電力設備に使われるさまざまな機器の監視制御にコンピューティング技術を取り入れたインテリジェント電子デバイス(IED)の導入が進んでいます。特に、欧米や電力インフラの整備が遅れていた新興国では国際標準規格IEC 61850を活用し、複数のIEDをベンダーの違いによらずネットワークを介して相互接続させることにより、変電所の電力設備の監視制御を全てデジタル化するデジタル変電所の導入が進んでいます。
日本では既に独自のセキュリティと供給信頼度の高い電力設備を保有しており、デジタル変電所導入の必要性が低かったため、 世界的にはデジタル化後進国となっていましたが、多くの既設設備がリプレース時期を迎えていることから、デジタル化へ舵をきろうとしています。
また、脱炭素社会の実現のために再生可能エネルギーへの転換が進められる中、自然環境の影響を受け変動しやすい太陽光発電などによる電力供給を、いかに効率よく制御するかも課題となっており、電力インフラのデジタル化は、それを解決する糸口につながります。
そのような中で東光高岳は、国際標準規格IEC 61850に準拠した、送電線過負荷制御を最適化する「多端子伝送型 OLR(Over Load Relay = 過負荷継電器)装置」の開発に日本で初めて取り組みました。
Technology
再生可能エネルギーの導入が拡大する中で、太陽光発電や風力発電など天候により発電量が変動するという特性をふまえて、事故時の送電線停止等に伴い発生する送電線の過負荷に対する過負荷制御を行う必要があります。従来の送電線過負荷保護リレー装置を太陽光発電や風力発電に適用する場合、火力発電のような比較的安定した発電方式への適用とは異なり負荷状況がつかみにくく、制御が難しくなっています。送電線が過負荷になるという事態は、本来は滅多にあることではありませんが、万が一送電線事故により過負荷が発生した場合、大規模な停電につながることが考えられます。
こうした再生可能エネルギーが普及拡大する新時代の環境下において、送電線事故による過負荷を抑制制御するものとして「多端子伝送型 OLR 装置」は開発されました。
本装置には、国際標準規格IEC 61850に準拠したSEL社製の汎用IEDを搭載しています。
開発も同規格に準拠して行われ、ネットワークを介して他メーカー間とでも接続できる相互接続性を持たせました。また、電力システム製造部としては国際標準規格IEC 61850を活用したデジタル変電所に積極的に取り組んでいますが、「多端子伝送型 OLR 装置」で準拠した国際標準規格IEC 61850のノウハウが活用されております。
Profile
電力システム製造部
技術部長
電力システム製造部
保護制御装置設計グループ
再生可能エネルギー時代に対応した
送電線の過負荷制御システム
田沼 今回、開発しました多端子伝送型 OLR 装置は、66kVの特別高圧送電線に使用することを想定したものです。66kV送電線は、送電鉄塔などに張られた太い送電線で、市街地等でご覧になったこともあると思います。通常、この送電線には最大送電容量の半分以下の電流しか流していないのですが、例えば2回線で送電していて、どこかで落雷などの事故によって1回線が使用できなくなった場合、残りの1回線で2回線分の送電を行うことになります。
そうすると太陽光パネルの発電量が最大になっている場合などは、送電線が容量オーバーになって過負荷状態になってしまいます。この過負荷状態を検出して、必要に応じて発電設備を遮断することで過負荷状態を解消し、健全回線の設備損壊等による事故波及を未然に防ぐのが、この装置の役割です。 政府も再生可能エネルギーを推進して行こうとしていますが、再生可能エネルギーは、風力、水力、太陽光いずれも発電出力が変動しやすい要素を持っています。
自然環境に影響を受けて発電量が変化してしまうので、状況が読みにくいのです。加えて送電線は、区間により送電容量が異なります。例えばゴルフ場の跡地などにメガソーラーを建設するといったことがありますが、そういった場所は田舎であることが多いので、あまり電力を必要としていません。
そこで都市部へ送電をすることになりますが、太陽光発電のように供給量が安定しないものの場合は、送電線を流れる電流が場所によってまちまちになります。そのため、負荷状態を常に細かく把握しておかないと、事故による過負荷設備(送電線区間)の検出が従来よりも難しくなっています。これを解決するために、送電線の各区間に備え付けた端末装置から、送電線にどのくらいの電力が流れているのか変電所側の中央装置に送り詳細に監視しながら、過負荷が発生した場合には過負荷区間の端末装置へ遮断指令を送り発電設備を遮断する仕組みが、多端子伝送型 OLR 装置には組み込まれています。
高畠 2回線ある送電線の片側が使用できない状況で片側の送電線が過負荷状態になってしまうケースはまれなケースかもしれませんが、過負荷によって設備事故が発生してしまうと、連鎖的に大規模な停電につながる恐れがあります。
事故による被害を可能な限り小規模なものに抑えるということが、今回の装置の大きな役割です。また、送電線各区間の状況が細かく把握できるので、送電可能な容量を無駄なく運用できるというメリットも、この装置にはあります。
国際標準規格IEC61850に準拠
高い汎用性とコストメリットも
高畠 今回、装置間の通信プロトコルは、国際規格のIEC 61850に準拠して設計されています。この国際規格は、通信プロトコルの規定というよりも、通信でやりとりする情報のデータ構造の概念を示し、その概念を複数の既設通信プロトコルにマッピングすることで実装するような規格となっています。 例えば今回は端末装置の計測データは、MMSという通信プロトコルで中央装置へ送信されますが、中央装置から遮断信号を送る場合は、即応性のあるGOOSEという通信プロトコルで行います。つまり、目的に適合したプロトコルを選ぶことができるわけです。
では、IEC 61850では何が規定されているかというと、やり取りする情報の内容を規定しているということになります。具体的には、やり取りするデータの機能や構造をデータの名称も含めて定義することで、規格に準拠した機器であれば異なるメーカーの機器を使用しても接続ができるようになっています。 従来はメーカーによってデータの機能や構造の定義が異なっていましたので異なるメーカーでの相互接続が難しかったのですが、IEC 61850を使用することによって容易になっています。
そして、これに準拠した他社の国際汎用品を活用することでシステムの開発期間の短縮やコストの削減にもつながります。
東光高岳では、2017年の5月から国際標準プロトコルを用いた送電線過負荷保護リレーシステムの開発に取り組み、保護リレーの情報伝送に国際標準を採り入れました。
また、2019年の8月には、変電所の監視制御情報に国際標準規格IEC 61850に準拠した配電用変電所遠方監視制御装置の開発に着手しました。さらに、2020年3月にはデジタル変電所向け監視制御システムを、国際標準に準拠したネットワークで、国際的な汎用品を組み合わせて構築しました。 今後も監視制御システムへの国際標準の活用に、積極的に取り組んでまいります。
終わりに~新時代に対応する電力インフラ構築を目指して~
現代は、仕事でパソコンを使う際にも、スマートフォンで音楽や動画配信を楽しむ際にも、キャッシュレス決済をする際にも、ほとんどの場合にクラウドサービスを利用するようになっています。
これらのサービスを支えるのはデータセンターのサーバー群ですが、これらのサーバーが使用する電力は非常に大規模なもので、安定した"止まらない"電力供給を必要とします。
また、自動車のEV化が進む中で、車を動かすエネルギーとしての電力需要も急速に増加しています。
脱炭素を目指し、再生可能エネルギーの利用を推進する中でも、電力供給における効率性や安全性をより一層高めていくことが求められています。
東光高岳では、国際規格への準拠、電力設備のデジタル化によるインテグレーションを通して、新時代の電力インフラ構築にこれからも取り組んでまいります。
(提供:株式会社 東光高岳 https://www.tktk.co.jp/research/)
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