新しい技術が次々登場する中、それらを活用し、世界各国で変化を続ける製造業。そうした昨今の動きを受け、Koto OnlineのESGやDXの最前線に関するインタビューシリーズでおなじみの福本勲氏が、新著『製造業DX Next Stage』(近代科学社Digital)を出版しました。
海外の規制やデータ連携、AIの導入など様々な動きが同時に進む中で、日本の製造業はその動きをどう取り入れ、強みを生かしながら成長を続けるのか。今回は、著者の福本氏に、出版の意図、世界の動き、日本の製造業のこれからの取り組みに必要なことなどについて、お話を伺いました。
2020年にアルファコンパスを設立し、2024年に法人化、企業のデジタル化やマーケティング、プロモーション支援などを行っている。
また、企業のデジタル化(DX)の支援と推進を行う株式会社コアコンセプト・テクノロジーのアドバイザーも務めている。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX: EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』、『製造業DX Next Stage: 各国/地域の動向やAIエージェントがもたらす新たな変革』(近代科学社Digital)がある。主なWebコラム連載に、ビジネス+IT/SeizoTrendの『第4次産業革命のビジネス実務論』がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。2024年6月より現職。
製造業を取り巻く環境が大きく変化し、改めて伝える必要性を感じた
━━本著は2023年に出版した『製造業DX: EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』の続編という位置づけになっています。前著から2年がたったタイミングで改めて本著を執筆した理由について教えてください。
福本氏(以下敬称略):最も大きな理由は、この2年間で製造業を取り巻く環境が大きく変化してきた、ということです。欧州、アメリカ、中国などの諸外国は活発に動いており、グローバルにビジネスを展開する上で注視しなければなりません。さらにはご存じの通り、生成AIの進化には激しいものがあります。AIエージェント、自律的に動くAIなど、製造業の現場にも大きな影響を与えるソリューションが次々と登場しています。
こうした動きの中で、知っておくべきこと、考えなければならないこともこの2年間で大きく変わっています。こうした背景から、今このタイミングでそれらの内容を「続編」という形でお伝えしたいと考えました。
━━書籍の第3章では、諸外国の現状や直近の動きについて、それぞれ詳細に述べられています。海外について、主なものとしてはどのような動きがあるのでしょうか。
福本:EUでは、インダストリー4.0やリファレンス・アーキテクチャ(※1)、カーボンニュートラルなどを目指す欧州グリーンディール(※2)などにのっとり、さまざまな取り組みが進められてきました。詳細は前著に委ねますが、その後もAI規制に関する法律や、企業の垣根を越えてデータを共有し製造業の基盤強化を図るプロジェクト「Manufacturing-X」のさらなる展開など、活発な動きが見られます。エネルギー問題や地政学的なリスクなどの課題はありますが、参考になる取り組みも多く、今後も注視をすべきだと思います。
※2 2050年までにEUを世界初の気候中立(温室効果ガスの排出実質ゼロ)な大陸にすることを目指す包括的な成長戦略。
中国は、ITなどを活用した付加価値の高い製造業への移行を目指す「中国製造2025」、クラウドやIoT、AIなどの技術を推進する「インターネットプラス」という二つの国家政策によって、製造業発展の動きを加速してきました。2025年にはスマートマニュファクチャリング(※3)に関するガイドラインを発表し、注目を集めています。安全やセキュリティに対しても意識を高めてきており、日本と同じく少子高齢化などの課題はあるものの、他国からみた脅威ともなってくるのではないでしょうか。私個人としては、特にヒューマノイドなどハードウェアの領域に関しては、中国がグローバルNo.1になる可能性が高いのではないかと考えています。
現在、日本の中小企業で直接海外と取引をしているところは、それほど多くありません。しかし、今後の少子高齢化や国内市場の縮小を考えると、これからは、よりグローバル化を進めざるを得ないのではないかと思います。海外の動向をしっかりと捉えておくことは、引き続き重要だと感じています。
違いを踏まえ、強みを生かしながらいかに時代に沿って変化するか
━━そうした世界の動きを受けて、日本の製造業DXは現在どのような立ち位置にあると感じていますか。
福本:よく、世界と比較して日本が「遅れている」「進んでいる」という意見がありますが、私個人としては、それを議論しても意味がないと感じています。それぞれの国や地域によって異なる製造業の歴史や文化があり、それらがそもそもの現在のやり方の違いに通じているからです。
例えば欧米の場合、製造業の現場の方たちは基本的にマニュアル通りに働くことを指導されます。設計に問題があるとか、仕組みが悪いとかいった事柄は考えずに、自分の担当範囲をマニュアルに沿ってこなすという文化です。
一方で日本は、現場の方が「カイゼンできることはないか」を常に考え、生産ライン全体をどんどん良くしていく形が一般的です。そうした違いから、現地法人を立ち上げるときの進め方などは、その違いが現れている代表的な例だと思います。
ただし、テクノロジーの進化や少子高齢化というビジネス環境の変化を受けて、今まで通りのやり方でいいか、という議論はもちろんあると思います。優秀な現場従業員を豊富に採用できていた時代とは異なり、今後は高度な熟練技能を持っている皆さんの数は減り、さらにはそれを受け継ぐ先の人も減っていきます。日本の強みを生かしながら、いかに時代に沿ったやり方に変化していくのか、考える必要があります。
━━製造業の現場以外で、感じる違いはありますか。
福本:製造業の企業の体制にも、違いを感じることはありますね。例えば、欧州の方と名刺交換をすると、役員クラスの方の場合、MBAだけではなくエンジニアリングのドクター(博士号)を合わせて持っている方が少なくありません。
理由をたずねると、相手からは「どうしてそんな質問をするのか?」と逆に不思議がられてしまいます。現代においては、エンジニアリングやデジタルのない経営はあり得ません。いわゆるかつての学問領域である経営を学ぶだけでは不十分だ、というのは当然の考え方なんです。
日本の企業でもデジタルに知見の深い方がトップになるケースも増えていますが、やはりCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)など権限のある役員以上に、そうした人材を配置して、会社全体にデジタルと経営の観点を入れていくことが重要だと思います。
実際に使うことで見えてくる、新しいテクノロジーの活用方法
━━AIに関しても、この2年で進化が加速していますね。
福本:生成AIが登場した時に、すごいと誰もが驚いたと思いますが、それでも、当初の生成AIは人が何か質問したり指示をしない限りは次のアクションをしてくれませんでした。
その点で考えると、ここ数年で登場した「AIエージェント」は、大きな進化の一つだと思います。AIエージェントは、設定した目標に対して自ら状況を見て判断し、外部のAIなどと連携して自律的にタスクを実行するものです。
2025年に開催されたハノーバーメッセ(※4)では、シーメンスがAIのエージェントだけでプロジェクトマネジメントが完結する世界を描いていて、注目を集めていました。プロジェクトの目的を把握している上位のエージェントが下位のどのAIエージェントに何をさせるのかを考え下位のエージェントに指示を出し、指示を受けた下位のAIがロボットやAGV(※5)などを動かす、という仕組みです。プロジェクトのマネジメントをする側もされる側もAIエージェントという世界ですね。
※5 Automated Guided Vehicle:工場や倉庫内で走行する無人搬送車。
現時点では未来像なので、実運用レベルにはまだなっていないと思いますが、近い将来、そうした製造現場が当たり前になっているかもしれません。
━━さらなるAIの進化は、日本の製造業にどんな影響、インパクトを与えると思いますか。
福本:当然、さまざまな影響があると思いますが、前向きに捉えて、うまく活用していけば良いのではないかと思います。
先ほどお話したように、匠の技術をもった優秀な人材が豊富に育成できるという前提が少子高齢化によって崩れたときに、ノウハウをどう継承するか、どこに継承するか、人手が不足する中でどのように品質を担保していくのか、という課題が出てきます。AIに限らず、インパクトの大きな技術の登場は、そうした課題を解決する手段が新たに生まれた、ということでもあります。どんどん現場で使ってみることで、何に使えるのかを肌で感じ、頭で考えている以上の効果を得ることができるのではないでしょうか。
例えば、制御盤の業界では、機械メーカーなどから製造を受注して制御盤を製造している企業が中心になり、「制御盤DXアライアンス」を立ち上げ、新しい技術を活用したエンジニアリングチェーン全体の変革に挑戦するという動きが始まっています。取り組みの一つとして、データを活用し全自動で電線を加工できる機械をラボに設置して、希望者が実際に試せるような取り組みを始めています。
制御盤を製造する際は、最初に機器の配置を決めて長さを測ってから電線加工を始めるのですが、設計データを活用して自動化して測長が不要となることで、電線加工の工程だけではなく、制御盤の製造工程全体を最適化することが期待できます。機械設置当初にアライアンス側として想定していたメリットを超え、ラボを訪れた方からの声で気が付いた可能性だと言います。まずは試して、実業務のどこにプラスの効果をもたらすのかを気が付くという良い事例だと感じました。
確かに、「こういうプロンプトを与えたら、こういう結果が出ました」といった具体的なノウハウは、調べればいくらでも出てきます。しかし、それは既に他人がやっていることであり、自らが第一号となって何かを生み出そうとする際は、やはり自分で使ってみる、そしてその新しい技術の特性をうまく生かして、活用方法を考えていくことが大事かなと思います。
━━最後に、今後の日本の製造業の取り組みについて、福本さんが考える鍵は何だと思いますか。
福本氏:いろいろな国の法制度、地政学的なリスク、AIを始めとしたテクノロジーの進化など、私たちを取り巻く環境は日々変化しています。そして当然ながら、それらは製造業に限らず事業に大きな影響を与えます。しっかりと世界や技術の変化、動向を捉えて、理解していくことが必要だと思います。
そして大切なのは、その変化に対応し自分たちも変わる意識を持つことです。個人も企業も業界も恐れずに変わることを是としていく。そこに日本企業の勝ち筋がある、未来は開けると思っています。

価格:2,970円(税込)
判型:A5判・226 ページ/電子書籍/ペーパーバック/単行本
刊行:近代科学社Digital
【注目コンテンツ】
・DX・ESGの具体的な取り組みを紹介!専門家インタビュー
・DX人材は社内にあり!リコーに学ぶ技術者リスキリングの重要性
・サービタイゼーションによる付加価値の創造と競争力の強化
