※本記事は、株式会社ITID 江口正芳氏の著書『グリーンイノベーションコンパス』=日本ビジネス出版、2023年5月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています。
第3回の本記事では、事業環境の変化に適応するために注目が集まっている「リスキリング」について解説しています。
カーボンニュートラル実現のためのグリーンリスキリング
次に環境スキルの向上について考えます。昨今、「リスキリング」というワードに注目が集まっています。リスキリングとは、事業環境の大きな変化に適応するために学び直し、新たな事業環境に求められるスキルや知識を身に付けることです。特に、グリーンスキルを習得することを「グリーンリスキリング」と呼びます。
デジタルテクノロジーの急速な進化や、サステナビリティ経営推進の加速に伴い、必要なスキルも急速に変化しており、世界経済フォーラム(WEF)は2020年のダボス会議で「2030年までに10億人のリスキリングを目指す」と宣言したことで、話題になりました。
日本では、岸田文雄首相が2022年10月の所信表明演説で、リスキリング支援として「人への投資」に5年間で1兆円を投じることを表明し、グリーン分野を含む成長分野への労働移動を促進する政策が盛り込まれました。
特に、日本の脱炭素社会移行に伴う自動車産業への影響は大きく、日本自動車工業会の豊田章男会長は、2021年3月の記者会見で「自動車の生産が、再エネ導入が進んでいる国や地域にシフトする可能性があり、自動車業界550万人のうちの70~100万人の雇用に影響が出る」と述べています。また、神戸大学経済経営研究所の濱口伸明教授によれば、「2020年工業統計調査(2019年実績)に基づいて計算した結果、パワートレイン(エンジンなどの駆動装置)の生産は約31万人の雇用を生んでいる」ことが試算されており、新車がすべてEVになれば雇用が消失する恐れがあります。
リスキリングを進める際は、まず、求められるスキルの整理から始めます。「正しく問題を把握する」プロセスで、気候関連の外部環境情報や内部環境情報を分析してから戦略を立案し、戦略実行に必要なスキル、今後不要となるスキルを整理します。
次に、組織メンバーの既存スキルや、職業志向(興味)なども考慮して、個々人が習得すべきスキルを整理します。その際、図6-1に示すようなスキルマップや、スキルデータベースを構築すると、管理しやすくなります。
最後に、教育施策を検討し、実行に移します。温室効果ガス排出量の算定に関するスキルなど、一般的なスキルであれば、外部研修も多く提供されています。また、前述したティアダウンに技術者を参加させて、環境配慮型の製品設計スキルを高めるなど、プロセスを通じた教育も有効です。リスキリングでの学習内容はより専門性が求められるものが多いため、社内外の教育コンテンツを上手に活用すると良いでしょう。
また、人材教育による内部調達が難しければ、企業外、自部署外からの人材外部調達も視野に入れます。そのためにも、「現在、どのようなスキルを持つ人材が、どの部署に、どれだけいるのか」、「将来、どのようなスキルを持つ人材が、どの部署に、どれだけ必要なのか」を整理し、ギャップを埋めるために、組織横断的に採用、配置、能力開発を行う必要があります。
大手医療機器メーカーにて新製品企画・開発者として、コスト半減設計、新市場開拓、海外工場立上げなどに従事した後、ITIDに参画。
「企業と地球の課題解決」を自身の使命と捉え、脱炭素経営支援、カーボンニュートラル実現に向けた業務プロセス改善、企業向け講演など、経営から現場まで、様々な業界の環境コンサルティングを実施。企業だけでなく、自治体や研究機関への支援も行っている。
他に、経営戦略策定、管理会計、製品原価管理、品質問題未然防止などのコンサルティング、セミナー講師としても活躍中。
NHK製品開発特集番組にも出演。
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