DXやデータの活用事例や最新のサービスなどを紹介する日本最大級のビジネスカンファレンス「UpdataNOW24」が、東京・大阪・名古屋で開催されました。イベントの主催は、企業のデータ活用を支援するソフトウェアやサービスを提供する、ウイングアーク1st株式会社。
会場では、業界をリードするトップランナーによるセッション、企業の最新ツールやサービスなどを紹介する展示が実施され、6,700名以上が会場を訪れました。今回は、東京会場で行われた注目のセッションや展示ブースの一部をKoto Online編集部独自の視点で、レポートします。
53の展示ブース、AIを活用した「データの民主化」支援も登場
東京・港区のザ・プリンス パークタワー東京で開催された東京会場の展示エリアには、さまざまな企業による51のブースが並び、最新の商品やサービスが紹介されました。
2024年の今年、展示エリアで特に注目を集めていたのが、AIを活用した新たな業務効率化などのソリューションです。会場の入り口には「AIコンシェルジュ」が設置され、来場者が希望するブースを、AIがわかりやすく案内していました。また多くのブースではモニターを使って実際にAIが搭載されたツールを紹介していて、来場者たちがパンフレットを手にデモを眺めたり、具体的な活用方法について熱心に尋ねたりする様子も見られました。
Denodo Technologies株式会社のブースでは、データ仮想化の技術を活用したプラットフォーム、「Denodo Platform」が紹介されました。Denodo Platformは、データベースやクラウドなどさまざまな形で分散しているデータソースを統合し、データを物理的に移動させることなく配信できるようにするソリューションです。
今年登場したバージョン9には新たな機能としてAIが搭載され、進化しています。例えば、ある都道府県における直近3年間の売上トップ3の商品データを見たい場合、これまではクエリ(データベースに要求したり検索したりする際の命令)を書く必要がありましたが、新バージョンはChatGPTやAzure Open AIなどと連携、ユーザーは「●●県の2021年から2023年の売上トップ3の商品の……」と、自然言語を入力して問い合わせるだけで、欲しいデータが取り出せるようになっており、より手軽に扱えるようになっているのがポイントです。
特に、さまざまなシステムに分散された大量のデータを取り扱う企業からのニーズが多くあり、現在、エンタープライズ企業を中心に約50社がDenodo Platformを導入しているということです。
Denodo Technologiesの担当者は「すべての従業員が業務にデータを活用できるように、SQLのトレーニングなどを実施しているものの、ハードルが高くなかなか進まない企業も多いと思います。Denodo Platformの新機能はそうした壁を取り払い、SQLなどの知識がない人でも簡単に欲しいデータを取り出せるようになりました。新しいDenodoは、『データの民主化』のスピードをぐっと早め、企業のデータ活用をより後押しできるソリューションになっています」と話していました。
旭鉄工が取り組む、「行動につなげる」DXとは
「UpdataNOW24」では、各業界のトップランナーによるセッションも数多く行われました。このうち、「製造業の生成AI活用はここまでできる」をテーマに行われたセッションでは、ウイングアーク1st株式会社 dejiren事業開発部部長の大畠 幸男氏と、旭鉄工株式会社 執行役員サプライチェーンマネジメント部部長・DX推進室室長の黒川 龍二氏が登壇。旭鉄工の積極的なデジタル革新、生成AIやdejirenを活用した取り組みなどが具体的なデモなどを交えて紹介されました。
2007年、ウイングアーク1stの前身に入社。BI製品のプリセールスマネージャーを経て、BI事業全体の技術担当として開発部門との製品戦略に従事。その後、IoTを中心としたビジネス連携や実証実験、IoTベンダーとの協業アライアンスを推進。現在は、 dejirenサービス提供における製品企画・開発に取り組む傍ら、エバンジェリストとしての活動も行っている
1999年旭鉄工株式会社に入社。生産技術室に配属となり、設備立上げ・保全・改善等を経験する。その経験を活かし2014年にものづくり改革室を立上げ、トヨタ生産方式に基づいた改善を推進。IoTシステムの開発を主導、実際の運用に携わり大きな成果をあげる。社内での実績を基に、IoTを活用した生産改善のサービス提供会社として、2016年iSmart Technologies株式会社を立ち上げる。 現在、新たな取組みとして旭鉄工で2021年1月よりDX推進室を発足させ、室長としてDXを推進し社内活動を展開中。
ウイングアーク1stのAIプラットフォーム「dejiren」とは、複数のサービスを横断したさまざまな業務フローをノーコードで自動化したり、フォームから送信されたデータをデータテーブルに格納できる機能を備えた、データドリブンな意思決定を支援するツールです。
セッションでは、実際にdejirenを使ったデモンストレーションも行われ、紙の財務諸表をOCR(画像データの中にあるテキスト部分を認識して、文字データに変換する仕組み)でdejirenのアプリに取り込む様子が披露されました。これまで目で確認・分析した上で、手でデータを入力していた作業が、自動でデータを取り込めるようになり、さらに生成AIによる分析も可能です。また、電子帳票保存法に対応するためファイル名を変更して適切な場所に保管し、データをそのままSalesforceに入れることもできるようになっています。
大畠氏は「実際に動く様子をご覧いただくと、恐らく『生成AIを使っている』印象をあまり受けなかったのではないかと思います。「使うんだ」と気負うことなく、「気がついたら使っていた」という使い勝手を実現し、裏側で生成AIをうまく活用しながら、最終的な自動化につなげていくのが、我々の狙いです」と話していました。
このdejirenなどを活用しDX戦略を進めているのが、旭鉄工株式会社です。1941年に創業された旭鉄工は、自動車のエンジンや足回り部品などを素材から組み付けまで一貫生産しているメーカーで、2021年にDX推進室を設置して以来、さまざまな取り組みを進めてきました。
旭鉄工では、DX戦略をコスト削減や業務効率化にとどまらず、「データを収集・統合し素早く判断する仕組み」を作ることと定義し、DXを柔軟かつ迅速に意思決定し判断するためのツールと位置付けています。
まず、取り組みの1年目は基盤構築を軸に活動し、わかりやすい結果を出すために現場のペーパーレス化を推進しました。そして2年目はDXを社内に展開するため、各部署に担当者を置いてDXを推進させる体制を作り、それぞれの部署の困りごとややりたいことを一つひとつ手がけていきました。
そして3年目に目指すのが「データ活用の深化」です。DX戦略を進める上で、IoTや電子帳票などを進めデータを集約してきましたが、最終的な行動につながる段階で「スピード感の欠如」「人間の職制やスキルによる判断のバラつき」などの課題が新たに浮上してきたといいます。そうした課題への対応として、旭鉄工ではdejirenや生成AIを活用し、誰でも素早く行動を起こして一定の成果を出せるような仕組みを作り出しています。
生成AIの活用事例の一つが、チャット内のメッセージの要約です。特にいろいろなプロジェクトに携わっていると、参加しているチャットの部屋も多岐に渡り、分散された場所に投稿された多くのメッセージを読み込むのに時間がかかるという問題がありました。生成AIによる要約を取り入れることで、プロジェクトの進捗や課題を瞬時に把握できるようになり、素早い判断とアクションにつながっているといいます。
また、月次の会計データを生成AIに解釈させる、「経営会議サポート」の仕組みづくりにも取り組んでいます。旭鉄工では各製造部が集まる会議で、目標に対する勝ち・負け、それぞれの勝因・敗因分析をレポートにして各部署が報告していましたが、この分析に大きな労力がかかっていました。それをdejirenの生成AIを使うことによって効率化し、分析によって導き出された改善策の実行に、より多くの人手をかけるようにしています。
さらに、「過去トラCopilot化」では、不良品が出たなどのトラブルに対して、経験の浅い新人も、勤務年数の長いベテランも同じように解決策を見つけられる仕組みを構築しています。過去に出た不良品の発生箇所、原因、対策などの情報をdejirenのデータベースに蓄積し、問い合わせをすると生成AIが結果を抽出して返す仕組みになっています。過去事例を探す際の入力方法も、ベテラン従業員のようにポイントをわかっている人向けに自由記述ができる方式と、何を聞けば良いのかわからない新人向けに選択方式の入力ができるようになっており、経験の差によるバラつきを埋めるための、きめ細かな工夫がされています。
黒川氏は、「データを提供したとしても、最終的には人の経験やスキルによってバラつきが出てしまい、うまく行動につながらないケースがある、人間によって結果が変わってしまうということが、今回取り組んでみてわかったことです。最初はそこを見逃していたんですね。生成AIとdejirenを使うことでその問題を解決し、効果的に人の行動に移すことができるようになったと思います」と、取り組みの成果を振り返りました。
OCR機能で受発注業務のミスを撲滅、効率化とスピードアップを実現
「invoiceAgent×Salesforceで実現する帳票と顧客管理のフルデジタル化」と題したセッションでは、株式会社コアコンセプト・テクノロジー(以下、CCT)のクラウドソリューション事業本部ソリューション開発部マネージャーの原田浩充氏が講演を行いました。
CCT入社7年目、東京都立大学(旧 首都大学東京)で博士号(物理学)を取得。ウイングアーク1st社のMotionBoardをはじめとし、クラウドサービスの導入を多数経験。現在クラウドソリューション事業で20名規模のチーム
マネージャーとして活動中。ウイングアーク1st社のPERSONS of the Year 2024に選出される。
CCTは企業のDX推進サポートやIT人材紹介などを行う会社で、クラウド製品群の基幹システム構築など、幅広い支援を手がけています。創業は2009年で、現在は東京・大阪・福岡を拠点に事業を展開しています。今回のセッションではinoviceAgentをSalesforceに連携した受発注業務のDXについて、概要が紹介されました。
Salesforceなどの顧客管理システムを導入している企業では、通常、注文書や請求書などを受け取ったオペレーターが情報を一つひとつシステムに入力し、営業など必要な関係者にメールで連絡をするなど、受発注業務に膨大な労力がかかっています。また、多くの情報を取り扱うため、遅延やミスの懸念も課題となっていました。
今回紹介されたのは、その課題の解決としてinvoiceAgentを連携させることで、注文書や請求書に書かれている情報をOCRで自動取得し、構造化したデータとして取り込むことを可能にするものです。一つひとつ入力していた際の手間を大きく削減し、また、メールの通知なども自動で送信できるため、商談進行の連絡などの抜け漏れも防げます。これによってオペレーター業務の負荷が軽減し、また入力ミスの撲滅や商談のリアルタイム化といった業務の効率化につながるということです。
まとめ
生成AIをはじめとする最新のテクノロジーを取り入れた、さまざまな商品・サービスが登場した「UpdataNOW24」。多様なテーマのセッションや数々の展示ブースに、来場者も大きな関心を寄せ熱心に情報収集をしていました。
次々と生み出されるソリューションが、企業の抱える課題の具体的な解決策を導き、新たな業務プロセスや事業創出を後押しすることが期待されます。
今回ピックアップした事例は、Koto Onlineのテーマである製造業DXのなかでも、非常に実践的かつ成果がみえる内容となっているので、ぜひDX推進のヒントとしてみてください。
【関連リンク】
Denodo Technologies株式会社 https://www.denodo.com/ja
旭鉄工株式会社 https://www.asahi-tekko.co.jp/
ウイングアーク1st株式会社 https://www.wingarc.com/
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/
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