3次元モデルを活用したBIMCIMツールのあるべき姿とは
(画像=yganko/stock.adobe.com)

BIM/CIMとは

BIM/CIM(Building / Construction Information Modeling,Management)とは、「建設工事における計画・調査・設計のフェーズから3次元モデルを導入し、その後の施工、維持管理においても情報を充実させながらこれを活用し、あわせて事業全体にわたる関係者間で情報を共有することにより、一連の建設生産・管理システムにおける受発注者双方の業務効率化・高度化を図るもの」として取りまとめられた建設生産マネジメントの概念です。

BIM/CIMモデルのイメージ

BIM/CIMの違い

いずれも3次元モデルを扱うBIMとCIMですが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。BIMは建築分野における概念である一方、CIMは道路、水力といった土木分野における概念です。特にCIMはインフラ版BIMとも呼ばれています。

BIMとCIMでは3次元モデルに加える属性情報に違いがあります。BIMでは対象とする建築物の材質や設備といった規格化された情報を扱う一方で、CIMではインフラを取り巻く自然現象を扱うことから、より広範な属性情報を扱うことが大きな違いです。

BIM/CIMを導入するメリット

BIMとCIMを導入することで現場の生産性向上、効率的な情報共有、シミュレーションの効率向上など様々なメリットが期待できます。ここでは、BIMとCIMを導入することで得られるメリットについて詳しく解説します。

生産性向上

BIM、CIMの導入によって、生産性向上に寄与するフロントローディングとコンカレントエンジニアリングという2つの手法を取ることが可能です。フロントローディングとは、プロジェクトが始まる前の設計にリソースを集中して、密度の高い検討を行う手法です。精度の高いシミュレーションを行うことで、プロジェクト開始後の手戻りを最小限に抑え、結果的に作業の効率化と生産性の向上を実現します。

一方で、コンカレントエンジニアリングは複数の作業や工程を同時並行で行うことでプロジェクト全体の効率化を図る手法です。BIMとCIMによって、プロジェクトの進行に必要な情報を可視化及び一元化し、各担当者間の情報共有が円滑になされることから、複数の工程を並走させることが可能になります。

効果的な合意形成・情報共有の実現

BIM、CIMの導入は関係者間の効果的な合意形成と円滑な情報共有にも寄与します。多くの建設プロジェクトでは、建設業者、地権者、監督官庁の担当者など関係者が多岐に渡り一つの合意形成に長い時間を要するケースがあります。

また、合意形成に関わる関係者が多い場合、プロジェクトがある程度進行した状態で一度決定した事項を変更することは困難です。もしプロジェクト初期でBIMやCIMを使って視覚的な情報共有ができれば、2次元データの図面だけで説明する場合と比べて、各関係者が納得感を持った上での合意形成が可能になるでしょう。

さらに、BIMやCIMでは様々な条件でのシミュレーションが可能なため、各関係者が持つ不安を払しょくしながら情報共有や合意形成を進めていくことが可能です。

効率的なシミュレーションによるコスト削減 BIM、CIMの導入は設計段階でのシミュレーションの効率化につながります。BIM、CIMでは3次元データを活用するため、従来の図面を用いた二次元情報よりも精度の高いシミュレーションを実施することが可能です。従来のやり方では一つのシミュレーションを作るために一から図面をおこすことになり、作業にかかる人件費や経費がかかります。

一方、BIM、CIMを使うことで3次元データのシミュレーションを短時間でいくつも作成することができ、シミュレーション作成にかかる時間と費用を削減することが可能です。先述の通り、建設プロジェクトにおいては設計段階での精緻なシミュレーションによって、手戻りの防止や関係者との合意形成を円滑化することもできます。シミュレーション作成にかかるコストのみならず、将来的な手戻りを未然に防止することで潜在的なコストの削減にもつながるでしょう。

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BIM/CIMの活用状況と今後

2009年を皮切りに建築分野でBIMが普及し始め、2012年にはCIMが後を追う形で土木工事での導入検討が始まりました。さらに国際標準化の動向を踏まえ2018年に建築・土木での区分を改め、ダムや橋梁などを含めた地形や構造物などの3次元化する対象全体を「BIM/CIM」と言う言葉で統一されています。

 これまで2D図面を用いた様々な作業から、BIM/CIMでは構造物等を3Dモデル化し、各部材に工事に関わる様々な属性情報を付与することにより、活用・共有する事で業務の生産性を高めていく事が可能です。具体的にはBIM/CIMを工事の初期段階で適用する事でフロントローディングやコンカレントエンジニアリングと言った手法を活用して施工の生産性を上げていく、更には3Dモデルである事で視覚的に近隣住民へ物件や工事に関する説明が出来ると言ったメリットがあります。

2023年には小規模を除いた公共工事では原則BIM/CIMの活用することが求められます。そのためゼネコンや建設コンサルタント各社では設計・調査・施工・維持管理の各フェーズで3Dモデルを扱い、自分たちが携わるフェーズだけではなく前後の工程でデータモデルを連携させる事を視野に入れ、設計者・施工者・発注者のそれぞれの立場でどう流通させるとよいか、必要な属性情報は何かと言った議論がここ最近活発化しています。

 では、ITベンダーの立場として、BIM/CIMのツール開発を進めていく上でどのような課題があり、今後どのような事を目指してBIM/CIMと向き合っていくとよいのでしょうか。

BIM/CIMの活用事例

BIM、CIMは具体的にどのような場面で活用されているのでしょうか。ここでは、建設プロジェクトのフェーズごとにBIMやCIMの活用例を紹介します。

設計段階

建設プロジェクトの設計において、特に橋梁やトンネルといったインフラの工事は地下埋設物、地層といった周囲の環境から受ける影響、逆に工事によって周囲に与える影響の両方を考慮する必要があります。そのため、BIM、CIMを活用することで周辺環境を視覚的に把握しやすくなり、工事による影響調査をスムーズに進めることができるでしょう。

実際、ある橋梁建設のプロジェクトではBIM、CIMによって3次元化された情報を元に協議することで、地方自治体、地元住民、鉄道管理者との合意形成をスムーズに進めました。 また、情報を3次元化することで工事によって完成した構造物の景観を事前に関係者に示した事例もあります。これもBIM、CIMを活用することで工事完成後の景観に対する懸念を解消し、関係者間の合意形成を円滑化できた事例といえるでしょう。

施工段階

BIM、CIMのメリットは施工段階でも発揮されます。施工段階では設計段階で作成した計画を元に現場から得られた情報を反映して、より詳細化することが必要です。BIM、CIMを活用することで従来使用されている2次元情報の図面では表現できない構造物の位置関係、地形の干渉状況などを可視化できます。

鉄道と立体交差する橋梁を建設するプロジェクトにおいて、施工ステップごとにBIM/CIMモデルを作成することで、構造物同士の干渉をより詳細な条件で検証し、資材の搬出入計画、クレーンの配置などの妥当性を検討した事例があります。

また、道路の掘削工事においてはBIM/CIMモデルを使って、掘削する土の量を計算し工事費や工期をより正確に算出することで、従来よりも労力と時間を短縮して業務効率化につなげています。

維持管理段階

BIM、CIMは工事完成後の維持管理段階でも業務効率化に貢献します。当然ながら工事によって建設された構造物は完成後も適切に維持管理される必要があります。高速道路の工事では、未完成部分の工事が進む中でも既に完成した部分の維持管理を同時に行わなければなりません。維持管理においては適切な点検ルートが確保されている必要があり、点検導線の妥当性検証にBIM/CIMモデルが使われています。例えば、部材が密集して配置されている橋脚の支点部で十分な点検スペースが確保されているかなどの確認に役立っているのです。

維持管理段階でBIM、CIMを役立てるためには、前工程である施工段階でもこれらが活用されていることが前提となります。施工段階でのBIM/CIMモデルの活用が一般的になるにつれて、維持管理段階での活用事例も増えていくことが期待できるでしょう。

BIM/CIMツールを活用する上での現状課題

BIM/CIMツール活用の課題

建築向けのBIM、土木向けのBIM/CIMツールは様々なITベンダーが開発し、実際にゼネコンや建設コンサルタントで利用されています。前述した通り今後は公共工事においてBIM/CIMの活用が必須となるため、ツールを使う側からすると業務負担等も考慮し自社にとって使いやすいツールを選ぶ必要がありますが、現状はBIM/CIMツールを活用・展開する上で次のような課題があり、そして解決に向けた方向性が考えられます。

利用者によってBIM/CIMの導入や活用の仕方に幅がある

BIM/CIMツールは様々であり、設備・構造・建築と言った使う立場や対象の違いで分かれている。3Dモデルのデータ様式もベンダーオリジナルや国際標準形式と色々ありツールが異なるとデータ連携が難しい。

3Dモデル作成や3Dデータの管理に注力し過ぎている

これまでのBIM/CIMの取組みは3Dモデルの設計業務や現場で3Dデータを取得する出来形管理など、3Dデータの生成・収集・確認作業に比重が高くなっている。そうではなく業務全体の効率化を見据えて4D(時間)情報を3Dデータに紐づけ、施工進捗・履歴管理を行う (最近はツール上で施工計画シミュレーションも可能になってきた)。また3DAモデル(3D Annotation Model)の概念を踏襲し、寸法などの属性情報がモデル形状と紐づき、更に様々な属性情報を付加していく事で属性同士の対比などから業務の高度化につなげていく。そのために国も基準の見直しから構造物モデルに必要な形状の詳細度や属性情報を明確化しようとしている。

今のICT環境、デバイスに適合したツールである必要性がある

現場にいる職員が目視でしか施工状況を確認できないと言う事ではなく、離れた場所からもリアルタイムに施工の進捗やモデルの属性管理が可能な遠隔対応型のツールである事が望ましい。最近ではデジタルツインによるモデルの一元管理から誰もがどこからでも3Dモデルにアクセスできる仕組みの構築が可能となっている。現場においても設計モデルと施工の現況地形をその場で照らし合わせるAR技術を用い、それには可搬性の良いタブレットで可視化できる仕組みは、今の時代に即したICTの活用と言う観点でBIM/CIMの促進につながるものである。

部分的ではなく、全体フェーズで管理可能なプラットフォームが望ましい

本来BIM/CIMはあらゆるフェーズで3Dモデルを連携させる事が重要であり、建設生産システムの効率化・高度化、公共事業の品質確保や環境性能の向上及びライフサイクルコストの縮減を図るものとして活用すべきである。そのため、例えば施工のフェーズだけでBIM/CIMを活用できればよいのではなく、前後の工程との関係性も紐づけて管理出来る事が望ましい。あるいは建築であれば、躯体と設備の取り合い確認のために3Dモデルを重ね合わせて干渉チェックできるよう、共通フォーマットでのデータ利用、データ連携・属性管理の柔軟性、可視化技術を備えたBIM/CIMプラットフォームとして一部の利用シーンに限定しない仕組みである事が理想的である。

踏まえておくべき、BIM/CIMの本質的概念

BIM/CIMツールを活用する上で様々な課題がある事に触れましたが、BIM/CIMの活用に関しておさえておくべき概念についても触れておきます。

まず、3Dモデルと一緒に管理される情報は建物のライフサイクル全体を見通した情報マネジメントの原則に従う事に留意する必要があります。これはBIMがISO19650による国際規格として定義されているためで、この規定事項(例えば共通データ環境(CDE)によるプロジェクトデータの保存と管理に関するものなど )を理解し、規格に則って関係者間で適切に情報を管理(最新情報の管理と履歴管理、アクセス権など)していく国際標準への対応が今後求められる事が想定され、国もISOに則った海外工事の実施状況調査に乗り出しています。この標準化への対応に取り組む意義は、ミクロな視点ではデータの損失、データの不備による手戻りとコストの発生、情報検索にかかるタイムロスなどの課題解決がありますが、マクロな視点では今後世界の建設市場により多く参入していくためにも、この本質的な情報マネジメントの概念をBIM/CIM活用の前提として捉えておく事が不可欠です。

BIM/CIMツールのあるべき姿と展望

これらの目的と概念を理解した上で、利用者のBIM/CIM活用による実質的なメリットとして、発注者との合意形成、設計業務効率化と品質向上、施工性・安全性の早期検証、施工計画の精緻化、数量算出の効率化などがあり、それらを享受できるあるいは実践可能なツールを選定し活用すべきです。

逆にツールを提供していくITベンダーの立場としては、作成した3Dモデルの確認作業のために利用者側の仕事量が増える、他社のツールで生成したモデルのデータ引継ぎが難しいため活用・展開が進まないなどの技術的課題が露呈し、利用者のBIM/CIM活用促進の妨げとならないよう、やはり情報マネジメントの思想を組み入れた上で、モデル・データ連携機能や一元管理可能なシステム構成、最新のICTでも動作可能な仕組みと言った観点で構築できるかが重要になります。

BIM/CIMの情報収集に役立つサイト

ここでは、BIM/CIMに関する情報収集に役立つサイトについて紹介します。まず紹介したいのは、国土交通省の「BIM/CIMポータルサイト」です。現在、国土交通省ではBIM/CIMの活用を推奨しており、「BIM/CIMポータルサイト」には実際の活用事例が豊富に記載されています。

また、JACCISのサイトにもBIM、CIMの解説が掲載されており、基本的な部分から理解したい方にとってはわかりやすい内容となっています。