統合制御システムとは?3つの導入メリットや導入時の5つの検討ポイントも紹介

製造業では従来、工場内の各制御装置が個別に動作しており、全体最適化の実現に限界がありました。

しかし近年、複数の制御装置を一元管理し、製造プロセス全体を効率化する統合制御システムの導入が急速に進んでいます。

このシステムにより、24時間稼働による生産性向上やリアルタイムでの経営判断、品質・安全性の確保といった大きなメリットを得ることが可能です。市場規模も拡大すると予測されており、AI・IoT技術との融合によってさらなる進化が期待されています。

一方で、導入を成功させるためには適切な計画立案やデータ品質管理など、慎重な検討が欠かせません。

この記事では、統合制御システムの基本概念から導入メリット、成功事例、検討すべきポイントまで詳しく解説します。

目次

  1. 統合制御システムとは?
  2. 統合制御システムとSCADAの違い
  3. 製造業における統合制御システムの3つの導入メリット
  4. 統合制御システム導入の成功事例3選
  5. 統合制御システム導入時の5つの検討ポイント
  6. 統合制御システム今後の展望
  7. まとめ

統合制御システムとは?

統合制御システムとは、工場やプラント内の複数の制御装置を一つのシステムで管理し、全体を効率的に運用する仕組みです。従来の製造現場では、温度調整や圧力制御といった各装置が個別に動いていました。

しかし統合制御システムでは、これらの装置をコンピューターネットワークで結び、相互に連携させながら制御します。

具体的には、製造プロセス全体をコンピューターによって統合し、設計から生産計画、製造、在庫管理までの各機能を一つのシステム内に集約する仕組みです。

例えば、A装置の温度が上がったらB装置の圧力を自動調整するといった協調動作が可能になります。統合制御システムの最大の特徴は、複数設備の運用協調によってエネルギープラント全体の省エネを達成できる点です。

個別制御では実現困難だった全体最適化が図れるため、製造業の生産性向上に大きく貢献しています。

統合制御システムとSCADAの違い

統合制御システム(DCS)と監視制御システム(SCADA)は、どちらも工場の管理に使われるシステムですが、役割と機能に大きな違いがあります。

統合制御システムは機器ごとに制御装置を設けて、各装置を相互にネットワークで接続し、製造プロセス全体の制御と自動化を担当します。

一方、SCADAは設備全体のデータ監視や可視化に焦点を当て、リアルタイムの情報収集と表示を主な目的としているのです。

機能面では、統合制御システムには設備の制御機能が含まれているのに対し、SCADA自体に制御機能はなく、PLCなど別のシステムと組み合わせて使用する必要があります。

また、SCADAは設備の種類やメーカーを問わず汎用的に利用でき、拡張性の高さが特徴です。適用範囲についても、統合制御システムは限られた地域内での制御に適している一方、SCADAは広範囲に渡る制御や遠隔監視に優れています。

製造業における統合制御システムの3つの導入メリット

製造業における統合制御システムの3つの導入メリット

製造業における統合制御システムの導入メリットとしては、以下の3つがあげられます。

  • 生産性向上とトータルコスト削減
  • リアルタイム経営判断の実現
  • 品質向上と安全性確保

順番に解説していきます。

メリット1:生産性向上とトータルコスト削減

統合制御システムの導入により、製造業では大幅な生産性向上とコスト削減を実現できます。複数の制御装置を一元管理することで、従来の個別制御では不可能だった全体最適化が図れるためです。

具体的には、24時間稼働が可能になり、休憩時間やシフト調整の必要がなくなります。また、複数設備の運用協調により、エネルギープラント全体の省エネを達成できます。

人件費削減の面でも大きな効果を発揮し、省人化や自動化により必要な人員を大幅に減らすことが可能です。例えば、24時間稼働の工場で夜間勤務の担当者を減らしたり、複数人で対応していた監視業務を1名体制にできます。

さらに、電力使用量の最適化により、運用コストの大部分を占める電気代を削減し、長期的に増益をもたらします。

メリット2:リアルタイムでの経営判断実現

統合制御システムは、リアルタイムのデータ交換を促進し、デジタル世界と物理世界の間のシームレスな情報の流れを実現します。経営陣は企業を包括的に理解し、これまで克服できなかった課題にも機敏に対応できるようになります。

明細データのリアルタイム自動連携により、自動化による入力オペレーションの簡略化も図れます。販売データや在庫情報がリアルタイムで更新されることで、在庫管理の精度が向上し、欠品や過剰在庫のリスクを減少させられます。

また、迅速かつ正確な経営判断が可能となり、ビジネスの俊敏性が向上します。従来開示される分析データの生成にはタイムラグが生じていましたが、ワン・クリックで必要な情報を即時に入手可能な仕組みが構築できます。

メリット3:品質向上と安全性確保

統合制御システムの導入により、製品の品質を均一化し、安定した生産が可能になります。

従来の手作業による製造では人によって作業精度にばらつきが生じていましたが、システム化により品質が一定に保たれます。

また、99.99999%という極めて高いアベイラビリティにより、長期にわたって工場の安定した操業を実現できます。

安全性の面では、24時間365日の監視体制によって、人為的なミスや事故を未然に防ぎ、安全な操業を実現します。統合されたデータにより情報の一貫性が保たれ、エラーの発生を減少させることも可能です。

さらに、事故やプラントのシャットダウンによる製品の廃棄を防ぎ、大規模工場の最適操業を通してエネルギー効率比の改善にも寄与します。

統合制御システム導入の成功事例3選

ここからは統合制御システム導入の成功事例を3つ紹介していきます。

順番に見ていきましょう。

事例1:多品種少量生産ラインの自動最適化による効率化

ある自動車部品メーカーでは、多品種少量生産において製造ラインの切り替えに多大な時間と労力がかかっていました。

しかし統合制御システムの導入により、RFIDタグとセンサーを活用して部品の状態をリアルタイムで把握できるように。システムが自動的に最適な調整を行うため、従来は手作業で行っていた複雑な設定変更が不要となりました。

結果として、製造ラインの切り替え時間が大幅に短縮され、生産効率の向上を実現しています。

特に注目すべきは、人的ミスの削減と作業者の負担軽減効果です。

統合制御により、複数の制御装置が連携して動作するため、全体最適化が図られ、無駄な工程や待機時間を最小限に抑えています。

事例2:予知保全システムによる設備故障の事前防止

食品加工業界では、機械の突発的な故障が生産停止を招き、大きな損失につながる課題がありました。しかし統合制御システムを活用した予知保全の導入により、センサーとAIを組み合わせたシステムが機械の状態を常時監視するように。

従来は故障が発生してから対応していたメンテナンス体制から、故障する前に予兆を検出して事前にメンテナンスを行う体制へと変革しました。

統合されたデータ管理により、複数の設備情報を一元的に把握でき、総合的な判断に基づく保全計画の策定が可能となりました。

この取り組みにより、ダウンタイムの大幅な減少と生産性の向上を達成しています。また、計画的なメンテナンスにより、部品交換コストの最適化も実現しました。

事例3:複数工場統合による生産管理の全体最適化

電子機器メーカーでは、国内外に複数の工場を保有し、受注生産や見込み生産など多様な生産形態により業務プロセスが複雑化していました。

そこで統合制御システムの導入により「バーチャル工場」というコンセプトで、各工場全体を一つにまとめた管理体制を構築。システム統合により、ポータビリティ(生産移行性)、スマート工場化、情報システムの統合という3つの柱を実現しています。

重要なのは、完全自動化ではなく高度技能者がロボットを先導して協働するラインを構築したことです。各工場の生産高を維持しながら効率化に成功し、コスト削減や技術の共通化、人手不足対策などで成果を得ています。

工場間での負荷分散により、外部環境の変化にも柔軟に対応できる体制を構築しました。

統合制御システム導入時の5つの検討ポイント

統合制御システム導入時の検討ポイントとしては以下5つのポイントがあげられます。

  • システム統合後のあるべき姿の明確化
  • スケジュールと予算の余裕を持った計画立案
  • データ品質管理とセキュリティ対策の強化
  • トラブル対応とリスク管理体制の構築
  • 現場での活用方法と意識改革の推進

順番に解説していきます。

ポイント1:システム統合後のあるべき姿の明確化

統合制御システムの導入を成功させるためには、まず「システム統合後のあるべき姿を描く」ことが最重要です。単なる業務効率化や機能の集約化だけでなく、新たなビジネスの創造など、経営戦略に基づいた目標設定が必要となります。

具体的な実現プロセスをイメージできれば、「このプロセスを実現するためには、この機能が必要だ」「統合後のシステムでは、この機能を捨てる」といった適切な判断が可能になります。

製造業においては、生産性向上や品質管理の強化、コスト削減など、明確な成果指標を設定しておくことが重要です。あるべき姿が曖昧なまま導入を進めると、期待した効果が得られず、投資対効果の低いシステムになってしまう危険性があります。

ポイント2:スケジュールと予算の余裕を持った計画立案

統合制御システムの導入には、現状調査やシステム化計画、データ移行や新システムの研修など、膨大な作業が必要です。

システム統合は非常に多くの人的・時間的・費用的コストがかかる大規模プロジェクトとなります。特に製造業では、生産停止を避けながら段階的に移行する必要があるため、通常のシステム開発以上に時間がかかることを想定しなければなりません。

また、新システムが稼働し、運用が軌道に乗るまでは細かな部分で手間も増え、一時的に業務効率が低下する可能性も考慮すべきです。

余裕のないスケジュールは品質の低下を招き、結果的に運用開始後のトラブル発生リスクを高めてしまいます。

十分な検証期間とバッファを設けた現実的な計画立案が成功の秘訣です。

ポイント3:データ品質管理とセキュリティ対策の強化

統合制御システムでは、企業経営に関わるさまざまな重要データを一元管理するため、データ品質の確保とセキュリティ対策が極めて重要です。 古いデータや重複データを残したまま移行すると、統合後のシステムの品質が低下し、誤った情報に基づく業務が発生して正確な意思決定が困難になります。

そのため、データ統合前にはクレンジング(整理・正規化・重複排除)を徹底的に行う必要があります。

また、システムが統合されることで、サーバー攻撃やシステムの不具合などが発生した場合に被害が拡大するリスクがあります。

多くの機密情報が漏洩し甚大な被害をもたらす可能性があるため、十分なセキュリティ対策を講じた上で統合に着手することが不可欠です。

ポイント4:トラブル対応とリスク管理体制の構築

統合制御システムの導入では、データ移行やシステムの切り替え作業に伴うトラブル発生リスクが常に存在します。データが正しく移行されなければ、業務に支障をきたし、顧客対応や経理処理に混乱を招いてしまう可能性があります。

最悪の場合、重要なデータが破損・消失し、復元できないという事態も考えられます。複数のシステムを統合する際には予期せぬトラブルが発生するリスクがあり、特に企業にとってダメージの大きい情報漏洩や重要データの紛失などには細心の注意が必要です。

トラブルを防ぐためには、統合前にしっかり検証を行い慎重に計画を進めることや、切り戻しできる体制を組むことが重要です。

また、データのバックアップも必須の対策となります。

ポイント5:現場での活用方法と意識改革の推進

どんなに高額で多機能なシステムであろうと活用できないことには意味がありません。重要なのは、現場を巻き込んで効率的な業務フローが構築できていて、改善を積み重ねられる環境になっているかどうかです。

原価計算や経営データの収集など、データを活用するためには具体的なマスター情報の登録方法や現場でのルール設定が必要となります。

また、システム統合では技術面での調整も大切ですが、企業全体の意識改革を図ることも重要です。

従業員が新しいシステムや業務プロセスに適応できるよう、情報共有の徹底が大切で、各部門・各組織がシステム統合への関心・意識を高め、協力して推進していくことが成功につながります。

統合制御システム今後の展望

統合制御システムの市場は今後大幅な成長が見込まれており、日本の工場自動化および産業用制御市場は2024年の151億米ドルから2033年には352億米ドルに拡大すると予測されています。

年平均成長率は9.8%という高い水準で推移する見通しです。技術面では、AI(人工知能)と機械学習の統合が最も注目される展望となっています。

予測メンテナンスにより機器の故障を事前に予測し、計画的な保守が可能になることで、ダウンタイムを最小限に抑えられるでしょう。

また、IoTセンサーとAIを組み合わせたスマートファクトリー化が進展し、生産設備のデータをリアルタイムで取得して異常を予測する技術が普及します。

さらに、人と同じ空間で作業できる協働ロボットの導入により、より柔軟な生産体制の構築が期待されています。統合制御システムは自己学習能力を持ち、環境の変化に自動的に適応する高度なシステムへと進化していく可能性があります。

まとめ

統合制御システムは、工場やプラント内の複数制御装置を一つのシステムで管理し、製造プロセス全体の効率化を図る重要な技術です。

従来の個別制御とは異なり、装置間の協調動作により全体最適化を実現します。

主要なメリットは以下のとおり。

メリット 詳細
生産性向上 24時間稼働・省人化によるコスト削減
リアルタイム経営判断 即座のデータ取得と迅速な意思決定
品質・安全性確保 均一な品質と99.99999%の高可用性

導入においては、システム統合後のあるべき姿の明確化から始まり、十分な計画立案、データ品質管理、トラブル対応体制、現場の意識改革という5つのステップが重要です。

成功事例では、多品種少量生産の自動最適化、予知保全による故障防止、複数工場の統合管理などで大幅な効率化を達成しています。

今後は日本市場が2033年に352億米ドルまで拡大予測され、AI・機械学習の統合やスマートファクトリー化が加速し、より高度な自動化システムへの進化が期待されています。