カーボンニュートラル推進のため、CO2を排出しない再生可能エネルギーの利用が拡大しています。その中で、今後も普及拡大が進む太陽光発電は、重要なリソースです。
太陽光発電は、天候により発電量が大きく左右される発電方法となります。電力会社が電力系統の需給バランスを整えて電力の品質を確保するために、太陽光発電設備を運用する事業者等が太陽光発電計画を作成し、事前に電力会社へ提出する場合があります。万が一、電力系統の需給バランスが取れない場合には、大規模停電を引き起こす可能性があるためです。また、各事業者は提出した発電計画に則って発電をしなければなりません。発電計画の予測精度が低く、計画通りに発電ができない場合には、計画不整合によるペナルティや、市場価格での電力買取といった各事業者の不利益が考えられます。そのため精度の高い太陽光発電予測は、電力の品質を確保するために、電力会社や各事業者にとって必要であり、より精度の高い予測技術が求められています。
東光高岳ではこれらのニーズに対応するため、これまでも各種の予測手法やシステム化の検討を行ってきました。そして今回は、太陽光発電量の実績データをもとに精度の高い予測が可能な2つの手法を開発しました。
Technology
精度の高い予測を実現する2つの独自手法
太陽光の発電量は、日射量と強い相関関係があります。日射量がわかれば、太陽光の発電量を予測することができますが、日射量を正確に予測することは困難です。そこで、予測した日射量に誤差が含まれていても、精度の高い発電量の予測ができる2つの独自手法を開発しました。
1つは、AIのディープラーニングを利用した手法です。太陽光発電量の実績データの蓄積に伴って、予測精度の向上を目指す手法を構築しました。検証では、平均して精度の良い予測ができており、実際に運用して実績データを蓄積するほどに、精度が上がることを期待できます。 もう1つの統計的手法を利用した手法は、短期間の実績データで予測が可能です。検証では、細かく変化する発電量にもしっかり追従できるという利点もわかっています。
いずれも、日射量から行う単純な発電量の予測よりも、精度の高い予測が期待できる結果を得ることができました。
今後は、実証実験を通して課題を洗い出すとともに、より精度の高い予測手法の検討を進めていきます。さらに、需要予測と組み合わせたシステムの構築と運用も視野に入れています。
Profile
技術開発センター
ICT技術グループ
副課長
技術開発センター
ICT技術グループ
副課長
技術開発センター
ICT技術グループ
主任
技術開発センター
ICT技術グループ
技術開発センター
ICT技術グループ
電力系統の品質確保に寄与する「太陽光発電量予測技術」
北 現状、太陽光発電量の予測は、基本的に予測した日射量を元に、発電量を予測するという方法になっています。今回、日射量の予測データは、外部サービスのものを使うため、発電所の設置場所にピンポイントな予測データではありませんし、太陽光パネルの設置状況や環境により発電量は変わってきます。このような点をカバーできれば、より精度の高い発電量の予測が可能なのではと考え、予測手法の検討がスタートしました。太陽光発電では発電した電力を電力会社に売電する際、発電量を事前に発電計画として提出する必要があります。発電計画に対して、発電量の実績がオーバーしてもショートしてもペナルティを課されてしまうので、予測は正確であればあるほどお客様(太陽光発電設備を運用する事業者等)にとってメリットになります。
中山 発電計画の精度を上げることは、お客様だけでなく電力系統の需給バランスを保ち、電力の品質を確保することにもつながります。発電計画の精度が悪く、電力会社が電力の需給バランスを整えられないと、最悪、大停電になることもあり得ます。
北 プロジェクトの中では様々な手法を検討しましたが、最終的にはディープラーニング(以下、DL)を用いた予測と、統計的手法を用いた予測という2つの手法を発表させていただきました。DLを用いた手法は、過去の実績データを蓄積することで精度を上げていくような手法です。統計的手法については、実績データの期間が短く、蓄積が少なくても予測ができる手法となります。
ゼロからのスタート、試行錯誤の連続
北 DLを用いた手法の検討において、今回は過去の実績データを使って予測を行いました。実績データには特殊な状況下のデータ、いわゆる外れ値が含まれていたのですが、それらを全て適用したことで、期待した結果にならないということがありました。外れ値にどのようにフィルターをかけるか、外れ値が出る状況をどう予測するか、というところの検討が非常に難しかったですね。
佐藤 統計的手法の検討では、予測精度の評価を行うための方法(精度指標)をゼロから作ることが本当に大変でした。予測の精度指標としては既存の代表的なものがいくつかあるのですが、それをそのまま適用すると発電量がゼロ付近のときは安定した精度で予測できなかったり、発電規模が異なる拠点間での精度を比較できなかったりと、それはもう色々な問題がありまして……。どのような精度指標であればもっともらしい値を出せるか、というところから検討を始めました。メンバーと何度も打合せし、意見を交わし、最終的には関係者間で合意のとれた汎用的に使える指標を作ることができました。
高田 私は、北と佐藤が、それぞれ中心となって開発した予測のアルゴリズムを、クラウド上で動くようにシステムを構築しました。実を言うと、これまで私自身クラウドでのシステムを構築した経験がありませんでした。このプロジェクトに参加することになって初めて触り、勉強しながら進めていくことになったので、その点は大変だったなという実感があります。冨井がクラウドのシステムを構築した経験があったので、色々アドバイスをもらえたことが心強かったです。
冨井 予測アルゴリズムのシステム化にあたり、今回だけで終わり、というような考え方は排除するようなアドバイスをしてきました。この技術をサービス化して展開していくことを視野に入れ、横展開する。例えば何かデータを収集して、それをもとにAIを使って予測して、結果をお客様に提供するようなサービスが考えられるならば、題材が太陽光発電でなくても考え方の流用ができると思いました。
高田 プロジェクトでは週に1回定例打合せがあり、その週の報告や次の1週間の計画などをメンバーと共有しています。さらに、コロナ禍を機に導入されたチャットツールを活用することで、こまめにメンバーと相談をしています。オンラインとオフラインを併用して活用することで、スピーディにシステム構築でき、予定通り昨年末に開催した東光高岳ソリューションフェア(以下、フェア)でお披露目ができました。
北 神戸駐在の冨井をはじめ、我々も違う拠点で作業をしたり、出張したりということがありますが、そういった状況でもチャットツールを介して素早くレスポンスするようにしています。プロジェクトの円滑な進行に寄与していると感じますし、意見の活発なやりとりができていると思います。
中山 この太陽光発電量予測プロジェクトは、足掛け2年ほどの取り組みになりますが、当社としては全てがゼロからの、初めての試みでした。高田から初めてクラウドでシステム構築をしたという話もありましたが、まさに何もないところから作っていったわけです。開発の段階では試行錯誤の連続で、みんな本当に苦労しました。そうした積み重ねの結果、ひとつのシステムとして精度の高い2つの手法を構築することができました。東光高岳技報No.9に掲載後、既にお問合せもいただいて、お客様と打合せを進めていますし、フェアでも多くの方に興味を持っていただけました。当日ブースにいたメンバーは質問攻めにあっていました(笑)。
北 太陽光発電量予測の現状として、1年前の同じ日がこれだから…と経験則的に予測を行っているというお話をフェアでお客様から伺いました。それに対して、今回我々が検討した2つの手法というのはいずれも実績データを用います。実績データをもとに誤差率が低い予測をおこない、予測を重ねるほどに精度が上がり、より確かな予測の実現を期待した手法なのです。今後、実証実験のような形で、お客様のもとにシステムを入れさせていただく予定がありますので、実際に運用してその精度を確認していきたいと考えています。
時代の変化、そして未来を見据えて
北 フェアに来場されたお客様からは、今後の課題、目標となるようなご意見をいただきました。今後の課題としていきたいです。冨井の話にもあったように、このプロジェクトで培った考え方は太陽光発電にしか適用できないというものではありません。今後も何か予測が必要なシステムを構築するときに、今回の経験が活かせると思います。
中山 世の中は、更なる再生可能エネルギーの普及へ向けて動いています。そこで課題になるのが「天候によって発電量が左右される電気を、どう効率よく使うか」だと思います。従来の火力発電による電力等と併用するのか、他の電力会社の電気を買ってくるのか、それをどう使うか……。その中で重要なファクターとなるのが予測の部分ですので、お客様に有益な予測技術を提供するのはもちろん、ゆくゆくは予測技術をもとにして、お客様に効率よく電気を使用していただくためのシステムを提案していきたいと考えています。
北 当社が「総合エネルギープロバイダー」を目指すにあたり、再生可能エネルギーを使うことは間違いなく今後も避けては通れないでしょう。今回蓄積できた技術をそこで活用していきたいですね。
佐藤 技術の蓄積はもちろん、「検討と検証のサイクルを回す」経験を積めたことも私たちにとって収穫でした。試行錯誤を繰り返したことで、1回のサイクルを効率的に速く回せるようになっていったと思います。AI活用のみならず、アジャイルで行うプロジェクトなど多くの取り組みで活かしていきたいです。
高田 近年は様々な業界でクラウドの活用が進んでいます。今後は東光高岳の主力である電力業界においてもクラウドの活用が進んでいくことが想定され、クラウド上にシステムを構築する局面は今後も増加してくると考えています。今回の経験がそこで大いに役に立つと思いますし、私個人としても今後さらに技術力を高めていきたいです。
冨井 クラウドと組み合わせて開発・提供することで、継続的に開発し、品質を上げていくことができる。今回はそういう考え方の土台ができたと感じています。この考えを会社全体に広めて、AIの予測品質だけでなく、会社としてものづくりそのものの品質や開発レベルをより一層向上させていきたいです。
中山 リーダーとしては、今回経験を積んだメンバーが今後、他のプロジェクトでも活躍してくれることを期待しています。また、本プロジェクトは、まだ続いていますので、今後の当社にとって事業の柱となるような、大きなものにできるよう引き続き取り組んでいきます。
(提供:株式会社 東光高岳 https://www.tktk.co.jp/research/)
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