Conference X 2024 イベントレポート

株式会社INDUSTRIAL-Xによる「Conference X 2024 “The New Model of DX” 〜未来を切り拓く新しいDXのカタチ〜」が去る12月10日に開かれました。デジタル変革の最前線にいる方たちを登壇者としてお迎えし、活発な議論が繰り広げられました。本稿ではこのうち、ディアワンダー株式会社 代表取締役CEO & CWOである前刀禎明氏をお迎えし、INDUSTRIAL-X代表取締役CEO八子知礼氏と行ったスペシャル対談の模様をお届けします。

スペシャル対談では、テーマ「変革人材としての “問う力”を養う 〜右脳を駆使した思考の深め方〜」をもとに、前刀氏の柔軟な発想や生成AIを用いてクリエイティビティを育むアプリケーションを開発するディアワンダーの取り組みについて伺い、「学び続ける、成長し続ける」ことを共に考えました。

Conference X 2024 イベントレポート
左から八子 知礼氏(株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO)、前刀 禎明氏(ディアワンダー株式会社 代表取締役CEO & CWO)
前刀 禎明氏
ディアワンダー株式会社 代表取締役CEO & CWO
ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLなどを経て、アップル米国本社副社長 兼 日本法人代表に就任。スティーブ・ジョブズ氏に託された日本市場でアップルを復活させた。現在「WONDER LEARNING」事業を展開している。リアルディア代表取締役、AI inside取締役を兼務。 著書に「学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう」など。
八子 知礼氏
株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO
1997年松下電工(現パナソニック)入社、宅内組み込み型の情報配線機器の設計開発から製造移管および介護機器の商品企画開発に従事し、 製造業の上流から下流までを一通り経験。その後、複数のコンサルティング企業に勤務した後、2016年4月より(株)ウフルに参画、 様々なエコシステム形成に貢献。 2019年4月に(株)INDUSTRIAL-Xを起業、代表取締役に就任(現職)。 クラウドやIoT、DXコンサルタントとして多数の企業支援経験を有する。著書に「 図解クラウド早わかり 」「DX CX SX」など。
(所属及びプロフィールは2024年12月現在のものです)

人をスポイルする使い方をしてはならない

Conference X 2024 イベントレポート

八子氏(以下、敬称略) このセッションでは問う力、とくに右脳を駆使した思考の深め方について話していきます。デザイン思考といった呼び方もありますね。

前刀氏(以下、敬称略) まず、変革人材が変革を起こす人のことを指すのならば、その人は自身を変革できないといけないし、進化し続けないといけない。デザイン思考やアート思考などさまざまな呼び方がありますが、考え方は一緒です。ロジカルシンキングが日本の偏差値教育で作られるとすれば、その先に「ザ・ニューモデル」を作り出すためには、クリエイティビティを高めなければいけないですよね。

八子 前刀さんは右脳にフォーカスしていろいろなことを考えておられます。テーマの一つ目として、テクノロジーと人との棲み分け。「Conference X」ではデジタル化を推進していくためのさまざまなノウハウの共有を意図しているのですが、デジタル推進における人の側面についてお聞かせいただけないでしょうか。

前刀 私はソニーに始まって、複数の企業で先端テクノロジーに関わってきたなかで、持論があります。それは、テクノロジーを使うときに、人をスポイルする使い方はしてはいけないということ。なぜなら、人の無能化が始まるからです。

テクノロジーに対する反応はいろいろありますが、まずは「あんなものを使うか」と言って避ける人。それからAIを使う人の中では二つに分かれる。ひとつはAIに非常に依存する人。これが実は、使わない人よりも将来的には最も怖い。思考力が低下し、退化してしまうからです。もう一つは、AIをいかに使うかです。

マイクロソフトなどの調査によると、66%のマネジメント層が今後、AIスキルが低い人は雇わないと言っています。これはデータサイエンティストなど難しいことではなくて、AIを創造的に使うスキルを持った人が雇われるということですね。

八子 「創造的に使う」のがポイントなのですね。

前刀 そうです。テクノロジーに抗う必要はありません。テクノロジーで新しいものが出てきたらまず、使ってみる。そこで自分なりの使い方を見出すかどうかがポイントです。DXもそうです。

テクノロジーと人の棲み分け

八子 人が柔軟性を担保して創造力を発揮するためには時間が必要です。そのためにAIなどのソリューションを使って時間を短縮するということでしょうか。

前刀 AIの使い方で、ハーバード大学が唱えたことなのですが、一つ目の使い方がフィードバックジェネレーター。質問に対して答えをもらう使い方ですね。二つ目がパーソナルチューターで、自分が学習する上でAIをチューター(講師)にする。三つ目がチームの講師。面白いのが四つ目で、AIがラーナー(学習者)になる、つまりAIに教えることで自分が進化するという考え方です。

大袈裟な言い方かもしれませんが、いまは人類にとって進化する、大きなチャンスです。AIを活用することで、今まで考えつかなかったことを考える柔軟性のある頭を持つことです。いろいろな思考の中で、ロジックツリーで物事を導き出していくことが多いのですが、それだけではなくて、皆さん一人ひとりが自分なりの軸でものを考え、新たな創造性や関連性を生み出して、何かを導き出していくことで、頭がめちゃめちゃ活性化する感じです。ニューロンとシナプスがとても活性化する。

ディアワンダー 前刀氏
「大袈裟な言い方かもしれませんが、いまは人類にとって進化する、大きなチャンスです」(ディアワンダー 前刀氏)

八子 弾けまくっている感じですね。

前刀 そうです。僕はそういうことができるようなアプリやプラットフォームを作っています。おもしろいことに、それらをコンサルタントに使わせるととても苦手なのですね。左脳を使うロジカルの域を超えているので、しばらく使うと「頭の右半分(右脳)が熱いです」とおっしゃる。

八子 不思議な感じですね。右脳を使えば使うほど、クリエイティブなことがどんどんできるのですね。

前刀 できます。逆を言えば、それぐらい我々は普段から左脳を使って、ロジカルな考え方で仕事をしているのです。

八子 テクノロジーは、左脳の領域に近いと考えられがちですが。

前刀 そうなのですが、新たなソリューションを作っていくのは、右脳的な感性がないと生まれないのです。

八子 そうしますと、テクノロジーと人の棲み分け、特に意識しなくてもよいのでしょうか。

前刀 そうなのです。日本人は、どうしても二者択一で議論しがちです。デジタルかアナログかというように。そうではなくて、どんどん融合していったほうがいいです。

八子 そういう意味では、右脳をミックスするような、テクノロジーとの上手い付き合い方はどうすれば良いでしょうか?

前刀 まずは、常に物事を考える時に「なぜ?」を考えてほしい。仕事をしていると「なぜ」がほとんどなくなってくるのです。前例踏襲とか社内の決まりだからと言っているうちに、思考停止につながります。みなさんが頼りにされている前例は、大先輩方がそもそもの前例がないときに実践したこと、何十年も前にベストだと言われていた方法と言えます。そのときから状況が明らかに変わってきていて、今ならもっといい方法がありますよね。

その変革に情熱はありますか?

八子 なるほど。新しいことにチャレンジしていくことは、当然、前例踏襲にはなりませんよね。変革人材の観点で深掘りしたいと思います。変革をすることは、製造業では経営者の覚悟やオーナーシップにおいて、その変革に対して情熱を持っているかどうかが重要なポイントかと思います。やり切るための情熱を持てているかどうか。そのときに重要なマインドはなんでしょうか。

前刀 明確なポイントがあります。多くの人が無意識のうちに使っている言葉があります。「〜〜させる」。みなさんがよく言う「させる」です。例えば、「AIのことをもっと勉強させる」。「させる=させられる」なんです。「上が言っているから」が組織的に広がっていくと、当事者意識がなくなる。なくなれば、失敗しても他責になる。他責をさせるための日本の悪しき風習が稟議書で、稟議書のように上にハンコ並べるわけですね。

情熱を持っているかどうかは、自分で考えて、自分で決めてやっているかどうかです。アップルのCM「Think different」で、本気で信じる人が世界を変えると言っていたように、そういう取り組みをしないと絶対に変革はうまくいかない。

八子 本気にさせる、ではなくて「本気になる」ということでしょうか。

INDUSTRIAL-X 八子氏
「製造業では経営者の覚悟やオーナーシップにおいて、その変革に対して情熱を持っているかどうかが重要なポイントかと思います」(INDUSTRIAL-X 八子氏)

前刀 「映画で人々を感動させる作品を作ります」と「人々が感動する作品を作ります」では自ずと完成した作品が違ってくる。映画を見た人が「自発的に変わる」ということですね。コミュニケーションにおいても、理詰めで話していて「言っていることはわかるんだけど」は理解のレベル。そこに対して共感できるかどうかです。共感できたらググッと自分に惹きつけて考えて、自分がそれをやっている姿を想像して、いいなと思ったら自発的に動けるじゃないですか。それがうまかったのがスティーブ・ジョブズで、新製品を発表したら、「あ!かっこいいな、ほしいな」となる。理解は当たり前。理解の上に共感、創造、自発というフレーズがあるのです。

一人ひとりが未来をつくるCreative Desire(創造的な欲求)とは

八子 自分のマインドセットをどのようにリセットしていくのでしょうか。さまざまな変革をデザインするとか、前刀さんの表現では「Creative Desire」となりますでしょうか。

前刀 その考え方をご説明しましょう。ベースとしてあるのは「Free Yourself」。何かをやるときに、「こういうものだよ」「普通はね」という自身の固定観念を外す。自身を解放することですね。そして、自分自身の新たな価値を創ることが「Create Yourself」。日本人は何かを作った、で満足しがちなのですが、そこで終わってはいけない。「まだまだ」と妥協しないで超え続けることが「Exceed Yourself」です。

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「Free(自由)」「Create(創造)」「Exceed(超える)」この三つのキーワードのうえに、「させる」「させられる」ではなくて、自身が自発的にワクワク学んでいくという意味で、「Wonder learning」があります。その上にあるのが「Learning Intelligence」。いわゆる教科書的なことを勉強しているのではなくて、今日ここで皆さんが話を聞かれているように、どんなものからも学ぶことです。こういうことが身についてくると、「Self-Innovation」となってずっと自分を超え続けていく、革新していくことになります。アップデートし続けるんですね。

こうしたことがぐるぐる回っていくようになると、「CQ」につながります。今の時代に大変重要なもので、受験勉強ならIQが、ビジネスの世界では以前にEQ(Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数)が注目されていましたが、今はCQです。CはCuriosity(好奇心), Creativity(創造精神)のことで、CQは「好奇心・創造性指数」と言えるもので、これを高めることが大切です。

そして重要なのは「Creative Desire」。ビジネスの世界で今やっていることを業務効率化とか、人に代わって何かしてくれるのは単なるツールであって、そこで止まってはいけない。そうではなくて、自らがこういうものを作り出したいという創造的な欲求がすごく大事なのです。創造的な欲求があって初めて、そこでAIを活用するのですよ。Creative Desire、つまり創造的な欲求を実現するために、AIを使う。そして一人ひとりが未来を創るという考え方です。

八子 自分自身の中で、どのように問うのですか。

前刀 なぜと思ってくださいと言ったのは、人はあまりなぜと思わないからです。例えば、AさんBさんの二人の写真を見せると、大人はもちろん赤ちゃんでも識別できる。しかし猿を見せると、大人は2匹の猿の違いを識別できないのに赤ちゃんはできるのです。

頭の中で、何が起きているかというと、大人になると効率的に脳を使うようになるので、大人は「猿が2匹」で思考停止する。赤ちゃんは人間だろうが猿だろうが関係なく、対象物を見て違いを認識できるのですね。なぜと問うことで、退化した頭を活性化してほしい。歳を追うごとに頭が劣化するのは、人として残念じゃないですか。

記憶力は歳とともにもちろん低下しますが、いわゆる関連づける力としてニューロン、シナプスが活性化し続けていくと、脳がよく働くようになっていく。私は、自分の頭の回転スピードは自分の人生で今が最速です。恐ろしいことに、10年前より20年前より遥かに速いです。

これからのVUCA※の時代は非認知能力だなどと言われていますが、そこで求められるものを見つける方法を誰も答えないことに疑問を持っていて、DEARWONDER+のアプリの開発につながりました。
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字から作られた言葉。将来の予測が困難な状況を示す。

右脳を駆使した思考の深め方

八子 右脳を駆使した思考の深め方について、考え方としてはわかったのですが、具体的にはどうなるのでしょうか。

前刀 開発したアプリは、真っ白なキャンパスにアイデアをどんどん描いて、頭の中を拡張している感じ。ふわふわ浮遊した状態で、非言語化、マルチモーダル※な感じです。
※異なる種類の情報を収集し、まとめて処理する人工知能(AI)のこと

八子 脳細胞は、外部からの信号を受け取って強化学習します。電気信号が流れて、神経細胞の結合が、強く受けたインスピレーションにひらめきを受けて、新しいアイデアが生まれ、他の人に共有していくということでしょうか。

前刀 そうです。無限のキャンバスです。なぜこれを思いついたかというと、話をするときに「引き出しが多いですね」という受け止め方がありますよね。僕は、きれいに引き出しに整理整頓されてラベルがついていないタイプ。引き出しが存在するとすれば、引き出しがラベルなしに半開きになっている状態です。すると、いちいちラベルを検索しなくても見られます。

したがって引き出しはなくて、もっとふわふわと浮遊した状態で、クリエイティビティが高くなってくるのです。こういうことを何とか再現できないかと思ってトライしています。

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八子 インプットがあって、ランダムになっている。縦横に並んでいないことに違和感を感じると、それを整理していてまたアイデアがわくような感じでしょうか。

前刀 ある人に紹介すると、「フォルダ分けできませんか」とかいう人もいる。写真がふわふわ出て消えるのが耐えられないという人もいる。消えちゃうのが何とかならないかという人もいますが、それでいいのです。未来的な思考です。

八子 従来の、資料をきれいにつくることが目的なのではなくて、もっと前段階の、人の頭を活性化してアイデアを含めた状態を作り出すわけですね。

八子 AIに何か指示を出そうとした場合に、頭の中がクリエイティブになってこういうのをやりたいという欲求がないと、クリエイティブデザインを作るのは難しいです。

前刀 そうなのです。オープンマインドで大きな夢を持って、学び続ける、探究し続けること。基本中の基本ですね。

八子 発想、情報を再編集、加工して、論理的だけじゃなくてアイデアを加速させながらスパークさせて続けているのですね。

前刀 優秀な人ほど、諦めてしまう傾向があります。なぜなら、すぐわかってしまうから。しかしそれは今までの常識で考えたらそうであるだけで、見る基準、考える基準を変えると、答えは変わることを知ってほしいですね。

セッションアーカイブ(※動画を見るにはアーカイブ視聴登録が必要です)
「スペシャル対談 変革人材としての“問う力”を養う」
https://ix-event.industrial-x.jp/event/12119/module/booth/319143/272618

質疑応答

Q1
AIを創造的に使うことに、共感しました。AIをパートナー、人格のある存在として扱うことについてどう思うか。

前刀 とてもいいと思います。AIは、今はできないことでもほぼできるようになります。バディ(相棒)であり、自分が成長すると同時にAIもどんどん進化します。自分が進化しないと、完璧に取り残されていきます。対等にやりあえるような、何かをやってもらうエージェントではなくて、もっと上手に活用できるようなバディ的な感覚で使ってもらえればと思います。

Q2
ワクワクとか好奇心、なくしてしまった大人が、再生ができるのでしょうか(笑)。

前刀 とても大切なことですね。日々の生活で友達に会うと、「最近楽しいことあった?」と聞く人が結構いますが、僕は意味がわからなくて、特別なことがなくても楽しいですね。習慣として、空を見上げて雲を見るのが大好きです。雲が時事刻々と変わって何に見えるかとか、日々の周りの観察ですね。クリエイティブインテリジェンスの重要なポイントとして、周りをもっと観察して発見すると、ワクワクのきっかけができる。大丈夫。まだまだ遅くありませんよ。

八子 オーディエンスのみなさんにひとこと。

前刀 みなさん一人ひとりが同じ軸でない、バラバラの軸で生きているので、一人ひとりのみなさんが、自分には無限の可能性があるということをぜひ認識していただいて、AIを使い倒して、DXとかトランスフォーメーションとか思い切りやっちゃいましょう。一緒にワクワク学びましょう。

八子 ありがとうございました。

【関連サイト】
Conference X 2024 https://ix-event.industrial-x.jp/event/12119
ディアワンダー株式会社 https://www.dearwonder.ai/
株式会社INDUSTRIAL-X  https://industrial-x.jp/

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