあくまでも自社単独の利益至上主義で進めるということには限界があります。しかし一方で企業経営として「生産性向上」を狙いとしたDXを進めるにあたり、自社の利益を重視しない活動にしてはいけない。そこでもう一つの「グリーン」という新たなテーマコンセプトが重要になるのです。
3. 「グリーン」と「デジタル」は新時代の“論語と算盤”
「グリーン」と聞いて初めにイメージするのは「環境問題」、特に昨今フィーチャーされた「カーボンニュートラル」(もしくはカーボンフリー)かもしれません。政府は2030年のCO2削減目標を2013年比46%に設定という大きなニュースが印象的です。しかし私の考えとしては「グリーン」をCO2削減、もしくは脱炭素と捉えるのはいささか狭い考え方だと思います。グローバル競争において地球温暖化の課題に対しCO2削減や脱炭素を推進する外圧はこれから益々高まるでしょう。そして、その背景には各国の強かな戦略があることも皆さま周知のことと思います。
しかし、このような“やらなければならないこと”というイメージで「グリーン」を捉えるならば、それは成長の源泉とは言い難い。この大きな外部環境変化を好機にし、自らの成長の源泉にするには、この「グリーン」の本質的意味から正しく理解することが重要なのです。そのためには「サステイナブル・ディベロップメント(sustainable development)」という理念の基本的な理解が必要になります。
「サステイナブル・ディベロップメント」は1987年に国連が公式に提唱した理念であり、その理念は「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすような開発」を意図しており、決して対立構造をあおる理念ではありません。産業としても“生産”だけが一方的に変わるのではなく“消費”も一緒に変わることが不可欠なのです。この“生産”と“消費”は相互に影響しあう経済・産業システムです。企業としては顧客とのつながりの中で一緒に変わる必要があります。従って一つの企業に閉じた変化を志向するのは、この理念を正しく理解していないといえるのです。
この「サステイナブル・ディベロップメント」という理念を基に、未来像として積極的に実現していく社会モデルとして提案されているのが「サステイナブル社会」です。この一つのモデルとして「自然・環境(地球システム:planet)」、「産業・経済(社会システム:prosperity)」、「人間・生活(人間システム:people)」の“3つのP”の要素が調和を保ちながら健全な形で持続的発展を遂げる社会という方向性を示す社会モデルのことです。
この“3つのP”からなる社会モデルは、非常に相互に関連する要素が多い、いわゆる複雑系のシステムです。それを小さなモジュールで分けたとしても、それぞれが非常に複雑性の高い課題になります。このような複雑性の高い課題は一つの企業で取り組むべき問題ではなく、いかに複数の企業と協調できるかという企業間の社会ネットワークの強さが重要となります。そして世界レベルでこの「サステイナブル・ディベロップメント」への貢献に対するインセンティブが大きく高まっているため、企業としての利益と相反しない方向性に向かっているのです。
しかし、あくまでも押し付けられたイメージを妄信するのではなく、自分たちの企業と社会システムとのつながりをシステムで理解するために、全体最適で理解し描く必要があります。ここでも“システム思考”で全体構造を捉え、メカニズムを把握する能力“が重要となってきます。
ここまでの説明で理解していただけるかと思いますが、「グリーン」を「サステイナブル・ディベロップメント」と捉えるべきであり、この「グリーン」と「デジタル」の2つの視点で、自社と顧客やパートナーなどのステークホルダー、そして社会システムとしてのつながりを全体システムとして描き、そこに向かう施策に資源を集中させていくことが、これからの企業の成長ドライバーとなるのではないでしょうか。
そして、「グリーン」と「デジタル」の2つの言葉を聞いた時、これは、「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一氏が記された著書「論語と算盤」のオマージュのように、私は首相の年頭所感を聞いて感じたのです。奇しくもNHK大河ドラマの今年の主人公は渋沢栄一氏でもあります。
「デジタル」による「生産性向上」の方向性はたくさんあります。しかし一方の「グリーン」の「サステイナブル・ディベロップメント」の視点で見ると、短期的に利益を得るが、長期的には間違った道もあることが見えてきます。そして何より企業の壁を越えた共創型のイノベーションを志向することにつながると思います。
日本製造業の多くの経営者やビジネスリーダーは、自社の利益追求だけでなく、お客様や社会への貢献を重視する経営思想を既にお持ちになられております。そのような日本製造業は、単純な「デジタル」競争より、この「グリーン」と「デジタル」の共創を得意としているのです。
4. 「グリーン」と「デジタル」は空間の広がりでもある
更に「サステイナブル社会」は、今までの経済・産業の社会システムから、地球システム、人間システムへとビジネス対象領域としてニーズの空間が大きく広がったことを示しております。そしてそれぞれの社会システムに対して「デジタル」としてサイバー空間が掛け算で更に広がっているのです。
このように捉えると、既存産業として少しずつ小さくなっている産業は、この新しい空間領域にお客様がシフトしていると理解することもできます。そのような産業がなるべく早くから次の成長市場に長期的に投資をすることは、経営的にも非常に重要です。
そして変化の激しい、予測不能な市場で生き残るためには、企業の壁や、既存の産業の壁を越え、多くの産業や企業で何が起きているかを感度を高くして知ることが重要です。何より新しい知識は世界の認識を変えるからです。
そしてこれからは、対応する課題の複雑性が増すために、一企業の強さだけではなく、企業が持つネットワークの強さを強化していくことが重要となります。それも知的生産性を高めるには、信頼や共感に基づいた同じ価値観を持つ対等の関係で結ばれた強く柔軟な企業ネットワークである必要があります。それは将来の新しいエコシステムとなります。
そのような情報や仲間を集めるには、経営者・ビジネスリーダーが来るべき未来を創る主体者として「グリーン」と「デジタル」に取り組み、自らも長期的に目指すビジョンを描き、社外に発信することが重要です。これからの時代はそのような“この指とまれ”型リーダーがけん引すると私は考えています。
日本の製造業には、未来を創る主体者となる資質をもっている経営者やビジネスリーダーが多くいることを、私は実際に多くの製造業の改革プロジェクトでお会いして知っております。今回、私どもが立ち上げたメディアは、そのような方たちのお力に少しでもなりたい、その一心で作ったメディアです。
“日本製造業の「この指とまれ」が未来を創る”
Collaborative DX リリースを迎えるにあたり、今までお世話になった多くの日本製造業の人たちの顔を思い出しながら、皆さまへの感謝と尊敬の念を込めてこの記事を書かせていただきました。
まだまだ始めたばかりの未熟なメディアではありますが、大きな志を持ち運営してまいります。新しいメディア「Collaborative DX」をよろしくお願いいたします。
※文中の組織名や氏名、肩書きなどはすべて元記事掲載時のものです
(提供:Collaborative DX)
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